距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう 作:誰でも愉快なハメハメハ
「というわけで、噂のダンジョンである」
翌日
俺はさっそくロモンが言っていたダンジョンへとやってきた。
いつもの《黒の森》の道を少し外れ、そこから南下した先にある切り立った岩壁。
何度か訪れたことはあったのだが、よくよく見てみればその壁の一部に見慣れない穴が空いていた。
一見すれば洞窟のようにも見えるが、調査したロモンたちの話によればれっきとしたダンジョンらしい。
「雨風で入り口が出てきたのかねぇ」
落ちないよう慎重に岩壁を登り、入り口の前に立って呟いた。
古代遺跡、あるいはダンジョンと呼ばれているものがこの世界の各地には存在している。
それは目の前の洞窟のようなものであったり、大木の洞や大地の大穴から地下に潜るもの、はたまた塔のような建造物であったりと様々だ。噂によれば海底神殿みたいなものもあるらしい。
そしてそのどれもに共通するのが、遥か昔の超技術で造られた巨大迷宮である点だろうか。
どう考えても自然にできたものではなく、人の手が入った人工物だという研究結果が出ているらしい。
失われた古代の技術を有する遺跡。故に古代遺跡。
当然、お偉いさんや研究者の方々はこの技術を欲しているのだが……ダンジョン内には多くの魔物たちが生息しており、安全に調査ができない。
だからこそ、俺たちのような冒険者や、必要なら国の騎士団が出てきて攻略するのだ。
「まあ、そのぶん危険なわけなんですがねぇ」
一歩中へと足を踏み入れる。
もちろん、ただ危険なダンジョンをお偉いさん方や研究者のために攻略してやろうというもの好きは少ない。
攻略の際に手に入るアイテムは、基本的には発見、入手した本人が所有することになる。売るのも使うのも本人次第だが、売ればかなりの額で買い取ってもらえるわけだ。
まさに一攫千金。ダンジョン内で倒した魔物の素材は換金してもいいし、ダンジョンを完全に攻略すれば、更に報酬がもらえる。
お偉方はダンジョンそのものの詳しい調査ができれば良し。冒険者たちが手に入れたアイテムを売ってもらえればさらによし、という感じだな。
だからこそ、俺たち冒険者はダンジョンに挑む。
「げぇ……やっぱ魔物はいるよな」
足音を立てないよう中を進んでいると、前方にうっすらと蠢く影が目に入った。
慌ててその辺の岩に身を隠して様子を伺っていると、やってきたのは一匹のゴブリンだった。
子供くらいの背丈に醜悪な顔つき。ある程度の知性があるからか、棍棒などの武器を使った戦闘も可能な魔物だ。
数が揃えばベテランでも苦労する魔物だが……数頼りな分、単体戦力は魔物の中では最下層に位置する。
幸いにも現れたのは一匹だ。今の俺でも、奇襲をかければ仕留められるだろう。
腰のナイフをゆっくりと抜き、音を立てないようにゴブリンの背後を取る。
本職には到底及ばないが、それでもある程度斥候としての心得はあるのだ。このくらいのことなら問題ない。
「GYA!?」
無言でゴブリンの首筋に向かってナイフを突き刺し、そのまま地面に押さえ込む。
なんとか逃れようと暴れるゴブリンだが、群れならともかく一匹相手に負けてられない。
そのまま刺しこんだナイフをグリグリと動かしていると、暴れる力は急激に弱くなり、やがてそのまま動かなくなった。
最後にもう一度だけ、ゴブリンの心臓部分にナイフを突き入れる。
「……よし。討伐完了っと」
やれやれ、と息を吐きながらナイフをしまって立ち上がる。
本当なら見つけた瞬間に弓で仕留めたいのだが……それができないのが辛い。普通の《狙撃》のスキルだったら、どれだけ役に立っていたのだろうか。
持って生まれたものであるため悔やんでも仕方ないのだが、それでも愚痴をこぼすくらいは許してもらいたい。
やはりクソスキルである。
弓使い、やめないけどね。
「そうだ、ゴブリンの討伐証明部位は……いや、やめとこう。勝手にダンジョンに来てるの、バレたらゼーナさんから大目玉喰らいそうだ」
ゴブリンもオークと同じく右耳が討伐証明部位になっているのだが、ナイフの柄に手を伸ばしたところで首を横に振る。
ロモンからは日本語の解読のため王都に連絡をしたと聞いている。
もしかしたらの話だが、その調査のために王都から騎士団が来ることになる可能性だってあるのだ。
そうなれば、ギルドの冒険者にはダンジョンへの進入禁止が通達されることになるかもしれない。
お偉方がこのダンジョンを重要視すれば、誰よりも早く調査を進める可能性があるからだ。
もちろん、騎士団からの応援要請があれば冒険者も調査に同行できるだろうが……その場合、選ばれるのは間違いなくロモンのようなランク上位の冒険者だ。
少なくとも、俺のような六等級の冒険者が同行することにはならないはず。
だからこそ、ここに来た。
「《黒の森》じゃなければ誤魔化せたのかねぇ……」
はぁ、と大きくため息を吐く。
《黒の森》は強い魔物が多いせいか、珍しいことにゴブリンが生息していない。
もしも討伐証明としてゴブリンの耳を持ち帰れば、一発でゼーナさんにダンジョンへ行ったことがバレてしまうだろう。
俺の目的はただ一つ。
ロモンの言っていた日本語。そしてその文字を読み、このダンジョンに隠された《アーティファクト》を回収することだ。
素早くかつ誰にもバレずにやれば問題はない。後々進入禁止令が出たとしても、知らぬ存ぜぬで押し通す……!
誰にも俺を止められないのだぁ~!
「とはいっても、ここはダンジョンなんだ。《アーティファクト》を見つける前に死ぬ可能性だって十分ある」
前回は一階層で日本語の隠し部屋を見つけられたから運がよかったが、今回も同じだとは考えない方がいいだろう。
何階層にあるかはロモンも教えてはくれなかった。もしも浅い階層になかった場合は、諦めて帰るのが賢明だ。
その時は、《アーティファクト》が見つからないまま調査が終了し、ある程度の階層までの安全が確保されるまで待つことにしよう。
要は運任せである。
さてさて、と慎重な足取りで周囲の気配を探りながらダンジョンの中を進む。
一本道のダンジョン、という可能性がないわけではないのだが、基本的にダンジョンは上か下かに階層が存在している。
このダンジョンもどこかに階段か何かがあるはずだ。時折やってくる魔物をやり過ごし、あるいは仕留められそうなら仕留めたりしつつ進んでいった。
出入り口から離れても明るいのは《ヒカリゴケ》のおかげだ。
壁や天井に映えているこの植物は、不思議なことに自ら発光する性質を持つ。これのおかげでダンジョン内でもなんとか視界が確保できるのだ。
「……お? お、おおおお!!」
周囲に魔物の気配がないことを確認し、少し休憩しようと歩みを止めたその場所で。
なんて運がいいのだろうか。
腰を下ろし、背中を預けた壁面に俺は目的のものを発見した。
突然の事すぎて、あるいは見つけた嬉しさから思わず叫んでしまう。
慌てて口を手で覆いながら再度周囲を見渡した。
「……バ、バレてないか」
よかった、と内心で安堵しながら息を落ち着かせ、改めて壁面に書かれた文字を見る。
自分でも気持ちが高揚しているのがよくわかった。
「えーっと、なになに……『汝の運命がこの先にて待つ。乙女の手を取りたくば、壁に触れ呪文を唱えよ』……? 呪文は……」
そのまま視線をずらせば、呪文と思しき文字が羅列されている。
壁に手を置き、そのまま書かれている文章を口にした。
「『我、拳の乙女の主なり。契約はここに結ばれた』……ん? 主? 契約? なんのこ――」
ガタン、と。
足元から音が鳴った。
何事かと視線を向ければ、先ほどまでそこにあったのはずの地面がなく、代わりに奈落にでも続いていそうな真っ暗な穴が「こんにちは」と顔を出している。
一瞬の浮遊感、その直後に体が落下を始めた。
「――とぉおおおおおおおおお!?」
パタン、と穴が閉じたことで、まるでそこに誰もいなかったように静寂が戻るのだった。