薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
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では、本編の方をどうぞ。
「此処が人里の入口よ」
「そう、立派な門なのね」
人里の入口の門の前に降り立った霊夢と真紅。
真紅は、ゆっくりと門を見上げていた。
「こんなに大きな門を作るなんて、これも妖怪対策?」
「そんなところね、でも、こんなのは気休め程度のものよ」
「縁起では、騒動さえ起こさなきゃ、妖怪の出入りも出来るとは書いてあったけど?」
「そうよ、あくまでも騒動を起こさなきゃね。 でも、里の人達は余り良くは思ってないみたいね、少なからず警戒はしてるみたいだし」
「人間にとって妖怪は恐怖の対象ならば、仕方は無いんじゃないの?」
「まぁ、良くも悪くもこれが幻想郷の仕組みなのよ」
「まるで、籠の中の鳥ね…」
「………そんなことより、早く行くわよ」
「分かったわ」
何か言いたげな霊夢だったが、ぐっと飲み込んで里へと入った。
「それで、最初は何処へ行くの?」
「あんたは、着いてこなくて良いわ」
「……はぁ?」
霊夢の言っている事が理解出来ない真紅。
「貴女は一体何を言ってるの? 意味が分からないのだわ。 初めて来た場所で単独行動をしろとでも言う訳なの?」
「違うわ、私はさっさと買い物がしたいんだから、あんたがいると邪魔なの」
「訳が分からないのだわ、何のために里に来たのかが本当に分かっているの?」
「そんな事、一々言われなくたって分かってるわよ! 買い物が済んだら付き合ってあげるわよ」
「本当に効率の悪い下僕ね、その効率の悪さで、よくもまあ今まで異変を解決してきたなんて、信じられないわね」
「コイツは…!」
(落ち着け私……ムカつくけど我慢よ……)
頭に血が上りそうになるが、必死で堪えた。
「……とにかく、後よ!」
「全く…、待ってる間はどうしろって言うの?」
「その心配は無いわ、あんたに打ってつけの場所があるのよ」
「打ってつけの場所…?」
「今から案内するわ、着いて来なさい」
そう言って、真紅を引き連れ霊夢はとある場所へと向かった。
「着いたわ、此処よ」
「何よ此処は……鈴奈庵…?」
二人が着いた先は、貸本屋の鈴奈庵であった。
「あんた、読書は好きでしょ? 此処は里で唯一の貸本屋で、色んな本があるのよ」
「へぇ、こんな場所があったのね、知らなかったわ」
「あんたには、打ってつけでしょ?」
「そうね、暇潰しにはなりそうね」
「さあ、入るわよ」
二人は会話をしながら、店の暖簾を潜った。
「いらっしゃいませ! こんにちは霊夢さん!」
「こんにちは、小鈴ちゃん」
元気良く挨拶してきたのは、店の売り子の本居小鈴。
「今日は、どのような用件で?」
「今日は、小鈴ちゃんにお願いがあって来たのよ」
「お願いですか…?」
「ええ、本題に入る前に…」
「何この店は? 小汚いしカビ臭いし…、ちゃんと掃除はしてるの? 毎日の心掛けがなってないんじゃなくて?」
「え………」
入って早々、店のダメ出しをする真紅。
「こら真紅! それは言い過ぎでしょ!?」
「事実でしょ? あそこの本棚も雑然と置かれてるし、大きさも揃ってないし、これで管理はちゃんと出来てるの? 客を相手にする商売なのだから、改善した方が良くなくて?」
「あ、あの………霊夢さん……」
ダメ出しが続く真紅を怪訝な表情で見ながら、小鈴が口を開いた。
「何ですか? この小さい人は?」
「あっ、小鈴ちゃん、本気にしちゃダメよ? コイツは性格が悪いから、直ぐに毒を吐くのよ」
「私は正直に意見しただけよ、それから、小さい人じゃないわ! ちゃんと名前があるのだから」
「名前…ですか? 何てお名前ですか?」
「私より先に貴女から名乗るものじゃなくて? そんな事も一々言わなきゃ分からないの? 全く使えない人間ね」
「なっ……!」
「止めなさい真紅! 小鈴ちゃん落ち着いて…」
怒気が高まる小鈴を、何とか宥める霊夢。
「霊夢さん! 一体何なんですかこれは!?」
「これはね、えっと……」
「うるさい人間達だこと…、類は友を呼ぶと言うのはこういう事を言うのかしらね?」
「「な、何ですって!?」」
「しょうがないから私から教えてあげるわ。 私は真紅、薔薇乙女(ローゼンメイデン)の第5ドール。 そして、此処に居る博麗霊夢は私の下僕よ」
「ローゼンメイデン? ……って、霊夢さんが下僕!?」
「違――う! 私は下僕じゃなーい!!」
「今更何を言ってるの? 私が契約を解除するまで、貴女は私の下僕よ、その事実はどうやったって覆らない…」
「あんたが勝手に言ってるだけでしょうが! そんなの私は断じて認めてないわ!」
「はぁ、本当に物分かりが悪い下僕ね、勘は鋭くてもその頭の悪さは今までのマスターの中で、ダントツじゃないかしらね?」
「うるさーい! あんたに言われたく無いわよ!」
「本当にうるさい下僕ね、そんな事より早く用件を言いなさい」
「こんのぉぉ…!」
「それで…霊夢さん、ご用件っていうのは……」
「……小鈴ちゃん、しばらくコイツを預かって貰える?」
「えぇぇぇ!?」
「大丈夫よ、買い物が終わったら直ぐに迎えに来るから」
「あの……どれ位掛かりそうですか?」
「2、3時間かな?」
「そんなにぃぃぃ!?」
「終わったら直ぐに戻って来るから、お願いね!」
「ちょっと霊夢さん! 待って下さい! 霊夢さーん!」
小鈴の制止を振り切って、霊夢はさっさと出て行ってしまった。
「もう…、私に押し付けちゃって……!」
「もういいかしら?」
「はひぃ!?」
「何をそんなに驚いてるの? 大袈裟よ」
「あ…あの……それは……」
「今の騒ぎでまだ聞いていなかったわね、貴女の名前は?」
「あっ、そうでしたね。 私は本居小鈴って言います、この鈴奈庵で売り子をしています」
「小鈴ね、あの使えない下僕が随分と世話になっているみたいね、本人に代わってお礼を言うわ」
「い、いえ、そんな事は…」
「…ところで、此処は本屋なのよね、何があるの?」
「はい、幻想郷で伝わる本や、外の世界から流れてきた本、はたまた妖魔本まで、何でも揃ってますよ!」
「最初のは良いとして、最後に言った妖魔本ってのは…」
「真紅さんは、よく本をお読みになるんですか?」
「ええ、暇さえあればよく読んでるわ、此処(幻想郷)に来てからは、幻想郷縁起ばかり読んでたけど」
「なるほど…」
「さっそくだけど、何か読ませて貰おうかしら? 手伝って貰える?」
「はい、何なりと申し付けて下さい! どのような本をお探しですか?」
「そうねえ…、ならば……」
真紅と小鈴は雑談をしながら、本を探しに店の奥へと入って行った。
―その頃、命蓮寺―
「えっと、寅丸星って人に宝塔を渡すとして、どんな人かしら?」
鞄に入った宝塔を眺めながら、階段を登っている金糸雀。
地蔵が多く並ぶ寺の門が目の前にまで迫ってきた時であった。
「ぎゃ〜て〜、ぎゃ〜て〜!」
元気のいい声が聞こえてきた。
「ぎゃーてー、ぎゃーてー……どういう意味かしら?」
「……あっ、こんにちは!」
その声の人物から挨拶が来る。
「あっ…こんにちは…かしら」
「声が小さ――い!!」
「ひぃぇ!? こんにちはぁぁ!!」
「はい、こんにちは!」
声が小さいと渇を入れられ、思わず大声を出す金糸雀。
「な、何なのかしら、この子は!?」
「はじめましてですね! 命蓮寺へようこそ!」
「ど、どうも……」
「私、幽谷響子って言います!山彦の妖怪です、それと命蓮寺の信者でもあります」
「幽谷響子さん…かしら…、山彦の妖怪……なるほど、道理で声が大きいはずかしら…」
「ところで、貴女のお名前は何ですか? ご用件は何でしょうか?」
「そうそう…、カナは金糸雀って言うかしら。 今日は寅丸星って人に用があって来たかしら」
「星にご用があるんですね、少々お待ち下さい!」
響子はそう言って、すぐさま寺へと消えて行った。
「声が大きくて、頭が痛いかしら…」
―鈴奈庵―
「………そうだったんですか………」
「まだ、この先の事は私にも分からないけど、アリスゲームはきっと私が制する、そのつもりでいるわ」
「アリスゲーム……か」
あれから、真紅が気になった本を小鈴が取り出し、それを読んでいた。
その間は、小鈴との雑談を楽しんでもいた。
小鈴からは、幻想郷での出来事や妖怪の事。
また、霊夢に関して事も聞いていた。
真紅もまた、此処に来てからの事、
そして、アリスゲームの事を小鈴にも聞かせていた。
その話を、小鈴は神妙に聞いていた。
「…何だか、悲しいですね、姉妹で闘って、そのローザミスティカってのを奪い合うなんて……」
「そういう風に見ればそうかもしれないわね。でも、これもお父様が与えられた試練…」
「試練……」
「私達姉妹のローザミスティカは元々は1つだったの。 それをお父様が砕いて7つになり私達に分け与えた。 だから、アリスゲームを制するってのは、元の1つに戻るってだけなの、悲しい事では無いわ」
「で、でも……!」
「……そうね、貴女の言いたい事は分かるわ。 それでも、闘いを止める事は出来ないわ」
「………っ」
「そんな悲しい顔をしないで頂戴、こうして貴女と知り合えたのも何かの縁、私が健在なうちは仲良くしてくれると嬉しいのだわ」
「真紅さん……」
本を読みながら真紅は小鈴の方へ視線を向ける、表情は少しだけ微笑んでいた。
それを見た小鈴も、笑顔が戻る。
「私も、真紅さんに出会えて良かったと思ってます、そうでなきゃ、こんな話も出来ませんでしたし!」
「貴女の役に立つ話はしてないわよ?」
「そんな事ありませんよ、人形とこうして会話が出来るっていう事自体、凄い事だと思いますし…」
「それを言ったら私も同じよ、今までの世界だと契約している人間以外と会話するなんて稀だったのに、幻想郷では普通に貴女とも会話してるし、妖怪や妖精とも会っている。 私にとっては全てが新鮮な世界なのよ」
「それが、幻想郷ですからね!」
「アリスゲームも大事だけど、もっとこの幻想郷の事が知りたい、今はそんな気持ちが強いのだわ」
「私で良ければ、知ってる事はお教えしますよ」
「ふふっ、ありがとう」
「えへへ………そうだ! 今度、阿求に会いに行きませんか?」
「阿求? もしかして、幻想郷縁起の編纂者である、あの稗田阿求の事なの?」
「はい、私達って親友なんですよ!」
「驚いたわ、貴女って以外と人脈があるのね」
「以外っていうのは余計です! でも、知り合いは多い方だと思ってます」
「そう…、御阿礼の子に会いに行くってのも面白そうね」
「でしょ? 阿求には伝えておきますので、今度行きましょうよ!」
「そうしたいのだけど、その今度が何時になるのかが分からないわ、勝手に動くとあの子が怒るから」
「霊夢さんには私から言いますよ、それなら大丈夫ですよね?」
「あの子が素直に聞くかしらね?」
「大丈夫ですよ、私が言えば!」
「フフッ…、さっき言った事は撤回するわ。 貴女、以外と使えるわね」
「だから、以外ってのは余計ですよ…」
そうこうしているうちに、真紅は読んでいた本を閉じた。
「どうでした、その本? 私には良く分からなかったんですが…」
「そんなに難しい内容でも無いのだわ、貴女もまだまだ修行が足りないわね」
「は、はぁ……」
「まあ、いいわ。 この本を借りたいのだけど」
「はい、ありがとうございます! お代は霊夢さんに請求すれば良いんですか?」
「ええ、私が買うものは全てあの子が支払う事になるの。 構わずに付けといて頂戴」
「わ、分かりました…(何か、酷い…)」
内心、霊夢に同情する小鈴。
すると、真紅の周りを赤い光の玉が飛び回っていた。
「………そう、見つけたのね」
「あの…真紅さん、それは?」
「これは、私の人工精霊のホーリエ。なかなか可愛いでしょ?」
「ちょっと、よく分かんないです……」
「分かってないわね……まあいいわ、私は行くわ」
「へっ? 行くって何処へ?」
「ある所よ、会わなければならない子がいるのよ」
「会わなければならない子?」
「悪いけど、その本はしばらく預かっててくれる?」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 勝手に出て行かれるのは困ります!」
「どうして? 何処へ行こうと私の勝手でしょ?」
「そうはいきません! 霊夢さんに貴女の事をお願いされている以上、私にも責任が生じているんですから!」
「ならば、貴女が案内して頂戴」
「はっ? 案内って何処へですか?」
「ホーリエからの情報だと、人里から少し離れた場所に寺らしき建物があるんですって?」
「ああ、命蓮寺の事ですね」
「そこヘ今から向かうわ、一緒に来るなら案内して貰える?」
「今から行くんですか!?」
「そうよ、グズグズしてるなら先に行くわよ」
「あっ! ちょっと待って下さい! 行きます、行きますからぁ!」
「全くノロマね、もっとテキパキ動きなさい!」
「あーもう! せっかちなんだから!」
真紅に急かされ、準備もままならない状態で小鈴は真紅の後を追った。
―その頃、命蓮寺―
その後、本堂へと案内された金糸雀は、緊張した面持ちで待っていた。
「何だか、落ち着かないかしら……」
広い本堂に1人待たされるのは、全く落ち着かない。
早く誰か来ないかと、ひたすら願っていた。
その時、奥の方から足音が聞こえて来た。
「あっ、誰か来るかしら…!」
足音がした方向を見ていると、1人の人物が現れた。
「いやぁ、随分とお待たせして申し訳ありませんでした。 丁度、信者達の相手をしておりまして…」
「は、はぁ……」
「貴女ですね、私にご用があるのは? 初めまして、私が寅丸星です、この命蓮寺で僧侶をしており、また毘沙門天の代理を勤めております」
「毘沙門天……?」
「あぁ、その説明をすると長くなるので、またの機会でも宜しいでしょうか?」
「は、はい、その方が助かるかしら…」
「そうして貰えるとありがたいです。 ところで、ご用件というのは?」
「そうだったかしら……あの、ナズーリンっていう妖怪からのお願いで…」
「おや、ナズーリンとはお知り合いですか?」
「うん、以前に無縁塚で会って、お話したかしら」
「そうでしたか………あっ! そう言えば、先日、此処に来た時にそんな事を言ってましたね、貴女の事でしたか」
「そ、そうかしら、カナは金糸雀っていうかしら…」
「ローゼンメイデンでしたね? ナズーリンからそこら辺の話も聞いております」
「そうなら話は早いかしら」
「そうなると、ナズーリンから何か伝言でも?」
「そうじゃないかしら、実はナズーリンから頼まれた物を渡しに来たかしら」
「頼まれた物?」
「貴女が宝塔を落としたとかで、探して欲しいって依頼を受けて、そこら辺を探していたら、それらしい物を見付けたかしら」
「えっ!? 宝塔を? 本当ですか!?」
「あっ、ちょっと待つかしら、鞄の中に…」
そう言って、金糸雀は鞄の中を探し始める。
その間、星はジッと鞄を注視していた。
「えっと………あっ、あったかしら! これで間違い無いかしら?」
「ちょっと良いですか?」
金糸雀から渡された宝塔を隈無く確認し、本物かどうか確かめる。
「…………………はい! 間違いありません、私の宝塔です!」
「ふう、それなら良かったかしら」
「金糸雀さん!!」
「へっ? ちょ………」
突然、星に両手を掴まれ驚く金糸雀。
「この宝塔は、私の命より大事なものだったのです! これを落とした時、どうしようかと毎日泣いておりました」
「そ、そうだったんだ……」
「それを貴女が見つけてくれた、感謝してもしきれません! 本当にありがとうございました!!」
「えぇぇぇ……」
「是非とも、お礼がしたいのですが、どうしたら良いでしょうか?」
「ど、どうしたらって言われても…」
歓喜の涙を流しながら訊ねてくる星に、金糸雀は視線を逸らして考えた。
「いきなり言われても、何も思い付かないかしら…」
「それでは、私の気が収まりません! 何かご要望はありませんか?」
「そう言われても…、どうしよう……」
「星! あんまり彼女を困らせてはいけません!」
「あっ、聖……」
「聖…?」
二人が、声のした方向を振り向くと、そこから聖白蓮が現れた。
「星、嬉しいのは分かりますが、その方が困惑してるじゃないですか! 少しは落ち着きなさい!」
「聖……も、申し訳ありません……」
「私にでは無く、その方に謝りなさい!」
「は、はい! すみません金糸雀さん! 嬉しさの余り、つい取り乱してしまい…」
聖の凄みのある一喝で、金糸雀に頭を下げる星。
「い、いえ、これ位…何でも無いかしら……」
若干顔を引きつらせながら、そう答える。
(あの女の人、何だか怖いかしら…)
そう思いながら、金糸雀の視線は聖の方に向いていた。
「申し訳ありません、彼女は時々取り乱してしまう事がありまして、私からもお詫びします」
「そんなに謝らなくても、大丈夫かしら…」
二人に頭を下げられ、尚更困惑してしまう。
(それにしても、綺麗な人かしら……髪の色がてっぺんと先端で違う…?)
「申し遅れましたが、私は聖白蓮、ここ命蓮寺の住職を勤めております」
「は、初めまして、カナは金糸雀かしら、ローゼンメイデン第2ドールかしら」
「よろしくお願いします、貴女のお話は少しだけですが伺っておりました、こうして当人とお会い出来まして光栄ですわ」
「い、いえ…カナはそんな大層な人形じゃないかしら……」
「是非とも、貴女のお話をお聞かせ願えないでしょうか? ローゼンメイデンというものに、我々も興味があります」
「えっ? ローゼンメイデンの話!?」
「星、折角だから皆を呼んで来て下さい」
「はい、分かりました」
「そんな…、みんな集めてまで話す様な事は無いかしら!」
「まあまあ、そう言わずにお願いします」
「えぇ……どうしよう……」
いきなり振られた事により、金糸雀は動揺が抑えられないでいた。
―人里の外れ―
「ほら、どうしたの? 目的地はまだ見えて無いんだから、もっとキビキビ歩きなさい」
「ひぃ…ひぃ……そんな事言っても…、真紅さんペース早すぎですよ…もう少しゆっくり……」
命蓮寺に向かう2人、真紅は変わらないペースで歩いているが、小鈴の方は既にバテバテであった。
「人形の歩行ペースに遅れるなんて、随分と脆弱な人間ね。 そこのところは霊夢を見習いなさい」
「霊夢さんは特別です! 私はそんなに強い人間じゃないんですから! 弾幕ごっこだって出来ませんし、体力だって並みの人間なんです」
「幻想郷の人間は、みんな強い訳じゃないの?」
「当然です! みんな強かったら、妖怪なんて恐れませんよ!」
「まあ、別にどうでもいいのだけど…、とにかくペースを上げなさい」
「そんなの無理ですよ…、少し休みましょうよ……」
「ダメよ、そんな悠長にはしてられないわ、それに……」
そこまで言い掛けると、真紅は草村の方を睨んだ。
「私達を狙ってる者がいるわ…」
「えっ…?」
『グルルルルル……』
二人の視界に、唸り声を上げた一体の妖怪が現れた。
「よ、妖怪だぁ!? どどどどうしよう!!?」
それを見てあたふたし始める小鈴。
「小鈴、少し落ち着きなさい、図体は大きくても、所詮あれは妖よ、妖力は大したこと無いわ」
「私達人間には、あれでも十分に脅威なんですよ! 現にあのような妖に何人もの人が殺されているんですから!」
「それは、貴女達人間の話でしょ? 私は違うわ」
「し、真紅さん…?」
『グォォォォ!!』
「ホーリエ!」
真紅が指示を出すと、ホーリエが眩しく瞬き、その妖怪の前へと出る。
『グォァァァ!』
その光に妖は怯みながらも、攻撃を仕掛ける。
「きゃぁ! 襲われる!?」
「こっちよ!」
真紅が即座に小鈴の手を取り、妖から距離を取る。
「あ、危なかった……」
「小鈴、此処を動いたらダメよ」
それだけを言い残し、真紅は妖の前に立ちはだかる。
『ガルルル…!』
「この人間に、指一本触れさせはしないわ」
『ガォォォォ!!』
凄まじい速さで、真紅に襲い掛かる。
「フッ…」
ギリギリの所で飛び上がり、攻撃をかわす。
「なかなかに凶暴ね」
『ガァァ!』
妖も飛び上がり、真紅に猛攻撃を仕掛ける。
「遅いわね」
だが、真紅の体に掠りもしない。
「凶暴なだけで、思考能力は皆無に等しいわね、所詮は妖か…」
妖の動きを見極め、見事に回避している。
『ウゴォォォ!』
だが、それでも妖の執拗な攻撃が続く。
「これではキリが無いわね、仕方ない……小鈴をこれ以上危険に晒す訳にはいかない、早く終わらせる…」
真紅が、掌をに息を吹きかけると、そこから無数の花弁が出現する。
『ガァァ!?』
突然の事に、妖の動きが止まる。
「な、何あれ!?」
それを見ていた小鈴も、目を大きく見開いた。
「妖怪退治なんて柄じゃないけど、お前は私の付き添いの人間を危険な目に遭わせた、その代償は高くつくわよ」
『パチンッ』
真紅が指を鳴らすと、妖を取り巻いていた花弁が、刃物に変わり妖目掛け切り裂き出す。
『ギェェェェェ!!』
切り裂かれる妖の断末魔の叫びが響き
「お終いよ…」
一気に間合いを詰めた真紅が、持っていたステッキを、妖の頭上に振り下ろした。
『バギィッ!』
『―――――っ!?』
鈍い音がした瞬間、妖は悲鳴すら上げずに倒れた。
そして、全く微動だにしなくなった。
「えっ……嘘…!?」
「これで、終わり…」
それを確認した真紅は、地上へと降り、小鈴の元へと寄って来た。
「大丈夫だとは思うけど、怪我は無い?」
「えっ……は、は、は……はい……」
「何時までビクビクしてるのよ? もう終わったわ」
「あ、あの……あの妖は死んだのですか?」
「いいえ、まだ死んではいないわ、ただ……」
「ただ……?」
「もう虫の息よ、多分…明日まで持たないでしょうね」
「…………っ」
小鈴は、改めて妖の方を見る。
最早、立ち上がる様子も無く、それが間違いでないと確実した。
(たったあれだけの攻撃で妖を倒しちゃうなんて、凄すぎる…)
「さあ、さっさと行きましょう、全く手間を取らせちゃって…」
「真紅さん! 待って下さいよ!」
再び歩き出す真紅の後ろを小鈴は追って行った。
―命蓮寺―
「――――――今大体話したのが、私達ローゼンメイデンの事と、アリスゲームの事かしら」
『…………っ』
金糸雀が話をしている間、命蓮寺のメンバーは静かにそれを聞いていた。
聞いていたメンバーは、聖白蓮、寅丸星、雲居一輪、雲山、封獣ぬえ、二ッ岩マミゾウ、幽谷響子、秦のこころの8人。
聖「ナズーリンから少しは聞いていましたが、改めて聞くと悲しい話です…」
一「姉妹同士が闘うのが宿命だなんて…、私達では考えられないわ…」
マ「(しかし、昔から闘っている割には、未だに誰からもローザミスティカを奪えずにいるのは、何故じゃ?)」
ぬ「(アリスゲームか…、興味無いかな)」
響「(そういえば、あの無名の丘に住んでる人形とは、関わりはあるのかな?)」
星「金糸雀さん、一つお訊ねしても良いですか?」
「はい、何でしょう…かしら?」
「貴女は、姉妹同士が闘う事に躊躇は無かったのですか?」
金「それは…、全く無かったとは言えないけど……でも、お父様はアリスの誕生を願っているかしら。 だから、カナはその願いを叶える為に闘い続けるかしら」
聖「金糸雀さん…」
金「それは、きっと他の姉妹も同じかしら…」
ぬ「話の途中みたいだけど、ちょっと良いかい?」
聖「ぬえ? どうしました?」
ぬ「さっきから聞いてると、それは大層な宿命だけど、それで本当にアリスが誕生するのか、甚だ疑問なんだけど?」
金「えっ…?」
ぬ「ああ、申し遅れたけど、私は封獣ぬえって言うんだ。 私も長い事生きて来たけど、あんたの話は眉唾ものだし、私の性格上、そういう話は鵜呑みに出来ないのよね」
マ「儂も同感じゃ、その話は漠然した内容じゃな、アリスゲームを制したからと、そのアリスになれるなかというのが疑問じゃ…、それ以前に、お主の父親は、何故そこまでアリスに拘るのじゃ? お主らでは何が不満だと言うのじゃ?」
金「そう言われても………何か、みんな同じ事聞いてくるかしら…」
ぬえとマミゾウの問いに、どう答えたら良いか悩む金糸雀。
金「やっぱり、それはアリスゲームが終わってみないと、その先の事は何とも…」
少しの間、本堂が沈黙に包まれる。
だが、その沈黙は直ぐに破られた。
「……ピチカート?」
人工精霊ピチカートが、金糸雀の周りを飛び回る。
何かを伝えるような動きであった。
「…………嘘? それは本当かしら!?」
「どうしました?」
何か驚いている様子の金糸雀が気掛かりで、聖が声を掛けた。
「みんなは、アリスゲームに興味はあるかしら?」
「興味があると言われても…、何故突然?」
「それは、直ぐに分かるかしら、興味があるなら付いて来るかしら」
そう言って立ち上がると、本堂を出て行った。
星「金糸雀さん、何処へ?」
金「行かなきゃならないかしら、此処ではみんなに迷惑が掛かるから…」
星「迷惑って…」
一「私達も後を追ってみましょう」
聖「そうね、行きましょう」
金糸雀の後を追い、一同は外へと出た。
一方―――――――――
命蓮寺を目指していた真紅と小鈴が、ようやく寺に続く石段の所まで辿り着いていた。
「はぁ……はぁ……はぁ………やっと着いた……」
「此処が命蓮寺なの?」
「はい……この石段の先に門が見えるでしょ? ここを登れば本堂が見えて来ますよ…ぜぇ…ぜぇ…」
「そう、案内ご苦労さま」
「い、いえ、どういたしまして………何でかな…、博麗神社より近い筈なのに…、今日に限って、どうしてこんなに疲れるんだろう…?」
「さっき、妖怪に襲われそうになったのが効いてるんじゃない?」
「それは分かりませんが……ていうか、こんなに歩くのは久しぶりだったんですよ………長距離を歩くなんて…時々しかないもので…、真紅さんの歩くペースも早かったし……」
「長距離って…、そんなに言う程歩いて無いわよ? 情けないわね、少しは運動しなさい」
「はい…、そうします……」
「さあ、本堂までもう一息よ、行きましょう」
「分かりました……お願いですから…ゆっくり行って下さい……足が痛いです…」
「全く、しょうがないわねぇ…」
真紅は、ブツブツ文句を言いながら石段を登り始め、小鈴もそれに続く。
そして、石段の中腹まで来た時であった。
「少し見えて来たわね」
「はい、もう少し……」
「………っ! 小鈴!」
瞬間的に、小鈴の目の前に立つ真紅。
「真紅さん? ………へっ?」
すると、小鈴の目の前に光の玉が迫って来る。
「な、何これ? きゃぁぁっ!?」
突然の事に、身構える。
「……大丈夫よ小鈴、その子は何もしないわ。 少し驚かせに来ただけよ」
「えっ? 驚かすって…」
「こんな悪戯じみた事をするのは…」
「そう! それはピチカートからの挨拶かしら!」
「「……っ!」」
2人が声のした方向に顔を上げる。
そこには、門の前で仁王立ちし、不敵に笑う金糸雀の姿があった。
「やっぱり…、貴女だったのね……」
「よく此処が分かったわね! 褒めてあげるかしら!」
「分かるわよ、それ位の事」
「し、真紅さん…、あれは?」
真紅の後ろでオドオドしている小鈴が、そっと話し掛ける。
「あの子も私と同じ、ローゼンメイデンの姉妹よ」
「あ、あれが、ローゼンメイデンの姉妹!?」
「フフッ、お久しぶりね、真紅」
「ええ、お久しぶりね、金糸雀」
ついに再会を果たした、ローゼンメイデンの姉妹、
第5ドール真紅と、第2ドール金糸雀。
いよいよ、波乱の幕開けとなる…。
続く。
いよいよ、真紅と金糸雀が再会した訳ですが、同時に薔薇乙女達を取り巻く環境が複雑になって来ます。
命蓮寺がどう関わって来るかは、今後語られます。
その中でも、「彼女」はキーポイントとなります。
それでは、次回もお楽しみに!