「なぁに真剣な顔して」
「あたしがエヴァに乗ってるところ見せたい人がいるんだけど」
「もっしかして~……ア・ス・カがお熱の一般人?」
「……うん」
「悪いけどそれはできないわね」
「じゃあ……」
「あ、おかえり」
家に帰るとアスカがゲームをやってた。
「ただいま……今、何か作るよ」
財政が急激に傾いた俺が提示できるデートプランはどんどんとランクダウンしていき、この間ついにドライブ&おうちごはんというローコスト化を果たした。
それ以降はこんな感じだ。
「その前に一戦しない?」
PoYoPoYoⅡ*1。もしかしたらと買って少しだけやってたやつだ。
「いいよ」
隣に座りコントローラーを受け取る。
「くっ……」
シンプルに彼女は頭の回転が速い。
だからプレイ時間の差で、何とか食いついていけるが……それももう……っ!
「……勝った?」
「あぁ、アスカの勝ちだ。……やっぱり一瞬で抜かされたかー!」
「……なんで嬉しそうなのよ」
「娘の成長を実感できてパパ嬉しい。反射神経と動体視力、思考速度にプレー技術が追いついてきた感じが……もーっアスカは凄いな!」
優しく頭を撫でる。手汗はさっきシャツで拭いた。
「すぐそうやって……やめてよパパ……」
「可愛いなぁアスカは……」
パパ呼びに嬉しくなって頭を抱きしめる。
「……ん…」
抱き返してこないが彼女はされるままだ。
「パパ……汗臭い」
たっぷり10秒くらい。
我慢できなくなったか照れ隠し。
耳が赤いけど……息を止めてた可能性もあるか。
「ごめん……なんか作るよ」
ちなみにアスカは大変良いにおいでした。
「ハイお待たせ」
昨日彼女が帰ってから下準備をしてたやつがあるので、あとは合わせて火を通すだけだ。
「「いただきます」」
「うんっ美味しい」
「ありがとう……給料入ったらまたいい店連れてくから」
「……別にいいわよ」
「アスカ、優しいよな」
「……優しいのはパパでしょ?」
「俺はしたいことをしてるだけさ」
「どうして?」
最近よくされる質問だ。答えは決まってる。
「アスカが大好きだから」
「ふーん」
反応も大体一緒。
「お代わり要るかい?」
「うん」
「「ごちそうさまでした」」
「パパ…なんか手伝う?」
「じゃあ……俺洗い桶で洗うからすすぎお願いしていいか?」
……。
『優しいよな』に影響されてないか?大丈夫か?
これで面倒ごとに巻き込まれると嫌なんだが……。
「……それは良かったな」
風呂を上がってからはトークタイムだ。
電話でしてた話を対面でする。
「あとね……」
マリ・スタイルを参考にして距離近めでいったら定着してしまった。
「……うん?」
密着少なめのバックハグ。軽く腹に手をまわす程度。……程度とは?
どう見ても完全にアウトだが、首周りに回すと胸に肘が当たりかねない。
「……パパ、ネルフに来ない?」
少しだけ声に緊張があった。気がする。
「……この間みたいな社会見学?」
「……ずっと」
「え……?もしかして職員に?」
「そう。ミサトもいいって」
「……ははは俺に何の仕事ができるっていうんだ?ただのサラリーマンだぞ?」
「ぱ、パパが必要だって言ってたことっ……」
ふり絞るような声。抱きしめる腕に力がこもる。
「もしかして……」
「うん。あたしのカウンセラーに……なって欲しいの」
「アスカと一緒にいるだけでお金がもらえる生活かぁ。夢のようだな……」
「じゃ、じゃあ!」
アスカが人に心を開きかけている。非常に重要な局面だ。
「けど……せっかくだけどお断りしようかな。仕事としてアスカと一緒にいたくない」
悪いが俺にもポリシーがある。
あと、無資格があのエリートネルフ職員の中でカウンセラーやるのは厳しい。
「ぇ」
彼女の身体が大きく跳ねて、震えだす。
俺はそれを抑えるように両手で抱きしめて言葉を紡ぐ。
「俺は、金をもらう代償としてアスカと一緒にいるようなことはしたくない」
優しく。耳元で言い聞かせるように。
「そんな……義務とか命令じゃなく純粋に君を愛したいんだ。すまない」
「ん…っ……んぐっ……はぁ……」
「ほらおいで……」
両手を離して広げると胸の中に飛び込んでくる。
泣きじゃくる娘の背中をずっと撫で続けた。
「送るよ」
「ううん。今日はいい」
珍しく彼女は一人で帰ることにしたようだ。
「じゃ、また」
俺はその選択を尊重する。
「うん…また来る」
目を真っ赤にはらして、笑顔で彼女は出ていった。
うーん。やってしまった。
当初の計画とズレてくるぞ?
いや、でもなぁ……。アスカに嘘はつけないや。
「戻りましたー」
そんな日の翌日だろうと会社に行くしバリバリ働く。俺には軍資金が要るのだ。
「お疲れさま」
会社に戻るとまばらな同僚の返事が出迎えてくれる。
「平丘くんちょっといいかい?」
店長から急な呼び出しを食らう。
「君に転籍の指示が出ている」
あれ?俺断らなかったっけ?
「へ?…てんせきですか?」
転籍。会社の指示で行われる別の会社への転職の事だ。
「そうだ。かなり好条件と聞いたがどこでそんなコネ作ったんだ?」
「あ、あはは。実は酒の席での冗談のつもりだったのですが……」
無理やり笑顔を作ってごまかす。
「それは……まぁ…向こうに行っても頑張りたまえ、うん」
酔って大口を叩いて条件を釣り上げたとでも思ったのか、渋い顔で肩を叩いてきた。
「先方にえらく急かされているらしくてな……引継ぎ期間は3日だ」
「か、かしこまりましたっ!」
何とか返事をひねり出して渋々頷いた。
「と、いうわけでネルフにようこそ平丘キョウキチくん」
「ハイ、本日付でお世話になります。平丘キョウキチです。よろしくお願いします」
「んで、ちょっち悪いんだけど立て込んでるから案内はパスさせてもらうわ」
「かしこまりました」
ネルフに到着。軽く挨拶を済ませてすぐに使徒襲来。
作戦の計画会議時は待機で、今は車で移動中だ。
「……下にあるのがエヴァですか?」
「話が早いわね……そろそろ」
装甲車がやってきてそこからプラグスーツに身を包んだ3人が下りてきた。
「ちょっと!?どうしてココにパパが居るのよ!?」
「あら。アスカには必要でしょう?」
「必要だけど……っ!」
「アスカ、話は後で。葛城さんお願いします」
「えぇ~手で受け止めるゥ?」
「そうよ。飛来する使徒をエヴァのAT全開で直接受け止めるの。目標は位置情報をかく乱しているから保障観測による正確な弾道計算は期待できないわ」
葛城さんが三人と目を合わる。
「状況に応じて多角的に対処するため本作戦はエヴァ3機の同時展開とします」
「無駄よ!あたし一人で殲滅できるもん!」
「無理よ。エヴァ単機では広大な落下予測範囲全域をカバーできないわ」
「この配置の根拠は?」
レイちゃんがちっさく手をあげる。
「女のカンよ」
「なんたるアバウトっ!」
いちいち突っかかるアスカ。
けどアニメ版知識だとマギも赤木ナオコ博士の思考パターンが……とか何とかだから女のカンとも言える?いや計算か。
「あの…勝算は?」
「神のみぞ知るってところね」
「ふんっ。じゃあ……せいぜい二人はあたしの足を引っ張らないで頂戴ね!」
何か言いかけたが俺のことを見て言葉を変えた。多分。
「ありがとう……あなたたち三人の力が必要なのよ。奇跡を起こすにはね」
作戦室にアラームが鳴り響き、使徒の姿がモニターに映る。
黒い球体。
アニメの影のやつ*2の見た目と落ちてくるオレンジのやつ*3が合体したみたいだ。
「エヴァ全機スタート位置」
3機がクラウチングスタートの姿勢をとる。
「二次的データがあてにならない以上、以降は現場各自の判断を優先します」
アスカの顔は自信満々だ。シンジ君は目をつぶって。レイちゃんも覚悟が決まった顔してるな。
「エヴァとあなたたちに全てをかけるわ」
「目標接近、距離およそ2万」
「では作戦開始。発進」
道路や木々をなぎ倒しながら進んでいくエヴァたち。
……アスカが綺麗なフォームで電柱を飛び越えるのはわかるけど、レイちゃんって運動できるのか?
「目標のATフィールド変質!」
『警告』ってでかでかと出るの見ずらくない?
映像だとインパクトあってかっこいいけど、実際指示の邪魔でしかないと思うんだけど……。
「軌道が変わります」
「何よ計算より早いじゃないっダメっ!あたしじゃ間に合わない!」
アスカの合理判断は流石だ。自分の活躍より人類の守護を優先できるいい子なんだ。
「こっちで何とかするミサトさんっ!」
精神攻撃以外で追いつめられたときのシンジ君、頼りになるよね。
「緊急コース形成」
阿吽の呼吸。
シンジ君のダッシュにミサトさんの指示、オペレーターのコース形成。
ただし街は壊れる。……使徒が直撃すると街は無くなるから些細な問題か。
「目標変形。距離1万2千」
使徒がカラフルになり、開く。
「ATフィールド全開!」
ギリギリのところでシンジ君が真下に到着。使徒を受け止める。
こいつのやらしいところはこっからだ。
上半身がシンジ君に向かって伸びて、受け止めた両手を『両手を変形させた槍』で貫く。
甲高い絶叫――。
だが……その瞳には闘志が宿っていた。
腕をパンパンに膨らませながら使徒を一人で受け止める。
「ナナヒカリィー!」
ダッシュで来たアスカがシンジ君のもとへ。
「2号機コアをっ」
「分かってるわよ」
「あたしに命令しないで!」
両肩から取り出したナイフを両手に持って飛翔。
片方でATフィールドを切り裂き、もう片方で――。
「外したっ!?」
コアが高速で円運動を開始する。
「ちょこまかと往生際悪いわね。……あと30秒」
「ぅアスカっ…早く…」
使徒が圧を強める。シンジ君ピンチ。
勝てると分かっていても冷や冷やする。
正直この場の圧はヤバい。前線にいなくても……苦しい。
「わかってるってばァ!」
「エコヒイキ!?」
ぬっとやってきた零号機がコアを掴む。両手が赤く光っていて痛そうだ。
「早く」「アスカァ…」
二人は補助に徹した。ならば後は彼女が決めるだけだ。
「わかってるっちゅうのっ!」
両手のナイフを突き刺し――。
「もういっちょォ!」
刺さったナイフに膝蹴りを喰らわす。
それでようやく第8使徒が力尽きる。
「っぁ……ありがとうみんな」
ミサトさんが詰まった息を吐きだして小声でつぶやく。
99%失敗の作戦が成功して喜びよりも先に肩の荷を下ろす……か。
「電波システム回復。碇指令から通信が入っています」
「お繋ぎして。…申し訳ありません。私の独断でエヴァ3機を破損、パイロットにも負傷を負わせてしまいました。責任はすべて私にあります」
報告の時は姿勢を正す。……軍人さんなんだなって。
「構わん。目標殲滅に対しこの程度の被害はむしろ幸運といえる」
「ああ。良くやってくれた葛城一佐」
「ありがとうございます」
「初号機のパイロットに繋いでくれ」
珍しいシンジ君パパからのアプローチ。
「話は聞いた。良くやったなシンジ」
「え……?はい」
「では葛城一佐。後の処理は任せる」
「凄いっ!凄いですよ皆さん!!」
作戦の指示が一通り終えたのを確認して手を叩く。
「まずアスカ!完璧な3撃目だった。いい判断だと思う!」
2発入れてダメだった時のリカバーが早かった。
「そしてシンジ君、よく耐えた!レイちゃんも捨て身のサポート助かった」
腕の筋肉が千切れるほど物を支えたことないし、焼けた鉄球をつかむ覚悟もない。
「葛城さんの的確な指示に……オペレーターさんの観測に各種根回しに補助に……」
この重すぎる責任なんて担えないし、それを補助するのだって出来ない。
「ありがとうっ!皆さんのおかげで俺……生きてるっ!」
ちょっと泣いた。
うるせぇ一般人だと思われるかもしれないが、いい。
ネルフ職員は覚悟が決まりすぎだ。
世界を救うのを出来て当たり前と思ってないか?お前ら凄いんだよ!
あとその覚悟を中学生に求めるな。
俺なんて見てるだけでちょっとちびったもん。