アクア『領域展開』 作:初心者
二〇〇六年一月
呪術高専三学期始業日
新しい年を迎えたばかりの呪術高専の一年生の教室に夜蛾の低く重みのある声が響く。
「――以上が新学期の通達だ。それから、本日付で新しい保健医が赴任した。紹介しておく」
「新しい保健医?聞いてたか?傑」
「いや私も初耳だ。硝子は」
「あーなんとなく誰かは想像つく」
「オイ硝子知ってんのかよ?なんでオレらに言わなかったんだ?ひょっとして前に見た奴らの一人か?」
「えー、だってお前ら任務でいなかったし。わざわざ連絡するようなことでもないし」
「静かにしろ!」
夜蛾の叱咤が飛び、流石に三人は口を閉じる
「それでは紹介する。新しく保健医に就任された
雨宮吾郎先生だ」
身長180ほどの眼鏡を掛けたアラサーの優男が教室に入ってくる
「どうもはじめまして、家入さんは久しぶりって言うほどでもないかな。本日付で呪術高専保健医に就任した雨宮吾郎です。よろしくお願いします」
───あんときの奴らとは別口か……にしても
「雨宮先生〜硝子とはどういうご関係で?」
五条は好奇心丸出しの質問をする。もっともサングラスをズラし『六眼』で雨宮吾郎という男の術式を解析し、自分の中で答えを出していたが
───なるほどね。こんな術式持ってりゃ、硝子と関わるのは道理だ。が、それ以外に何か面白い『裏』があるのかな?
「えー五条悟君でいいのかな?」
「イエス」
「保健医だからね。就任前に顔を合わせたことがあるんだよ。彼女も反転術式が使えるからね」
───予想通りすぎてつまんねー
何の『裏』も無い返答に五条が顔に「分かっちゃいたけどつまらねー答え」と書いた表情で突っ伏すのを横目に
「彼女も、と仰いましたが反転術式が使えるということでしょうか?」
夏油は礼儀正しいがどこか試すような口調で質問をする
「夏油傑君だね。その通りだ。反転術式も使えるよ」
と言いながら吾郎は反転術式を習得した経緯を思い出す
──────
伏黒京香の脚の治療をした次の日
薬王薬上菩薩印
『『領域展開』』『『陰陽施寮』』
回復したアクアと吾郎は自身の領域の機能を改めて調べるため領域を展開していた
「これ検査施設いらないんじゃないかな?内蔵されてるだろ」
一通り領域を確認した吾郎のコメントに
「……だな」
アクアは同意する
───思った以上にしっかり病院だ。まさか検査施設まで一通りあるとはな
《二人掛かりで術式がここまで変質するか、まさか病院丸ごと建てるとはな。事前に報告されてはいたが実際に見ても信じられないな》
車椅子に乗り甚爾に押され、天元が呆れたような声を上げながら病院と化した領域に入ってくる
病院という領域の特性からか吾郎とアクアの領域は外から入ることは簡単であった
前日のアクアと吾郎の話を聞き、領域の特性を調べるために天元は直接乗り込むことにした
「検査施設要らなくねーか?」
《高専内に診療所は建てるのは確定しているからな。発注済みの検査機材もそちらに納入すれば良い。雨宮吾郎や伏黒京香の職場となる訳だしな……さて、せっかくなので事前検査を済ませてしまう……というのはどうかな?》
と天元が提案し三人は付き添いながら領域内の検査施設を一通り試した。
《しかし二人掛かりの時は問題無いが、一人の時の術式性能の低下は少々心配だな》
検査が終わり領域を解いた後、天元は懸念点を口にする
「どうすればいいと思う?」
長時間維持した領域を解いた直後で少々疲弊したアクアの顔を見て甚爾はふと思い出したことがあり問い掛ける
「そういや京香を治した後、俺の痛めた身体を治したよな?領域の外だった上に領域解いた後で術式焼き切れてたはずだが……ありゃ反転術式か?」
「え?あー治したのは覚えてるけど……何したかは覚えてないな……反転術式って呪力を反転させて治療に使える正のエネルギーとかいうやつだろ?」
天元様の授業でやったなとアクアは思い出していた
《反転術式か。あるいは領域外での術式の部分行使という可能性もあるか……時間もあるし挑戦してみるか?》
「「やってみます」」
二人は術式の弱体化を補うため年末年始は反転術式と術式の部分行使の習得に費やしていた
─────
───結局僕は反転術式とそれを他人に掛けることしか習得出来なかったな……アクアは一応部分行使も成功してるのに……
と吾郎は軽く凹んでいた
二人共術式の特性ゆえか、割とあっさり反転術式を習得し、アウトプットも出来るようになっていた
「『六眼』持ちの五条悟君なら分かるんじゃないかな僕の術式」
敢えて自身の術式を印象づけるため五条に質問する
事前に『六眼』と接触することで万が一アクアと接触しても良いようにと天元から保健医の仕事を斡旋された吾郎
───ここで印象づけておけば、仮にアクアの術式を視られても同じ術式持ちだから自分が指導していると言い訳がたつ
「『心霊施術』だろ。激レアだ。下手すりゃ俺の『無下限呪術』よりな」
あっさりと自身の術式を看破された上で思った以上に評価され動揺する
「さ、流石にそれは過分な評価だと思うよ」
───本当に術式を診断出来るのか……アイには会わせられないな
「さて、紹介はすんだ。我々は打ち合わせがあるので職員室にいく。雨宮先生」
「分かりました夜蛾先生。では皆さんこれからよろしく」
雨宮と夜蛾が退室した後
「悟『心霊施術』ってのはそんなに珍しい術式なのか?」
「いや実のところ術式自体はそこまでレアってわけじゃない」
「は?君さっき激レアだって言ってなかったか?」
「傑、『心霊施術』ってなピンキリなんだよ。人体を少しすり抜けるだけだったり、反転術式の劣化版にもなれないようなガラクタがほとんどだ。詐欺師や宗教家にゃ需要があるだろうがな。要するに偽モンばっかりだ」
「雨宮先生は違う……と?」
「そのへんの有象無象とはレベルが違う。それこそ4級と特級ぐらいな」
「……」
「そんな『本物』の『心霊施術』持ちはそれこそ云百年に一人レベルだ。少なくとも記録上はな。家でそんな話を聞いた覚えがある……けど違和感がな」
「違和感?」
「なんつうかな。元あったものが薄くなった?ような違和感がな……それに」
「それに?」
「そんなレベルの術式持ちが今まで……あの年齢まで見つかっていなかったのはおかしい」
「……なるほど……確かにきな臭いね」
「あーその事情は知ってる」
家入がシリアスぶっているアホ共に冷や水をぶっかける
「「知ってるのか(よ)!?」」
事前に吾郎と接触していた家入は聞かされた事情を二人に話す
「頭打って死にかけて記憶喪失だったらしいんだけど、それ以来呪霊が視えるようになって、記憶が戻ったら術式が使えるようになったんだって、だから実際に術式を使えるようになったのは最近らしいよ」
「……そんなことがあるのか?」
「……死にかけて呪霊が視えるようになることはあるのは分かるが……記憶が戻ったら術式が使えるようになるか?」
「術式は脳から出力されるものだし、有り得なくはないでしょ」
まあ流石に……と家入は軽く肩をすくめ、煙草を取り出しながら
「かなり特殊な事例だから呪術高専で預かって様子見することになったんだって、医師免許持ちの医療系術式で反転アウトプット使いなんて激レアな人材だから。私としても負担減るからありがたいし」
と煙草に火を付ける
「なるほどね……っていうかそんな話なら連絡しろよ!わざわざ連絡してもいいことだろ!?」
「悟の言う通りだ硝子。割と重要な話じゃないかな?」
と夏油が指摘した所に───
静かな筈の呪術高専にけたたましい音が響き渡った
「うるせー!何だ一体!?」
「何だ!?この音は!?」
「熱っつ!?」
五条は耳を塞ぎながら窓から外を覗き、夏油は驚きながら臨戦態勢を取り、家入は驚いて落とした煙草で火傷した
─────
一方その頃夜蛾と雨宮は
「さて雨宮先生。天元様肝入りの診療所が建つまでの間、保健医として硝子の指導をしてくれるという話だったな」
「ええ夜蛾さん改めてお世話になります。と言っても反転術式は彼女の方が使いこなせてると思いますが───」
と職員室で打ち合わせをしていた所に───
けたたましいバイクのエンジン音がこだまする
バイクに乗っているのは女性であった
その女性はバイクを職員室の近くに止めると凄まじい剣幕で怒鳴り込んできた
「特級術師の九十九由基だ!今すぐ薨星宮に入らせろ!!天元に用がある!!!」
羂索についてですが吾郎の身体は狙いません
真人という上位互換がいるというのもありますが
現時点では反転術式のアウトプットが出来る医者がいるという話が先行しているだけ
心霊施術は類似したものが割とあるためそれほど話題にならない
『本物』と知れ渡った場合でも上層部が騒ぎ出す
4話で天元が反応したのは『本物』と言っていいレベルだったから
裏設定
ルビー実は星漿体適性あり
それを活かすために
アクアが術式覚醒もアイの蘇生失敗→甚爾と合流せず→天元施術失敗→甚爾により天内死亡→ルビーをアクアが施術し星漿体適性引き上げ→天元と同化→アクア、ルビー(天元)を守るために呪術師に
なんていうルートも考えていました
流石に没にしましたが