「夕日で赤く染まる海を見てると思い出すな」
「パパ…またそれ?」
「ボケちゃいないぞ?……ただ戻ってきたんだなって」
「それも何回も聞いた」
そうあきれつつも目もとは笑っているぞ。
「でもあたしもそう思う」
「おかえりアスカ、第三東京へ」
「おかえりパパ」
いかんな。涙腺が緩くなって可愛い娘の表情が読めない。
しょうがない身体だ。
暗い潮風に涙の跡を舐められると、思い出したように体がきしんだ。
「もう帰ろうか……老骨に海風は厳しい」
「ええ」
アスカが差し出した手に引かれる形で帰路につく。
はたから見れば祖父と孫娘だろうな。
各地を旅したがやはり終の棲家は始まりの場所がいいと思い立ち、数か月前に越してきた。
芦ノ湖の南にある小屋だ。
海までの直通便が近くにあり、夜になると湖越しに第三東京の明かりが見える。
あの絢爛は今の俺には少し厳しい。そして何より目的にそぐわない。
そういう訳でネルフに違法改築してもらったこの小屋が我が家だ。
「アスカ……。ごめん…ありがとうな」
「もう!謝らないでって言ってるでしょ?」
「分かってる…。分かってるんだけどさ」
俺はアスカと手をつないで鍵付きの部屋に入った。
ベッドがあるだけの一見簡素に見える狭い個室。その実ほぼシェルターだ。
柔らかな明かりのもと彼女を抱き寄せる。
「アスカ、愛してる」
俺の最後の言葉はやっぱりこれだ。
「何度も言ってきたけどこれ以外思いつかない」
「パパはどんな時でもずっとアスカを愛している」
「うん…パパ…」
彼女は涙をこぼして何度もうなずいた。でも同時に笑顔だった。
俺も同じだった。負の感情を流し切って純粋な幸せになろうとする。
「パパ…あたしからもいい?」
「あぁ…もちろん」
「……最後にキスして?」
「いいよ」
いつものように額にキスをした。
「ん……こっち」
少しむくれながら唇をツンと突き出してくる。
「そ、それは……」
「最後のお願い……ね?」
目を閉じた顔が近づいてくる。
俺はようやく、ようやくその思いを迎えに行くことができた。
……。
40年以上損してたかもしれん。
いや違う。そうじゃない。そんな資格は俺にはない。
アスカには悪いことをした。
こんな男以外信じられない身体にしてしまって……。
いや、いかんな。今さら後悔は不要だ。
「愛してる。愛してるよアスカ」
「あたしも……あたしも愛してるパパ」
最後のキスはとんでもなく長かった。
数分どころじゃ収まらず、息継ぎをし、キスをし、思い出を語り、そしてまたキスをして。
最後の最後に二人でスイッチを押した。
二人につけた首輪が起動してくるくると首の周りを回り始める。
俺たちは強く抱き合い唇を重ねたまま胴体とお別れをした。