「どう?どれか気になるのある?」
休日のショッピングモール。
カフェで先ほど買ったばかりの本を開きながら彼女に尋ねる。
「うーん。もしかしてスープだったら一緒に飲めない?」
「おおっ!濃いめで作って香りが残れば……とうもろこしは買っていこうか」
「いいわね」
「あと、スープカレーとかシチューもルーだけなら……」
「食事って感じね」
「……ちなみにコーヒーはどう?」
今飲んでる感想も聞いてみる。
「苦いにおいがする水」
「うんうん」
一発目のとげだ。その後も聞くと本心を語ることがある。
「……でも、そんなに悪くもないわ」
「紅茶やコーヒーは奥が深いから……好きになったら結構凝れると思うよ」
「ゲームに飽きたらね」
「平和になったら新タイトルも新機種もどんどん出るからなぁ……」
「どんなのが出ると思う?」
「そうだなぁ……」
「……ところで、パパ?」
「うん?どうしたんだいアスカ」
「あの……」
彼女にしては珍しく歯切れが悪い。思い当たる節はないなぁ。
「うん」
「ええっとね……。あたしが寝てたときに……イタズラしてない?」
睡眠。……だいぶ前の話になる。3号機に入る前……。
思い当たる節はある。たくさん。
ほっぺとかプニプニした。ヤバいっ!なんかミスったか?
「………した」
「信じらんないっ!……けど、そっか……うん」
怒声にいつもの覇気はなく。謎にニヤついてその話題はフェードアウトした。
「あ、キョウキチさん」
「こんにちわシンジ君。と、レイちゃん。……で、そちらがカヲル君かな?」
アスカの復活祝いに来てくれたので二人は久しぶりではない。
「はじめまして」
とりあえず握手。
「キョウキチさんが居るってことは……」
「そう。アスカのデータ取りさ」
「良かった。アスカがまた元気になって」
「君たちのおかげで回復が早かったんだ。本当に恩人だよ」
「いや、恩人だなんてそんな……」
「ありがとう……と、引き留めて悪かったね。そっちもテストだろう?」
「はい。……行ってきます」
「またね」
手を振る。
レイちゃん最近手を振り返してくれるようになった。
あの三角関係も上手くまとまるといいけど。
「パパ……どぉ?」
振り返ると仁王立ちのアスカ。
赤いプラグスーツが眩しい。
「お、懐かしいな。凛々しいよ」
「でしょ!」
『総員第一種戦闘配置』
緊急アラートが鳴った。
「使徒っ!復活戦にはちょうどいいタイミングね」
「ぶっつけ本番すぎる。それに2号機はまだ凍結中だよ」
「あたしを呼んでおいて……この完璧なタイミングでよ?」
「必要なら指示が出る。それまで2号機のそばで待機しよう?」
アスカと目線を合わせる。
「……っ。分かったわ」
一度視線が下に移動した。DSSチョーカーが目に入ったか。
特に出撃要請が出ることもなく。
アスカのテストは後日に延期することとなった。
「起動は問題なしね。感覚におかしなところはないかしら?」
「全く。むしろ絶好調といってもいいわ」
「そう。それは良かったわね」
「シンクロ率も大幅な変化なく安定している。これなら今すぐ出撃も可能かしらね」
「やっぱり前の使徒もあたしが倒せたんじゃない?」
「まぁまぁ……アスカが出るまでもなく勝てたんだからそれでいいんだよ」
「……。それもそうね。最後の使徒はあたしにやらせてよね?」
「それは私の一存では決められないわ。もう、上がっていいわよ」
「了解」
「ねぇリツコあたしのデータどうだった?」
着替えたアスカがモニタールームのほうにやってくる。
「見ての通り何も問題ないわ」
「……フィジカルのほうのデータも?」
「ええ。前の時から1gも変化なしよ」
「そ、そう」
「パパ、お風呂入っていい?」
家についたとたんの事だった。
「今沸かすよ」
着替えの時に一度浴びてるはずだが……。
久しぶりのLCLは良くなかったか?
「ううん。シャワー浴びながら自分でやる」
「わかった」
「うっ……ううっ……ひっ…ぐ……」
シャワーの音に紛れて嗚咽が聞こえてくる。
「パ…パっ……。うっ……ごめんっ……なさっ……うぅ……」
謝罪の理由は思い当たらない。
彼女が罪を感じる理由はない。
今すぐにでも慰めてあげたかった。
だが俺のところでなく一人で泣きたいのであれば……それを邪魔するのは……いけない。
今日はきっと俺が行くとこじれる。
だから……温かいスープでも作って待とう。俺に出来るのはそれだけだ。
数日後指令室。
パイロットと葛城さんが呼ばれていた。
「第12使徒には初号機、2号機、3号機の3機を出撃させる」
アスカの表情はその一セリフでころころ変わった。
「3号機を!?……失礼ですが誰を乗せるおつもりですか?」
使徒に寄生された機体だ。
今回は華麗な救出劇だったのできれいに残っている。
「ダミーシステムだ」
「ダミーシステム?まさか自立制御でエヴァを!?」
「ああ」
「理由をお尋ねしてもよろしいですか?」
俺も知りたい。
零、初、2、3、6号機が揃っているのになぜその3機を?
「第12使徒はエヴァに対して干渉を行ってくる」
アスカの瞳が殺意に燃えた。
「3号機を囮に?」
「ああ。同化したところを初号機で叩く」
「じゃああたしの出番は?」
「2号機はバックアップだ。仔細は葛城一佐に一任する」
「かしこまりました」
「……シンジ」
「は、はい……」
葛城さんの態度に引っ張られてるな?
「最後の使徒だ。……期待している」
ゲンドウがデレた!やったなシンちゃん!
「っ…!…うん!任せてよ父さん!」
嬉しそうなシンジ君を見てカヲル君が驚いてる。
うーん?
なんかフラグが立ったぽいけど……。これはどっちだ?
『使徒と戦う→シンジ君褒められて嬉しそう』って思考だと襲ってきそうだな。
逆に『最後の使徒→シンジ君嬉しそう』って思考だと見守りに入るか?
「やったなシンジ君!これでみんなと一緒に卒業式に出れるような平和な世界がやってくるぞ!」
キョウキチ、修正入りまーす。
「う、うん……でも、なんだか実感湧かないです」
「もちろんシンジ君パパも参列しますよね!後片付けは急務じゃないですもんね!」
「あ……ああ。そうだな」
にやつくシンジ君。
わかったなカヲル君?もうエンディング前なんだよ。
シンジ君はこのまま幸せな日常に突入するんだよ!
殴ってくるなよ?エヴァ3機出てて手薄なセントラルドグマに侵入するなよ?
「じゃあ、卒業式みんなで写真撮ろうよ。ね、カヲル君?」
気遣いの神だよお前は。
「……君が言うならそうするとしよう」
「ミサトさんもいいですよね?」
「ええ。もちろんよ」
これ……フラグじゃないよな?
「アスカ進路どうするんだ?」
「パパ。あたしの進路はもう決まってるでしょ?」
「……聞いていいかい?」
「ネルフのモルモット」
「そんな悲しいこと言わないで……ほら高校とかさ」
「日本の高校で何するのよ?……それに高3の時にこの体格だと…おかしいわよ……」
「パパこそいつまでもこんな生活でいいの?」
「アスカが他のパートナーとか見つけてパパうざいって言うまでは……いや言われても俺はアスカのパパだな」
「パパうざい」
「アスカは可愛いよ」
あっさり世界は平和になりました。
ここ本当にエヴァ世界かよ。
だがアスカの精神は見ての通り良くない。
学校に嫌々行って、帰ってきてゲームして……。
家を出る気も全くないし元気が無くなっている。
今まではエヴァパイロットとしての価値があったけど、今は使徒を体内に封印しているサンプルでしかない。そう思ってるみたいだ。
いや、目標がなくなったのが効いてるのか?
…やっぱエヴァ世界だわ。アスカに厳しすぎる。
クソッ!俺のせいだ。
俺の力不足だ。情報不足だ。根回し不足だ。
どうにか……どうにかしないとな。
「アスカー出たぞ」
「何が……?」
「出向許可」
「は?……なによそれ」
「とりあえずユーロネルフには行ける」
「え!?……な、どうして?」
「修学旅行にも行けてないだろ?まずはユーロを足がかりに海外旅行……行ってみないか?」
「ふーん。パパは?」
「特殊保護観察官代理だぞ?行かないわけがない」
「そこで新実験でもするつもり?」
「血液サンプルの提出くらいじゃないか?……なんかあったら自爆すればいいんだよ」
「パパを道ずれに?」
「おうよ。ま、基本はお客さんとして観光してていいらしい」
「ふーん?」
「どうだ?卒業したら一緒に新しい世界を見に行かないか?」
「……ここに来る前はそっちにいたから新しいも何もないんだけど」
「観光とか、遊びに行ったりしてた?」
「……訓練ばっかりだった」
「うん。ユーロにも行こう。いやその前にまずは第三東京の周りの観光をして日本を楽しみつくすか?」
「……じゃあ今週末は第二東京に行って、夏休みには沖縄に行きたい……北海道のほうも気になるし……」
「ああ。アスカ、一緒に行こう!」