「大尉!?……大尉ってあの!?」
士官学校卒で少尉、パイロットになれるのも少尉かららしい。
大尉といえばそこから昇任を二回。
「そうよ」
「凄い…凄いよ!経験を積んで昇任が認められてるって事だろう?」
俺のイメージだと『エリート大を卒業した新入社員が少尉、仕事を覚えて中尉、完全に独り立ちで大尉』だ。
……28才の俺より仕事ができるッ!
「ま、実力よね」
さんざん言いわれ慣れてきただろう彼女は軽くあしらって前菜に手を付ける。
「目標に向かって脇目も振らず努力できる精神力……とその下地があるからこその自信…か」
アスカは自信過剰なんかじゃない。
それだけの努力を……生存競争を乗り越えてきている。
「……さっきからその分かったつもり気持ち悪いんだけど」
「…ははは手厳しい。君の事は分からないけど…分かるさ」
俺もパイ?を一口含む。
サクサクパイ生地&トロトロチーズ&カリカリベーコン。
伝統料理っぽいシンプルさだからこそ作り手の技術が光る。
「俺は出来なかったから。子供の時にちゃんとやってれば……。学生の時に、新入社員の時に、去年から……。そうやって、よそ見して後悔ばっかりしてきた」
一緒に来た白ワインで口をリセット。
「あと、君ほどじゃないが頑張って出世した奴も見た。……だから分かる。……いや、理解してるってわけじゃない。測定不能なほど凄いのが分かるってだけさ」
だから君に近づくために俺はこの数か月努力を続けたんだ。
「情けない大人の理想を押し付けないでちょうだい」
出来なかった俺と出来てる彼女か。
鋭いな。でも――。
「……そんな必要はないだろう?すでに君は俺の想像を超えてる。今までの実績でもう十分すぎるほどに」
「もしかしてあたしの邪魔するつもり?」
十分やったからもうやめろと受け取ったのか。
「君は既に輝いている。だがもっとと望むなら俺はそれを応援したい」
「で、結局のとこ目的はなんなの?」
「うーん……。君に幸せに……笑顔になってほしい」
「はんっ…やっぱりナンパじゃないのよ」
「どちらかと言うと……あー、情けない大人の理想の押し付けかもな……。誰より努力した人に誰より幸せになってほしい。そういう世界であってほしい」
アスカはきょとんとしていた。
「……あ、別に俺に笑顔をくれとは言わないさ。おじさんの傲慢な願いの為に君には幸せになってもらおう…はっはっはっ」
緑のバターがのったエビを食べる。
美味い。白ワインにも合う。
「バッカみたい…」
恋も信仰も傍から見れば馬鹿みたいで盲目なもんだ。
「全く持ってその通りだね。私めはエリート様のために働く愚民でございます」
「ふ……いいわ。使ってあげるからありがたく思いなさい」
「ありがたき幸せ……。と、そのためにちょっと聞いてもいいかい?」
「……何を?」
彼女の目つきが少し鋭くなる。さすがの警戒心だ。
「あーもちろん機密は言わないでいい。聞いてほしいなら聞くけどね」
だが俺は別にスパイじゃないし。今の彼女から得られる情報は大体知ってるし。
「もっとプライベートな……例えば、大尉殿ともなるとやっぱりいい部屋に住んでるのかな?」
コーンポタージュ。やっと知ってる料理だ。
いや知らねぇやコレ。舌触りから味の柔らかさまで全部違うわ。
「ミサトと……えっと一応上司ね、指揮官。それと馬鹿でとぼけた面した七光と同室よ」
「え、三人で同居?」
「そーなのよホント最っ悪なの!」
「指揮官がミサトさん?女性でいいのかな。もう一人の子が凄い評価低いけど……」
三里さんだと男性の可能性もあるが、ここは話をスムーズにしたほうがいい。
「自覚もないし警戒心もない……親の七光りで選ばれただけのただのバカ」
「凄い敵対心だね。ライバルってところかい?」
「誰があんなのとライバルよ!……たまたまシンクロ率が高かっただけの一般人でっエリートパイロットたるあたしの敵じゃないわ!」
「じゃあ同じ……特殊任務に就くチームメイトかな?……あっ、だからこそ同室で団結力を高めてるってことかい?」
「……あんたもそういう評価なの?」
「そりゃあ熟練のベテランが才能だけの若者を弟子にして、そのうち相棒にって物語は良くあるだろう?」
「あたしは一人でも大丈夫よ!」
「まぁまぁお食べ」
「言われなくてもっ」
粒が大きめのかき氷?みたいなのをパクリ。
勧めといてなんだけど勢いよく食べると頭キーンってなるよ?
「うーん……。アスカが凄いことと人間の限界はまた別の話だと思うんだけどなぁ……。1人で軍隊には勝てないだろう?」
「軍隊……?フンっそんなもの蹴散らしてやるわ」
※旧劇場版参考って感じだな。
「うん?じゃあ……街を守りながらだと?二方向から攻められたら君の意固地で人が死ぬよ」」
一応軍隊と戦えるって発言には違和感を感じるアピールをしつつも流す。諜報部がどこにいるかわからんし。
「……」
「そんな顔しなくても大丈夫だ。その子だって一人じゃ軍隊には勝てないさ。……被害を出しながらの単独勝利より、一致団結で無傷のほうが皆喜ぶよ」
「でも……」
「君の頑張りは……凄さは変わらないさ」
運ばれてきたメインの肉料理に手を付ける。
「……」
網上に入った線は香ばしいく牛肉そのものは驚くほど柔らかい。
これが……天然肉っ!!二桁の肉!!
おかしい…天然肉って前世じゃ散々食ってた普通の肉だろ?
高級なのは置いといてそこでこんな感動するものか?
「……ん?うーん。やっぱりアスカ褒められ慣れてない?」
赤ワインをお供させる。
「そんなの必要ない……」
小声で自分に言い聞かせるように。
「……。もしかして、良く話せる先輩とかメンターとかカウンセラーとかいない?」
「そんなもの必要ないわ。あたしはエヴァに乗れればいいんだから」
次は強く自分に言い聞かせるように。
「本当に……本当に独りで戦ってるのかい?」
やばい……我慢できなくて声震えてきた。
「だからいらないって……!?…何泣いてんのよ?」
「ごめんっ……いや、だって……分がった!俺が第三東京のパパになろうっ!」
言い終えて、ずびーっと鼻をかむ。
「はァ!?あんたバカァ!なんでそうなるのよ!?」
「アスカもいうなれば留学生だろ?……留学生ってのはな、ホームステイ先の人間と疑似家族になったりするもんなんだ」
「あたしはそういう馴れ合いが嫌いなの」
「……食わず嫌いにしか見えないぞ?」
「食べるだけ無駄なジャンクフード*1と一緒!」
「無駄を楽しむのが趣味だし、そんなに気負わなくてもいいんじゃないかい?」
「その無駄が嫌なのよ」
「ほぼプレイが確立したゲームを永遠に続けるより?」
「……人が何を楽しもうと勝手でしょ!」
「何を選んで何を楽しむかは君の勝手さ。だがその前にプレゼンだけさせておくれよ」
「いやよ」
忠臣は苦言を呈すものだから勝手に言うね。
「嫌な出来事をちょっと聞いたり、こうやって食事をしたり、荷物持ちをしたり……。パパといってもできることはそれくらいだ。別にそんな嫌がるほどでもないだろう?」
「……だとしてもあんたは嫌。あたしのパパならもっと、……ハンサムでないと」
少し考えてひねり出した答えは顔。
「ははは。パパに必要なのは安心感だよ。娘をドキドキさせてちゃダメなのさ」
「安心感?……急に泣くし情けなくて不安しかないじゃない」
「可愛い娘が反抗期でパパ泣きそう……。いや、ちょっと失礼……」
涙で顔がぐしゃぐしゃなので伝票をもって席を立つ。
用を足していると一気に酔いが覚めていく。
めちゃめちゃ攻めてしまったっ!初回でいきなりパパ宣言はやりすぎでは!?
やばいか?……それともセーフか?
ちょっと言い争いっぽい感じもあったし……。
……ダメなら帰ってるかもしれん。
アニメ版だとデート途中で帰ってきたみたいなあったよな。
そうなら再アタックか。そうでなくても一回謝るか。
とりあえず顔を洗う。
席に彼女は……居た。
サラダをシャクシャクと口に運んでいる。
「失礼。取り乱してしまった」
「……たかだかワインで情けないわね」
「つい本音が出てしまった」
「……は?」
「第三東京のパパとして頼ってくれ」
あ、サラダも美味い。
酸味と塩味……それにマスタードか?香りがいい。
「それ正気で言ってたの?」
「もちろん。メンタルを保つ手段は多ければ多いほうがいい。銃でもナイフでも素手でも戦えたほうがいいのと一緒さ」
「素手より弱い武器はハンデじゃないの?」
「何をもって弱いとするか……例えば盾は殺傷力だと素手より弱い。違うかい?」
「……盾ェ?ビスケットじゃなくて?」
「……お土産は下の階に売ってたビスケットにしようか」
目に見える位置にあったからきっと気になってたんだろう。俺も気になってた。