距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第十三話

 視線の先でブラックロックリザードのボス個体が地に伏す様を見届けた俺は、ふと昔のことを思い出していた。

 

 自身にスキルが発現したことを理解した俺は、畑仕事だけして人生を終えることを嫌ってアギトラへとやってきた。

 

 三男だった俺は両親の畑を注げないため、己の畑を自分で開墾し耕すしかない。

 それなら発現したスキルを使って、一獲千金の冒険者になった方が面白いだろうと思い立っての行動だった。

 

 そしてたまたま、本当に偶然鉢合わせたように俺は二人と出会ったのである。

 

 俺と同じように、冒険者になるために村を飛び出してきた奴ら。男勝りで荒っぽい口調の少女はカエラと名乗り、少しカッコつけなお調子者はフィンと名乗った。

 

 まさかの同日同時登録、さらには三人同い年。ゼーナちゃんとは別の、当時の受付嬢曰く「別々の村の人たちでこんなことは珍しい」とのことだった。

 これは何かの運命に違いない! と二人にパーティを組もうと提案したのは仕方のないことだろう。

 

 フィンは即答で受けてくれたが、カエラの奴はめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたのを覚えている。

「アタシは女の子と組みてぇんだよ!」と言っていたが、頼み込めば最終的には折れてくれた。

 

 たしか、バカとヘタレ相手にバカらしくなった、とか言ってたなあいつ。

 

 チラと高台へと目を向けると、フィンの奴が嬉しそうに笑みを浮かべてその場に倒れ込むのが見えた。

 俺の《身体強化》は身体能力の他にも視力聴力も向上するため、はっきりとその様子が見て取れる。

 

「……あの日から三年、か」

 

 三人でパーティを組んだ俺たちは、その後順調に依頼をこなしていき、半年も経つ頃には魔物の討伐依頼を受けられる六等級へ昇格することができた。

 あの日の夜、三人で祝ったことを覚えている。

 

 このまま三人で、どこまでもいける。果てには、全員並んで一等級だと騒いでさえいたし、本当にそうなれると信じて疑わなかった。

 まだ討伐依頼すら受けたことのない、未熟で口だけの六等級。だがそれでも、この二人と一緒なら大丈夫だとも思っていたのだ。

 

 ……フィンの奴がパーティを自ら抜けたのは、数度ほど討伐依頼を受けた後の事だった。

 

 あいつが持っていると教えてくれた《狙撃》のスキル。

 カエラの奴は記録にはないレアなスキルだったが、フィンのスキルは俺の《身体強化》と同じで、スキル持ちの中ではわりと一般的なものに分類される。

 

 盾を持ち前線を支えるカエラと、そんな彼女とともに戦士として戦う俺。そしてその後ろから矢で援護するフィン。あとは回復もこなせる魔法使いがいれば完璧だと三人で話したことがあった。

 

 だがしかし、現実はそううまくはいかなかった。

 

 フィンの矢はまったく魔物に当たることはなく、結局俺とカエラの二人で討伐することになった。

 

 あの時のフィンの顔を、俺はまだ覚えている。

 弓を手に持ち、「なんで……!」と何度も何度も口にしながら困惑する姿を。

 

 本人がスキルを持っているかどうかを判断する術はない。自身で自覚はできても、それを第三者が判断するなら、実際にスキルを使用できるのかを確かめる他ないだろう。

 

 フィンの奴はしょーもないことで嘘を吐いたりすっとぼけたりすることはあっても、仕事や命に関わるところでは真面目な奴だった。

 だからこそ、俺もカエラもフィンが《狙撃》のスキルを持っていると思っていたり、実戦で発動できなかったとしても、それは何かしらの理由があるからだと考えていた。

 

 実際、戦うことの恐怖によってスキル持ちがスキルを使用できなくなった事例が過去にも存在する。

 ギルドの資料で調べた時、フィンもこれに該当するのだろうとカエラとも話し合っていた。

 

 まだ六等級になって討伐依頼を受け始めたばかりだ。そういうことだってあるだろうし、今後戦いに慣れていけば問題ない。

 弓が使えないのなら、他の武器を使えばいい。フィンがスキルを使えるようになるまで待つつもりだった。

 

 フィンの奴が、「このまま俺がいても、迷惑をかけちまう……!」と悔しそうに顔を俯かせてパーティの脱退を申し出てきたのは、それからすぐのこと。

 

「才能がある二人を、これ以上俺のせいで足踏みさせるわけにはいかない」などと言うあいつを、俺もカエラも思いとどまるように引き留めた。

 

 だがしかし、お調子者で適当で、そのくせして人のためには真剣になれるあいつの意思は、俺とカエラが考えていた以上に固かったのだ。

 

 結果的にフィンは俺たちのパーティから抜け、そのままの流れで俺とカエラもパーティを解散することになった。今では俺もカエラも別々の奴らとパーティを組んでいる。

 

 別にカエラとの仲が悪かったわけではない。

 ただ、フィンが抜けたパーティにはどこか物足りなさを感じるようになったのだ。それはカエラも同じだったらしく、二人で話し合った結果の解散である。

 

「よお! 見てたかロモン!! 見てたよな!? 見てなかったとは言わせねぇぞこの野郎!!」

 

 高台から戻ってきたのか、フィンがスキップをしながら戻ってくる。

 

 解散後、俺もカエラも等級が上がり、ギルドでも期待される新人と呼ばれるようになった。だが、フィンの奴は六等級から上がることはなかく、ギルドで見かけた時はどんな顔をして話しかければいいのかがわからなかった。

 

 そんな俺たちの心情でも察したのだろう。

 フィンは特に気にするなと言って、あの時と同じように俺たち二人に接してくれた。

 

「憐れむくらいなら《自称狙撃》のスキルとでも言って笑えやコラ」と脅しすらかけられたこともある。どんな脅し文句だ。

 

 思い切り俺の拳に向けて拳を繰り出してきたフィンを《身体強化》で返り討ちにし、痛みで地面を転げ回っている同期に目を向ける。

 

 俺たち以上に悩んで悔やんで、そして足掻いてきたであろう親友は、今日ここにその実力を示して見せた。

 

 ブラックロックリザードの討伐。メアさんによるボス個体の足止めはあったものの……手助けはそれだけだ。

 三等級に当たる魔物の群れを、たった一人で殲滅したに等しい。

 

 あれが《狙撃》だと? 馬鹿言え、もはやあれは別の何かだ。あんな距離でしか発動できないのなら、これまで気づかなくても仕方ないことなのだろう。

 

 それでも、言いたくもなる。

 

 もっと早くできるようになれよ、バカ野郎。

 

「見てたぜ、フィン」

 

 だがしかし、それはもう叶わない。

 俺たちの夢は、あの日、こいつを置いて行った時点で終わってしまったのだ。今更言う資格なんてどこにもない。

 

 ならばせめて、こいつの今後を応援してやるしかないだろう。

 

「……カ、ハハ。言っただろ、すぐ追い抜いてやる。震えて待ってろ」

 

 どこか挑戦的な物言いに、言うじゃねぇかとつい拳を握りしめる。

 

 なら俺は、追い抜かれないように先へ進まないとだ。

 

 そう心に近った俺は、その場を後にしようと踵を返す。

 

 ……ところでメアさん。その、ビーエル? ってなんなんすか?

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