距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第十二話

 そろそろ目的地である沼地に到着するため、メアに合図を送って静かに移動を始めた。

 

 この国の東部に広がる《黒の森》は、森とは言いながらも様々な環境を内包している少々変わった場所でもある。

 これから俺たちが向かう沼地に加え、渓谷に草木の生えない岩山や広大な湖。更に北部の山には雪が積もっていたりと、植生も場所によって大きく異なる変な森だ。

 

 だからこその生態系というべきか。ブラックエイプなど、この森独自に変異した魔物も多く、そのどれもが通常種よりも強力とされている。

 

「マスター。標的がいました」

 

「ああ、見えてる」

 

 草木に身を隠しながら前方を覗き見れば、目の前には木々のない拓けた沼地が広がっていた。

 そしてその沼地の中で蠢くのは二メートルはあるであろう真っ黒いトカゲのような魔物、ブラックロックリザード。

 

 ロックリザードという体表が岩のように固い魔物が、この《黒の森》で独自に変異した強化種とされている。通常種のロックリザードと比べてもその体は固く、並大抵の攻撃では歯が立たないことで有名だ。

 

 俺の予備武器であるナイフでは、おそらく傷すらつけらず、すぐに刃こぼれして折れるのが関の山だろう。

 

 そして、そんなブラックロックリザードの群れの中央へと目を向ければ、周囲の個体よりも一回り大きなブラックロックリザードが沼に浸かって寛いでいるのが見えた。

 

「ボス個体ですね。先にあれから始末しますか? 拳で」

 

「頼むからやめろよ? カッコつけたのに、全部台無しになるだろうが」

 

 いつの間に展開していたのか、すでに強大化させた拳を構えて戦闘態勢に入ろうとしているメアに待ったをかける。

 後ろで俺たちの様子を見ていたロモンも、これには目を見開いて驚いているのが見えた。

 

 顔を見ればわかるが、「なにあれすっげぇー」とでも思っているのだろう。やけに目を輝かせている。

 

「狙撃位置につき次第、先制の一射を討つ。メアはボス個体の足止めを頼んだ」

 

「足止めだけでよろしいのですか? 必要なら私が倒してしまいますが」

 

「必要ない。必ず、俺が射抜く」

 

 だから頼めるか、とメアに視線を向けた。

 求めるのは足止め。それも、ただただその場に留まらせるだけの足止めだ。できるだけ弱らせたりはせず、相手が万全の状態を維持してもらいたい。

 

 そんな無茶苦茶な頼みだったが、彼女は小さく笑って頷いてみせた。

 

「任せてくださいマスター。あなたからの命令、完璧にこなしてみせましょう」

 

「……いつもそれくらい、従者っぽく振舞ってくれたっていいんだが?」

 

「ふふ……おかしなことを言いますね、マスター。私はいつでも美少女&サーヴァントなメイドです。従者っぽくない時などありません」

 

「鉄鉱石の飯を治してから言え」

 

 軽口を叩き、メアを残して中腰のまま移動する。

 その際、後ろに控えていたロモンの傍を通るのだが、すれ違いざまにこちらを見たロモンと目が合った。

 

 言葉はない。ただ、彼の目が何かを期待してくれているのは理解できた。

 

 沼地から離れたところで駆け足に切り替え、すぐさま沼地を見下ろせるであろう高台へと移動する。

 沼地までの移動の際に見つけておいた狙撃ポイントだ。木々や岩肌のくぼみを利用して登ってみれば、思っていた通り沼地の様子がよく見えた。

 

 一キロ以上の距離は確保できている。

 

 ゴブリンとは違い、沼地という開けた場所に生息するメートル越えの巨大な魔物。三等級であることもそうだが、俺がもっとも力を発揮できる依頼だろう。

 メアと一緒にパーティを組んで、ようやく受注することができた。

 

 沼地を見下ろせば、ブラックロックリザードが十体にボス個体が一体。

 

《身体強化》を使用したロモンであれば、一人でも簡単に狩れてしまう相手だろう。おそらくはカエラも、ロモンほどではないにしても十分討伐可能な魔物だ。

 

 この程度、簡単に倒せなければ追いつけない。

 

 追い越せない。

 

 ふぅ、と自身を落ち着かせるように息を吐きだし、背負っていた弓を構える。

 

 矢は使用しない。俺が持っている安物の矢……とは言っても、俺の懐事情からしてみれば大ダメージな金額だが……それではいくら強い一射でもブラックロックリザードの体は射抜けない。

 

「『収束』」

 

 唱えて、弦を引く。

 

 その一言を合図に、弓の中央に備え付けられていた青い宝玉が淡く光を纏い、次の瞬間には青く輝く魔力の矢が番われていた。

 

 狙いを定める。

 

 普段の自分の死かいとは異なる、まるで何もかもを見通しているような全能感。今の俺には射抜けないものはないという、絶対的な確信。

 間違いない。俺のスキルである《狙撃》が呼応している。

 

 普通の《狙撃》スキルであったなら、こんなに苦労することもなかっただろうに。

 

「……『射抜け』」

 

 弦から指を離す。

 たったそれだけの動作で放たれた魔力の弓は、一条の光となって空を駆け抜けた。

 

 光に気付いたのだろう。沼地で休んでいた数体のブラックロックリザードが空に視線を向け、何かを知らせるように「グエ~ッ」と鳴いた。

 

 だが、もう遅い。

 すでに矢は放たれている。

 

「『散開』!!」

 

 寸前まで迫っていた一条の光が、その言葉で十の光に別たれた。

 狙いはボス個体……ではなく、その周囲にいた十体のブラックロックリザードたちの頭である。

 

 十の光は寸分の狂いもなくブラックロックリザードの頭を簡単に射抜き、断末魔の鳴き声さえあげさせることはなく沈黙させた。

 

 一体を射抜いて他に逃げられたらたまったものではない。いくらメアでも、四方八方に逃げた相手をすべて足止めすることは難しいはずだ。

 ……けろっとした顔で「できますが?」とか言いそうだなあいつ。

 

 ともかく、先に狙うのならボス個体ではなく群れの奴らからだ。それも一匹ずつではなく、皆まとめて一度に射抜く。

 魔力の矢だからこそできる芸当だ。メアもそうだが、この矢を手に入れたことも俺の冒険者生においての大きな分岐点といえるだろう。

 

 それが俺のスキルと組み合わされば、三等級の魔物すらこれほど簡単に討伐できる。

 

「……っと、まだ終わりじゃないな。引き締めないとだ」

 

 沼地から轟く怒りの咆哮に目を向ければ、中央で寛いでいたボス個体が二本足で立ち上がり、周囲をきょろきょろと見回していた。

 そしてその目が、矢が放たれただろう俺がいる高台へと向けられる。

 

 怒りを宿した魔物の目が、高台の俺を捉えた。

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 仇を見つけた! と言わんばかりの咆哮とともに、四足になったボス個体がこちらへ向かおうと沼から這い出して来る。

 そう、これだ。一度でも狙撃場所がバレてしまった場合、一キロ未満まで距離を詰められたら俺のスキルは途端に発動しなくなる。

 

 あの巨体だ。数秒でも全力疾走で詰められたら、一キロの射程なんてほとんどなくなってしまうだろう。

 

「だからこその壁役だよなぁ!」

 

 前へ進もうとしていたボス個体の体が、まるで何かに掴まれたようにグンッ、とつんのめる。

 ここからでは遠すぎて見えないが、不自然にピンと張っている尻尾を見るに、メアが後ろから引っ張ったのだろう。

 

 でかした、と内心でメアを褒めながら次の魔力の矢を番えた。

 

 今度はより強く、あの巨体を射抜くつもりで。

 

「『ぶち抜け』!!」

 

 放たれた矢は先ほどとは比にならない速度で空を駆け、一瞬でボス個体までの距離を食い尽くす。

 

 尻尾を引っ張るメアが鬱陶しかったのだろう。ボス個体はちょうど反転し、今まさにメアを襲おうとしていたところだった。

 

 その横顔に青い光が突き刺さり……そしてそのまま、文字通りボス個体の顔面をぶち抜いてしまった。

 ザクロのように血しぶきが沼地に舞い、後に残ったのは顔のなくなったボス個体の姿。

 

 その巨体が、ゆっくりとした動作で倒れ伏す。

 

「……ふぅっ」

 

 ようやくそこで、俺は息を吐くことができた。

 できるという確信はあった。だがしかし、改めて自身のやったことをその目で見て、つい「ハハッ」と笑みが零れてしまう。

 

 そのままバタリと、空を仰ぎ見るように大の字で倒れ込んだ。

 

「冒険者、やめなくてよかった……!」

 

 高台の上、俺は内から湧き出してくる興奮を抑えながら拳を握りしめる。

 

 ようやくだ。ようやく、証明できた。

 

「俺は、追いついたぞ……!」

 

 あの日から足踏みすることしかできなかった。

 ただただ彼らが前を進み、一生その背中が見えることはないのだろうと思っていた。

 

 悔しかった。置いて行かれたことが、置いていかれるしかできなかった自分が。

 あいつらが悪いわけではない。だからこそ、俺のことを負い目に感じてほしくなかった。

 

 今でこそ大丈夫に放ったが、三人のパーティを解散した後はそれはもう酷かった。

 なにせ、会うたびに申し訳なさそうな顔をするのだ。あいつらが悪いわけではないのに。

 

 でももう、それも終わらせる。

 

「カハハッ、見てろよ。ロモン、カエラ。お前らが逃がした魚がでかいこと、これから存分に思い知らせてやるよ」

 

 そして真っ先に一等級になって、酒の席で言ってやるのだ。

 

「雑魚乙」と。

 

 悔しそうにする二人の顔が目に浮かび、カハハと思わず笑いが零れ出た。

 

 まあそんなことよりも、今はロモンの反応だな。

 目の前でブラックロックリザードの討伐を目にしたのだ。どんな顔で待っているのか楽しみで仕方ない。

 

「よお! 見てたかロモン!! 見てたよな!? 見てなかったとは言わせねぇぞこの野郎!!」

 

 ようやっと沼地まで戻ってきた俺は、ずっとその場で様子を見ていたであろうロモンを見つけて大きく手を振った。

 ロモンはそんな俺を見て肩を竦めると、次にはニッと笑って拳を突き出してくる。

 

 ゴンッ、と俺の拳を思い切りぶつけてやった。

 

「っぁ~~~~!? イッテェエエエエ!? お前《身体強化》使いやがったな!?」

 

「どっかの誰かが、わっるい顔してたからな」

 

 肩を揺らして大笑いしているロモンはそう言ってひとしきり笑うと、「はぁー」と息を吐き出して落ち着きを取り戻した。

 そして痛みで地面に転がっていた俺に目を向ける。

 

「見てたぜ、フィン」

 

「……カ、ハハ。言っただろ、すぐ追い抜いてやる。震えて待ってろ」

 

 だから、俺はもう大丈夫だ。

 

 差し伸ばされた手を掴んで立ち上がる。

 まだまだここから、これからもっと活躍しなければならない。

 

 俺の冒険者としての英雄譚、ここに開幕ってなぁ……!

 

「……BL展開はありますか?」

 

「お前本当に自重しろ?」

 

 割り込んできたメアに、締まらねぇなぁー! と頭を抱える。

 あー、ロモン。お前は理解しなくていいから。変なことをメアに聞こうとするんじゃありません。

 

 冒険者はギルドに戻って報告するまでが依頼だからね!

 

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