二周目のおっさん   作:雄魔雌

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第3話 フォルティチュード9.8

 防衛隊員選別試験二次、西東京会場。

 カフカはずらりと並んだ受験者たちと共に、会場の様子を眺めた。

 同じだ。空の色も、アスファルトの匂いも、緊張した顔で周囲を見渡す受験者たちの顔つきも。前回と違わない。違うのは、自分と……

 

「日比野さん」

 

 白金色の髪をなびかせた女性が、横に並んだ。絹糸エリ。

 駐車場の一件以来、彼女はカフカの背後霊と化していた。試験前の受付でも、荷物を置くスペースでも。振り返ると必ず、数歩後ろで絹糸エリがニコニコと微笑んでいる。

 怪獣の力を持たない自分と、前回の記憶に存在しない彼女。この二次試験における特異点は、今のところその二つだった。

 

「あのさ。こんなおじさんに付いて回っても、得なこと何もないよ?」

「おじさんだなんて! 渋くて、包容力があって。まるで熟成されたワインのようですよ」

「は、はぁ。ありがとね。俺、どう考えても第三のビールだけどな……」

 

 カフカは視線を泳がせた。褒め殺しという名の猛攻に、三十二歳の自尊心が所在なく揺れる。

 

「変わったお名前ですよね。カフカさんって呼んでもいいですか? 私のことはエリで構いません」

 

 エリは屈託のない笑顔で続けた。

 やりにくい。非常にやりにくい。

 防衛隊の選別試験は、言ってみれば戦場への入口だ。受験者同士が牽制し合い、一点でも多く爪痕を残そうと目を光らせる場所である。そこでこの距離感は、控えめに言って異質だった。

 市川が隣でカフカをじっと睨みつけている。

 

「……先輩。不審者に見えますよ」

「俺の意志じゃないよお! なんか物理的にグイグイくるんだもん」

 

 市川が冷徹な視線をエリに向けた。

 

「あの。絹糸さん、でしたっけ?」

 

 市川がエリに向き直った。声に感情はなく、ただ事実を告げるような平坦さだった。

 

「ここ、そういう場所じゃないんで。後にしてもらえますか」

 

 エリの笑顔が一瞬だけ固まったが、その硬直は本当に一瞬で、すぐに穏やかな表情に戻った。

 その表情は、余裕があるように見えて、実は必死に場に馴染もうとしている人間の顔……にも見えた。

 

「そうですよね。すみません、緊張してつい」

 

 エリは素直に一歩引いた。引いたが、離れはしなかった。

 ほんの少しだけ、申し訳ないような感情がカフカに芽生えた。彼女もまた、多くの受験生たちと同じように、緊張しているだけなのかもしれない。

 

「直球だね市川さん」

 

 カフカが小声で言うと、市川は「事実ですから」と返した。

 一触即発とまではいかないが、微妙な空気が三人の間に漂ったところで、拡声器越しの号令が会場に響いた。

 

「受験者は所定の位置に整列してください! これより体力検査を開始します!」

 

 空気が変わった。

 周囲の受験者たちの顔から雑談の緩みが消え、一斉に目の色が切り替わる。

 カフカもまた、腹の底に力を入れた。怪獣8号の力はない。防衛隊で鍛え上げた肉体もない。あるのは三十二歳の、清掃業で培った持久力と、前回の記憶だけだ。

 

 それで、どこまでやれるか。

 カフカは整列の列に向かって歩き出した。隣を市川が歩く。少し遅れて、エリが続いた。

 

 

 

 

 走った。

 カフカはすでに息が上がっていた。三十二歳の肉体は、記憶の中とほぼ同じ悲鳴を上げている。想定内だ。前回もこのあたりで限界だった。

 隣で同じように息を切らしている人影に気がついたのは、五周目を過ぎたあたりだった。

 エリだった。

 後ろで一つにまとめられた髪。前髪は汗で額に張り付いている。息を切らしながらも、周囲の受験者にぶつかるたびに小さく会釈していた。そのどこか的外れな優雅さが、場所柄やけに目立った。彼女は肩で息をしながら走り続けていたが、一瞬フォームが崩れ、足がもつれた。カフカは反射的にその腕を掴んだ。

 

「っと」

 

 引き戻すような形になった。

 

「あ、ありがとうございます……!」

「気をつけてな」

 

 エリがカフカの腕にしがみつくようにして、体勢を立て直す。

 

「人のこと構ってる場合じゃないでしょうが!」

「分かってるって!」

 

 とっくにゴールしていた市川が、離れた場所から叫んでいた。

 本当に分かってはいた。だが目の前でこけそうになっている人間を放置できないのは、もう性分だった。自分の順位が一つでも上がるなら、見て見ぬふりをすべきだった……頭ではそう理解していたのだが。

 

 走り込みが終わったとき、カフカの視界は揺れていた。

 膝に手をついて、荒い呼吸を繰り返す。肺が焼けるように熱い。汗が顎先から落ちて、アスファルトに小さな染みを作った。

 225人中、219位。前回と同じ。

 

「早かったわね、吠え面かくの」

「あ」

 

 聞き覚えのある声に顔を上げると、キコルが腕を組んで立っていた。ひとつも呼吸が乱れておらず、金髪のツインテールは整ったままだった。

 

「そっちのお姫様も」

 

 それから視線を移した。カフカの数メートル後ろで、膝に手をついて荒い呼吸を繰り返しているエリに。

 

「ここで辞めておいた方が良いんじゃない? このまま適性検査に進んだところで、自分の才能のなさと努力不足を思い知って打ちのめされるだけよ」

 

 キコルがエリに歩み寄ると、エリはゆっくり顔を上げた。キコルの声には嘲りや悪意といった色はなく、駐車場の一件の仕返し、というわけではなさそうだった。それはただの事実確認のような響きで、エリは唇を引き結んだ。

 そんな様子を見て、ついカフカが一歩前に出た。

 

「言い過ぎだ。お前の実力は認めるけど、人の努力まで否定するのは違うだろ」

 

 微妙な空気を察した市川が背後から声をかけようとしているのが分かったが、カフカはあえてそれを無視し、キコルだけを見つめた。キコルの方も、睨むようにカフカに向き直った。

 

「結果が伴わない努力なんて意味がないのよ。なんでも完璧にこなせなきゃ……戦場で人が死ぬのを、何もできないまま、まざまざと見せつけられるだけじゃない」

 

 その声色を、カフカは知っていた。前回も聞いたことがある。キコルが本当に恐れているものが滲む、あの声色。

 

「あんた達みたいな足手まといにしかならない部下なんて、私は欲しくない」

「もう上司面かよ。気が早ぇな」

「当然よ。私はすぐに隊長になるんだから」

 

 キコルは当然のように言い切った。十六歳の確信に満ちた声は、まだ挫折を知らない。

 カフカは何かを反論しかけて、やめた。ここで正論じみた言葉を返しても、実力のない者の言葉など、彼女には届かない。だから、黙った。

 

 カフカからの反論が来ないことで居心地を悪くしたのか、キコルはやがて踵を返した。が、数歩歩いたところで足を止め、振り返らないまま、声だけをカフカに向けた。

 

「悔しければ、追いついてみせなさい。日比野カフカ」

「え……」

 

 カフカは思わず顔を上げた。

 キコルが、カフカの名前を覚えていた。さっき知り合ったばかりの、何の変哲もないおじさんの名前を。カフカはその背中を見送りながらも、思わず小さく笑ってしまった。

 

「相変わらずだな、あいつ」

「お知り合いなんですか?」

 

 エリが、ようやく呼吸を整えて立ち上がりながら訊いた。

 

「いや」

 

 カフカは首を振った。

 

「これからなる予定」

 

 

 

 

 次の検査場へ移動する間も、エリはカフカのパーソナルスペースを不法占拠していた。

 刷り込み完了済みのひな鳥、とでも言うべきか。誰かに言われたわけでも、理由を告げたわけでもなく、気がつけばそこにいる。

 反対側を歩く市川が、あからさまに迷惑そうな表情を浮かべながら、小声でカフカに話しかけてきた。

 

「先輩……」

「俺が聞きたい」

「ねぇカフカさん、適性検査って何をするんでしょうね? どきどきして、心臓が口から飛び出しそうです」

「だったら飛び出す前に飲み込んでおけばいいんじゃないですか」

「市川、スゲェなお前」

 

 市川に注意されても、キコルに実力不足を指摘されても。エリは何も傷ついていないように見える。もはや下の名前で呼ばれるのにもカフカは慣れてしまっていた。

 

 適性検査は、怪獣の討伐だった。

 試験官から防衛隊スーツの着用を指示され、補助員の手を借りながらスーツに袖を通す。怪獣繊維の独特の弾力が肌に密着する感覚は、前回と変わらない。

 カフカは内心で、わずかな期待を抱いていた。

 解放戦力は、ゼロに近い数値が出るだろうということは理解している。それでも、どうせならゼロより上であってほしい。怪獣の力がないなら、もしかしたら。そういう期待があった。

 

「1%……」

「そういう人も多いから、あんま気にしたらあかんでー」

 

 管制室にいた保科が、困ったような顔でそう言った。前回なら、涙を流して0%のカフカに笑い転げていたような気がしたのだが。

 周りを見渡せば、当然だが、誰もが前回通り。市川は8%、少し物足りなさそうな表情。出雲ハルイチ、神楽木葵、古舘伊春……かつての仲間たちが次々と10%超えの数値を出し、キコルに至っては今回も入隊前最高記録とも言われる46%を叩き出していた。

 

(俺の才能のなさは、怪獣の力に関係なかったってことか……)

 

 それより、とカフカは思った。

 以前は気に留めていなかったが、この防衛隊スーツ。過去の防衛隊試験で二次試験に進んだことは何度もあったが、スーツに袖を通せるような機会なんてなかった。それが今回は、受験者全員に行き渡るほど用意されている。

 量産が進んでいるということだ。であれば、型落ち品や廃棄品も出始めているはずだ。清掃業のツテを辿れば、そういった処分品に行き当たる可能性がある。そういえば先日、処理場で見かけた荷物の中に……

 

「見てくださいカフカさん! 私、これ着るの夢だったんです!」

 

 突如、ハイトーンの声で思考が断ち切られた。

 

「似合いますかね!?」

 

 振り返ったカフカの目に飛び込んできたのは、スーツのサイズが微妙に合っていないのか、あちこちブカブカさせた状態で、これ以上ないほど「ドヤッ!」と胸を張るエリの姿だった。

 

「あの子、何でドヤ顔してんの? 数値見た?」

「不合格一直線だろ、あれ……」

 

 周囲の受験者から容赦のないガヤが入った。理由は計測器の数値だった。

 

「0%」

 

 エリは腰に手を当て、モデルのようなポーズを決めているが、肝心の解放戦力は非情だった。

 管制室では、保科が吹き出しそうになりながらモニターを二度見していた。

 

「……小此木ちゃん、あれ故障? それとも新しいギャグ?」

「こんな数値、見たことないですね」

 

 小声のやり取りが漏れ聞こえる。エリは計測器の前で、変わらず堂々と胸を張っていた。0%という数値が目の前に表示されているにもかかわらず、その姿勢にはいっさいの動揺がなかった。

 

「ふふん、どうですか! 選ばれし者って感じがしませんか!?」

「え、あ、うん……いや、絹糸さん。数字、見てる?」

 

 その様子を見て、市川がカフカに訊ねる。

 

「あの人、前回はどうだったんですか」

「それが、知らんのよ」

「知らない?」

「あの顔に見覚えがないから、わからん。前回は体力検査の時点で辞退したとか……だろ。たぶん」

 

 カフカの回答に、市川の目が、先ほどまでの警戒心から「可哀想なものを見る目」に変わったが、エリはそんな視線に気づく様子もなく、えっへんと効果音がつきそうなほど胸を張り続けている。

 

(……まぁ、そうだよな。こんなポンコツ、残れるわけがない。だから記憶にないんだ……)

 

 カフカは勝手に納得した。それでも、どこかに小さなひっかかりが残った。言語化できない何かが、完全に消えることなく胸の隅に引っかかっている。

 

 それでも今は、目の前でドヤ顔されたら何もしないわけにもいかなかった。カフカはエリの頭を、危なっかしい親戚の子を見るような手つきで、ぽんぽんと叩いた。

 

「そうだな。伸び代、すごいな。頑張ろうな」

「はいっ!」

 

 尻尾を振る幻覚が見えるほどの喜びよう。その様子を遠くから見ていたキコルが、忌々しそうに鼻を鳴らした。

 

「解放戦力1%と0%が、傷のなめ合い。バカみたい」

 

 

 

 

「最終試験は亜白ミナ隊長にも審査に入ってもらってるんで、みんな張りきってアピールするようにー!」

 

 第二演習場に怪獣が放たれ、保科の声が通信機越しに響く。

 本獣一体に、余獣三十六体。カフカはその数を聞いた瞬間に、前回の配置を頭の中で再現していた。本獣はどこから来るか、余獣はどの方向に散らばるか。

 目の前で次々と余獣を蹴散らしていくキコルの動きを確認しながら、カフカは市川に短く告げた。

 

「北西からも、余獣が三体来る」

「でも、攻撃能力の低い俺たちが取るべき行動は……」

「ああ」

 

 来た。カフカの言った通りの方角から、言った通りの数だった。

 

攻撃手(アタッカー)の、サポートだ!」

 

 1%のスーツは、0%の頃に比べて格段に動きやすい。10%超えの受験生たちと同じようにはいかないが、それでも怪獣の動きへの対処は、何年も清掃業をやってきた経験と、前回の記憶の両方で補える。どこに核があるか、どの角度から刃を入れれば効率がいいか、体が知っていた。

 近くで別の受験者が怯んでいた。初めて実戦に近い形で怪獣と対面した人間の顔だ。

 

「落ち着け! 右の隙間から入って腹を狙え!」

「で、でも」

「あんた解放戦力9%だろ、俺の九倍もあるんだ、十分いける! こっちは音響弾で攪乱する!」

 

 声をかけると、受験者が動いた。うまくいった。管制室のモニターに、演習場の映像が映っている。

 

「ほー。やるやん、あの男。事前知識が相当豊富やないと、あんな指示はできん。体力検査の数値がウソみたいや」

「解放戦力1%ですが、動きに無駄がありません」

 

 保科が腕を組んだまま、呟いた。

 

「なんや、全部知ってるみたいに見えるな」

 

 

 

 

 余獣二体の撃破を補助した頃、カフカは気がついた。

 エリだ。戦闘区画の端に、武器を構えもせずに突っ立っている。さっきから余獣が周囲を走り回っているのに、彼女はまるで動こうとしていない。棒立ちだ。その目が、怪獣ではなくどこか別の場所を、静かに見ているようだった。

 カフカは0%のスーツがどれだけ重いのか、前回の経験でよく知っている。だからこそ、エリもその重さに耐えられずにいるのだろうと推測した。

 

「絹糸!」

 

 余獣の一体がエリの方向に向かっているのが見えて、考えるより先に体が動いた。カフカが間に入る。スーツの性能を信じて全身で余獣を押しのけたが、着地の際にカフカの足が絡んで、体勢が崩れた。

 

受験番号2032(日比野カフカ)、負傷!」

 

 管制室でオペレーターの声が上がった。

 その瞬間、ミナの目が確かにカフカを捉えた。その表情が変わったことに、隣の保科は気づいていた。

 

「小此木」

「はい」

「2032番に遠隔シールド展開」

 

 保科が間に入った。

 

「……解放戦力1%ですが、特に問題なく動けています。むしろフォローや鼓舞が上手い。離脱させるのは早計かと」

「展開して」

 

 余獣は一旦体勢を崩したものの、再び立て直し、狙いをカフカに定めている。そこへキコルが走り寄った。

 

「私のいる戦場で、脱落者なんて……!」

 

 しかし、キコルが余獣を撃破するとほぼ同時。

 スーツに、シールドが展開された。カフカの周囲を半透明の膜が包む。試験中の保護措置――事実上の、試験中断。

 

「……これで、いいんだよね」

 

 ミナが小さく呟いた後、すぐにその表情を引き締めた。

 

「保科、準備しておけ」

「え?」

「出番が来る」

 

 ミナの視線が演習場に戻った。

 キコルの表情が、悔しさのせいか、真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 シールドの内側で、カフカは呆然と立ち尽くしていた。

 防御シールドが貼られること、その意味。

 

 落とされたのだ。

 解放戦力は1%だが、特に危険な状況でもなかったのに。事前の確認すらなかった。問答無用で、自分は落第印を押された。

 

「……絹糸は」

 

 さっきまでいた場所を見た。そこには誰も立っていなかった。消えた経緯を、カフカは見ていなかった。

 

 

 

 

 直後、キコルが本獣の核を砕いた。

 肉の破片が地面に散らばり、怪獣の巨体がゆっくりと傾いていく。演習場に、終わりの気配が漂った。

 受験者たちの間から、安堵とも疲労ともつかない吐息が漏れる。カフカもまた、シールドの内側で膝に手をついて息を整えていた。前回と同じだ。キコルが最後に決める。それだけは、何も変わらない。

 

「本獣撃破! 最終審査、終りょ……」

 

 次の瞬間、プツンと、電波が消えた。

 

「なんだ!?」

 

 管制室の通信機器が一斉に沈黙した。オペレーターたちが弾かれたように顔を上げる。モニターの映像が乱れ、砂嵐のような横縞が走った。受験者全員のバイタルサインが、一括で消失する。

 

「通信途絶! 演習場全域で電波遮断が発生しています!」

「受験者のバイタル、全員ロスト!」

 

 保科が立ち上がった。椅子が背後に倒れる音がしたが、誰も気にしなかった。演習場のモニターが、乱れながらも断片的に演習場の様子を映す。映像は完全には途切れていないようだ。ノイズの奥で、何かが蠢いている。

 討伐されたはずの怪獣だった。

 砕けた身体が、再生していた。キコルが確かに粉砕したはずの核が、身体が、破片の一つ一つから新たな結晶構造を伸ばし、互いに繋がり、元の形を取り戻していく。

 余獣も、本獣も、すべて。演習場に散らばっていた怪獣の残骸が、同時に動き始めた。

 

「復活した本獣のフォルティチュードが上昇、すでに6を超えています!」

「なんやその現象は……」

「新手の怪獣の発生を確認!」

「新手!? どこから侵入した!?」

「規模を確認します!」

 

 受験者たちが後退する気配が、乱れたモニター越しにも伝わってくる。

 小此木が計測器を見た。

 

「推定フォルティチュード……9.8」

 

 管制室が静まり返った。

 

「なんやと?」

 

 保科が計測器の筐体を掌で叩いた。数値は変わらなかった。

 

「そんなもん歴史に残るレベルや、計測器が壊れとんのか!?」

「せ、正常かと」

 

 オペレーターの声が上ずっていた。自分の報告する内容を、自分自身が信じられないという顔をしている。保科の視線が、一瞬だけシールドの中のカフカに向いた。……なんで、驚いてへんのや。その疑問は言葉にならず、ただ胸に残った。

 

「保科」

「はい」

 

 ミナが立ち上がっていた。机に両手をつき、モニターを見据えている。

 

「出るぞ」

 

 砂嵐まみれのモニター映像の中に、受験者たちが逃げ惑う姿があった。キコルが再び構える姿があった。そして、シールドの内側で拳を握るカフカの姿があった。

 

「小此木、申請省略」

「は、はい!」

 

 復活した本獣と余獣、そして新たに現れた怪獣。防衛隊の歴史において、フォルティチュード9.8に匹敵する脅威など、ほぼ記録されていない。それが今、受験者二百人以上がいる演習場の真ん中に出現した。

 

「ここで、奴を一気に叩き潰す」

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