距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう 作:誰でも愉快なハメハメハ
「ひ、酷い目にあった……」
「そうですね。マスターは雑魚雑魚の役立たずでしたから、ここまでの戦闘では私の後ろで震えてるだけでしたものね」
「誰が雑魚雑魚だ、誰が。こんな狭いダンジョンじゃ、俺の真価は発揮されないんだっつーの。……震えてないが!?」
ひと悶着はあったが、どうにかこうにか俺とメアの二人はダンジョンから出ることができた。
どうやら俺がメアと出会ったあの場所は、このダンジョンの最下層だったらしい。落ちる時は一瞬でも、出口まで戻ってくるには一層ずつ魔物を狩って進むしかなかったのだ。
一キロ以上の距離を取って戦うのならまだしも、それが不可能なダンジョンの中だ。俺だけだったら帰ってくる前に死んでいたに違いない。
なにせ、一つ階を上がっただけで一等級が相手にするような魔物がわんさか出てきたのだから。そういう意味では、メアと契約できてよかったと言える。
戦闘描写?
魔物が出る⇒ぶん殴る⇒ワンパンKO の三ステップですべて終わりだ。それ以上でも以下でもない。現れた魔物はすべからくメアの拳の餌食となった。
「だいたい、ビビる前にお前がワンパン破壊したからそんな暇もねーよ」
「ということはビビってたんですね。お可愛いことですね、マスター」
「チクショウ誘導尋問は卑怯だぞ!?」
「マスターの自滅です。諦めてネタにされてください」
とんでもないこと言いやがったぞこいつ。
クスクスと笑みを浮かべるメアをジト目で睨むも、彼女は特に気にした様子もなく「さてマスター」と改めて俺に話しかけてきた。
今度は何を言うつもりかと警戒して視線を向けるが、特にそういう意図はなかったらしい。
彼女はこれからどこへ向かえばいいのかと問いかけてきた。
「そりゃもちろんアギトラ……ああいや、ずっとダンジョンの中だったからこの辺りのことはわからないのか」
「はい、マスター。私が創造された時には、そのような街はありませんでしたので。場所さえ教えていただければ、私がマスターを連れて行きましょう。雑魚マスターの護衛もありますから」
「一言多いんだよ」
すまし顔の毒舌に文句を言いつつ、ここから北上した場所にアギトラの街まで続く道があることを伝える。
意外と長い時間をダンジョンで過ごしていたからか、陽が沈むまでもう間もなくと言ったところか。
急いで戻れば、陽が落ちる前にアギトラに到着できるはずだ。
ロモンたちならともかく、俺は《黒の森》で野宿なんかやりたくもないね。
特に最近の《黒の森》は、なぜか奥の魔物が浅いところまで出てきていると聞いているため油断はできない。
すぐに街へ戻るのが一番だ。
「それじゃ、街まで急ぐぞメア。この森は他と比べて凶暴な魔物が多いんだ。暗くなる前には森を出ないと――」
「わかりました。では失礼して」
「――へ?」
魔物を避けつつ、最短経路で街へ戻る。
そう提案して急いで戻る予定だったのだが、走り出そうとしていた俺の体が何かに掴まれて宙に浮いた。
後ろを振り返ってみれば、先ほどダンジョン内で魔物を殴殺していた巨拳を展開したメアの姿がそこにはあった。
まるで棒でも握るように、がっしりと俺の体を掴んでいらっしゃる。
……握りつぶされます?
「安心してください。私は美少女&パーフェクトな自律機巧。卵のように脆弱なマスターも見事に運んでみせましょう。到着したころには目玉焼きです」
「割ったうえにバーニングされちゃってませんかねぇ!?」
「冗談です。私ならスクランブルエッグすら朝飯前ですから」
「グッチャグチャですが!? もうそれミンチだぞおい!」
「もう、マスターったら。そぼろ丼がいいんですね」
何を言っても俺の拘束を解いてくれないメアを見て、「あ、これダメなやつだ」と勘付いてしまった。
どうやらこいつ、本気でこの状態の俺を運ぶつもりらしい。
巨大な拳固い金属が、俺を痛めない、かつずり落ちない程度の絶妙な力加減で体を包み込んでいる。
「では、いきます」
「ほんとに気をつけろよマジで!? 魔物が出ても、逃げるのが優先だからな! 俺を握ってる方の手で殴るんじゃねぇぞ!?」
「注文が多いですね、マスター」
「拳の中で圧死なんて、バカな死に方したくないんだよこっちは!?」
わかったな!? と強く命じれば、メアはため息を吐いて呆れた目を向けてくる。
「美少女&完全無誤の私がそんなミスをするわけがないでしょう?」
そんなすごい自信とともに、彼女は一歩目を踏み出した。
だが、その一歩は俺とは……いや、人とは別次元のものだった。
たったの一歩で周囲の景色が流れていく。
馬が疾走する様子を見たことがあるが、あれが赤子のハイハイに思えるほどの速度が出ているに違いない。
《身体強化》を使ったロモンでさえ、メアには敵わないだろう。
ダンジョンでも思ってはいたが、改めて彼女が人間とは異なる存在であると再認識させられる。
「この道に沿って行けばいいんですね?」
俺が答えるよりも先にメアの軌道が切り替わった。
どうやら先ほど伝えていたアギトラまでの道まで出てきたのだろう。出発してからまだ数分ほどしか経っていないはずだが、とんでもない速度だ。
この道、俺は魔物を避けながらだったとはいえ数時間かかったはずなんだがねぇ……
舌を噛まないよう、メアの問いかけに無言で頷く。
頷いた直後、メアの体は再び加速。そのまま俺が拠点とするアギトラの門が見えたところで静止した。
さすがにあの速度で突っ込むようなバカではなかったらしい。
というかやってた場合、すぐに街の衛兵に捕らわれることになるだろう。
ようやっとメアから解放された俺は、ふらつく体で何とか立つ。
握りしめられていたことによる負担はないが、体を固定されたままあの速度で移動していたのだ。
前世で言うところの乗り物酔いとやらに似た感覚に、思わず「ウエー」と嘔きそうになる。
「お前……もうちょっと手加減しろよ……吐いたらどうするんだ」
「その時は私が看病します。拳で」
「留めをさすつもりか? あ、やべ気持ち悪……」
早くベッドに寝て休みたい、とその場に倒れないよう街へと急ぐ。
そして門までやってくると、門兵の一人が俺に気付いて手を挙げてやってきた。
「おお、やっと帰ってきたかフィン。……なんか、顔色悪いな。大丈夫か?」
「よお、バレン。見ての通り、今にも吐きそうだぜ……」
兜に鎧。そして槍を手にして現れたのは、《黒の森》に接するアギトラの東門を担当する門兵のバレンだ。
基本的に《黒の森》へ行くには東門を通るのだが、その際に門兵に通行許可を取る必要があるのだ。未帰還の場合、門兵からギルドへ連絡が行くことになっている。
俺も今日、ダンジョンへ向かう前に通行許可を貰った。むろん、ダンジョンへ行くことは告げず、いつも通り薬草採取に出ると伝えたがな。
「おいおい、気をつけろよ。冒険者は体が資本だろうに。ところで……」
心配そうに俺を見ていたバレンの視線が、チラと俺の背後に向けられる。
当然そこにいるのはメアだ。行きにはいなかったのだから、門兵としてバレンが気になるのも当然だろう。
「あの、メイド服に拘束具をつけてる変わったお嬢さんは?」
違った、こいつ見てるの服装だったわ。
こそこそと、メアに聞こえないように耳打ちしてくるバレン。
しかし、そんな小声も聞こえていたのだろう。メアは俺と会った時と同じようにバレンに向けて華麗なカーテシーをきめると、誰もが見惚れる笑みを浮かべてあいさつする。
「初めまして、バレン様。この度森で迷っていたところをマスターに助けていただき、今後マスターに仕えることになりました、メアと申します。以後、お見知りおきを」
「……はい? あ、どうも、これはご丁寧に……」
ペコリと会釈するバレンは、一体どういうことだよと説明を求める視線を向けてくる。
がしかし、バレンに事の詳細を説明するつもりはないし、今の俺に説明するだけの余裕もない。
口を開こうとして、何か別のものがこみ上げてきそうになった。
そんな俺の肩を、後ろからそっとメアが支えるように手を沿える。
「どうやらマスターはお疲れのご様子。すぐにでも休んでいただきたいので、街へ入れていただくことは可能でしょうか?」
「あ、ああ……ただフィンはともかく、お嬢さんはアギトラは初めてだろ? 本来なら手続きが必要なんだが……しゃーねーか」
はぁ、とため息を吐いたバレンが俺を見下ろす。
「明日の朝、またここに来てくれ。その時に手続するからよ」
「た、助かる……」
「感謝します、バレン様」
特別に許可をくれたバレンに感謝すると、「それでは」とメアが俺を抱き上げる。
だがしかし、メアがやったそれは、いわゆる『お姫様抱っこ』というやつだった。得意気な顔でニヤリと笑ったメアは、そのまま駆け足で街の大通りを進んでいく。
街の住民に見せつけるように……!!
「さあ、マスター。あなたの宿はどこですか? 私がこのまま連れて行きましょう」
「て、てめぇ……楽しそうにしやがってぇ……!」
体調不良のマスターに追い打ちをかけてどうするつもりだこいつぅ……!
だがしかし、すでに立っているのも限界だった俺に抗う術はなし。
そのまま、メアは俺の案内に従って宿へと向かうのだった。