「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出して!」
やっぱり第3号機は第9使徒に寄生されていた。
俺は祈るように両手を握ってモニターを見る。
「だめです。停止信号及びプラグ排出コード認識しません」
プラグは押し出されているが、粘着質な青い物体が覆いかぶさり引っかかっている。
「エントリープラグ周辺にコアらしき浸食部位を確認」
ほんとに嫌な場所に……。
「分析パターン出ました!青です!」
「エヴァンゲリオン3号機は現時刻をもって破棄。監視対象物を第9使徒と識別する」
「エヴァ両機発進!」
前方からレイちゃんがパレットライフルで威嚇射撃。
第9使徒は跳んだ――。
そのまま零号機に着地。首に手をかける。
「ごめんなさい……」
転がったライフルを少し無茶な姿勢のまま超至近距離で撃つ。
飛び散る薬きょうが零号機にぶつかって跳ねる。
第9使徒はそれをバックステップで躱していた。
「機動力が高いっ……。初号機は警戒を中断して接近」
当初の作戦ではパレットライフルの弾幕に注意をひかせてるうちに背後から接近してプラグの回収を行うはずだった。
第9使徒が低い姿勢から鞭のように腕をしならせて零号機の首をつかんで押し倒す。
「……っ」
その手を掴み外す――。
その最中に零号機の腕が砕けて折れた。
小さく上がるレイちゃんの悲鳴。
「零号機両腕損傷っ!?」
「回路断線」
「やはり急ごしらえでは限界があるか」
そういえばいつもより機械っぽい気がしたが新パーツだったのか?
……てか、あの緑のパーツってシンエヴァで出てきたジェットアローンの代用腕じゃね?
「ああ」
再度首を絞め直す第9使徒の手から青いシミが出て零号機を苦しめる。
「装甲部頸椎付近に侵食発生」
「第6200層までの汚染確認」
「シンジ君!」
「っ……。碇君……プラグを……!」
「うぉおおおおっ!」
シンジ君は……プログレッシブナイフを3号機エントリープラグ周辺に突き立てた。
「大丈夫かっ…綾波!」
そう言いってプラグを引き抜きながら3号機に蹴りを入れる。
「…っ……。ええ……」
3号機は力が抜けたのか受け身も取らずにそのまま倒れる。
零号機は腕を中腹から失って立ち上がりにくそうだ。
「手を放せシンジ!」
叫ぶシンジ君パパ――。
プラグには青い粘液がまだ残っていた。
「ぇ…?うわぁああぁぁあああっ!!」
手から零れ落ちるエントリープラグ。
「初号機左手部に使徒侵入!神経節が侵されていきます」
だが、粘液の一部は初号機に付着したままだ。
「まずいぞ碇」
「左手部切断。急げ」
「しかしパイロットが……」
「切断してちょうだい」
「はい…」
両上司からの指示で初号機の手首が吹き飛びシンジ君が絶叫する。
「シンジ君、プログナイフでコアを攻撃。できるわね?」
「わ……分かりましたっ……!」
残った右手に持ったナイフで初号機の手と3号機のプラグに付いた第9使徒を処分する。
レイちゃんは両機の間に入って3号機の警戒を続けた。
「アスカッ!」
「…初号機エントリープラグ排出」
シンジ君が勝手にプラグを外に出す。
ヤシマ作戦でレイちゃんを助け出したときみたいにアスカも出してくれるつもりだろう。
「待てシンジ」
「今度はなんだよっ!父さんっ!」
「……初号機パイロットはエヴァの中で待機しろ」
「シンジ君、精神汚染の可能性だ。……お父さんは被害の拡大を最小限に抑えようとしてる!」
相手は戦場の中学生だぞ?シンジ君パパさぁ……説明くらい……。
「……エヴァ両機は地上部隊がエントリープラグを回収するまで第9使徒の警戒を継続。いいわね?」
「……はい」
パパに心配されて嬉しいより先にアスカの心配ができるシンジ君優しい。
「……先に失礼します」
俺はやっぱ無理だ。平静を装ってたけど心配でならない。
ほんの少しでも、一瞬でも早くアスカのもとへ――。
「キョウキチさん!アスカはっ?」
作戦を終えた彼が着替えもせずに見舞いに来てくれた。
「あそこだよ」
指さしたのは隔離室。
いくつもの封印柱が並んだ部屋の真ん中にある棺のような箱の中だ。
「だ…大丈夫なんですか?」
「君たちの対応が迅速だったおかげで身体の傷はほぼないそうだ」
「じゃあどうして……」
「使徒による細胞組織への浸食と精神への影響を確認中みたい」
「……ごめんっなさい……僕がっ……」
「君はよくやってくれた」
思わずシンジ君を抱きしめる。彼は助ける選択をしてくれたのだ。
「大丈夫だ。アスカはきっと大丈夫」
「……はい……」
「レイちゃんもありがとうね」
「……私はできることをやっただけ」
「ありがとう」
「……」
ストレート感謝に彼女は少しだけ目をそらして重心を変えた。
「……すみません。きっとキョウキチさんのほうが辛いのに僕ばっかり泣いて……」
「役割が違うから仕方ないさ。俺の仕事はこれから信じて待つことだから」
「……大人の人って凄いですね」
「シンジ君だって戦闘中にただ泣いてたことってないだろう?」
「いやでもこの間も……」
「痛みで涙は出てたかもしれないが、ただ泣いてたことはないだろう?」
彼は基本泣きながら突っ込んでいける男だ。
エヴァに乗ってただ泣いてたのは戦闘後とカヲル君が死んだ時くらいか?
「………そう、かもしれないです」
「俺は今、スケールは小さいが俺の戦いをしてるのさ」
だから泣いてられない。俺が崩れるわけにはいかない。
「……えっと……その、頑張ってください」
「ああ。代わりと言っちゃなんだけど……」
「なんですか?」
「アスカが帰ってくるまででいい。世界を頼みたい」
彼にとって枷になってしまうかもしれないが、頼まずにはいられなかった。
「……分かりました」
もう彼が家出をする理由は無くなった。