距離があるほど強くなる弓使い、拾った壁役人形が強くて全部持ってかれそう   作:誰でも愉快なハメハメハ

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第九話

「先日からマスターに仕えているメアといいます。マスターともども、よろしくお願いします」

 

「お、おう……」

 

「決してキングコングなどと呼ばないように」

 

 いいですね? とメアがロモンに向けて笑顔の圧を向ける中、その圧を真正面から受けたロモンはピンッ! と背筋を伸ばしながら、緊張した面持ちで大きく頷いていた。

 

 そして足元で伸びている俺に耳打ちしてくる。

 

「おいフィンどういうことだよ、この人ちょー怖いんだけど!? 三等級の俺が、対面しただけで挫けそうなんだが!?」

 

「……」

 

「チッ、だめだコイツ死んでやがる」

 

 ゲシ、と俺を足蹴にして文句を垂れるロモン。

 いつかぶん殴る。

 

 だがロモンの言う通り、先ほどまで空を無様に待っていた俺に答えるだけの元気がないこともまた事実。今は街の石畳の温かみを感じながらゆっくりさせてもらう。

 

「さて、マスター。お仕事ですよ」

 

 ゆっくりもできなかったよ。

 

「おいおい……こっちはお前の話を聞きたいと無理矢理誘われてるんだよ。料理という報酬をもらって事情を話す。つまり仕事なんだぜ? な、ロモン。そうだよな?」

 

「骨は拾ってやるよ」

 

「見送り方が違ぇんだよ。何度も殺すんじゃねぇ」

 

 せめて行ってこいくらいは言えよ。なんでメアと一緒に行って死ぬこと前提なんだよぶん殴るぞ。

 

 ロモンに見送られ、メアに引きずられる形で退店する。

 周囲からの注目を浴びる中、どこへ行くのかとメアに問いかけてみれば、彼女はいつものすまし顔をこちらに向け、「これだからマスターは」と呆れたようにため息を吐いた。

 

「さきほど言いましたよ? お仕事です。冒険者なら、依頼の一つでもこなして稼いでください」

 

「わかってるっつーの。それに、飯にありつくためだけにロモンと話してたわけじゃねぇんだ。後から来るって言ってたお前を待ってたんだよ」

 

「私を、ですか?」

 

 メアが急に手を放して立ち止まったことで、俺の体が地面にドスンと落ちた。

 背中をさすりながら立ち上がった俺は、「そうそう」とメアの疑問を肯定しながら、今日の計画を話す。

 

「いつもの薬草採取じゃねぇ。コブリンやオークなんかの、常設依頼でもねぇ。俺は今日こそ、《黒の森》の討伐依頼を受けるんだ!」

 

 やっとこの日が来たのだと、つい嬉し涙を流しそうになる今日この頃。

 

 いろいろとあったが、メアの実力は本物だ。壁役というには攻撃力が高すぎる気もするが、攻撃は最大の防御ともいうのだし特に問題視することもないだろう。壁役くらいは十分に務められるはずだ。

 

 そして、そんなメアという頼れる壁役を手に入れた俺も、ようやく本領が発揮できるというわけだ。

《当たらない弓使い》などという汚名は今日で返上間違いなし。明日からは《狙撃のフィン》……そう! 《狙撃》というスキルそのものが俺を象徴するようになるのだ!!

 

「カハハハ! 見える、見えるぞ……! 周りの奴らが目を見開いて驚く姿が! 俺のもてはやされる姿が! すぐには無理かもしれない、だが必ず! 俺はロモンを超えるぞ! カハハ! 今日、世界は俺を知る……!」

 

「周囲の目も気にせず、恥ずかしげもなく妄想を口にするそのお姿。さすがマスターです。眼帯と包帯を必要ですか?」

 

「誰が中二病だ」

 

 差し出された眼帯と包帯の二点セットを叩き落とし、改めて二人でギルドへと向かう。

 

 ともかく、討伐依頼を受けることが今日の目的だ。距離を取る必要があるものの、その条件さえ満たせば俺はロモンさえ超える威力が出せるようになる。

 それを証明する。今日の討伐依頼で、周りからの俺の評価を一新させる。

 

 そのための壁役。そのためのメアだ。

 だからこそ、彼女には足止めに徹してもらう必要がある。

 

「いいかメア。昨日話した通り、今日の主役は俺だ。俺が狙撃位置につくまでの足止めは頼んだぞ?」

 

「かしこまりました。ですが……別に私が倒してしまってもよろしいのでしょう?」

 

「ダメに決まってんだろ。しれっと見せ場を奪おうとするんじゃねぇ」

 

 そんなやり取りをしていると、いつの間にかギルドへと着いてしまっていた。

 そういえば今後はメアとパーティを組むことになるため、彼女の冒険者登録とパーティ申請も先に済ませなくてはならない。

 

 きっとゼーナさんには色々と聞かれるだろうが……そこはなんとか誤魔化すしかないだろう。間違ってもダンジョンで拾ったとはいえない。

 

 かといって、バレンのように森で助けたという話が通じるのかどうか……

 

 むむむ、と扉に手をかけながら唸る。

 すると、後ろにいたメアがチョンチョンと俺の肩をつついてきた。

 

 なんだ、と後ろを振り返る。

 

「今お前のことをどう説明するかで悩んでるんだけど?」

 

「それは大いに悩んでもらってよろしいのですが……なにやら中が騒がしいみたいですよ?」

 

「おん?」

 

 メアに言われて僅かに扉を開いて中を覗き見る。

 すると、たしかに彼女が言ったようにギルドの中が騒がしい……というか、慌ただしい様子だった。

 

 特にゼーナさんたち受付嬢が忙しなく動いていらっしゃる。

 

「何かあったのか……?」

 

「とりあえず入って聞いてみましょう」

 

「あ、おい! てか俺を抱えるなよ!?」

 

 いきなり俺を抱え、躊躇いもなくギルドへ突入するメア。

 突然の乱入者の姿に、中にいた冒険者たちの視線が一斉に俺たちへと向けられる。

 

「誰だ、あれ」

 

「さあ? でもすげぇ美人だな」

 

「なんでフィンのやつが抱えられてんだ……?」

 

 銀髪美少女かつ拘束具付きメイド服。

 そんな姿のメアが注目されないわけがなく、彼女を見た冒険者たちは近くにいた者同士で何かこそこそと話をしているようだった。

 俺に気付いたやつも最初は首を傾げていたが、最終的には「まあフィンだしなぁ……」という反応を見せてまたメアに視線を向けていた。

 

 もっと俺のことも気にかけろや。未来のモテモテ大英雄様だぞ。

 

「さすがマスターです。公衆の面前で私のような美少女に抱えられているという状況から、さらに恥を上塗りするようなお考え。感服します」

 

「喧嘩なら買うぞ? おん?」

 

「ふっ……勝てるようになってから言ってください。今からよーいドンをすれば、私の拳の方が速いですよ?」

 

「弓使い相手に狡くね?」

 

 ……と、いかんいかん。こいつのおふざけに付き合っていたら、進む話がまったく進行しない。

 周囲からの視線はそのままに、俺はメアに下ろすように命じてゼーナさんのところへと向かう。

 

「ゼーナさん、あのすみま――」

 

「ああ、フィンさんですか!? すみません、今ギルドはものすごく立て込んでいまして……! 何か用があるなら、後にしていただけますと……!」

 

「あ、はい」

 

 バタバタと慌ただしい様子のゼーナさんに断られて引き下がる。

 あの様子だと、何があったのか話を聞くのは難しいだろう。となると、他に事情を知ってそうな奴に聞くしかないんだが……

 

「お、ちょうどよさそうなのがいた。カエラ、ちょっといいか?」

 

「……あん?」

 

 ギルドの奥の方にいた赤髪が目に入り、そちらへと足を向ける。

 俺の呼びかけに反応を見せたのは、俺やロモンと同じ同期に当たる冒険者の少女だ。

 

 名前はカエラ。冒険者としてはかなり珍しい、女性のみで構成されたパーティ《赤薔薇》のリーダーである四等級冒険者だ。

 彼女もロモンと同じで、三等級への昇格が間近とされている有望株である。

 

「んだよ、フィン。アタシに用でもあったか?」

 

「いやなに、ギルドが騒がしいと思ってな。数日休んでたから、事情を知りたいんだよ」

 

「なっさけねぇ……んなもん冒険者なら気合で耐えろよな。でなけりゃ、いつまで経っても底辺から離れられねぇぞ?」

 

「余計なお世話だ。で? なにがあったんだ」

 

 呆れるような目を向けてくるカエラに言い返し、事情を聞こうと尋ねる。

 すると彼女は、「あーそれな」とため息を吐いて歩き出した。

 

 後を追うと、カエラは依頼書が張り付けてある提示版の前で立ち止まった。

 冒険者の依頼は基本ここに張り出されているのだが、その中心部に何やらひと際目立つように書かれた依頼書が張り出されていた。

 

 ……いや、依頼書じゃないなこれ。一番上に【緊急】という文字がデカデカと書かれている。

 

「えっと、『《黒の森》でドラゴンが出現。冒険者各位は注意されたし』……え、ドラゴン? 出たのか、《黒の森》に?」

 

「そうだよ。んで、その対処をどうするかでギルドが慌ただしくなってんだ」

 

 アタシたちもな、と彼女は肩を竦める。

 どうやらロモンたちが言っていた《黒の森》の異変の原因は、このドラゴンが原因だったと判明したらしい。

 

 ドラゴンが森の奥に住み着いたことで、魔物たちが浅いところに移動してきたのだとか。

 

 そしてドラゴンが俺たちが捕捉できる場所まで出てきている以上、《黒の森》の普段の狩場がいつも以上に危険だと判断して、カエラを含めた冒険者たちはギルド側からの対応を待っているらしい。

 

 まあ、ドラゴンが相手となれば、それこそ王都から騎士団や魔法使いの舞台を呼んでもらうしかないもんなぁ……

 

「そういうわけだ。今の森じゃあ、お前程度簡単に死んじまうぜ? あと数日は薬草採取もやめて宿に引き籠っとくこった」

 

 んじゃな、と説明は終わったとカエラは手を振ってその場を去っていく……と思たのだが、何かを思い出したのか逆再生のようにこちらへと戻ってくる。

 そしてガシと俺を逃がさないよう肩を組むと、ニヤリと笑って耳打ちしてきた。

 

「お前のことはどうでもいいが、お前と一緒に居た美人のメイドがいただろ? どういう関係だよ、なぁ! 今度紹介してくれ! 場合によっちゃ狙うからよぉ!」

 

「お前のそういうところ、俺はすげぇと思ってるよ」

 

 いや、本当に。

 すでに《赤薔薇》という自分のハーレムがあるにもかかわらず、気に入った女の子がいたら街中で声かけてるもんなぁ……

 

 見た目もカッコいい女子、という感じだし、ロモンほどではないが彼女もアギトラでは人気のある冒険者だ。この間も街の女性陣にキャーキャー言われていたのを目撃している。

 

 ……まあいい。ロモンも含めて、それも今日までの事。

 明日よりその女性の黄色い声は、この俺フィンのものになるだろうさ!

 

 フッフッフ……と小さく笑って俺が視線を向けるのは、提示版に張り出されているドラゴンについての注意書き。

《黒の森》の状況が変化している以上、冒険者はできるだけ向かわないようにとの指示が出ているが……だからこそだ。

 

 俺が受ける最初の討伐依頼。

 できるだけ強い魔物を討伐して俺の実力を示すつもりでいたが、これほどおあつらえ向きの相手はいないだろう。

 

《ドラゴンスレイヤー》なんて、なかなかかっこいい二つ名ではなかろうか。

 

「メア。俺は今日、こいつを狩る」

 

「無理では?」

 

「もうちょっとマスターを信じるとかないわけ?」

 

 すまし顔のメアを連れ立ってギルドを出る。

 とにかく、だ。俺は今日、ドラゴンを討伐する。

 

 ダンジョンでみたメアの実力は本物だ。彼女ほどの力があれば、ドラゴンを足止めすることだって可能だろう。

 その間に狙撃位置につき、俺がドラゴンを射抜く。

 

「待ってるよ、俺の明るい未来……! 英雄となって、モテまくるぞぉ……!」

 

 

 なお、ここまでが冒頭に繋がる回想でした、まる。

 

 俺のモテモテ未来を返せこの毒舌メイドォオオオオオオオオ!!!

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