俺はアスカのパパになりたい!   作:アレデルトロン

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2-12 静止した赤の中で

「頼むよアスカ」

 

「……はぁ~~~。どうしてあたしが……」

 

 

「ガキシンジ、助けてくれるつもりはあるの?」

エントリープラグをこじ開けてその上に立ったアスカが言い放つ。

 

「……こいつ見るからにダメよ。諦めて二人で行きましょう?」

甘えるような提案だ。

どこもかしこも真っ赤だが、二人で出かけるとしたらいつぶりだろうか。

 

「アスカ……」

 

「もぉーっ……」

仕方がなしに彼女はエントリープラグの中に飛び込んだ。

 

彼女も分かってる。

彼を放置するのは得策ではないことを。

 

「まァだ甘える気?」

音が反響して……いま蹴リ転がしたな。たぶん。

 

「いつまでたっても手間のかかるガキね!…全く」

 

「パパ!出すの手伝ってよ」

 

俺の存在がどう影響するか分かんないからあんま干渉したくないんだが……。

さすがに呆けた相手は抱きかかえないと上げられないな。

 

「ほれ…シンジ」

ヘロヘロのシンジを上から引っ張り上げる。

 

「非常用バッグは……ちゃんとついてるわね」

プラグの中を漁ってた彼女から声が上がる。

あのネルフも最低限の装備はつけてるみたいで安心した。

 

「ほらこれつけて。もぉ~ちゃんと立ちなさいよ!」

シンジがほんとにヘロヘロだ。

自立すらまともにできてない。

 

……足音。

気づいて視線を向けると黒いプラグスーツの綾波がいた。

 

「さっきのパイロットね。……綾波タイプのイニシャルロットか…」

 

「……」

綾波は何も言わない。

 

うーん。

あの綾波は必要性を感じないから言わない選択肢を取った感あったんだけど、この綾波はよくわかんないから黙ってるだけっぽいなぁ。

 

「はぁ……」

 

 

アスカがプラグの上に立ちハンディ計測器を確認する。

「ここじゃL結界密度が強すぎて助けに来れないわ。リリンが近づけるとこまで移動するわよ」

 

「はーい」

アスカの面倒見を出させるために指示に従うことにする。

彼女のほうが階級上だしね。

 

「ほらっ」

シンジの手を引き歩き始める。

呆けていたシンジはたたら足を踏んでから手に従って足を動き始めた。

その手からこぼれ落ちたS-DATを一瞬気にするような手振りを見せたがそれを表すだけの元気はないようだった。

 

「パパ…っ!遅いわよ」

アスカが反対の手を差し出している。

 

「ああ今行くよ」

 

 

 

 

 

歩き続けて丸二日目になりました。

 

右手に見えますは赤い高速道路、左手には赤い倒壊したビル。

右奥にはエヴァインフィニティの亡骸、左奥には赤くなった電柱。

 

ずっと赤。目がちかちかするわ。

デートスポットとか見どころも皆無。もう暗いし誰もいないしただただ不気味。

そんな道をアスカに手を引かれて歩くだけ。

 

「よし……迎えを待つわよ」

救難信号は発信できてる。L結界密度も防護服規定値内だ。

 

その声に反応してか自販機に寄り掛かったシンジはそのままずるずると座り込み、すぐにうなだれてしまう。そしてピクリとも動かなくなった。

 

静寂の中にプラグスーツの微かな電子音が聞こえる。

生命維持装置がそろそろ限界だな。

 

「もう!だらしないわね!」

その音を聞き取ったアスカが足を踏み鳴らして振り返る。

 

おっと、怒りのままに早歩きしないでくれ。まだ俺後ろ向きだからっ!

 

そして手首を確認して、顎をつかんで顔を見た。

「ほんっと根性なし……」

 

綾波がどうして歩き続けられてるのか不明だけど……リリンは眠らないとダメなんだぞ。

……分かってて毒づいてるか。

 

「まぁまぁ……ちょうど来たみたいだよ」

 

ヘッドランプが片方切れたジムニーが走ってきて俺らのすぐそばで止まる。

 

「悪い遅くなった。大丈夫か?碇」

降りてきたのは防護服の男。

優しさとサバイバルスキルでシンエヴァだとアスカの父親代わりっぽいポジションに収まった相田ケンスケの登場だ!

 

「惜しかったな。さっき意識を手放したとこだ」

 

「キョウキチ!……一緒だったか」

 

「ああ。よっこらせっ」

シンジを抱えて運転席の後ろにぶちこみその隣に座る。

 

「よし!安全運転で頼むぞケンスケェ!」

 

「お前なぁ……」

 

「愛車、俺が運転していいのか?」

一応免許はあったぞ。

もう十年以上運転してないし、この世界じゃ最終学歴中学中退だけど。

 

「そう思ってるならもう少しだな……」

 

「久しぶりに友達に会ったんだぞ?……それにシンジの事も心配だしな」

テンション高め。

 

「それもそうだな」

 

「じゃあアスカの席はここね」

膝を叩く。

悪いなこの車は四人乗りなんだ。

その辺のチャリがコア化してなかったら俺はそれでもいいんだがな。

 

「イニシャルロッド……あんたも乗るんでしょ?」

 

「……これ、何?」

 

無理やり5人を詰め込まれた車が夜闇を走る。

移動中の現状説明はアスカに任せた。

 

 

……正直このルート2番目の障害はここだ。

1番?3号機が起動するかというかアブディが食いつくかどうか。

 

何が障害かっていうと、ケンスケがモテてる。

優しくて包容力があってサバイバルスキルが高くて、クレーディトやヴィレとの繋がりがあって、たまに教師もやってる何でも屋だ。

モテない理由がない。

さらにアスカがこっちに寄り付いてるので完全フリー。

好意を持っている子を断る理由が無くなったので、彼女たちがたまに家に来るのだ。

前来たときは表面上仲良くしてたけど……。

同棲してたらケンスケの家が使えなくなるよな……。

 

 

「さぁ着いたぞ」

もう空は明るみ始めていた。

 

ケンスケと二人でシンジを診療所に運び込む。

俺の太ももは震えている。いや筋力不足じゃなくて下半身の感覚がないほどに痺れている。

 

 

「ヒカリ!久しぶりね」

 

「アスカ?……久しぶり!」

 

「その子ってヒカリの?」

 

「ええそう。ツバメよ」

 

「どれどれ……やだ可愛いじゃないの~!」

女子組は大変楽しそうで。

 

「よぉトウジ!」

 

「おおっ!久しぶりやなキョウキチ」

 

「……っと再会を喜びたいがケンスケ今日も仕事だろう?」

 

「まぁ問題ないさ」

 

「徹夜で運転させたんだ今日は手伝うよ」

 

「悪いな……」

 

「アスカは残るか?」

 

「帰るわ。ヒカリも仕事あるし」

 

「それじゃ仕事終わりに見に来るよ」

そう言い残した彼の後に続いて、俺たちも診療所を出た。

 

綾波は委員長に任せる!

 

 

 

「助かったよ」

ケンスケの仕事の手伝いを終えての帰り道。

ほんと律儀ないいやつだ。

 

「助けてもらったのはこっちだろ?」

 

「そうか?」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「あー悪いんだがシンジの迎えパスしていいか?」

 

「どうしてだい?」

 

「一緒に歩いてた感じあいつの精神ダメージは相当でかい。大人数の空間に長居させても……な?」

俺が行くと昔話で盛り上がりかねない。

 

「分かった。そういうことなら早めに切り上げてウチで預かるよ」

 

「助かる。日中はアスカに様子見てもらうよう言っとく」

 

「悪いな」

 

「心配だから家上がって待ってる」

 

「ああ。好きに使ってくれ」

 

 

 

「おじゃましまーす」

 

「おっかえりー」

 

「……。人様の家で早くも寛いでるな?」

 

「そりゃ……家の掃除だけじゃ時間を持て余すでしょ?」

 

「それもそうか」

暇だったので俺は着替えることにした。

 

「シャワーも浴びちゃうの?」

プラグスーツは一応精密機械なので手洗い推奨だ。

全裸になって一緒に洗うのが手っ取り早い。

 

「あとでちゃんと入るよ」

正式な洗い方かどうか知らんけど。こんな状況だとそれしかない。

 

「じゃ、あたしのもお願い」

 

 

 

「ふぃー終わった……」

腰にタオルを巻いたままプラグスーツを干し終わる。

 

「ありがとーパパ♪」

彼女が着てるのは古くなった黄色のワンピース。

身体に密着する服を風呂に入らないまま着るのはイヤなのだろう。

 

ガチャ――。

玄関に立っていたのは当然シンジだった。

 

「あーすまんなシンジこんな格好で……」

 

「いや、ちょっとはすまなさそうにしたらどうなの?」

腰に手を当てて堂々としてるだけだろ。てか、DSSチョーカーに気づいてもらわんと。

 

「ただいま。……ああ、先客だ。お前に会いたいって」

 

「少し顔色良くなったな。安心したよ」

数歩近づいて笑いかける。

 

ずっと動かなかった目が見開いて――。

 

「うっぷ……げはっ……うぇ……うぇぇ……」

嘔吐した。

 

「DSSチョーカだけに反応あり……だな。こりゃもし全裸でも大丈夫だったな」

 

「ダメよ!ダメに決まってるわよ!?」

 

「ケンスケ雑巾借りるぞ?」

 

「客は座っててくれ。……いやその前に服を着てくれよ?」

そういいつつ雑巾とバケツを取りに行き、掃除を始める。

 

「えー?またすぐ着替えるのにパンツ履きたくないでござるぅ」

 

「頼むから腰布1枚で俺の家の周りをうろつかないでくれ……」

 

「てか、なんで二人が掃除してやろうとしてんのよ!ソイツにやらせれば済むでしょ?」

 

「碇は今食べないし、自分から何もできない。よほどつらいことがあったんだろう」

ちょうど世界ぶっ壊しても綾波を救えてなかったことを知って、目の前で友人が身代わりで死んだとこだな。

 

「そうやって心を閉じて誰も見ない。……ほんっと相変わらず馬鹿なガキね!」

今はさなぎの時期なの。すぐに成長するから。……な?

 

「そんなのほっときゃいいのよ。どうせ生きたくもないし死にたくもないってだけでしょ?」

 

「碇、今はそれでいい。こうして再開したのも何かの縁だ、好きなだけ頼ってくれ。友達だろ?」

ケンスケがしゃがみこんでシンジに目線を合わせるが、シンジの瞳は多分動かない。

 

「俺は碇が生きていてくれて、嬉しいよ」

 

「俺も。シンジが生きててくれて嬉しいよ。じゃ、また会いに来るわ」

 

「牙が抜けて食べることもできなくなった狼に価値ってあるのかしら?」

アスカも捨て台詞を吐いて家を出たが、刺さってる。

こっちにこそ刺さってるって……。

 

 

 

ケンスケの家に2人して寝泊りをするのは気が引けたので、昔俺たちは近くに小さな小屋を建てた。

本当に小さい。着替えと薪とベッドくらいしか置いてない家だ。

あとはこれ。風呂代わりのドラム缶。

 

着火。

燃焼。

 

「湯加減はどうでしょうかお嬢様?」

 

「完璧っ!やっぱり帰ってきたらお風呂ね」

ヴンダーだと水が貴重だからな。

 

ぬるめの温度を保ちつつ、拾ってきた枝で炭づくりも行う。

この辺のセッティングは彼女も慣れたものだ。

枝拾いも風呂の準備も日中アスカが終わらせていたので、俺は軽く火吹き棒を吹くだけ。

 

 

火の爆ぜる音。

微かな水音。

鳥や虫の鳴き声。

そして圧倒的な闇。

 

手元は月明かりが照らす。だがドラム缶を挟んだ向こうに見える森は深く暗い。

 

「パパ」

 

「ん?どうしたアスカ?」

 

「次はどのくらいかかると思う?」

 

「うーん2号機を修理してからだろうから……。結構かかるんじゃないかな」

 

「嵐の前の静けさね」

 

「なーに嵐の後も晴れるもんさ」

 

「そうね。嵐程度あたしがぶっ飛ばしてやるわ!」

 

「その時は隣で見てるよ」

 

「うんっ。あたしの活躍を特等席で見せてあげるわ」

 

ああ。

世界にまるで二人っきりだな。

村の明かりもケンスケの家も遠い。

見えるのは月と闇と炎とアスカか。

 

「あと星も綺麗だ」

 

「そうね」

何度も見上げた星空だ。

いや、一個だけ落としてきたか。

 

 

「そろそろ上がるわ」

ザパリと立ち上がる音が聞こえたので目をそらして、枝を追加する。

 

「ちゃんと乾かすんだよ?」

 

「もう…分かってるわよパパ」

 

俺もざっと入って汚れを落とす。

シャワーも浴びてるし、もう体を温める必要もないんだがな。

 

 

さっと上がって軽く体を拭いたらタオルを腰に巻いて家に入る。

アスカ。衝撃。

 

……入った瞬間アスカがいて抱きつかれた。

なんか……感触が。

もしかして服着てないんじゃないか?

 

「パパ……やっと二人っきりね」

 

「あ…ああ」

プラグスーツとは若干違う摩擦に動揺しながら肩を抱く。

 

「煩いマリも、ウザったい監視も、ガキのシンジも居ない……」

 

「……寂しいかい?」

頭を撫でる。

 

「パパが居るもの」

 

「パパは……」

俺は……そのポジションでいいのか?それは依存じゃないのか?それでいいのか?

グルグルと思考が回って言葉に詰まる。

 

「疲れちゃった。ちょっと休もう?」

 

「……服は?風邪ひいちゃうよ」

 

「こうしてれば温かいでしょ」

 

あー。これ駄目だ。駄目なやつだ。

突き放すとシンジの二の舞を演じることになる。

最近はだいぶ安定してきたと思ったんだが……。最後かもしれないから甘えてるのか?

 

「特別だぞ?」

 

「……うん」

 

 

「ん……っ」

腰布一枚でアスカと抱き合って寝ることになった。

だがこれは父娘のスキンシップであって、いかがわしいことは一切ない。

俺の性欲が皆無だからね。

健全な親子のスキンシップではないが性的なことではない。いいね?

 

ちなみに二人とも眠ることはできない。

抱きしめて彼女の不安を打ち消そうと努めるだけだ。

 

 

 

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