距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第五話

「いやああああああああああああああ!? あいてっ!?」

 

 ゴロゴロゴロゴロと、まるでギャグ漫画のように穴の中を転がり落ちていく。 

 そしていったいどこまで転がり続ければいいのか、と考え始めたところで唐突に全身が打ち付けられた。

 

 幸い、尻から落ちたらしい。鈍痛が体中に響くが怪我はなさそうだ。

 

 ……もっとも、落ちた距離を考えると無事とは言えないような気もしているが。

 

「いっつぁ~……どこまで落ちたんだよ、俺は……!」

 

 尻を擦りながら顔を上げる。

 目の前に広がるのは、地中とは思えないほどの広大な広場だった。

 

 ドーム状になった天井の中央には巨大な穴が空いているが、それ以外の部分にはこれでもかという程のヒカリゴケ生えて空間を照らしている。

 

 どこか神秘的にも思える目の前の光景に、はぁ~と感嘆の声が零れた。

 

「さっすがダンジョンってところか。下の方の階層って、こんなところばっかりなのかねぇ」

 

 立ち上がって周囲に目を向ける。

 行ったことのあるダンジョンは今の弓を拾ったところくらいで、しかも一階層の経験しかないのだ。

 

 こんな深いところまで降りる……いや、正確には落ちた、だな。

 ともかく、こんな深い階層まで来たことがないので少々新鮮だ。

 

 てっきり、魔物がうじゃうじゃいるのかと思っていたのだが、そうではないらしい。

 

「ダンジョンの魔物は攻略を進めるほど強くなるって聞いてるから、出ないならそれでありがたいんだけど……」

 

 いないよな? と近くの岩に身を潜めて周囲をもう一度探るが、魔物らしい気配はない。念のために、とそこから少し間を置き、大丈夫そうだと確信を持ってから立ち上がった。

 

「何か探せばいいのか……?」

 

 落ちてきただけではあるが、そもそも俺はあの壁に書かれた日本語に従った末にここへ落ちてきたのだ。

 であれば、何かしらがここにあるとみていいだろう。幸い、今は安全なようだし、とりあえず中央に向かうように歩を進めた。

 

 淡い期待を胸に、俺はドーム状の空間中央までやってきて足を止めた。

 改めて周囲を見回してみるが、かなり巨大なドームである。ここまで来るのにそれなりに歩いたが、記憶にある東京ドームとやらにも劣らない広さだ。

 

 ライブでもやればかなりの客が収容可能だろう。

 

「……っと、そんなこと考えてる場合じゃないな」

 

 何か足元に埋まってないかと、その場にしゃがみ込んで足元を手で叩きながら探っていく。

 すると一か所だけ、叩くとかなり固い部分が見つかった。

 

 お、これは……とナイフで周囲の地面を掘り、ある程度のところで傷つけないよう手堀りに切り替えた。

 

「お、おおお……! 何か出たぞ!」

 

 しばらく掘り進め、完全に姿を現したそれを見て俺は顔を綻ばせた。

 

 出てきたのは、ダイヤのような白い輝きを放つ掌大の丸い石。

 どうみても宝石の類だろう。宝石商にでも売れば間違いなく大金に早変わりだ。

 

 中途半端に使えそうなものが手に入るより、よほどいい結果といえるだろう。

 

「しっかし……本当にこれだけなのか?」

 

 宝石を手にもう一度周囲に視線を向けた。

 日本語に加えて、あれだけ転がり落とされたあげく、こんな巨大空間にやって来てあるのは埋まった宝石ただ一つ。

 

 俺の冒険者としての勘がまだ終わりじゃないと告げている。

 

 いや、勘というより、気になっているのはあの壁面に書かれていた日本語の内容だ。

 

 特に、俺が唱えさせられた呪文の内容……たしか、『拳の乙女』やら『契約はここに結ばれた』やら如何にもなことが書かれてあった。

 

 文章だけ見れば、俺が契約を結んだ『何か』がここにいる……と思うのだが、今のところそれらしき影は一つもない。

 

 俺が何かを見落としているのか、はたまたそもそもここにはそんなのはいないのか……それとも、俺が認められていないみたいなオチなのか……

 

 わからん、と一人腕組みをして考える。

 

 まさにそんな時だった。

 

 ヒュンッ、とこの広いドームの中に風が吹く。

 

「……上、か?」

 

 風は下から上に吹き上がるように、天井の穴に向かって吹いたように思う。

 何があったのかと見上げてみるが、そこにあるのは真っ黒い穴だけだ。

 

 だがしかし、何かしらの変化がこの穴の先であったのは間違いないだろう。どうにか闇に目が慣れて見えないものかと、俺はしばらくの間視線を向けていた。

 

 だからこそ、気づけた。

 

「……ん!?」

 

 頭上の穴。その向こう側から落ちてくる何かの存在を。

 

 ゲェ!? などと叫ぶ余裕すらなく、俺はすぐさまその場から全力で退避。

 次の瞬間、今まで俺が立っていたドーム中央へと降ってきた何かが激突、轟音とともにどでかい砂煙が立ち昇った。

 

 落下による衝撃で地面が揺れ、爆風のような風が全力で退避していた俺の体を吹き飛ばす。

 そのままゴロゴロと地面を転がされ、やがて「グベェッ」という情けない声を零して止まった。

 

 本日二度目のゴロゴロである。

 

「な、何が落ちてきたんだ……!?」

 

 よろよろと立ち上がりながらナイフを抜いて構える。

 

 警戒態勢のまましばらく待っていると、天井のヒカリゴケに照らされた砂煙も徐々に晴れていく。

 そうして俺は、ようやく何が落ちてきたのかを目にすることができたのだった。

 

「……棺桶、か?」

 

 中央の地面に突き刺さるように立っていたのは、真っ白の棺桶だった。

 箱でもいいのかもしれないが、見た目は『棺桶といえば』で思い浮かぶ六角形のアレである。

 

 蓋の部分には十字架ではなく、拳を模したであろう模様とⅤというローマ数字のようなものが描かれていた。

 よく見れば、その拳の模様の中心に意味深なくぼみがある。

 

「どう考えてもこれだよな」

 

 手に持っていた宝石を押し込んでみれば、まるでそこにあるのが正解だと言わんばかりにぴったりと収まってしまった。

 カチン、と何かの鍵が開いたような音が周囲に響く。

 

 そして同時に、プシュゥウウウウ!! と棺桶から煙が噴き出した。

 

「げぇ!? な、なんだ……!?」

 

 突然のことに驚いた俺は、体勢を崩して尻もちをついてしまう。

 

「情けない悲鳴ですね。情けなさ過ぎて、逃げ惑うゴブリンかと思いました」

 

「え……だ、誰だ!? 今誰が喋った!?」

 

 俺しかいなかったはずの空間に響く、凛とした、それでいてどこか氷のような冷たさを感じさせる女性の声。

 どこにいるのかと辺りに視線を向けるが、今近くにあるのは煙を吹き出す棺桶のみ。

 

 まさかと視線を棺桶に向けると、ガコン、と棺桶の蓋が前のめりに倒れて開いた。

 

 まず目に入ったのは、およそダンジョンには似つかわしくないであろうメイド服。

 それだけならよかったのだが、どんな趣味嗜好の持ち主なのか、メイド服のところどころには拘束具を思わせる装飾が施されていた。

 

「私以外に、こんな素晴らしい声の持ち主がいるわけがないでしょう」

 

 拘束具付きメイド服が一歩踏み出し、棺桶の中から出てくる。

 十代後半くらい……だろうか。現れたのは、銀髪のロングヘアを後ろで一つに結った、髪と同じ瞳の色をした少女だった。

 

 つい、そんな少女の姿に見惚れてしまう。

 

 もしやここから、俺とこの子のボーイミーツガールが始まってしまうのではないだろうか。

 

「……何見てるんですか、警察に訴えますよ?」

 

「え、酷くない?」

 

 そんなもの(ボーイミーツガール)はなかった。

 

「ですが……ええ。どうやら、あなたと私は契約関係にあるようですね。なら仕方なく、しぶしぶ、不本意ながら、私はあなたを我が主……マスターと認めましょう。ええ、不服ですが」

 

「めちゃくちゃ納得してないじゃねぇかよ……というか、どういうこと? お前は何なんだ?」

 

 少女の言葉についツッコミを先に入れてしまったが、どう考えても聞かなくちゃならないことがたくさんある。

 まずはそこの説明からしてほしいとお願いしてみるのだが、メイド服の彼女は「はぁ~、これだからマスターは……」とため息を吐いてみせた。

 

 今あったばかりだというのに、俺の何を知ってるんだこいつは。

 

「そうですね……では、自己紹介からしてあげましょう。額を地面にこすりつけてください」

 

「態度でかくないかな? 嫌だっつーの」

 

「やれやれ、我儘なマスターですね。なら特別に教えてあげましょう」

 

 なんだこいつ、とジト目を向ける俺の視線をまるで気にしていないのか、少女はコホンと咳ばらいを一つすると、まるで貴族のような所作で優雅にカーテシーをしてみせた。

 

 メイド服なのに。

 

「私の名前は《自律機巧【強襲】》。我らが創造主の手で造られし姉妹機巧、その五番目に当たります」

 

 以後お見知りおきを、と彼女は礼をしてみせる。

 

 そんな存在を前に、俺はただ茫然と視線を向けることしかできなかったのだった。

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