竜狩りと辺境の街   作:もいもい130

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第20話

辺境の街を背にし、街道を一人歩むオーンスタインの姿は、冬の陽光に照らされて長く、孤独な影を石畳に落としていた。

背負った十字槍の重みは、彼にとって苦痛ではなく、むしろこの不確かな世界において唯一信頼に値する重力であった。街の門を出る際、かつて死線を共にした鉄兜の狩人、ゴブリンスレイヤーとの再会の約束も、別れの言葉もなかった。それは互いに、成すべき事の果てが異なることを理解していたが故の、静かな決別であった。

 

彼は街道から少し外れた、見晴らしの良い小高い丘の上で足を止めた。

懐から取り出したのは、雪山の離宮で命を散らした巨人兵の、あの黒ずんだ大槌の破片だ。かつて真鍮の輝きを誇ったそれは、今や見る影もなく煤け、掌の中で不気味な冷たさを維持し続けている。オーンスタインが槍の石突をその破片にそっと近づけると、目には見えぬほど微かな、しかし騎士の魂を震わせるような「闇の煤」が、南西の方角――かつての古戦場跡が広がる荒野へと向かって、蛇のように這い出していくのが見えた。

 

「……やはり、ここだけではないか」

 

オーンスタインは独り、獅子兜の奥で呟いた。

深淵の闇は、雪山の頂にのみ留まるものではなかった。

それは大地の血管を伝うようにして、人々の気づかぬ足下を侵食し、かつての戦友や、この世界の住人たちの魂を苗床にしようとしている。彼は槍を握り直し、破片を再び懐の奥深くへと仕舞い込んだ。

これより先は、ギルドの依頼も、誰かの助けもない。

ただ、神代の光を継ぐ者としての、孤独な断罪の旅が始まる。

 

街道を進むにつれ、辺境の街の活気は遠ざかり、代わりに荒涼とした原野が広がり始めた。

この世界における冬の終わりは、生命の息吹よりも先に、湿った土の臭いと、冷たい風の唸りをもたらす。

オーンスタインは、道中に出会う行商人の馬車や、遠くに見える小さな村落には目もくれず、ただひたすらに南西を目指した。彼の黄金の甲冑を、通りすがる旅人たちは畏怖と好奇の目で見つめるが、その視線が彼に届くことはない。

 

夜が訪れると、彼は道端の大きな岩陰に腰を下ろし、仮初めの休息を取った。火を焚くことはしない。十字槍から漏れ出す黄金の火花が、彼の周囲の闇を微かに、しかし清浄に照らし出しているからだ。彼は瞑想の中で、かつてアノール・ロンドの夕映えの下で行われた、四騎士の会合や、王から授かった使命を反芻していた。

あの輝かしい日々は、今や遠い異空の記憶だ。しかし、彼が纏う鎧に刻まれた傷跡と、この槍が宿す雷の痛みだけは、彼が何者であるかを刻一刻と刻み続けている。

 

ふと、闇の向こうから、不浄な気配が漂ってきた。それは小鬼たちの持つ下卑た悪臭に、あの雪山で感じた「人間性の煤」の腐食臭が混じった、吐き気を催すような臭気であった。オーンスタインは静かに目を開け、槍を手に取った。

 

「……夜の静寂を汚す輩がいるようだな」

 

草むらを掻き分け、姿を現したのは、数匹の小鬼であった。

だが、それらは辺境の街周辺で見かける個体とは明らかに異なっていた。皮膚は闇を吸い込んだように黒ずみ、血管が紫色に浮き出て、本来の彼らには不相応なほどの膂力がその筋肉に宿っている。

彼らの目は赤く濁り、獲物を見つけたというよりも、ただ破壊を命じられた人形のように、オーンスタインへと襲いかかってきた。

オーンスタインは、立ち上がることさえせずに槍を振るった。

 

「――無益だと言ったはずだ」

 

十字槍の穂先が、闇を切り裂き、黄金の円弧を描く。

一閃。襲いかかった小鬼たちの首が、音もなく宙を舞った。

だが、驚くべきことに、首を跳ねられた胴体から溢れ出したのは、鮮血ではなく、ドロリとした黒い泥のような煤であった。

その煤は地面にこぼれ落ちると、まるで生き物のように蠢き、再び一つの塊となってオーンスタインの足下へ這い寄ろうとする。

 

「……死してなお、理に従わぬか。ならば、根源から焼き払うまで」

 

彼は槍を垂直に立て、石突を強く地面に叩きつけた。

 

「雷の杭」――

 

かつて竜の鱗をも焼き切った黄金の衝撃が、彼を中心に波紋となって大地を駆け抜けた。

地面を這っていた黒い煤は、その清浄な光に触れた瞬間、悲鳴のような蒸発音を立てて消滅した。

後に残ったのは、ただの塵となった小鬼の骸と、焦げ付いた土の臭いだけだった。

 

オーンスタインは再び槍を背負い、夜の闇を見据えた。

この小規模な襲撃さえも、深淵がこの地を広く、深く侵食していることの証左に過ぎない。彼が向かうべき「南西の古戦場」には、おそらくこれとは比較にならぬほどの闇が、かつての死者たちのソウルを求めて口を開けているだろう。

 

「……王よ。私が最後の一人となろうとも、騎士の矜持を汚すことはありませぬ」

 

彼は誰に聞かせるでもなくそう誓うと、再び歩み始めた。夜の風が彼の獅子兜の飾りを揺らし、黄金の甲冑が月光を跳ね返す。

彼の行く先には、この世界の誰も知らない、神代の遺恨と異世界の闇が待ち構えている。

だが、オーンスタインの足取りに躊躇はなかった。一歩、また一歩と刻まれる彼の足跡は、世界の歪みを正そうとする、唯一の光の軌跡であった。

 

朝を迎え、地平線から差し込んだ陽光が、荒野を薄紅色に染め上げる。

オーンスタインの前方には、かつての戦乱の跡を今に伝える、折れ曲がった剣や盾が墓標のように突き刺さる「古戦場跡」が、霧の向こうに姿を現し始めていた。その中心で、一際濃い黒い霧が渦巻いている。彼は槍の柄を固く握り締め、その闇の深奥へと、迷うことなくその身を投じていった。

 

その内白霊とかも出すかどうか

  • 出せ
  • 出すな
  • 闇霊なら許す
  • 白も闇も出せ
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