距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第三話

 この世界には、《スキル》と呼ばれる力を有する奴らがいる。

 

 俺以外での身近な例を挙げるなら、ロモンの奴がそれに該当するだろう。

 本人曰く、《身体強化》というスキルらしい。

 

 自身で知覚する以外に個人の《スキル》を判別する方法はないのだが、あいつの場合は戦闘時に身体能力が大幅に向上するためわかりやすい。

 

 冒険者として、何とも羨ましいスキルである。

 

 一度どんなもんかとギルドで腕相撲を挑んだから、開始直後に台座諸共床に叩きつけられたことがある。

 曰く、ゼーナさんに良いところを見せようとして張り切った結果であるとのこと。

 

 まごうことなきゴリラである。

 ゴリラいないんだけどな、この世界。

 

 一回それ言ったら首を傾げられたので、それ以降口にはしていない。

 

 ともかく、そういう常識外の力を個人に与えてくれるのが《スキル》というものだ。

 

 ゴリラ……違った、ロモンのような戦闘に使用できるスキル以外にも、過去には遠くの景色を見る《千里眼》や、何もないところに物を収納する《空間庫》というものも存在していたと聞く。

 

 さて、そんなありがた~い《スキル》についてだが……当然、この俺もそんな《スキル》を有するすんばらしく有能な冒険者の一人だ。

 

 スキルの名は《狙撃》。

 物心つき、前世と呼ばれる記憶をうっすらと思い出した際に判明した。

 

 そして俺自身のスキルを認識した時、俺は弓使いの冒険者になることを決めたのだ。

 

 なにせ全員が持っているわけではない特別な力である。それを活かさない手はないし、このスキルがあれば金も名声も、女の子たちからの好感度さえ手に入ると思っていた。

 

「まあ無理だったわけですが」

 

「あん? 何の話だ?」

 

 やれやれとロモンに奢ってもらった果実水を片手にため息を吐けば、対面に座るロモンが片眉をあげて訪ねてくる。

 ここ最近は《黒の森》の件で忙しそうだったが、今日は休日らしい。

 

 なので、久しぶりに同期飲みと称して奢ってもらっている。

 

「俺の《スキル》の話だよ」

 

「ああ、あの《自称狙撃》」

 

「喧嘩か? おん? 負けるぞ?」

 

「なら喧嘩腰になるなよ……」

 

 エールを呷りながら呆れるロモン。

 そんな彼に「うるせー」と悪態を吐きながら、追加で果実水を注文する。

 

 もちろん、ロモンの奢りだ。

 

「遠慮はねぇのかお前は」

 

「はー! 三等級で稼いでる奴が、六等級の頼む果実水にみみっちーこと言うんじゃねーよ! こちとら明日の宿代もカツカツだわ!」

 

 果実水を注いでくれた店員にお礼を言い、俺はグイと杯を呷った。

 

 ちなみに果実水なのは、俺がアルコールに弱い体質だからである。

 いちおうロモンと同じ十八の成人なのだが……こればかりは仕方ない。

 

「言っとくが、《狙撃》のスキルは本当なんだぞ」

 

「はいはい、わかったわかった」

 

「まるで信じてねぇなこの野郎」

 

 子供をあしらうような態度に拳を握りしめれば、「だってなぁー」とロモンがエールで口を濡らして視線を向けてくる。

 

「俺たちが冒険者になってからの三年間、お前が矢を当ててるところ見た事ねぇんだもん」

 

「ぐっ……!」

 

「おまけに五メートル先の的にも当たらねぇときた。《狙撃》のスキルって、たしか弓矢の命中率と威力の補正だろ? お前がそのスキルを持ってるなんて、どう考えても無理がある設定だっつーの」

 

「ごはぁっ……!?」

 

 ロモンの口から淡々と飛び出してくる言葉の一つ一つが、刃となって俺を襲う。

 

「き、貴様ぁ……理路整然と正論を言いやがってぇ……! 人が傷つくのがそんなに面白いかぁ!?」

 

「お前の反応、見てて楽しいからちょー面白い」

 

 人の反応を肴にして飲むエールがさぞうまいのだろう。

 俺を前にして、「酒がすすむすすむ」と笑みを浮かべるロモンに対抗するように、俺も追加で果実水を注文した。

 

 だがしかし、ロモンが言ってることも間違いではない。

 

 俺が有する《狙撃》のスキルは、スキル持ちの中ではわりとポピュラーな部類だったらしく、その記録も多数残されている。

 その効果はロモンが言ったとおりで、弓矢の威力と命中の補正の二つ。

 

 弓使いであればだれもが重宝するスキルであり、だからこそ俺はスキルを知覚した時に弓使いになることを決めたのだ。

 

 それが蓋を開けてみればどうだ。

《狙撃》のくせして、まったくそんな補正なかった。

 

 いやぁ、最初に討伐依頼に行った時は焦ったね。だって、まったくスキルが発動する気配がないんだもの。

 いや、正確に言えば発動はしてるんだが……全部マイナス補正である。

 

 おかげさまで、普通なら外すはずもない距離でバンバン矢を外すわけだ。

 

 おかげさまで《自称狙撃》だったり、《当たらない弓使い》だったりと酷い名前を付けられたし、一時期は弓使いどころか冒険者すらやめようと思ったほどである。

 

「そう、あの時までは!」

 

「え、何だよ急に怖ぇよ」

 

 若干引き気味のロモンを無視して、俺は一人回想に入る。

 

 それはある日のこと。

 日々の薬草採取依頼に嫌気がさし、気分転換にとダンジョンへ行ったことがある。

 

 ソロで行くことは推奨されていないのだが……そこは冒険者なので自己責任。そもそもその時はちょっと見て帰るつもりで、攻略目的じゃなかったからな。

 

 誰もが通る一階層。出てくる魔物もスライムだけで、ナイフを装備した俺でも対処ができた。

 

 そしてたまたま……運よく俺は隠し扉を見つけたのだ。

 

 正確には、《日本語が書かれた隠し扉》というべきか。

 うっすらとでも前世の記憶があったからこそ発見し、そして入ることができた隠し部屋。

 

 その部屋で手に入れたのが、今俺が使用している弓である。

 

 名前はわからないが、いわゆる《アーティファクト》と呼ばれる古代の技術によって作られた物だ。

 普通の矢も使えるが、嬉しいのは周囲の魔力を集めて矢を生成できること。そして矢の射程限界が射手に依存することだろう。

 

 売れば大豪邸が建つほどの金になるため、最初は売るかどうか悩んだことを覚えている。

 

 というか、売る気満々だった。

 

 だがせっかく手に入れた《アーティファクト》だ。売る前に自分で使ってみたくなるのが男心というもの。

 

 そしてなにか適当に射抜いてみようと、たまたま遥か上空を通過しようとしていた魔物を狙い……そこで初めて、俺は俺のスキルを正しく知ったのだ。

 

《狙撃》とは名ばかり。その真の正体は、《距離がある程、威力と射程に超補正がかかるスキル》である。

 

 なお、スキル発動のためには最低でも一キロ以上離れる必要があるうえに、それより短いと逆にマイナス補正がかかるもよう。

 

 クソである。

 

 俺たち弓使いの冒険者の平均的な有効射程距離はゼロ~百メートルほど。《狙撃》のスキルを持っていればその倍で、ゼロ~二百メートルといったところか。

 それが俺の場合だと一キロが下限で、それ以下だとマイナス補正がかかるのだから本当にどうしようもない。

 

《黒の森》が主な狩場なのに、森の中で使えるわけがないだろう。

 

 使うなら空に向けて放つか、先日のオークのように高所から狙うくらいか。限定的過ぎて話にならん。

 

「はぁ~! クソわよ!」

 

「だから急に怖ぇんだって! なんなんだいったい」

 

「いやな? 世界は俺に冷たいと思ってな……俺はなんて可哀想な存在なんだろうか」

 

「少なくとも、俺に奢らせてる時点で可哀想でもなんでもねぇよ」

 

 か~! 順風満帆な三等級冒険者には、俺の気持ちなんてわからんのですたい。

 

 果実水を一気に呷って飲み干す。

 

「はぁ~……せめて、せめて俺が狙撃位置に着くまで耐えてくれる壁役がいればなぁ……」

 

「また《自称狙撃》がなんか言ってら。いっつも言ってるが、いい加減諦めて他の武器使ったらどうだ? 前衛になるなら教えてやるぜ?」

 

 もちろん取るがな、と指で輪っかを作って笑うロモン。

 そんな彼に「お断りだ」と返した俺は、追加の注文で肉串を注文する。

 

「おいコラ」とロモンが文句を零すが、ちゃんと二人分頼んでいるので許してもらいたい。

 

「とにもかくにも、優秀な前衛が俺には必要なんだ。俺が狙撃位置に着くまで魔物をその場に留める壁役。組めさえすればお前も、世間だって俺の実力を認めてくれるだろうぜ!」

 

「はいはい、わかったわかった。組めたらいいな……お、この串うめぇ」

 

 話半分のロモンが肉串を頬張る中、今に見てろよと俺は内心で闘志を燃やす。

 

 スキルの真の力がわかったところで、他の冒険者やギルドからの評価は変わらない。

 

 だがそれでも、俺のスキルは条件さえ満たせばどんな敵さえも射抜いて見せるだろう。

 

 ドラゴンだって例外じゃないはずだ。

 だったら、金と名声。そして女の子たちからの好意……もとい、モテ期を手にする可能性はゼロではない。

 

 今は雌伏の時、ということだ。

 この弓と俺の《スキル》があれば、目の前のゴリラなんぞあっという間に追い抜いてみせる。

 

 ちなみに、優秀な前衛の候補にロモンは入っていない。

 追い抜いたその時、一緒のパーティだと盛大に煽ってやれないからだ。

 

「なぁロモン。なんか面白い話をしてくれ」

 

「突然すぎてびっくりしたわ。いいけど」

 

「いいんかい」

 

 果実水と肉串で腹を満たして、次は笑い話だとロモンに無茶振りをしてみたが、以外にもネタがあったのかロモンは足元のバッグから紙を取り出した。

 そして、「ここだけの話なんだがな?」と前置きして話し出す。

 

「実は《黒の森》で、新しくダンジョンが見つかってな。今、俺たち《暁の浪漫》も調査に駆り出されてんだ。ほら、南下した先にある岩壁のところだよ」

 

「そこか………ここ最近忙しくしてたのはそれも理由か」

 

 俺の言葉に頷いてロモンは続けた。

 

「で、話はここからなんだが……ダンジョンの中で奇妙な文字を見つけてよ。今は王都の学者に資料を送って、その解読を頼んでいるらしい」

 

「奇妙な……文字?」

 

「おう、それがこれだ。言っとくが、本当にここだけの話だぞ?」

 

 メモでも取っていたのだろう。

 紙には、ロモンが記憶を頼りに書いただろうヘニャヘニャの文字が書かれていた。

 

 俺との話のネタになると思って書いてみたらしい。

 バラバラで、おおよそ文章として成立しない文字の羅列。

 だがそれでも、俺にはその一つ一つの文字が読めたのだった。

 

「……おいおい、まじかよ」

 

「大マジだぜ。同期のよしみってやつだ。ありがたく思えよな」

 

 ワハハと軽口を言うロモンの言葉が耳から耳へと抜けていく中、俺はそっと背負っていた弓に指を沿わせた。

 もしかしたら、また何か手に入れられるかもしれない。

 

 俺の役に立つモノなら良し。そうでなくても、うっぱらえば莫大な金が手に入る。

 

「ロモン……ワクワクするな!」

 

「だろ? 何かわかったら、またこっそり教えてやるぜ」

 

 行かない、なんて選択肢は俺の中には存在しなかった。

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