距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第二話

 ドランザ王国の東部辺境の街、《アギトラ》

 

 そのギルドに所属する六等級の冒険者が俺、フィンであった。

 ちなみに、六等級とは冒険者におけるランクのことを指し、俺はその中でも下から二番目のランクである。

 

 なお、一番下の七等級から六等級への昇格は、どんな依頼でも真面目にこなしてさえいれば一年ほどで可能。かくいう俺も、薬草の採取やら街のお手伝いやらで昇格したのが実情だ。

 

 そんな俺は現在、ギルドの受付口で抗議の声をあげていた。

 

「だーかーらー! ちゃんと討伐したんですって!? 常設依頼のオークを三体!! 間違いなく!!」

 

「はぁ……あ、あのですね、フィンさん。そう言われましても……」

 

 そんな俺の抗議を聞いて、受付でため息を吐いているのがここ《アギトラ》ギルドの受付嬢であるゼーナさんだ。

 薄いミルクティー色の髪に、ピシッとしたギルド職員の制服を着こなす彼女は、少し気弱な性格も相まって好意をむける冒険者は数知れず。

 守ってあげたくなる、というやつだ。

 

 もちろん、俺だってその一人ではあるのだが……今日ばかりは、俺も引くわけにはいかない。

 

 デートのお誘いもしてみたいが、それよりもまず懐を潤さなければ、拠点にしている宿の宿代すら払えなくなる可能性があるのだから。

 

「いったい何がダメなんですか!? 冒険者としてやってきたこの二年間で、ようやく仕留めた俺のオークが認められないと!?」

 

 いくら俺が『当たらない弓使い』やら『討伐では役立たず』やら『討伐依頼のお荷物』なんて呼ばれていたとしても、それは同じ冒険者だから言えることであってギルドが同じように差別する理由にはならないはずだ。

 

 これはギルドの横暴に違いない! と必死に言葉を紡ぐが、そんな俺の抗議はゼーナさんの一言で呆気なく粉砕されることになる。

 

「ですからフィンさん、そうおっしゃられるのであればオークの右耳を提出していただかないと……」

 

「……ひゅー、ひゅー」

 

「……口笛、へたっぴですね」

 

 痛いところをツッコまれ、途端に俺は目を逸らしながら口笛を吹くのだが、予想以上にカッスカスの音が漏れて気まずくなる。

 く、くそう……「演奏美味いですね!」とか言ってもらって誤魔化す俺の作戦がパァになってしまった……!

 

 こうなれば、奥の手を使うしかねぇ……!

 

「いやぁね、聞いてくださいよゼーナさん。これには海よりも深く、山よりも高いわけがありましてね?」

 

「そ、それはとっても気になりますね。気にはなるんですけど……討伐証明部位を提示していただけないと、ギルドとしては討伐したとは認められないんです……」

 

「まーまあまあまあ。ゼーナさん、とりあえずこれを」

 

 そう言って、俺は懐から革袋を取り出した。

 普段薬草の採取で使用しているものとは違い、こちらは魔物……その討伐証明となる部位を持ち運ぶために用意したものである。

 

 最初は首を傾げて袋を受け取ったゼーナさんも、手にした瞬間に中身が何かを察してくれたのだろう。

「あるじゃないですか!」とにっこりと笑みを浮かべた彼女は、受付横の籠を手に取り、そこに向けて俺が渡した革袋を逆さにする。

 

「オークの耳です。これで俺が討伐したという証明になると――」

 

「これ左耳ですよね?」

 

「……ハイ、ソウデス」

 

 奥の手、ダメでした。

 おんなじ耳だし、ワンチャンいけるんじゃないかなぁ~と淡い期待を持っていたのだが……どうやらゼーナさんの目を誤魔化せなかったらしい。

 

 なにやってるんですか、と呆れた目を向けるゼーナさんは、もう一度ため息を吐いて諭すように続けた。

 

「もう、フィンさん。こんなことしてまで嘘を吐いたらダメですよ? 薬草の採取依頼だって立派なお仕事なんですし、ちゃんとフィンさんが頑張ってること、私は知ってますから」

 

「俺、嘘ついてないんです……」

 

 ほんとほんと、フィン噓つかない。

 

 ……なんて、冗談はさておき。

 ゼーナさんはまったく信じてくれる様子はないが、オークの討伐に関しては本当の事なのだ。

 

 いあやまぁ、普段の俺を知っているからこその今の状況なので、仕方ないと言えば仕方ないのだが……それにしても、もうちょっと俺のこと信じてくれてもよくないですかねぇ?

 

 だがしかし、俺がいつも受けている薬草の採取で得られる報酬と、オーク討伐の報酬とではかなりの差がある。

 事実は事実であるため、どうにかして俺が討伐したことを認めさせたいのだが……

 

 むむむ、と一人受付の前で考える。

 

 そんな中、新たにギルドに入ってきた数人の冒険者たちが、ゾロゾロと受付までやってきた。

 そして俺と、その俺の対応をしているゼーナさんを見ると、先頭を歩いていた冒険者が「邪魔するぜぇ」と割り込んでくる。

 

「よっ、ゼーナちゃん。そんなの相手にするなら、俺たちの対応を頼むわ」

 

「ロ、ロモンさん、割り込みは……」

 

「そーだそーだ! おいこらロモン、今ゼーナさんは俺の対応で忙しいんだひっこんでな!」

 

 シッシッ、と追い払うように手を振れば、ロモンは肩を竦めて呆れ顔を向けてくる。

 

「どっからどう見ても、おめぇが迷惑か勝てるようにしか見えねぇよ。同期が悪ぃな、ゼーナちゃん」

 

 三等級冒険者ロモン。

 圧倒的とも呼べる速度で三等級にまで上り詰め、そして一流とされる二等級への昇格も間近と噂されるこの男は、先ほど言ったとおり俺と同時期に冒険者となった、所謂同期でもある。最初の頃はパーティを組んでいたこともあった。

 

 二等級になれば、ギルドから二つ名をつけられるというし、そうなれば多くの冒険者にも周知されるようにもなるだろう。

 こいつに二つ名がついたら、「俺、実はあの【○○】と同じパーティだったんだぜ?」と密かに自慢する計画を立てていたりする。

 

 閑話休題、話を逸らした。

 

 苦笑交じりのウインクで謝るロモンに、「あ、いえ大丈夫ですよ」とこちらも苦笑を返すゼーナさん。

 そんな苦笑であっても、ロモンの奴は嬉しそうに鼻の下を伸ばしていやがる。

 

「なーにが『同期が悪いな』だ。俺をゼーナさんと話すための出しにしやがって。別にゼーナさんは俺のことを迷惑だなんて考えてないっつーの! ですよね、ゼーナさん!」

 

「……あ、あはは」

 

「ゼーナさーん?」

 

「やっぱ困ってるじゃねぇか」

 

 そんなはずはないと同意を求めてゼーナさんに視線を向けるが、彼女は気まずそうに俺の目を見ないようにしていらっしゃる。

 諦めず距離を詰め、彼女が視線を向ける先々に顔を持っていくが、「やめんか」とロモンに頭をどつかれてしまった。

 

 痛いでござる。

 

「まったく、いい奴だし楽しい奴でもあるんだが、もうちょっとどうにかならねぇのかお前は……」

 

「あ、あはは……それよりロモンさん。依頼はどうでしたか?」

 

 どつかれた頭を押さえてシクシクと泣き真似をしていると、そんな可哀想な俺を無視して二人の会話が進んでいく。

 

 どうやらロモンの奴はパーティで《黒の森》での討伐依頼を受けていたらしい。

 

「できるだけブラックエイプを討伐してきたんで査定を頼む。噂になってる通り、ずいぶんな数が森の奥から出てきてやがったぜ」

 

「ありがとうございます。そうですか……やはり、《黒の森》で何か起きているんでしょうか」

 

 眉を顰め、そこし不安がるような表情を浮かべるゼーナさん。

 俺も噂程度には聞いているが、ここ最近《黒の森》の魔物たちの動きが活発になっているらしく、普段は森の奥にいるような魔物がいつもよりも浅い場所に出現しているそうだ。

 

 ロモンたちが狩ってきたのは、そんな魔物の一種であろうブラックエイプ。遠くから発見できればわからないが、間近で遭遇すれば俺では勝てない魔物である。

 

「さてな、それは俺にもわからないが……安心してくれ、ゼーナちゃん。どんなのが出てきたとしても、俺たち《暁の浪漫》が守ってみせるさ!」

 

 そうだろう! とロモンが同じパーティのメンバーを振り返ると、各々が「おー!」と拳を突き上げて応えて見せた。

 さすが、《アギトラ》で今最も勢いに乗っている出世株パーティだ。

 

 さり気なく彼らの後ろにつき、如何にも「同じパーティです」という顔で拳を突き上げたが、速攻でロモンにバレて放り出されてしまった。

 

「ああ、ゼーナちゃん。これも追加で」

 

 俺をパーティの輪から放り出したロモンが、追加で袋を取り出した。

 受け取ったゼーナさんが中を確認すると、「これは……」とロモンに視線を向けた。

 

「道中で運よく、オークが死んでるのを見つけてな。常設だし、これで報酬の追加とかできないか?」

 

「…………は?」

 

「もう、ロモンさん。言わなければ討伐で処理してましたよ」

 

 ダメです、とゼーナさんから拒否されたロモンは、「やっぱりかー」とわかっていたような笑みを浮かべてニヤついていた。

 ゼーナさんと話せているのがすこぶる楽しいのだろう。

 

 だが一つ、そんなロモンに早急に確認しなければならないことだができた。

 

「おい、ロモン。一つ聞かせてくれ。そのオーク、どこで見つけた?」

 

「ん? たしか薬草の群生地の近くにある、開けた草原だな。それがどうしたんだ?」

 

 それを聞いて頭に過ったのは、今朝運よく見つけた狙撃ポイントと、そこからたまたま見えた三体のオークの姿。

 間違いなく、俺はその三体を射抜いた。そして、ルンルン気分で仕留めた獲物を取りに行けば、既になくなっていた討伐証明部位である右耳。

 

「お前が犯人か!! ロモンーーーー!!!」

 

「急にどうした!?」

 

 飛びかかるも、弓使いの後衛である俺が前衛のロモンに勝てるはずもなく。

 ものの一秒で組み伏せられる中、先ほどまでのことをゼーナさんが説明してくれた。

 

 話を聞き終えたロモンは、組み伏せる俺に一言告げた。

 

「フィン、嘘はだめだと思うぞ?」

 

「お前までそれを言うか!?」

 

「いや、だってお前……なぁ?」

 

 そう言って、ロモンが同じパーティの仲間達を見回せば、彼らも「うんうん」と何かに同意するように首を縦に振る。

 

「なんだお前ら、何か言いたいのなら俺の目を見てはっきり言ったらどうだ!?」

 

「お前、至近距離でも全然当たらないじゃん。そんな遠くから当てられるわけがないだろ」

 

「言いやがったなロモンーーー!!」

 

「言えって言っただろ……」

 

 ああそうだよコンチクショウ! でも正論は人を傷つけることもあるんだぞ覚えとけ!

 

 バタバタと何とかロモンの拘束から逃れようと足掻くギルドの受付前。

 

 結局、俺の主張は認められず、いつも通りの薬草採取のしょっぱい報酬を貰って帰宅することになるのだった。

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