距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第六話

「えーっとぉ……? とりあえず話をまとめると、お前は昔に創造された人を模した人形で――」

 

「違います。美少女&高性能を実現したちょーすごい自律機巧です」

 

「……ちょーすごい自律機巧とやらで、この遺跡で目覚めるのを待っていたと」

 

 あまりの超展開でさすがの俺も頭が追い付いていなかったのだが、少し時間をおけばそれなりに落ち着くのは当然の事。

 俺のことをマスターと呼んで大人しく待っているのを見るに、こいつ自身に敵対心はないのだろう。

 

 それに気づいて安堵のため息を零した俺は、目の前の少女……本人曰く、ちょーすごい美少女&高性能自律機巧とやらに話を聞かせてもらうことになったのだ。

 

 どうやら目の前の少女は、このダンジョンが創られた際に創造された人形であるらしい。

 

 まったく人形には見えないため嘘にしか思えないのだが、話が進まなさそうなのでいったんそれは置いておこう。

 

「で、目覚めるためにはマスターが必要で、そのマスターとやらに俺が選ばれたわけか」

 

「その通りです。よく理解できました、えらいですねマスター」

 

「……さっきから色々と言ってるが、ちょ~っと俺のことを舐めすぎじゃないか?」

 

 すまし顔で人を馬鹿にしたような発言をする少女にすごんでみせる。

 自律機巧と名乗った彼女曰く、彼女が目覚めるためにはマスターと呼ばれる存在が必要だったらしい。

 

 仮に彼女の話が本当だとすれば、彼女がこうして目覚めたのは俺のおかげでもあるはずだ。

 だというのに、偶然であったが彼女を目覚めさせた俺に対する扱いが粗雑ではないだろうか。

 

 すると、そんな俺の不満の抗議を聞いた彼女はフッと小さく笑って答えた。

 

「……? 気づかなかったんですか、マスター」

 

「よーしキレた、キレましたぁ~! お前は一度泣かしてやる! 後で後悔しても遅いからなぁ……!」

 

 これでも三年間冒険者としてやってきたんだ。

 ロモンほどではないにしろ、体だって鍛えてる。最近も一対一ならナイフでゴブリンにも勝てるようになった。

 

 改めて目の前の存在に目を向ける。

 見た目は華奢な同い年くらいの女の子だ。

 

 だいたい、彼女が人形であるということも信じがたい。ずっと棺桶の中で眠っていたというが、俺が来る数時間前に先入りして待機でもしてたんじゃないのだろうか。

 古代人とやらが創った自律機巧なんて理由よりも、そちらの方がよほど信じられる。

 

 でなければ、こんな見た目が人にしか見えない人形なんてありえないだろう。

 

 俺がちょ~っと本気でも出せば、簡単に押し倒して泣きっ面を晒すことになるに違いない。

 

 なるほど、この勝負勝ったな!

 

「後悔するのはマスターになると思うのですが……」

 

「カハハハ! どうせハッタリ、そう言えば俺がビビッて手を出さないと思ったか! なに、安心しろ。女の子相手に暴力はなしだ。なしだが……代わりに泣くまでくすぐってやるぅ!」

 

 そしてあわよくば、女の子の柔らかい体を堪能させてください! いや、する……!!

 

 男フィン、ここで階段を一つ登りまぁあああす!!

 

 ある意味の覚悟を決めて手を伸ばす。

 個人的には触れられれば一番いいが、避けられてもそれはそれで問題はない。このすまし顔をちょっとでも崩して驚かすことができればそれでよかったのだ。

 

「はい」

 

「っ!?」

 

 だというのに彼女はまったく怯む様子を見せず、それどころか俺が伸ばした手をあっさりと掴んで引き寄せる。

 

 予想だにしない行動に虚をつかれた俺は、あっさりと体勢を崩し――

 

「せい」

 

 そんな、まるで力なんてまったく込めてないですよ、みたいな掛け声で天井に開いた穴へと放り投げられてしまった。

 ビュゥウッ! という風音が体中を撫でていく。

 

 何が起きたのか、それに気づいたのは風が止み、上昇していた体が一瞬だけ停止した時だった。

 

「へっ……?」という間抜けな声が零れる。

 

 そして次の瞬間には、俺の体は視線の先、遥か下の穴に向かって落下を始めた。

 速度が増していき、俺の唇とまぶたを裏返しそうな勢いで風が叩きつけられる。

 

 アカン、俺死ぬ。

 

 そう気づいて、俺は無意識に叫んだ。

 

「たぁあああああああああすけてぇええええええええええ!!!!」

 

 我ながら情けない悲鳴だと思うが、こればかりは仕方ないだろう。

 転生したという事実があったとしても、死に慣れているわけではない。というか自身についての記憶はあいまいだし意味がない。

 

 誰だって怖いものは怖い。

 

「びゃぁあああああああああああああ!?!?」

 

「はぁ、まったく。仕方のないマスターですね」

 

 重力落下によってかなりの勢いがついてしまった体は、数瞬後には地面に叩きつけられて無残な死体へと早変わりする。

 もうダメだおしまいだぁ……! と顔面をぐっちゃぐちゃにしながら落ちていた俺だったが、そんな俺の体が突如何かに包み込まれた。

 

 それは巨大な手とも呼べる何か。

 いったい何の手かと俺がその先へ視線を向けるよりも前に、ドズンッ!! という轟音が巨大な手越しに響いてくる。

 

 着地……したのだろうか。しかし、着地による衝撃が一切ない。

 

 どうなってるんだと顔を上げるよりも先に、俺を包んでいた手がゆっくりと開かれた。

 

「……面白い顔になってますね、マスター。早く顔を拭うことをお勧めしますよ」

 

「……は、はへ?」

 

 手の隙間から顔を出したのは、先ほどと同じすまし顔で見下ろす少女の姿。

 どこか呆れを含んだ言い方をする彼女は、そう言って俺を巨大な手から解放してくれた。

 

 どさりと尻もちをつく。

 

 どうやらこの手、彼女のものだったらしい。

 魔法でも使ったのかと思ったが、次に目にした光景を見てそんな考えはぶっ飛んでしまった。

 

 彼女の腕にくっついていた巨大な手は、まるで何かのカラクリのように音をたてながら細かいパーツへと別れ、最後には華奢な腕の中へと収まってしまった。

 見慣れない光景に目をパチクリと差せていると、そんな俺を振り返った彼女が「ふふん」と得意げに笑ってみせる。

 

「どうやらマスターは、私の言ったことを信じていなかったご様子。なので、私の性能のお披露目と証明を兼ねてデモンストレーションを実施させていただきました」

 

 いかがでしたか? と彼女は見事なカーテシーをきめた。

 驚きで何も言葉が出ないが、それでも首は縦に動かせる。そんな俺を見た彼女は、大変満足そうな様子で「ありがとうございます」と告げた。

 

「節穴かつ腐り耳のマスターでも、もう私が美少女&高性能自律機巧だと信じるしかないでしょう。そんな私のマスターになれたのですから、もっと嬉しそうに喜んでください」

 

「こ、この状況で喜べると思ってるのか……? ついさっき死にそうになってたんだぞ……!?」

 

「失礼なマスターですね。私が従者になった、その事実の方が余程大事です」

 

 それに、と彼女は続ける。

 

「この私のマスターになったんです。私がマスターを死なせるわけがないでしょう?」

 

 だから安心してくださいと言わんばかりに、目の前の彼女は小さく笑った。

 見た目は美少女。故にそれは、まるで絵画に描かれたもののように美しい光景にもなるだろう。

 

 ……証明のためとはいえ、投げ飛ばした本人でなければなぁ!!!

 

「こいつ、絶対いつかどこかで泣かせる……!」

 

「時期も場所も断定しないチキン、さすが私のマスターですね」

 

「やかましいわい」

 

 俺の心の中のやることノートに新たな目標を追記して立ち上がる。

 いい加減このダンジョンを出たほうがいい。おそらくロモンたちが見つけたという日本語が示していたのはこいつの事だろう。

 

 さっきの巨大な手や、俺を投げ飛ばしたパワー。人間ではない、というのも事実とみていいはずだ。

 そして、そんな存在のマスターとやらに俺はなったらしい。

 

 いろいろとありすぎたが、結果的に見れば今後俺の役に立つに違いない。

 強力な前衛……俺が求めていたモノが、棚ぼたで手に入ってしまった。その実感が、こうしている間に心の底からフツフツと湧いてくる。

 

 いつの間にか、俺はグッと拳を握りしめていた。

 

 俺の冒険者としての物語は、今まさに始まったに違いない。

 

「ではマスター。早速お仕事です」

 

「……仕事? なにかやるのか?」

 

「ええ。私の名付けです」

 

 その言葉に、俺は「なるほど」と頷いた。

 

 最初に名乗っていたのは、《自律機巧【強襲】》だったか。面倒な名前すぎたためずっと『彼女』と呼んでいたが、今後行動を供にするのなら必要になる。

 

「最初に聞くが、創造主とやらにつけられた名前はないのか?」

 

「はい。創造主からは《メア》と名付けられていました。ですが、眠りについたあとは我々を起動したマスターから名付けられた名を名乗るように、とも命じられています」

 

「ふーん……じゃあメアで」

 

 そう口にすると、彼女……メアは少しだけ驚いたように表情を崩した。

 

「なんで驚いてるんだよ……創造主って、つまりは親だろ? なら親からもらった名前がいいに決まってるだろうよ」

 

「……はい、ありがとうございます。マスター」

 

 今までとは異なる、心から笑ったようにも見えるメアの表情に俺は思わず顔を背ける。

 

 まあいい、とりあえずダンジョンの用は済んだのだ。とっととここを出て、メアが俺の求めた壁役になるのか、その検証を行うことにしよう。

 

「ちなみに、マスターが名付けるとすれば何と呼んでくださったのですか?」

 

「キングコング」

 

 俺は再び、天井の穴を舞うことになった。

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