アクア『領域展開』 作:初心者
今回かなり時間が飛びます
二〇〇六年五月末
伏黒甚爾は有給休暇を取り、妻京香とともに京香の母方の祖母の家に来ていた。
理由は
「は、はじめまして!京香さん!ふ、伏黒津美紀です!」
年齢にそぐわない早熟な態度に、京香はしゃがみ込み津美紀に目線を合わせて微笑みかけながら話し始める
「フフフ、あなたは覚えてないと思うけど、実は赤ん坊の頃にあったことがあるのよ?だから、お久しぶりね。津美紀ちゃん」
京香の温かな仕草を見て、少し緊張が解けた津美紀はより自然な笑顔を見せる
「はい!お久しぶりです」
京香の遠縁の親戚『津美紀』の養子縁組のためである
津美紀の母親が津美紀を祖母の家に預けて(実際には捨ててと言って差し支えないレベルであったが)行方不明になった。それにより身元を引き受けることとなった。
なお、この話は呪術高専からもバックアップを受けている。伏黒甚爾の本来の仕事はアクアの護衛。表向きは苺プロ所属のアクアのボディガードスタッフ兼マネージャーと言う身分である。それにプラスして呪術高専の非常勤講師という職を今回与えられていた。
要因は
───京香の従姉妹が行方不明になったのは呪霊被害。ならほぼ確定で死んでるだろうな
呪術高専に来た呪霊被害と思わしき行方不明者のリスト。その中に津美紀の母親、京香の従姉妹の名があったからである
京香が甚爾経由で身元確認を打診され、確認を取った。(といっても死体は見つからず、この名前の親戚がいるかどうかを聞かれた)
その結果、恵の再従姉妹である津美紀を自分達で引き取れないか?と京香から提案されたからである。
津美紀は恵の一つ上であり、アクア、ルビーと同い年。伏黒家は苺プロの事務所の上にあるマンションのファミリー向けの一室に引っ越しており、部屋も空いている。収入も安定しており、生活に余裕があった。
現在の京香は恵とルビーの幼稚園への送迎など子供の世話をアイやミヤコと共に引き受けている。苺プロにも津美紀を引き取って良いのかと話をして許可を取り。社会的な信用は呪術高専が用意したため、養子縁組は問題無し。全ての手続きを済ませ、今日迎えに来た。と言うわけである。
「甚爾くん。ありがとう」
「ガキ一人増えるだけだ。気にすんな」
──────
二〇〇七年四月
五条、夏油、家入は三年生に、七海、灰原は二年生に進級し、一年生に伊地知潔高入学。
アクア、ルビー、伏黒津美紀が幼稚園年長、伏黒恵が年中に進級
夜蛾正道が呪術高専東京校学長に就任
伏黒甚爾がアクア、天元の護衛以外に呪術高専非常勤講師に正式就任。
担当は体育という名の術式無しの組手と対術師、対呪詛師対策及び呪術史という名の禪院家の愚痴と呪術界の上層部がいかにクソかを吹き込む授業を担当
去年頻繁した災害の影響により蛆のように呪霊が湧く
呪術師にとって忙しい年度が始まった
──────
二〇〇七年八月
それはなんてことはない二級呪霊の討伐任務のはずだった。
それが実際には産土神信仰により、土地神と化した一級呪霊という等級詐欺と言える任務に化けた。
派遣されたのは二級術師の七海建人と同じく二級術師の灰原雄。本来ならどちらか、あるいは両方が殉職してもおかしくない相手。
七海と反転術式を習得した灰原は自身のキズを治しながら粘り強く戦い続けた。だが、相手は一級呪霊。それも土地神化しており、一級呪霊の中でも上澄み、特級呪霊に片足を突っ込んでいると言っていい存在。徐々に劣勢になり、追い詰められていた。
疲労により動きが鈍った七海が強烈な一撃を食らい、木に叩きつけられ、更に追撃で左腕を貫かれる。
「グッ……あ゛っ」
左腕を貫かれたまま呪霊に投げ飛ばされ、左腕が引き千切られながら地面に叩きつけられる七海。意識が飛びかけ、手から力が抜け、武器である鉈を取り落とす。
「七海!」
七海を庇いながら戦っていた灰原だったが、七海の抜けた穴は大きく、強烈な一撃で両腕を砕かれた灰原は呪霊に捕縛され、喰われかける。
「クソッ……!灰原ァ!!」
左腕を引き千切られた出血により意識が朦朧とする七海だが、灰原が捕まり喰われそうになるのを見て、怒声を上げ、残る右腕で鉈を拾い、灰原の名を叫びながら呪霊に飛びかかる。
灰原は
───このままだと飲み込まれて僕は死ぬ。次は七海だ。こうなったら一か八か。全力で───
と呪霊の口内で賭けに出る
一年以上前に習得した反転術式。そのアウトプット。反転術式により生成された正のエネルギーは呪霊への特効。それを呪霊の体内に全力で叩き込む。
左腕を欠損し、出血による死を感じる七海は残った右腕で鉈を構え、呪霊に決死の突撃を敢行する。十劃呪法により作り出した七対三の弱点を狙い定め、全力で防御を考えていない捨て身の一撃を叩き込もうとする。
呪霊が七海に迎撃しようとするが、
灰原の一か八かの賭けである反転術式のアウトプットによって正のエネルギーを流し込まれ、体内から身体の一部が弾け飛ぶほどの深刻なダメージを食らい動きが止まる。
───!今だ!!
七海の渾身の一撃が呪霊の胴体に叩き込まれ───
黒い稲妻が奔る
『 黒閃 』
灰原の反転術式により、弱っていた呪霊は七海の黒閃がとどめになり
ザフッ
という音とともに呪霊が崩れていく
「な、何が……」
黒閃を放ち、呪霊を祓った七海。初めての黒閃を体験し呆然とする。そこへ───
「イダッ」
呪霊に捕縛され喰われかけていた灰原が呪霊が祓われたことで、拘束を解かれ落下し、背中を強打する
「灰原!」
黒閃の余韻と一級呪霊を祓ったという衝撃から灰原の悲鳴で現実に戻る
「グッ……なんとか……生きてる。七海は……?」
「左腕以外はあなたの方が重傷です。それに……先程黒閃が出ました。そのおかげか呪力操作で出血を止められるようになりましたので、今すぐ死ぬことは無いと思います」
鉈を仕舞い片腕で灰原を抱き起こしながら
「ぐ……。あ……。痛たた……。すごいね。七海は……あんなの祓うなんて……」
「灰原があの呪霊の中でも諦めずに何かしたのでしょう?そのおかげです」
背中を強打した以外にも呪霊に捕縛され喰われかけていたことにより、両腕と右足の骨が砕かれた上全身傷だらけの灰原。
更に反転術式による正のエネルギーを呪霊の口内から全力で流し込んだ結果呪力切れを起こしていた。
本来ならば等級詐欺により、死んでもおかしくない任務から辛うじて生還した二人
片腕を欠損した七海と左足以外にもあちこち骨が砕かれていた満身創痍の灰原は、知らせを受け派遣された家入が、呪術高専までの中間地点で合流。応急処置を施し、二人の命を繋ぎながら呪術高専に帰還。
補助監督に連絡を受け、待機していた吾郎とアクアの領域展開での治療により、その日のうちに回復され五体満足に復帰していた。
そして黒閃を経験し、呪力操作が向上した七海は、吾郎とアクアに反転術式の強制施術を頼み習得。
灰原は反転術式のアウトプットを攻撃転用することに可能性を感じ、その技術に磨きをかけることにした
二〇〇七年九月
■■県■■市(旧■■村)
任務概要
村落内での神隠し、変死
その原因と思われる呪霊の祓除
担当
高専二年
七海建人
灰原雄
神隠しの原因となっていた準一級クラスの呪霊を二人がかりで祓ったあと村人に一連の事件の犯人を捕まえていると案内される
怪訝な表情を浮かべながら呪詛師でもいるのかと思いながら着いていく七海と灰原
そこで二人は呪霊より醜悪な人間の悪意を目の当たりにする
「これは一体……何をしているのですか?」
檻に入れられている二人の子供がいた。まだアクアと同い年くらいと思わしき茶髪と黒髪の少女。二人ともかなり痛めつけられていてボロボロだった。特に黒髪の少女の怪我が酷く気を失っており、茶髪の少女は黒髪の少女を庇うように抱きしめていた。
「何とは?この二人が一連の事件の原因でしょう?」
村人の男がさも当然のことといった口調で主張する
「違います」
怒りを堪え、七海が否定する
「この二人は頭がおかしい、不思議な力で村人を度々襲うのです。」
「事件の原因はもう私達が取り除きました」
「私の孫もこの二人に殺されかけたことがあります!!」
「それは、あっちが」
ここに案内して来た村人達の主張に意識のある茶髪の少女が反論しようとするが
「黙りなさい化け物め!!」
村人が怒鳴り散らし、反論を封殺する。あまつさえ
「あなた達の親もそうだった!やはり、赤子の内に殺しておくべきだった!!」
と聞くに耐えない暴言を吐き捨てる
「もう結構です……!!」
怒りを我慢出来なくなった七海は檻の前に立つ。怒りを呪力に変換し、気持ちを落ち着けると茶髪の少女に出来る限り柔らかい表情を作り優しく声をかける。
「危ないですから、そのまま動かないでください」
漲る呪力を存分に術式に流し込み、檻を粉々に破壊する。
同じくあまりにも怒りをため込みすぎて、口を開きたくなかった灰原は、何か言っている村人達を無視して七海が破壊した檻の中に入る。二人の少女を抱きしめ、安心するように声をかける。
「大丈夫。僕達は敵じゃない。君達を安全な所に連れて行くから」
檻を破壊し、少女達を解放した七海と灰原は、それぞれ少女を一人ずつ抱えて、背後で喚き散らしている村人達を尻目に補助監督の運転する車に乗り込み、呪術高専に連絡を入れる。
「■■村で虐待されていた呪術の素養のある少女二人を保護しました。雨宮先生に治療の準備をしておくよう伝えてください」
「……たすけてくれるの?みみこもたすかる?」
意識のある茶髪の少女が七海に抱きつきながら声をかける
「ええ、もちろんです」
七海は少女が安心出來るように笑顔で肯定する
「君の名前は?」
「はさばななこ」
「ななこさんですね。では君が先程言ったみみこというのはあちらの子のことですね?」
「うん」
「……七海、こっちの黒髪の子───みみこちゃんのキズがかなり酷い。反転術式を使うけど良いよね?」
「構いません。なんとしても、呪術高専まで持たせてください。雨宮先生なら必ず治療してくれるはずです」
一月前、自分達の重傷を治した吾郎とアクアに絶対の信頼をおく言葉を七海は告げる。
「そうだね」
灰原は言葉少なに同意する。
反転術式を使い、二人の少女の怪我を出来る限り癒やしていく。彼女達を助ける前、神隠しの呪霊を祓い、消耗していた。
だが、目の前の少女達を見ていた哀しみ、そしてその惨状を作った村人達への怒りが、七海と同じく灰原の呪力に燃料を与えていた。
呪術高専到着
時間は深夜。残念ながら、まだ五歳のアクアに連絡し、呼び出すことは出来ず、吾郎一人で治療をする形になる。
本来、天元の検査に使う予定だった施設を転用した診療所の検査装置の一部を使い、二人の少女の検査を行なう
───アクアがいれば……いや、深夜に呼び出すのは流石に不味い……。アクアがいない状況でも十全に治療が出来るようにしたいがどうすればいい……。いっそ領域を展開しっぱなしに出来ればいいんだが……。
アクア不在による無力感と自身の力不足を嘆きながら、反転術式を使い治療をしていく、特にここに来るまで意識の戻らない黒髪の少女を重点的に治療をする。
検査で確認した外傷を反転術式で治療しきる。
幸い二人とも脳に異常はなく、黒髪の少女が目を覚まさないのは過労と精神的な消耗が原因と診断し、保健室のベッドに寝かせておく
「じゃあ後は僕に任せて君達も部屋に戻りなさい」
と吾郎は七海と灰原に声をかけるが
眠っている茶髪の少女が七海の服を掴んで離さずにいた。それが意味する所が分かっている七海は
「……いえ、私が付き添っておきますので、雨宮先生は休んでください」
と、茶髪の少女の心情を慮り、自分が残ると静かに主張する。七海の眼には絶対に譲らないという意思が見えた
「僕もいます。彼女が目を覚ますまで見守りたいと思います。雨宮先生ありがとうございました」
黒髪の少女が意識を取り戻すまでここにいると灰原にも七海と同じ譲らぬ意思が眼に宿っていた
何があったか、何を見たのか、ある程度報告を受けていた吾郎は彼等の心情を理解出来ていた
───彼等にとっての彼女達は、僕にとってのさりなちゃんに近いんだろうな……そしておそらく彼女達もさりなちゃんにとっての僕みたく彼らを見ているのかもしれないな
高専二年生にはあまりにも酷な現実を目の当たりにした二人にとって少女達は必ず救われなければならない存在だった
「はぁ、分かった。仮眠用にベッド持ってくるから、眠くなったら隣で寝なさい。但し、僕も付き合う。明日……いや、もう今日か……。朝、アクアが来たらあらためて治療しよう」
──────
そして
「枷場美々子です」
「枷場菜々子です」
ルビー、津美紀、恵そしてアクアが通う幼稚園(なおアクアはたまにしか通園していない)に新しい仲間が加わることになった
原作との違い
甚爾が妻を亡くしておらず、津美紀の母親と出会わなかったため呪霊被害にあって死亡した。結果、遠縁の親戚として養子縁組に
原作で甚爾が津美紀母に婿入りした理由は死んだ恵の母親と同じ苗字だからとか考えたりもした
灰原死亡回避
術式持ちにしようか迷ったが術式無しに
下の没ネタや反転術式のみで効果を発動する術式とか考えたが思いつかなかった
切り札は反転術式のアウトプットの攻撃転用
といっても一級呪霊は祓いきれないレベルの出力
原作では夏油闇堕ちの枷場姉妹の一件は七海と生きている灰原のコンビが受ける形に相手は準一級呪霊を想定。黒閃経験した七海と灰原の前に割と祓われた
七海や灰原がアクアの名前を呼ばない理由は『縛り』を警戒して念の為
灰原の術式没ネタ
灰操呪術
灰を操る術式
操る灰をどう持ち歩くか
灰の質に左右される
親族の遺灰が一番相性が良い
まで考えて呪詛師向きじゃ?と考え没
念動呪法
典型的な超能力っぽい術式
物体を浮かせてぶつける
七海の瓦落瓦落(がらがら)と相性が良い
『Q』のバイエルと被りそう。あっちはナイフを飛ばしていたので金属を操るタイプかもしれないが
運用を考えた結果劣化五条、劣化無下限みたいになりそうだから没
実はファンパレで灰原の術式が出るかも。と期待していて、それを待ってこの作品を書くつもりだったのですが。
二周年まで待っても来なかったので書き始めました
感想評価誤字報告ありがとうございます