俺はアスカのパパになりたい!   作:アレデルトロン

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2-17 終わる世界

アスカ――。

シンジの声が聞こえた気がした。

 

遠くにオレンジ色の水槽とその中に浮かぶ人型が見える。

アスカのクローンたちだ。

 

俺がいる場所は遠く暗い。まるで蛾のように彼女に向って走る。

 

『パパは分からない。ママは――』

 

風景が切り替わる。

アレはコアとそこに降り立つ……アスカ似の…!?

ちょっと待て。初号機に入ってるのは碇ユイじゃ……?

 

「何やってるの!?2号機はダイレクトエントリー不要よ!」

「ですがっ!」

「いいから実験は中断!……パイロットのスペアが効かないんじゃ正規品に出来ないわよ!」

 

風景は代わって病室。

人形を抱く母親とそれを見つめる幼いアスカの背。

 

『アスカちゃん、ママねぇ』

顔は見えないが人形を実の子供だと思い込んでるみたいだ。

 

……ちょっと待て。おかしい。

その設定はアニメ版の惣流アスカのほうで……あれ?

 

『ママー見て!』

 

幼いアスカが扉に向かって走る。

声は明るい。

 

『あたしを見て』

 

幼いアスカが扉に向かって走る。

声はあどけない。

 

『あたしを…あたしを見てよママッ!』

 

幼いアスカが扉に向かって走る。

声は危うい。

 

『ママーッ!あたし選ばれたの!人類を守るエリートパイロットなのよ』

『だからパパがいなくても大丈夫!あたしは大丈夫よママッ』

 

扉は開いてしまった。

ここからじゃ浮いてる足しか見えないが、それで十分だ。

 

『ママに認めてほしかった』

 

『ママに……褒めてほしかった』

 

『でも――』

 

ところ変わって10代にまで成長したアスカの顔写真が大量に並んでいる。

 

『あたしはあたしだけじゃなかった』

 

 

『もっとも優秀で』

 

少し枚数が減る。

 

『もっとも特別なあたしがママの子』

 

勉学に打ち込むアスカ。

そしてまた枚数が減る。

 

『お前らなんかに負けられない』

 

筋トレをするアスカ。

そしてまた枚数が減る。

 

『あたしがエヴァに乗るの』

 

サンドバックを蹴り飛ばすアスカ。

枚数は最後の二枚に。

 

『あたしは特別』

 

シュミレーションで敵を打ちのめすアスカ。

 

『あたしこそが惣流・アスカ・ラングレーなのよ!』

 

ドヤ顔で胸を張ってプラグスーツで歩くアスカ。

 

『パパは…分からない。あたしにはママもいない』

 

雪道で走り込みをするアスカ。

……アスカ?

 

『誰もいらない。一人で生きられる強さを持つの』

 

「最近……が好調ですが…」

「だが……の鬼気迫る爆発力には勝てまい」

「……はいささか不安定さが目立つのでは?」

「表面上は問題あるまい。それに……の社交性の低さのほうが……」

 

『そう!あたしのほうが優秀なの!だからッ!あたしをエヴァに乗せて』

 

エヴァの中のアスカ。

 

『あたしを認めて!』

 

加持リョウジと話すアスカ。

 

『あたしを誉めて!』

 

本海洋生態系保存研究機構で隣を向いているアスカ。

 

『あたしに居場所を与えて!』

 

ミサトさん家の自分の部屋の前に立つアスカ。

 

『……パパ?』

 

俺の部屋で寝っ転がるアスカ。

 

『寂しい』

 

 

『寂しいよ』

 

幼いシンジが両親に抱かれる様を見る幼いアスカ。

てかシンジ君パパちゃんとパパしてんな……。

 

「寂しいよ…パパッ!」

 

幼いアスカが泣いている。

一人ぼっち、雪の積もった橋状の倒木の上で。

だが――。

 

「ぜっ…はー……はーっ……ごめんな…遅くなって」

 

ようやくたどり着いた。

一歩一歩と踏みしめながら近づき、アスカを抱きしめて頭を撫でる。

 

ちょっと座ってる位置が高すぎて互いに肩に顎を乗せる形になるがまぁいいだろう。

 

「アスカ…もう大丈夫だ」

壊れてしまわないように優しく。

 

「パ……パ?あたしの?」

 

「そうだ。お前たちみんなのパパだ」

縛ってしまわないように優しく。

 

「あたしたちの?」

 

「ああ。生まれてきてくれてありがとう」

 

「……っ」

 

「愛してる。……幸せになりなさい」

 

「うんっ…うんっ……パパ!」

 

良し。もう限界だ。ごめんな……。

 

 

 

俺の身体は痙攣してスクリーンから離れて落ちる。

気が付くと逆さづりになってた。

足首がぐちゃぐちゃだからって何も膝に杭刺して吊るすことないだろ。

 

「よぉシンジ……」

 

隣に立っていた俺に鞭で打たれる。

 

「何してるのキョウキチ?」

 

「あー自罰?」

 

「自罰?」

 

「ああ。後悔するつもりはないが罪は消えない」

 

「…まぁしょせん自己満足だ。人に見せるもんじゃない」

 

俺は頭から落ちて水浸しになる。

 

「そんなことより上手くやったんじゃないか!?シンジ!」

興奮気味に俺はシンジの机をたたいた。

気づけば学校だ。

 

「みんなのおかげだよ」

 

「俺らがやったのは補給とサポートだ。走り切ったのはお前だろ?」

 

「そんな…照れるよ……」

 

「くく……すまない少しとちった。遠足もマラソンも戦争も帰るまでだ」

 

「それは大丈夫。マリさんが迎えに来てくれる」

 

「そりゃ良かった」

映画通りで――。

 

俺はケラケラ笑う。……笑う。

 

「ぐすっ……すまない……うぐっ……ふっ……」

おかしいなぁ……。笑ってるはずなのに……。

 

「これで……いいんだよな…。もうアスカは使徒にトラウマほじくられないし、量産機に食われないし、使徒に寄生されないし、14年間も戦い続けなくていいんだよな……」

 

「うん」

 

「はぁ…ははぁっ……ふっ……ぅぐっ……」

泣いた。

 

今までの努力が報われた。これでようやくアスカが自分で未来をつかみ取れる。

 

「……キョウキチ、もう君が幸せになってもいいと思う」

俺が落ち着いたところにお優しい声がかかる。

 

「……」

そうじゃないから首を横に振る。

 

「……そっか。キョウキチは凄いや」

 

「……ただの年寄りさ」

70年と14年。

孫娘のような少女に俺が幸せにしてやるなどとは言えない。

彼女が良ければそれでいい。もう十分なんだ。

……もし求められるようなことがあればこの枯れた魂に火をつけるが、もう大丈夫だろう。

アスカはもう大丈夫だ。

 

「ねぇ」

 

「なんだ?」

 

「ありがとう。父さんのこと」

 

「ん?」

 

「父さんと釣りもできたし、結婚式にも招待できたし、孫の顔も見せれた」

前の周の話だ。たぶん。

マイナス宇宙で釣りが出来ないってことはないと思うけど。

 

「こっちこそありがとう。世界のこと」

 

「え?」

 

「アスカと旅行に行けたし、小さなアスカも認めてあげれたし、エヴァに縛り付けない未来を示せた」

 

「間接的だなぁ」

 

「俺への感謝だって、俺はアスカの……俺のためにしか動いてないから、ただの結果論さ」

 

「ここまで頑張ったのにまだ自信がないの?」

 

「おいおい。また精神攻撃かよ」

 

「キョウキチ……」

 

「そうだ。悪いが俺は完成してる」

悪く言えばもう成長できない。そう意固地になってる。

補完もアドバイスもいらない。もう頑固爺になってる。

 

「…分かった。じゃあキョウキチ…さよなら」

シンジは手を差し出す。

 

「ああシンジ、またな!」

俺はその手を握った。

 

俺はサヨナラかもしれないが、記憶が残るシンジにとってはまた会うかもしれん。

 

 

 

さらば友よ。

アスカやお前が世界を背負わなくていい明日でまた会おう。

 

 

 

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