「アスカ頼むっ。その新機のテストパイロット代わってくれ!」
いつもの夕方。いつもの
ついに彼女の口から3号機のテストパイロットの話が出た。
少し前に食事会の話を聞いていたので、そろそろだとは思っていたが――。
「あんたバカぁ?エヴァに乗るっていうのはねぇ!」
「知ってる…つもりだ。だからこそアスカの負担を減らしたい」
少し強めに後ろから抱きしめる。
「成功したら弾除けにでも使ってくれ」
「そんなこと言われても……ねぇ」
「なんでもするからさ」
耳元でささやく。
我ながら悪魔のささやきだ。
性的なことが不可能になるのを分かってて踏み倒そうとしてる。
「……言ったわね?」
……食いついた。
いや思った以上に声があくどいぞ?
「い、1個だけな?」
思わず訂正。
「十分よ。あたしが欲しいものは一つだもの。それはね――」
「待った。テストが終わってから聞くよ」
「ふぅ~ん。その分期待していいってことね」
「でさ、普通に言っても乗せてくれないと思うんだよね。だから……」
作戦当日――。
俺は駐車場で待機していた。
「Guten Morgenキョウキチ」
「おはようアスカ。おはようございます葛城さん」
「どうしてここにキョウキチ君がいるのかしら?」
事前に伝えると突っぱねられて終わりなのが見え見えだ。
「俺を3号機に乗せてください。お願いします」
だから時間のない当日に押しかけて駄々をこねるという対社会人必殺の手段にでる。
「……アスカ、漏らしたのね」
「ね、いいでしょミサト。3号機のテストパイロット変えてくれない?」
「はいそうですかで簡単に変われれるものじゃないのよ?分かってるわよね」
「重々承知してます」
「……アスカ、本当にいいの?彼が乗ったらあなたはエヴァから降ろされることになるのよ」
俺に言っても無駄だと察してアスカに話を振るが、もちろん対策済みだ。
「あたしより優秀だったら……でしょ?それに凍結ならプロトタイプの零号機にでもすればいいのよ。そうすれば二人で戦えるわ」
「普段のデータがない子を新機体に乗せたところで機体のテストにならないのよ」
「でも、もし動けばパイロットの予備が確保できますよ」
「そんな奇跡が起こればね」
「奇跡は起こすものでしょ?」
「……。いいわ。連れてってあげる。もしリツコを説得出来たら乗ってもいいわよ」
「っ!ありがとうございます」
第一関門突破。
でかいトラックに囲まれて松代まで移動中――。
「それにしてもまっさかあのアスカからテストパイロットを変更してほしいなんて言ってくるとわね~」
エヴァに乗るのが自分の価値だと言ってた少女がエヴァに乗る機会を手放した。
褒められる為のエヴァへの依存から、褒めてくれる俺への依存へ。
彼女の未来の為とのたまって今の彼女の気持ちを利用する。俺は……。
「シンクロできたとしてテスト機体にテストパイロット……はぁ。ほんとに大丈夫なのかしら?」
「ご安心を葛城一佐。メンタルと丈夫さだけが取り柄ですので。それにもし何かあってもしょせんは予備です。アスカが動けなくなるよりネルフのためになるでしょう?」
「ほんとに14才?もしかしてどっかで訓練でも受けてきてる?」
「実は……退役軍人にしごかれた時期がありまして……」
とある大尉なんですけど。
「それでお国の為にエヴァに?」
「いえアスカのためです。それ以外は正直……」
「さっきネルフのためって言ってなかったかしら」
「ネルフに対する俺を起用するメリットと俺の目的は別でしょう?」
「アスカ……」
葛城さんは『悪い男に騙されてない?』とは本人の前では言わなかった。
「何?あげないわよ」
そんな風に騙されてる女の反応をしないでくれよ。
「いや……何でもないわ」
ルームミラー越しに目線が交わる。俺はまじめな顔で頷いた後アスカの話に集中することにした。
「どお?リツコいける?」
「いくらなんでも許可できかねるわね」
到着早々の予定変更依頼に煙草を取り出し火をつける。
「いいじゃないの!ケチ!……じゃあ、あたし乗らないわよ!」
「はぁ…まったく……」
赤木博士は目を見開いた後ため息をついた。
エヴァに乗るのが生きがいだったはずのアスカが態度を反転させたのだからその反応も無理はない。
「身勝手ね。……恋に熱を上げるのはかまわないけど、それで作戦に支障を出すようじゃ問題だわ」
「一度試すだけです。動かなかったら諦めますから」
「エヴァの起動にいくらかかる知ってるかしら。子供のわがままで動かせる額じゃないのよ」
「……その子供のわがままは聞いてくれないんですね」
意味を濁す。
『大人のわがままで子供に動かさせてるくせに、その子供のわがままは聞いてくれないんですね』
責任を感じられるネルフの大人には伝わるだろう。
「ふぅ……随分と嫌な子供ね」
紫煙が赤い唇から吐き出される。
「ネルフの人たちはいい大人ですね」
ぱぁっと目を輝かせる。
少年(精神年齢70才)の純粋な瞳攻撃を喰らえ。
「平丘キョウキチくん…安全は保証できないし動く可能性は限りなく低いわよ」
「構いません。そんなモノにアスカを乗せるよりはマシです」
「アスカ、プラグスーツ…一着しかないから彼がダメだったらそのまま着てもらうわよ?」
「問題ないわ」
「ではEVA3号機のテストパイロットは平丘キョウキチくんに一時変更します。それでいいわね?」
「やたっ!じゃあたし案内と説明するわね」
「で、そこを押すと……」
空気が抜けてプラグスーツが身体にフィットする。いや、しない。
股間がキツイ。空間がないからもっこりというよりくっきりだ。
あと胸と尻も少し余る。
「先輩としてアドバイスするならリラックスね。下手に緊張しないほうがいいわよ?」
「うん、ありがとうアスカ」
頭を撫でてそのまま抱きしめる。
「愛してる」
言わずにはいられなかった。
俺の言うことを聞けば愛されると勘違いされたくはないが、この先の事を考えると言っておいたほうがいい。
万が一遺言になってもいいし。
「ぁた…し……もっ!」
ふるふると体を震わせたかと思いきやギュッと抱き返してくる。
「三つだけいい?」
「う、うん」
「一つ。あんまり彼を恨まないでやってほしい」
「か……彼って?」
「二つ。君はこのリフトに乗ってそのまま降りてほしい。そして直ぐに葛城さんのところに行ってくれ」
「えぇー?エントリーするとこ見ててあげようと思ったのに!」
「三つ。パパはいつでも何があってもアスカを愛してる」
魔法の言葉である。
「うん?うん……」
正直こんな言葉一つに騙されないようになってほしい。
でも言われ慣れすぎて、言われないと不安になったり言われるのが当たり前になったりすると……。
うーん、調整ががが……。
「じゃあアスカ行ってくる。着いたら電話して」
彼女を強く抱きしめて額にキスをする。
「また…」
「またね…パパ」
少しして電話がかかってきて、葛城さんからの指示も出たので俺はエントリープラグに入った。
風景が次々と変わりながら前へと落ちていく。
「ふぅ…」
一息ついたところで視界がクリアになり外の景色が見えるようになった*1。
「人事は尽くした…」
これ電源はいってんのか?入ってくれ頼む!
食いついてこい。
動け―。動け――。動け――。
動くんだっ!エヴァ3号機!
ガシッと嫌な音がして足先のほうから赤い空間へと段階的に浸食が始まる。
来た。
状況は最悪だが。思わず笑みがこぼれてしまう。
ガシッガシッガシッガシッ……ちゃぽん――。
操縦席も無くなり身一つで赤い液体の中に浮かぶような形で放り出された。
少女の笑い声が周りにこだまして、俺は背中を押されて前へと飛び出す。
「これは……覚悟してても怖いな…。怖かったよなぁアスカ…」
前方奥深くから青白い光の羽が十字に連なってこちらへと向かってくるのが見える。
「さて精神汚染……どうくるか…」
ただ序で、第二次コンタクト→視界クリア→初期コンタクト問題なし→シンクロ率41.3%なので起動できなくても視界がクリアになるかは不明