ノアが、負けた。
その事実は、先生とユウカを戦慄させるに足る事実だった。
「さて、次はどちらが勝負する?よく相談して決め給え。もっとも、私はどちらでもいいがね」
ダービーは不敵な笑みを浮かべ言い放った。
「くっ……!」
"ユウカ、ちょっといい?"
先生はユウカを近くに寄せ、小さな声で話し始めた。
"……あいつはまたイカサマをしてる"
「……ええ。それは確実でしょうね。」
ユウカは先生の言葉に同調する。ノアは確かに初心者だが、その記憶力で何度もイカサマを見破ってきた。それが、あんなに簡単に負けるだろうか?
「でも一体どうやって……そうだ!先生!ノアは最後に先生を指差してましたよね?」
最後の瞬間。ノアはコインに魂を封じられる直前に、先生の胸ポケットを指差していた。
"この中に、何かしらヒントがある筈…!"
先生はポケットの中の物を出す。
「ボールペンに、薄手のハンカチ、それに……レシート…先生、またロボットのおもちゃを買いましたね?」
"まぁ、ちょっとくらいね…?"
「はぁ…まあ良いですけど。それで先生、なにか気づいたことはありますか?」
先生は考える。
あのノアのことだ。何も無いのにポケットを指し示す訳がない。
先生はそう確信していた。
「おっと!そうだ忘れていたよ」
その様子を見たダービーがタイミングを見計らってか、再び口を開く。
「……何よ」
「いやぁ、私は黒崎コユキと牛塩ノア、二人分の魂を持っているわけだろう?だから…君たちは、二人分の魂を賭けなければならない。」
「……まさか、これを狙っていたの?賭け事に不向きであろう私達二人が残るように、わざとコユキを狙ったり、私を挑発してノアを場に引きずり出したり…」
「…さあ?何のことかな?」
「っ!」
その言葉を聞き、ユウカは自らの銃に手を伸ばした。
「おっといいのかな?私を殺せば彼女らの命はもう無いも同然だが…」
"ユウカ、落ち着いて。"
ユウカは先生の言葉に悔しそうに銃を下ろした。
「……そうね、熱くなれば余計にこいつの思う壺よ。」
「フフフフ……」
ダービーは不敵な笑みを浮かべている。
「……それで、先生どうするの?……先生?」
"……!"
先生はハッとしたような顔をして、ユウカの方を見た。
「ど、どうしたの?」
"……分かった。"
「ほう…?」
"ありがとう、ユウカ。今の言葉でトリックが分かった"
「…分かったって…ちょっと先生!」
先生はそう言うと立ち上がり、勝負の席についた。
"ダービー。私と、『ポーカー』で勝負してもらう"
「…ふむ、牛塩ノアが負けた勝負で再び勝負を挑むとは…私のトリックを見抜いた。そう言いたいのかね?
…言っておくが、私にチャチなハッタリなどは通用しないぞ」
"問題ないよ。それで、魂を賭けなきゃいけないんだよね?"
「ああそうだ。別にここにいない人間でも、相手が君の為なら魂を賭けても良いと思っているなら…」
「……先生。」
ユウカが口を開く。
「私の魂を使って頂戴。」
"ユウカ…"
「…私はノアとコユキを助けたい。でも、あいつに勝てるとは思えない。だったら、先生に全てを賭けるわ」
"……分かった。ダービー!"
先生は立ち上がり、ダービーに向かって言い放つ。
"『私とユウカの魂を賭ける』!!"
「グッド!ではゲームを始めよう」
カードが配られる。
私のカードは10、9の2ペア。
そして相手側……シャーレの先生の手札はそれぞれ♡、♢の2,4の2ペアだ。
私がそうなるように配らせたからな。
"手札交換できる?”
「いいだろう。ディーラー!」
先生はカードを一枚交換する。恐らく余った♣の3だろう。
そして次のカード……♣の10。
それ以上の手が出てくることはない。
「さて、では賭けを始めようか……私からでいいね?」
先生は頷く。
私はコユキのチップ二枚を賭ける。
「では君の番だ。どうするかね?コールするか、それともレイズするか」
"私は……”
さてどうする?
トリックが分かったところで、対応は不可能だ。
私は近くのアイスコーヒーに手を伸ばし、一口飲んだ。
"私は、この場にあるすべての魂を賭けるよ”
「ほう……?」
先生の言葉に私が口を開く前に、ユウカが口を開く。
「なっ……!いきなり何を考えてるんです!?」
"大丈夫だよユウカ。私を信じて”
「言っておくが、はったりなどで勝てると思ったら大間違いだぞ」
私は釘を刺すが、先生の顔には一縷の迷いもない。
こいつ……本当に見抜いているのか?
「いいだろう。では勝負だ」
"待って!”
先生が口を開く。
まさか、あの言葉を言うつもりか?
"レイズさせてほしい。賭けるのは、シャーレの全権”
「なっ……!?」
ユウカが驚く。
シャーレ。こちらの世界にきて間もない私にも分かる。
この世界における重要組織で、この先生の力の全てだ。
それをハッタリに使うというのか?もしや私のイカサマを見抜いているのでは……いや、気づいていても関係ない。あの動きをしなければ……っ!?
"代わりに、今まで奪った魂の返却と、『
こいつ……私と同じ動きをしているっ!!
先ほど行った動き……カードを手に持ったままテーブルに表面を向けている。
まさか本当に?少し冷汗が出てきた。
だが……まだだ。
まだ本当に見抜いたと決まったわけではない。
こいつはスタンド能力も持っていない一般人なのだ!
「いいだろう。では──」
その瞬間、先生が不敵な笑みを浮かべた。
(ぐっ……!?なぜ笑える!?トリックが分かったとしてどうしようもないはずだ!
貴様に勝てる見込みはないのに!)
額から脂汗が噴き出してくる。
先生は以前笑みを浮かべ、体勢を崩さない。
(こいつ……似ているっ!あの承太郎に!
それも見た目や声なんてチャチな話じゃあない!
『
息が上がる。汗がさらに噴き出す。
分かっているはずもないという確信は、いつの間にか否定され、
『分かっていて、何らかの方法で利用している』という確信に変わっている。
(だが……だが!!)
ダービーの闘志が再点火される。
(こいつは承太郎でも、あのDIOでもない!!
こいつはただの人間で、俺は最強の博打打ちだ!!)
ダービーが席から立ち上がる。
「いいだろう!!『コール』だ!!」
ダービーはその言葉と共に、持っている手札をテーブルに叩きつけた。
「どうだ!10と9の2ペア!」
その言葉に先生は。
"約束は守ってもらうよ”
先生が出した手札は。
「……………………なっ……」
ダービー、絶句。
ユウカがテーブルの手札を覗き込んだ。
「Qと10のフルハウス……これって!」
"うん……私の勝ちだね”
瞬間、ダービーのアルバムと魂のコインが光りだし、空中に舞い上がる。
空に舞い上がったその光の球は、空中で弾け、空中に広がった。
「……ううん……」
倒れこんでいたノアは、ゆっくりと目を覚ました。
「!ノアッ!!」
ユウカは目覚めたノアと熱い抱擁を交わす。
「この感じ……やったんですね、先生」
先生は静かに頷く。
「何故だっ!?」
ダービーが叫んだ。
彼にとって、三度目の。それも前回の失敗に起因するものとなれば、プライドは大きく傷つけられる。
「どうやって見抜いた!いや、どうやって利用した!?」
「私も聞きたいわね……結局どういうトリックだったの?」
「それは私が教えますよ。まず、ユウカちゃん。そのテーブルを撃ってみてください。」
ユウカは少し戸惑った後、後で弁償する覚悟でテーブルを撃った。
「これは……鉄板と機械?」
「ええ。
IHコンロは、電磁誘導の原理を利用して鍋自体を直接発熱させる。
「ユウカちゃんは、『感熱紙』って知ってますか?」
「あのレシートやなんかの熱で色が変わるあれでしょ?……まさか!?」
「ええ。ダービーさんはトランプに感熱紙を仕込んで、テーブルのIHコンロで絵柄を変えたんです。
あの持ち方をしていたのは、トランプを丁度良く温めるため。
アイスコーヒーは、腕を冷やして保護するため、といったところでしょうか」
"そこで、IHコンロを付けてもらったんだ”
先生はスマートフォンを前に向けた。
そこには、チヒロの姿。
「チヒロ!?」
『連絡がきたときは驚いたけどね……監視カメラでテーブルの形式は分かってたから、あとは調べて、リモコンで起動するタイプだと判明したから、先生のスマートフォンで起動したの』
"ダービーはスマートフォンみたいな電子機器を何も持っていないようだったから、詳しくないんじゃないかと思ったんだ。”
事実、ダービーがキヴォトスに来る前にいた1989年には、スマートフォンなどは無かった。
だが、それよりダービーには一つ分からないことがあった。
「そうだ……だが、腕はどうした?」
「腕?」
「私は腕をアイスコーヒーで冷やすことで防御した。だが……貴様には何もない。
いったいどんなイカサマを使ったというのだ!?」
ダービーが詰め寄る。
先生は少し深く息をした後、ポケットに入れていた手を抜いた。
「……先生その傷!」
そこには、痛々しい
まるで、手の甲を鉄板で焼かれたような。
"あんまりユウカたちには見せたくなかったんだけどね”
「まさか気合で耐えたというのか!?」
"生徒たちを守れるなら安いものだよ”
その瞬間ダービーは確信した。
この男が承太郎と似ていると思った理由。
それは、武力でも知力でもない。
この胆力だったのだ。
「……最後に一つ聞かせてくれ。もし、柄が変わっても勝てなかったらどうするつもりだったのだ?」
"その時は、私を犠牲にしてでも、あなたを止めるつもりだったよ”
先生は懐の大人のカードに手を添えて言った。
「ふっ……これは私の負けだな。」
ダービーは少し微笑みながら言葉を重ねる。
「だが、これで終わりだと思うなよ。
いつかまた戦い、今度こそ『魂』を奪う権利と貴様の魂をコレクションに加えてやろう」
"その時は、お手柔らかに頼むよ”
「そうだ」
店から立ち去る先生に、ダービーが声を掛ける。
「一応これでもこの店のオーナーなのでな。この言葉をかけさせてもらおう。
またのご来店をお持ちしているよ、先生」
こうして、連続意識不明事件……後の『オシリス事件』は幕を下ろした。
意識を失った人も、全員が意識を戻した。
あんなことは言ったが、できれば二度と戦いたくない。そんな人だった。
もし少しでも違ったら負けていただろうし。
だから、この事件で感じた私の感情を一言でまとめるなら。
"やれやれだね"
ちなみに目覚めたコユキはユウカたちにこってり絞られたらしい。
当分賭博を禁止されたのだとか。
囧「うあぁああああーなんでー!!」