「初めまして。平丘キョウキチです」
ここは海洋資源保存研究施設に向かうための船の中。
「その…初めまして」
「式波が連れてくるってことは……軍の関係者でしょうか!?」
「残念だが外れ。……勝手に父親を名乗る世話焼きおじさんだ」
「はえーこいつの?……そりゃ難儀なこって」
「……」
敵意をこめて睨み付けるアスカ。
次なんか言ったら蹴られるぞ?
「難儀なもんか。もう可愛くて可愛くて……」
とりあえずフォロー(事実)。
「……キモイ」
そう呟いた彼女はそっぽを向いてワンダースワンを起動する。
「……ところで碇シンジくんってのは…」
その間に挨拶だけは済ませておかないと。
トウジ、ケンスケ、ペンペンもいるので一応確認をしておく。
「……あの…」
「おおっ!君か!……アスカがお世話になっております」
「あ…いえ、こちらこそ…」
「ヨロシク」
ずいっと手を出して半ば強引に握手をして、ついでに二人の自己紹介も聞いてからアスカのそばに戻った。
到着してからは滅菌行程。
まず全裸で照射滅菌。
下着一式交換でそのまま水没させられたり、熱湯かけられたり、冷水かけられたり……。
……一度使った洗浄液ってわざわざ捨てるんだろうか?6人を余裕で水没させるだけのこの量を。
うーん。金かかってるなぁ。
チン――。
すべての処理を終えて扉が開いた先には青い水とその中に泳ぐ魚たち。
うん、水族館。展示の工夫はちょっとないけど。
「ふぉーほほほっ…でかい水槽やなー!」
「すごいっ……これがセカンドインパクト前の生き物なんですか」
「凄い…凄すぎる…!」
男の子組は大変楽しそうです。俺もテンション上がってます。
「さ、俺たちも行こうか」
さっきも褒めたけど、白衣というかナース服?
職員制服なんだろうけど……可愛いね!
「ほらあれ…砲弾型のやつ!こないだ食べたマグロの本当の姿だよ」
「ふーん?……赤くないのね」
「確かにそうだ。身は真っ赤だったもんね」
もしかして色で気に入ってたのか?
「マグロはね……泳ぐのを止めたら息ができなくなるんだよ」
落胆し少しつまらなそうなので一石投じることにした。
「……」
ピクリと反応したアスカが片手を水槽につける。
「それに沈んじゃうから。寝るときもずっと泳ぎっぱなしなんだ」
反対の手に手を重ねる。
触れた瞬間身じろぎしたが、それ以上の抵抗はなかったのでそっと握った。
「その代わり、泳ぐことにひたすら特化した肉体で寒い海でもへっちゃらなんだ」
「長い時間をかけて、進化の末に得た生き方さ」
「……」
彼女は何も言わなかった。
ただ水槽の内周をグルグルと回るマグロを目で追っていた。
「……まぁ、ずっと泳いで筋肉パンパンだから美味しいんだけどね」
「……ぱ、信じられない!デリカシーないんじゃないの?」
手はほどかれてアスカは腕組をしてしまう。
「ははは。共感しちゃってた?」
「……そんなんじゃないけど」
「駄目だよ。アスカはアスカだ。マグロじゃない。……たまには止まってもいいし、踊ってもいいし、飛んでもいいんだ」
「……」
そっぽを向きながらも片目を開けてチラリ――。
まったく可愛い甘え方だ。
「もちろん泳いでもいい。誰より早く優雅に。……でも今は、私とお魚鑑賞などいかがでしょうか?」
Shall We Dance?のつもりで片手を出してお辞儀する。
「……しょうがないわね」
今度は彼女が俺の手を取った。
「「「いただきまーす」」」
少し広めの場所でレジャーシートを広げて、シンジ君の手製弁当を頂くことになった。
メンバーはエヴァパイロット+トウジ+ケンスケ+加持さん+俺。
「ん?」
「「「んん!」」」
「以外、悪くないわね」
アスカ……舌肥えてない?普通においしいって言おうよ。
「ああ見事な焼き方と味付けだな」
「うん。おいしい」
「あの9割人造肉が調理次第でこうも変わるとはまさに驚愕だよ」
「シンジ、隠れた才能やな」
「ミサトさんいつもレトルトばかりだから…僕が作るしかないんだ」
そういいつつ味噌汁を配るシンジ君。
そういうところだぞ。
「シンジくん台所に立つ男はモテるぞぉ」
「だってさ」
ケンスケは振る相手をよく見ている。
流石シンエヴァでアスカの支えになった男だ。
「いや!ワシは立たんぞ男のすることやない」
両手でおにぎり食いながらトウジが答える。
「前時代的、バッカみたい」
ふんっと顎をしゃくりながらこっちをチラ見。
とりあえず頷いておく。
「なんやと?ポリシーは大事なもんなんやで!」
「ポリシーじゃなくて単なるわがままじゃない」
「なんやと~?」
「いいから食べてよ食べてよ…」
そういいつつ弁当を差し出すシンジくん。
14才でそれとか気配りの鬼がよぉ……。
「ごめん綾波…口に合わなかったかな?」
「いいえ。肉、食べないだけ」
こっちもこっちでポリシーだ。
「なんで悪くもないのに謝んのよ日本人は!」
「それにあんたねぇ生き物は生き物食べて生きてんのよ。せっかくの命は全部もれなく食べつくしなさいよ」
アスカが立ち上がってレイちゃんの事を見下す。
が、勘弁してやってほしい。
肉を食べないのは菜食主義とか宗教とか体質とか色々あるから……。
「エコヒイキ!ケンカ売る気!?」
反応のないレイちゃんをアスカが一方的に怒鳴りつける。
レイちゃん…図太いな。一言も話さないが目もそらさない。
この頑固な少女が人形なわけないと思う……。
表層に出てくるのが薄いだけで、明らかに自分のポリシーで動いてる気がする。
「ちょいちょいちょいと……」
トウジが真ん中に置かれたお重をかわしながら、対面側に座っていたレイちゃんのもとへ行く。
「そならワシが遠慮のう……」
弁当をゲット。レイちゃんは無抵抗。
最初から食べる気がないから手も付けないし執着もしない。
「なんややらへんぞ。なんや卑しいやっちゃな…くんな!アホー」
ペンペンと喧嘩するんじゃない……。
その様子を見て一言――。
「……バッカみたい」
すまんなトウジ。俺も同感や。
「じゃあみそ汁はどう?……温まるよ?」
場外に出たトウジ選手と入れ替わるようにして入ってきたシンジ選手によるほかほか味噌汁攻撃。
「おいしぃ」
効果抜群だ。
思わずレイちゃんの瞳も驚愕に開かれる。
「……どうだい?シンジ君」
さて、俺からも一手。
「…何がですか?」
「自分が必要だと思ってやったことで他人が喜ぶっていうのは?」
自己肯定感を上げるのに事実の積み重ねは有効だ。
「……っ」
「君が考えて選んで準備して実行して提出した。その結果をみんなが驚くほどに満足している」
「これは……ミサトさんが……」
おっと……『考えて』の部分に否定を入れたか。自発でないから素直に受け取れてないか。
「君がそうした方がいいと思ったんだろう?ありがとう。君の選択のおかげで美味しい思いができてる」
「それは……その……どう、いたしまして」
「うん。料理、初めて数か月なんだろう?」
「はい…そうです」
「それでこれだ。君は人を笑顔にする才能をきっといっぱい持ってるよ」
「そんな……こと……」
「いろいろやって伸ばしてみるといい。応援してるよ」
また握手。
アスカは……面白くない顔で残りの弁当を食べてた。
「ごめんごめん。唐揚げあげるから許してよ」
「はぁっ?……別に何とも思ってないわよ」
「そぉ?……じゃあ普通にあげる。美味しいものをいっぱい食べてくれ」
弁当箱は差し出したまま。
「……ふんっ貰ってあげる」
「で……どうだいシンジ君は?」
こそっと彼女に話しかける。
「どうって?」
「そりゃ男として?……家事は出来るし気配りもできるし顔もいいぞ」
正直このスペックでどうして自信がないのかわからない。
この14年間この子に何があったんだよ。碇ゲンドウはシンジ君の預け先ミスってるだろ。
「はぁ…バッカみたい。あたしはもっと……頼りがいのある人が……なんでもないわよ!」
「そう?……育てたら伸びると思うんだけどなぁ……」
俺がアスカを支え、そのアスカがシンジ君を支える。
それでもいいと思うんだけどなぁ。
「式波ちょっと彼を借りていいか?」
食後、どこを見て回ろうかと考えているとき加持さんから目くばせがあった。
「なんであたしに聞くのよ」
「そうか?……いいならいいんだが。行きましょうか平丘サン?」
「どうです?楽しんでますか?」
アラサー男二人で水槽を眺める。
「ええもちろん!まさか娘を水族館に連れてこられる日が来るとは思ってもみませんでした」
元の世界では当たり前だった海が……こんなに貴重になるなんて。
……セカンドインパクト前も同じか。
「それは良かった。招待したかいがあります。……ところで、娘さんとはどういった出会いを?」
「ははは。ナンパです。……今思えばおかしなことをしました」
「おかしなこと…ですか?」
「ええ。少し長くなるんですけど」
「構いませんよ。是非お聞かせ願いたい」
「あれは……緊急事態宣言明けでしたね。……仕事はうまくいってたんですけどその……心配になってしまって」
アスカのことがである。
「それで……お恥ずかしながら、学生をちょっと見てたんですよ。……未来ですから」
「未来、ですか」
「ええ。我々大人の仕事は……彼らに託すことじゃないですか」
「同感です」
アニメ版では情報を、新劇では世界と息子も。彼は託して死んでいった。
「だから子供が笑ってられるなら……大丈夫かなって、元気貰ってて…。ははは……まぁ不審者ですね」
「いやぁ…ご立派だと思いますよ」
「それで……あの日普段見かけない髪の色の少女を見つけて、しかもゲームをして下を見ながら下校してて……」
「なんか雰囲気が他の子と違くて……きっと既に未来を背負ってたからなんでしょうね」
「で、どうしても気になって声をかけたんです。話を聞きたくて……出来ることをしたくて……」
「ほぉ……それで」
「ええ。彼女のパパになることにしたんです」
対職務質問用カバーストーリー(事実)。
「それは……随分と大胆なご決断だ」
「子供に世界を委ねさせる程じゃありませんよ。……明らかな設計ミスじゃないですか!開発者をどついてやりたいですよ!」
エヴァを単なる兵器だと思ってる一般人――。と、思わせて神に一発かましたい俺である。
「は…?……いや、ははは。……おっしゃる通りだ。ではやはりダミーの利用が人道的だと思いますか?」
ダミーシステム。
シンジ君の代わりに3号機を惨殺したやつだ。
無人機っぽいやつらの中身もダミーだったかもしれない。
「ダミー……パイロットの代用できるならそれに越したことはないのではないですか?……それが正規採用されていない欠点があるなら別ですが」
会話の流れと単語の意味から出来なくはない推察だ。
「欠点……製造時期の遅さでは?」
「ご冗談を。ダミーという名前がそれを語っています」
子供の代わりに使える。ってことは子供を使うのが正規設計ってことだ。
「ふむ。ではジェットアローンの研究に予算を割くべきでしょうか?」
ジェットアローン、アニメに出てきたロボだ。
ATフィールドは時間の問題と言ってたが新劇は使徒の数が少なくてアニメ版より時間ないぞ。
「ジェット、アローン…………?独りでに飛んでく……自立迎撃装置か何かでしょうか……?それもパイロットの代理ですか?」
「ふむ?……アンチLシステムはどうでしょう?」
アンチLシステム、14年後に出てきた。
……この水族館でやってる海の浄化もこのアンチLシステムだろうか。
それともその前身となる研究か。
「…………。アンチローティーンシステムならまさに欲しいものでは?……覚悟がしっかりとした大人がエヴァに乗れるようになるならそうすべきだと思います」
「……とても参考になりました。……あまりあなたを拘束すると式波に悪いのでね」
「気を使わせてしまってすみません。……ここの研究がうまくいって、アスカとは無理でもいつかあの子が自分の子供と海水浴ができる。そんな未来を願っています」
「ははは。……全くです」
「で、どうだった?彼……」
「うん?彼なぁ……目的か手段かわからないが式波の事しか考えてなかった」
「ふーん、そう。で、どこの所属なの?」
「これが全くわからん。カマをかけたんだが全部同じ反応だ」
「全部知ってるか。もしくは全部知らないかってこと?」
「ああ。知り得ないはずの情報でも一度記憶をたどってから考えて話してる。単語から推測してるのか。……はたまた俺よりずっと上手で全て筒抜けなのかもな」
「あんたより?……考えられないわね」
「ふっ…。光栄だな」
「しっかし……動きは明らかに怪しいのに尻尾が全っ然でないわねぇ~」
「葛城のほうはどうだ?……金の流れを調べたんだろ?」
「資金流入なし。貯金も普通に使いこんでて、この間デートの質が下がることを謝ってきたみたいで……そんなことある!?」
「もしどこかしらの組織の人間ならもっと贅沢に使って抱きこもうとする、か。じゃあ現金報酬の線も薄いか」
「……アスカも向こうにいた時より丸くなってるし、杞憂なのかしらね」
「……いっそ葛城が直接見てみるか。ネルフで抱きこんでみたらどうだい?」
「ばっ…そんな危ない橋!いや……アスカの調子が良くなるなら……でも……」