竜狩りと辺境の街   作:もいもい130

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第18話

氷の離宮。その深奥へと続く回廊は、かつての神々の時代、王の四騎士の一人として歩んだオーンスタインにとって、あまりに悍ましく、歪な変貌を遂げていた。

 

壁を覆う壮麗な浮き彫りは、小鬼たちが塗りたくった不浄な泥と汚物で覆い隠され、清浄であったはずの空気は、深淵の闇が放つ腐食の臭気によって重く淀んでいる。

背後からは、絶え間なく小鬼たちの絶叫と、鉄が肉を断つ鈍い音が響いていた。

 

ゴブリンスレイヤーは、離宮の入り口から湧き出す雑兵を食い止めるべく、その場に踏みとどまっている。

彼はオーンスタインに向かって一度も視線を向けなかったが、その背中は「余計な心配をせず、奥へ行け」と無言で告げていた。

 

「……待たせたな」

 

オーンスタインは、大広間の最奥、巨大な黒鉄の扉の前に立ち、低く呟いた。その扉の先からは、かつて彼が聞き慣れた、重厚な金属の擦れる音が聞こえてくる。だが、それはもはや規律正しく王都の安寧を守る音ではなく、主を失い、闇に狂わされた残滓が発する、呪詛のような軋みであった。

 

黄金の騎士が両手で扉を押し開くと、そこには極寒の吹雪さえも届かぬ、灼熱と闇が混ざり合う空間が広がっていた。広間の中心に、その「巨人」は立っていた。

かつてアノール・ロンドの正門を固め、いかなる侵入者も許さなかった巨人兵。

しかし今、その真鍮の鎧は黒ずみ、隙間からは赤黒い人間性の煤が煙のように立ち昇っている。巨人の手には、岩をも粉砕する大槌と、城門をそのまま切り出したかのような大盾。その大盾の表面には、かつて彼らが誇りとした黄金の意匠が残っていたが、今は小鬼たちの下卑た血印によって汚辱されていた。

 

「ギ……ガァァァァァ……!!」

 

巨人兵の兜の奥から、魂の呻きが放たれた。

かつての主君の側近、オーンスタインの姿を認めたのか。それとも、ただ目前のソウルを求めて動いているのか。

巨人はその巨大な大槌を無造作に振り上げ、オーンスタインへと一歩を踏み出した。

その足音だけで離宮全体が地震のように揺れ、天井から巨大な氷柱が降り注ぐ。

 

オーンスタインは、十字槍を両手で深く握り直した。仮修復によって取り戻された黄金の雷光が、槍の刀身を激しく走り、広間の闇を白銀に染め上げる。

 

「……貴公ほどの戦士が、このような狭い離宮で、あやつら矮小なる獣に傅(かしづ)くか。……いや、もはや言葉は不要であったな」

 

巨人が大槌を振り下ろした。爆鳴と共に石畳が粉砕され、衝撃波がオーンスタインを襲う。

彼はそれを跳んで回避するのではなく、あえて一歩踏み込み、槍の柄でその衝撃の余波を「いなした」。

巨人の力は凄まじいが、そこに、かつて王都を守護していた頃の洗練された武はない。あるのは、深淵に突き動かされるままの、剥き出しの破壊衝動のみ。

オーンスタインは、巨人が大槌を引き戻す一瞬の隙を見逃さなかった。

 

「――おおぉぉっ!!」

 

腰を低く落とし、全身のバネを穂先に集中させる。槍の十字の刃が、弾ける雷の音と共に黄金の光を帯び、螺旋を描くような鋭い刺突となって放たれた。

 

ドォォォォォン!!

 

雷光を纏った一撃が、巨人兵の大盾の中央、ちょうど小鬼たちが描いた血印を穿ち、背後の鎧までをも貫通した。雷の衝撃が巨人の体内へと奔り、黒い煙が傷口から激しく噴き出す。巨人はよろめき、片膝を突いた。

だが、巨人は倒れない。深淵の闇に侵されたその肉体は、致命的な損壊を受けてなお、死を拒絶して動き続ける。

巨人は盾を捨て、両手で大槌を握り直すと、死に物狂いの横薙ぎを繰り出してきた。

 

「……永すぎた。貴公の旅も、そして私の旅も」

 

オーンスタインは、冷徹なまでに静かな呼吸で、迫りくる大槌の軌道を見切った。

彼は槍を短く持ち、巨人の懐へと潜り込む。

これより先は、もはや戦闘ではない。それは、神代の理を知る者が成すべき、悲しき「葬送」であった。

 

広間の隅では、ゴブリンスレイヤーに討ち漏らされた小鬼たちが、恐怖に震えながらその光景を見守っていた。彼らにとっての絶対的な守護神であった巨人が、ただ一人の騎士の手によって、完膚なきまでに「解体」されていく様を。

 

オーンスタインは再び槍を長く構え、巨人の喉元を真っ向から見据えた。彼の背後に、かつてのアノール・ロンドの夕映えが幻視される。

 

「眠れ、王の番人よ。不浄の地にて汚されたその名、私が、雷(いかずち)と共に清めてやろう」

 

十字槍が、これまでで最も強く、そして暖かな黄金の光を放ち始めた。

 

その内白霊とかも出すかどうか

  • 出せ
  • 出すな
  • 闇霊なら許す
  • 白も闇も出せ
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