新第三東京に来てからまぁまぁ時間が過ぎた。
その間に非常事態宣言も2回経験した。
シャムシエルとラミエルだっけ?
モノレール乗るだけだから避難は簡単だけどあとはお祈りしかできない。
シンプルに怖い。
仕事もぼちぼち。
業務の合間にシンジ君の自宅特定するくらいの余裕は作れた。
会社のやつら?
野心家のハイエナと断り切れなかった優柔不断、責任感に燃える上司。
引継ぎは……手早かったな。一刻も早く戦場から抜け出したかったんだろうな。
で、二回の使徒でそこからふるいにかけられてある意味精鋭が残ったよ。
プライベート?
ほぼジム&料理と、図書館で調べ事したり、登場人物たちの事を考えなおしたり……。
後は仕事の勉強と効率化。
10年進んだ営業思考で楽できる仕組み作りを目指してる。
そして今――。
俺はモノレールに乗っているッ!
10分前くらいに非常事態宣言が発令されたのだ。
そして今――。
俺はモノレールを降りたッ!
数秒前に非常事態宣言が解除されたのだ。
このスピード感!間違いなくアスカだ!
今日はゴリゴリに仕事をして、明日から下校時間に合わせたスケジュールを組むことにする。
予定していたポイントで待機すること数日。
特徴的な橙の髪にツーサイドアップ。ゲームをしながら器用に歩いている。
いた。やっとだ。やっと……。
湧き上がる笑みを必死にこらえて、近づいていく。
「そこの美しいお嬢さん!ちょっとお茶でもどうかな?」
恥ずかしいがこれくらいやらないと接点が生まれない。
反応は……。
予想通りガン無視だ。
作戦通り強行に出ることにするか。
俺は手を伸ばして肩を叩いた。
「チッ!」
盛大な舌打ちとともに振り返った彼女と目が合って――。
俺は一気に気が抜けてしまう。
「……ぁ」
なんというか…想像よりもずっと小さかったんだ。
頭一つ分は俺より低い。
こんな、こんな少女が独りで生きる覚悟と努力をしなくちゃいけなかった。
誰も褒めてやらなかった。誰も認めてやらなかった。誰も愛してやらなかった。
俺が……俺がパパになる。絶対に認め――。
彼女が消えた。
腹、そして尻に衝撃。
じわっと痛みが湧き上がってくる。
ただでさえ出かけてた涙が押し出されて頬を伝う。
まるで蹴られた痛みで泣いてるみたいだ。いや、実際泣くほど痛いんだけど。
……痛くて泣きました。
「……ふん」
俺の情けない姿を見下したアスカはそのまま踵を返そうとする。
「…け、軽率に声をかけて…すまなかった」
苦痛で意識しないと息ができない。声が出ない。
「二度と話しかけないでちょうだい」
吐き捨ててうなだれる様に頭が動く。自分の世界に戻った証拠だ。
「今の蹴り!」
強く息を吸いすぎて無駄に大きな声が出る。ここが正念場だ。
彼女に外の世界を見せなければならない。
「素人目でも分かる…天賦の才だ」
腹の痛みがそれを証明している。
「……」
「だがっ…動きのキレ、体幹の安定感……想像を絶する努力の積み重ねが見える!」
背中を向けたアスカの足が止まる。
「君は尊敬に値するべき人間だ。……軽い気持ちで声をかけて申し訳ない」
「……」
「お詫びも兼ねて……食事を御馳走したい。ぜひとも君の話を聞かせてほしい」
「…」
「ランチじゃなくてディナーでもいい。寿司でも肉でも好きなものを言ってくれ」
「君の都合のいい時でいい。……この通りだ頼む」
尻もちから体勢を立て直して、正座をして拝むように手を合わせる。
「……バッカみたい。恥ずかしいから立ってちょうだい」
中学生に拝み倒すアラサーだ。そりゃ恥ずかしいだろう。
だが恥を承知の自爆攻撃は通った。
立ち上がって汚れを払う。
そして胸ポケットから名刺を取り出し自分の電話番号をメモして両手で差し出す。
「平丘キョウキチです。どうぞ」
「普通ナンパで名刺出す?」
「俺が出せる精いっぱいの誠意だと思ってほしい」
「ふぅん……」
片手で乱雑に名刺を奪い取った彼女はそれを一瞥してからポケットにしまった。
とりあえず……良くやった俺。
けど、普通のトレーニングジムじゃなくてキックボクシングとかにしとけばよかった。
「こちらが報告書になります」
「ありがとう」
「どれどれ……平丘キョウキチ28才……名刺は本物みたいね」
保安諜報部から受け取った資料を葛城ミサトはペラペラとめくる。
「今までの経歴に抜けはなし、第三東京に入ってからの監視カメラのデータもある。……特に怪しいところはないわね」
「……」
「不審点…?……担当エリア外のはずの私のマンション付近での映像あり。第2の少女来日後から下校時間に通学路で待ち伏せ?……こんなのあきらかな黒じゃないの!」
「いかがいたしますか?」
「……釣りをするわ。経費でいいもの食べさせてアゲル」