距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第十話

 さて、そんなこんなで。

 

 俺とメア……不本意ではあるが正確に言えば、メアが俺の命令を無視してドラゴンを殴り殺して討伐してしまったその翌日のことである。

 

「それではメア様の冒険者登録、並びにドラゴン討伐の功績による二等級冒険者への昇格です! おめでとうございます! 本当なら一等級でもおかしくはないのですが、いきなりだとここが限界でして……」

 

「構いません。私は美少女&ちょーつよつよの完璧メイドを自負していますが、それがルールであるのなら黙って従う、聞き分けの良い従者でもありますので」

 

 ゼーナさんに冒険者の証となる冒険者証……金属製のカードを受け取ったメアは、そう言って一礼してみせた。

 

「い、いえいえ! ですがメア様なら、すぐにでも一等級への昇格も可能だと思います! 頑張ってください!」

 

「ありがとうございます。ただ、私はマスターに仕えマスターを守るのが喜びなのです。必要があれば、そうさせていただきますね」

 

 ニコリとゼーナさんに向かって微笑みかけるメア。

 そんな彼女の笑顔を真正面から受けたからか、ゼーナさんは「は、はい……」と少し顔を赤らめて俯いてしまった。

 

 顔がいいからだろう。男の俺から見てもそう思うのはたしかだが、ゼーナさんたち女性陣にも受けが良いらしい。

 チラと周囲に目を向けてみれば、メアを見ている女性冒険者たちがわーきゃーとはしゃいでいるのがわかる。

 

 そしてそれに気づいたメアがすまし顔で彼女らに一礼し、一礼された奴らは更に嬉しそうに盛り上がっていた。

 まるでファンサである。

 

 もしかしたら俺は、メアとは別の偽物個体と一緒にギルドに来てしまったのかもしれない。

 

「なぜ死んだ魚のような目で人間観察をしているんですか、マスター。替えの水は必要ですか?」

 

「本物だったわ」

 

 ギルドの端っこ。テーブル席に突っ伏していた俺の下へやってきたメアは、そう言って俺の視界に入る位置に立つ。

 対面の席は空いているはずなのだが、メア曰く「残念ですが、私はマスターの従者ですので一緒に座ることはできません」とのこと。

 

 普段の言動はあれなくせに、そういうところはメイドっぽく振舞おうとしやがる。

 おかげさまで、「なにメア様を立たせてんだおん?」と言う視線を周囲の冒険者たちから向けられてしまっているわけだ。

 

 ハハッ……笑えねぇ……

 

「マスター、すみません。私が美少女&人気者であるばっかりに……」

 

「謝ってんのか自慢しているのかどっちかにしろよ」

 

「私すごくないですか? いきなり二等級なんて、マスターより四つも上になってしまいました。敬ってください」

 

「従者自称するなら謝れ?」

 

 全国のメイドさんに謝れと悪態を吐く。

 昨日のドラゴン退治についてだが、勝手に森へ行き、ドラゴンを相手に戦ったことについてはギルドから注意を受けた。

 

 俺が。

 

 だがしかし、直近のギルドで問題視されていたドラゴンを倒したことで色んなことが解決したらしい。

 例を挙げるなら、王都への援軍要請や《黒の森》の魔物の分布変更、そしてアギトラの街の危険度などなど。

 

 もし討伐もできずただドラゴンを刺激しただけで終わっていたならば、俺の首が飛んでもおかしくはなかっただろう。

 

 だが討伐できたとなれば、話は別だ。

 どうやら離れた場所からではあったものの、ドラゴンの監視をしていた者がいたらしい。

 結果ドラゴン討伐が真実であると認められ、冒険者登録とともに特例として二等級へ昇格されることとなった。

 

 メアが。

 

 また、この事実を知った冒険者やアギトラの住民は、メアを街を救った英雄として称え、《ドラゴンスレイヤー》の二つ名とともに彼女の名が広まることとなった。

 

 ……おかしくない? 俺、怒られただけなんですけど?

 

「納得いかねぇ……! なぜお前だけ称えられてんだよ!? 俺も一緒に居たよな!?」

 

「思うに、周囲からのマスターの評価は『たまたま一緒に居た金魚の糞』みたいな感じかと」

 

「《当たらない弓使い》より酷くなってませんかねぇ!?」

 

 クソッたれ、と悪態を吐く。

 予定通りであれば、きっと今のメアの立ち位置にいたのは俺だったはずなのだ。

 

 今彼女に向けられている冒険者たちからの憧れるような視線も、街の住民たちの歓声も、すべて俺が独占していたはずだというのに……!

 

「だいたい、俺はちゃんと言ったはずだよな? 足止めに徹しろって。なんで無視してドラゴンに突っ込んだんだよ」

 

「バッジが足りていないからですね」

 

「どこのポケットなモンスターだよお前は……」

 

 なんなの、ジムクリア前にマスターなボールで捕まえてしまった伝説か何かのつもりですか?

 

 端っこに残っていた淡い記憶を思い返して頭を抱え、大きくため息を吐いて再び突っ伏す。

 また体調不良ですか? などとメアが俺を心配するような素振りで話しかけてくるが、元凶がお前なのでほっといてほしい。

 

 ……おいコラ待て。ウッキウキでまた鉄鉱石の準備をしようとするんじゃない。今度こそ俺の胃が死ぬぞ。

 

「とにかく次だ! 次こそはしっかりと足止めだけにとどめてくれよ? 今度こそ、俺の実力を知らしめるんだからな」

 

「それは構いませんが……おそらく無駄ではないかと」

 

 やる気に立ち上がった俺だったが、そんな俺のやる気へメアが静かに水を差してくる。

「どういうことだ?」と若干睨みつつ尋ねて見ると、彼女は「簡単なことです」といつものすまし顔で答えた。

 

「昨日から何か聞かれるたび、私はマスターの従者であることお伝えして回っています。ですので、マスターが成果をあげたとしてもそれは美少女&《ドラゴンスレイヤー》である私がいるおかげだ、といちゃもんをつけられてしまうことは間違いないでしょう」

 

「つまりは?」

 

「机のガム跡ですね、マスター」

 

「もはやくっついてすらいない!?」

 

 つまるところ、これから二人でメアと依頼に行って俺が魔物を倒したとしても、メアというドラゴンすら討伐する超戦力がいる以上は俺の功績だと純粋に見てもらえないと。

 

 〇ァッキュー。ソロの時よりも状況が悪化してやがるぜ!

 

「ぐぬぬ……どうにか、ここから挽回する方法は……」

 

「おっ、今話題のメアさんと、そんなメアさんの腰巾着と噂の我らが同期フィンじゃねぇか。昨日ぶりだな」

 

 何かいい手はないかと思考を巡らせていると、ギルドに来て早々に俺たちを発見したのか、ロモンの奴が話しかけてきた。

 どうやら一人でギルドまで来ているらしく、彼のパーティ《暁の浪漫》は休日なんだそうだ。

 

「これはこれは……ロモン様、昨日ぶりですね。この度、新たに冒険者として登録させていただきました。今後は教えていただくこともあるかと思いますので、よろしくお願いします」

 

「聞いてるぜ、いきなり二等級だって。俺が教えられることあっかねぇ……ドラゴンまで討伐しちまうメアさんだ、むしろ俺の方が教わりたいくらいだぜ」

 

 それと、とロモンは続ける。

 

「あんたのおかげで、街や森にも平穏が戻る。アギトラの冒険者として、改めて礼を言わせてくれ。王都の騎士団を待つとは言っても、それまでの間に街に被害が出る可能性もあったんだ。メアさんがいてくれてよかったぜ」

 

 そう言って深く頭を下げるロモンに、メアは「恐縮です」と返した。

 

 そして、そんなロモンを隣で見ていた俺の頭に突如として天啓が下りる。

 

「ならロモン、ちょいと俺たちを手伝ってくれよ」

 

「あん? なんでそこでお前が出てくるんだよ。俺はメアさんに言ってるんだつーの」

 

「馬鹿だなぁ。メアへの礼、それは総じてメアのマスターたる俺への礼でもあるんだぜ?」

 

 だよな、とメアに視線を向ける。

 正直な話、こいつの事だから「私への礼は私のもの、マスターの礼も私のもの」とか言い出しかねないと思ったが、意外なことに彼女は「その通りです」と頷いてくれた。

 

 これにはロモンの奴も「えぇ……」と渋い顔を浮かべている。

 

「わかったよ。それで、何を頼みたいんだ?」

 

「なに、簡単なことだ。これから俺とメアで討伐依頼に向かうんだが……お前もついて来てくれ」

 

「……はあ?」

 

 なんで俺が、と嫌そうな顔を浮かべているロモンだが、最終的には了承してくれた。

 一度拠点に装備を取りに行ってくる、とギルドを後にする彼の背中を見送ると、「マスター」とメアが話しかけてくる。

 

「どのような意図で、ロモン様をお誘いに?」

 

「ふっふっふ……完璧な作戦を思いついだんだ。メアのおかげだと思われるのなら、実際に俺が倒したと証言する第三者を用意すればいい話だろ?」

 

 ニヤリと笑って俺も準備を整える。

 

 今度こそ、だ。

 今度こそ、俺の実力が本物であるとロモンの野郎に見せつけてやる。

 

 いつまでも底辺だと思われてたまるか!

 

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