その騎士は、沈みゆく夕日を背負い、辺境の街道を歩んでいた。
かつては神の街を照らしたであろう黄金の鎧は、今は煤け、あちこちが黒ずんでいる。獅子の兜の房毛は色褪せて久しく、マントはボロボロの端切れと化していた。だが、その一歩一歩が地面を叩く音だけは、地響きのように重く、そして確かだった。
「……火の無き空。どこまで行こうと、変わり映えはせぬか」
男――オーンスタインは、獅子兜を脱いで小脇に抱え、赤い髪を風に靡かせた。
顔には数多の戦線を潜り抜けてきた深い皺(しわ)と、数箇所の古い傷跡。その瞳は理知的でありながら、どこか遠い時代を懐かしむような寂寥感を湛えている。
ふと、街道脇の背の高い草むらが揺れた。
嫌な、腐った泥のような臭いが鼻を突く。
「……ギギッ、ギィッ!」
茂みから躍り出たのは、三匹の小鬼(ゴブリン)だった。
新米冒険者ならそれだけで命を落としかねない、卑劣な不意打ち。錆びた短剣を構え、黄金の獲物に向けて跳躍する。
オーンスタインは足を止めなかった。
視線すら向けない。
背負った十字の長槍――布で厳重に巻かれたその獲物を、彼は抜かなかった。
ただ、最短の動作で身を屈め、槍の「石突」を背負ったままの軌道で後方へ突き出した。
「――邪魔だ」
鈍い破壊音。
先頭の一匹の喉笛が砕け、小鬼は声も出せずにもんどり打って倒れる。
着地しようとした二匹目に対し、オーンスタインは槍の柄を支柱にするようにわずかに身を翻し、重装甲とは思えぬ鋭い後ろ蹴りを放った。
金属の足甲に包まれた足が、小鬼の胴体を真っ二つに折らんばかりの勢いで吹き飛ばす。
最後の一匹は、仲間の無惨な死に一瞬だけ硬直した。
その隙に、オーンスタインは踏み込んでいた。
「完スト」――かつて彼がいた世界で囁かれた、極限の練達。
それは、敵が何をしようとしているかを「知っている」者の動きだ。
小鬼が短剣を振り下ろすより速く、オーンスタインの大きな掌が、小鬼の顔面を鷲掴みにした。
「ガ、ギィ……ッ!?」
そのまま、無慈悲に地面へと叩きつける。
派手な爆発も、雷の残光もない。ただ、一切の無駄を削ぎ落とした、暴力的なまでの「効率」だけがそこにあった。
「……錆びている。魔物も、この世界の空気もな」
オーンスタインは、手に付いた僅かな汚れを拭いもせず、再び槍を背負い直した。
足元に転がる小鬼たちの体から、薄汚れた灰のような霧――この世界の者が「魂(ソウル)」と呼ぶことのない残滓が、微かに彼の掌へと吸い込まれていく。
再び獅子兜を被り、首元の金具をカチリと閉める。
煤けた黄金の騎士は、再び無機質な「獅子」へと戻り、街道の先に見える街の門へと歩みを進めた。
門番の兵士たちは、夕闇の中から現れたその巨躯に、槍を構えることすら忘れて立ち尽くした。
「旅の者だ。……宿と、火を借りたい」
兜の奥から響く、重厚で理知的な声。
それが、神々のダイスが支配するこの世界に、決して制御できない「異物」が降り立った最初の瞬間だった。
その内白霊とかも出すかどうか
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出せ
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出すな
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闇霊なら許す
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白も闇も出せ