俺はアスカのパパになりたい!   作:アレデルトロン

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2-10 彼、逃げ出した後

ヴンダークルーである俺の朝は早い。

 

00:00

 

「いっつも早いなぁキョウキチは」

 

「暇だからね…」

モニター室での夜間勤務から一日が始まる。

 

センサー類は働いているが観測手は数人必要だ。

ほとんどやることはないが、睡魔に負けてはいけない仕事。

俺の適職だ。

 

4時前*1になると他のメンバーが入れ替わりはじめ俺も席をどける。

 

「おい…」

だが俺は基本暇なので室内に残って眠そうなやつを小突いて一緒に画面を眺めた。

 

 

 

06:00

 

「うぉおおおおお!ATフィールド展開っ!」

甲板で空中に向かって手を伸ばす。

 

「展っ開!」

 

「ATフィールド展開!!」

 

「またやってる……。ムダってわかってるのに良くやるわー」

 

「応援ありがとう」

 

「してないってーの」

 

「どうだキョウキチ出そうか?」

 

「うんともすんとも……」

 

「だろーなっ」

 

「今に見てろよ……ガッチガチなの出してやるからな!」

 

「期待しないで待ってるぞ。キーパー?」

 

船員に茶化されながら日課の練習。

バルディ(第9使徒につけた愛称)がその気になれば俺だって出せるはずなんだが、封印柱にスネているみたいだ。

 

映画では見なかったしダメもとだが、切り札はいくらあってもいい。

特にシンジが目覚めたからには、決戦が近い。

 

 

 

07:00

 

「よし来い!」

 

「ふっ……!」

 

いつも通りのハイキック。

今日は受け止めつつ……跳ね上げる。

 

その衝撃のままバク転すると見せかけて頂点で身体をひねり、顔面を狙った蹴り。

 

「カポエラじみた動きだな…」

 

躱してがら空きの胴体に抱き着く。

 

「甘いッ!」

 

後頭部に踵が飛んできて、同時に手で膝を折られる。

 

「あぶっ……!」

 

両手がふさがった状態でバランスを崩した俺は成すすべなく背中から倒れた。

脇腹に数発拳が刺さる。

 

体格は若干こちらが上なので、組みついたまま横に転がって上下を入れ替える。

尻で胸を、膝で肘の内側を押さえる。

よし拘束かんry――。太ももが眼前に伸びてきて頭に絡みつく。

 

柔らかい。

じゃなくて危ない。とっさに入れた腕で逆に首が締まっていく。

 

「何すんのよォっ!?」

隙を作るために尻を揉んでみるが、引き締めが強くなった。大ピンチ。

 

仕方ないので立ち上がって、ぶら下がっている上半身を床にたたきつけようとした。

 

当然、遠心力を利用した獣じみた動きで頭の上に移動してくる。

 

だがそう動くのは分かっているので今度は自分の頭ごと床に叩きつける。

 

「お?ぉおっ!?」

 

背中に衝撃。青空が見えた。

そろそろ限界なので首に巻きつく太ももにタップして降参する。

 

「勝負アリ!姫の勝ち~」

 

「またあたしの勝ちね」

 

「キョウキチ!しっかりやれよ!」

 

「エヴァパイロットって乗らなくても強いんですか?」

 

「相手のあんちゃんも結構頑張ってたがな」

休憩中のギャラリーが好き勝手言ってる。

 

「身体掴まれた時、前のめりに倒れられたらどうするつもりだった?」

 

「バク転しつつ敵の頭は地面の中よ」

 

「なるほど。さすがアスカだ」

 

「ふふん」

と少し得意げだが、腕が四本ある13号機に通じるだろうか。

 

「次いこう」

 

少し前に頭おかしい奴を見る目だった一般人が口をぽっかり空けて俺を見てる。

 

アスカの素早く切れのある動きに対応している隻眼の男だ。無理もない。

 

 

この後もちょっとしたスパーリングを何戦かしたが結果は惨敗だった。

あと武器に見立てた棒でボコボコに殴られた。

 

 

 

08:00

濡れタオルで身体を拭いてからアスカの部屋にお邪魔する。

 

「ちぇー…せっかく姫といい感じだったのにー」

 

「もしかして邪魔した?アスカ、マリさんと仲良くな……」

 

「ちょ、違っ……待ってパパ!…離れろコネメガネっ!」

引っ付いてたマリをぐいぐいと押しのけ始める。

 

「姫~。私ゃ悲しいよ~」

 

「そう?じゃあ失礼して……」

 

二人の部屋はとにかく本だらけだ。

右手にベッド(の上に本)、その奥のスペースにまた本、左手は壁と机の上に本、正面にアスカが座ってる椅子。

 

「と、ついでにマリさん本貸して」

机とドアまでのちょっとしたスペースに置いてある、本が入ったボックスに椅子をかぶせて座る。

 

「はいコレ、とっておきよんっ♪」

 

「これは――」

「ちょっと用事を思い出したから邪魔者は失礼するニャ…Chao!」

 

どうすんだよこれ。

かといって変に触ったら崩れそうな女の子の本棚を漁るのは二重の意味でヤバい。

……読むか。

 

 

 

11:00

 

タイトルでちょっと遠慮したけど読んでみるとこれはこれで……。

表現は斬新で新鮮だし、この発見はこの身体になって良かったことの一つかもしれん。

 

「じゃそろそろパパ行ってくる」

しおりを挟んで本を机の上に置く。

そしていつの間にか戻ってきてべたついていたマリさんと代わるようにアスカにハグをする。

 

「ん」

 

「姫の事は任せてねー」

 

手を挙げて答えながら部屋から出た。

 

 

 

11:30

 

「交代だ」

 

「お、待ってたぞ」

 

ヴィレは人手不足だ。

民間人が船にたくさん乗ってるし俺もその一枠だ。

 

技術者でなくてもできる運搬、見張り、メンテ、清掃、洗濯、日用品の補充に、食事の配送……。

使徒にやらせても問題が少なく、穴が開いても大丈夫な仕事しかできないが、それがいくらでもある。

 

食事も睡眠も必要なくて暇を持て余してる俺とヴィレは利害が一致している。

 

まぁそれももう終わりだ。

シンジが目覚めたから、次はニアフォースがネルフ本部で起こる。

で、第三村に行って次は南極でアディショナルインパクト(だっけ?)が起こってゲームセットだ。

 

今のところヴンダーは沈んでないし、おおむね原作通りだから華麗なパスをシンジに届けるまでが俺の仕事だな。

 

 

 

17:00

 

「ただいまー」

 

実は俺の部屋は別にある。

映画の中でシンジが隔離されてた方の部屋だ。

(本がないから)広くて、ベッドが使えて、頑丈で爆薬までついてるVIPルームだ。

だがこの身体は娯楽が少なすぎるので、狭くてベッドが使えなくて頑丈で爆薬がついてる娘の部屋に入り浸ってる。

 

――で、官能小説を読んでいるっ!?

面白いから流れるように続き読み始めたけど、アスカがちらちら見てくる。

にやけるマリさんに教えられでもしたか。いや、お前が渡した本だろ。

 

「コネちゃんなんかいいことでもあった?」

 

「コネちゃん!?」

 

「メガネはさすがにあだ名じゃないでしょ?」

 

「いやコネはただの悪口じゃにゃいかにゃ?」

 

「コネコちゃん?」

空気が凍り付いた。

 

コネ+口調からネコを組み合わせただけなのにナンパかセクハラみたいになってしまった。

 

「ど、ちらかといえばアスカの方が猫っぽいかな?二号機的に」

すぐさまボールを投げる。

 

「だってさ姫」

マリさんのフォローは早い。

気遣いができるレディだからな。

 

「猫ねぇ……」

 

「可愛いと思うけどなぁ……アスカは嫌い?」

 

「別に嫌いってわけじゃないわよ…?」

 

「じゃほら姫もにゃーって…」

 

「言わない」

 

「可愛いと思うけどなぁ……」

 

「ほら姫チャンスだよチャンス!」

 

「……。……に、にゃー」

顔を上げずにゲームに夢中ってフリしてるけど耳真っ赤だぞ。「可愛いね」

おっと心の声が。

 

「姫かわいーいー!」

 

残り少ない癒しの時間はこうやって過ごすのも悪くないだろ?

 

 

 

22:00

 

「交代だ。おやすみー」

 

またモニター室に戻って画面とにらめっこ。

 

アヤナミに開けられたヴンダーの穴が直るまでシンジ君パパは事を起こさないと思うけど、警戒は怠れない。

 

……今頃シンジはカオル君と仲を深めてる最中だろうか?

いや、普通に寝てるか。夜だし。

じゃなくて時期的には……ってことだ。

単なる使徒ジョークさ。笑えよバルディ。

24時間戦えるから体内時計がいかれちまったぞ?

 

 

 

*1
普通の船員は4時間労働、8時間休憩が基本

潜水艦の船員は3時間労働、6時間休憩が基本

このヴンダーは分かりやすく前者を採用




「じゃそろそろパパ行ってくる」
しおりを挟んで本を机の上に置く。
そしていつの間にか戻ってきてべたついていたマリさんと代わるようにアスカにハグをする。

「ん」

「姫の事は任せてねー」

手を挙げて答えながら部屋から出た。

「……」
その背を見送るように見ていたアスカの視線がふと机の上の本に向けられる。

「なにコレ?」

「官能小説だよん」

「はァ?あんたバカァ!?パパになんてもん読ませてんのよ」

「妻に先立たれた男が一人娘をかわいがって育ててるんだけど、実の娘じゃなかった事が発覚して……」

「内容の説明は求めてないわよ!」

「暴走して葛藤して、壊れてしまった関係性を作り直す父と娘のラブストーリーなんだけど、姫もどう?」

「……いらない」
吐き捨てるように言ったアスカはGUNPEYを再開する。

「この本を読んだパパさんが自分の愛に気づいちゃうかも知れないのに?」

「余計なお世話よっ!」

「パパはそんなんじゃないし、……何よりネルフを潰さないことにはそんな気持ちになれない」

「じゃあプロポーズするなら決戦後にって言っといてあげるニャ」

「チッ……勝手にしなさい」


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