北西の森は、昼なお暗い。生い茂る木々が陽光を遮り、湿った土と腐った落葉の匂いが立ち込めている。オーンスタインは、重厚な鎧の擦れる音を最小限に抑えながら、獣道なき森を静かに進んでいた。
(……風下から、泥と汚物の臭い。数にして、十、あるいはそれ以上か)
彼は足を止めることなく、背負った『竜狩りの槍』の布をゆっくりと解いた。
現れたのは、黄金に輝く巨大な十字槍。
それは、古の時代に「竜の硬い鱗」を貫くために鍛え上げられた業物だ。穂先は鋭く長く、その根元には獲物を絡め取り、時には薙ぎ払うための十字の横枝が備わっている。
「……ギィッ、ギギィ!」
頭上の枝から二匹の小鬼(ゴブリン)が飛び出してきた。
オーンスタインは仰ぎ見ることもなく、十字槍を垂直に掲げた。
鋭い穂先が小鬼を貫くと同時に、十字の横枝が肉を捉え、それ以上の侵入を拒む。彼はそのまま、重い槍を一本の棒のように力強く振り回し、石突に引っかかった小鬼を隣の木へと叩きつけた。
そのまま進むと、森の奥に崩れかけた石造りの礼拝堂が見えてきた。
入り口には、見張りの小鬼が数匹。オーンスタインは隠れることもなく、正面から歩み寄った。
「……ギギッ!? ギガァァッ!」
三十近い小鬼の群れが、一斉に襲いかかる。
オーンスタインは槍を腰の溜めに引き、独特の「構え」を取った。
次の瞬間、彼は重装鎧の重さを感じさせない鋭い踏み込みを見せる。
「突撃」
ただの刺突ではない。全身の体重と、永い年月で練り上げられた足捌きを乗せた、文字通りの肉弾突進。十字槍の穂先が先頭の小鬼を貫き、そのまま後方の仲間までをも巻き込みながら突き進む。
さらに、突き終えた勢いのまま、十字の横枝を活かして槍を横に一閃させた。
刺突武器でありながら、その横枝は周囲の小鬼をまとめて弾き飛ばし、骨を砕く重い打撃武器と化した。
「……脆い。亡者の亡骸の方が、まだ立ち上がる執念があった」
蹂躙、と呼ぶにはあまりに静かな光景だった。小鬼たちの死山が築かれようとした、その時。
――ドォォォォン!!
礼拝堂の奥、祭壇を破壊しながら、巨大な影が姿を現した。
三メートルを超える巨躯。狂気に染まった巨鬼(オーガ)だ。
「……ほう。少しは、骨のある者がいたか」
オーガが咆哮し、丸太のような腕を振り回す。
オーンスタインはそれを最小限の身のこなしで回避し、十字槍を再び低く構えた。
巨躯を誇るオーガであっても、この槍のリーチと、そして何より槍自体が帯びる「雷」からは逃げられない。
「――貫け」
鋭い踏み込みと共に放たれた刺突。
槍の自重を乗せた一撃は、オーガの胸板を容易く貫通した。
十字の横枝がオーガの肌に食い込み、それ以上の侵入を止めると同時に、巨体を物理的に固定して自分に近づかせないための楔となる。
オーガが苦悶の声を上げ、槍を掴んで引き抜こうとする。
だが、オーンスタインは槍を離さない。むしろ、より深く押し込んだ。
竜狩りの槍は、それ自体が雷を導く最高の触媒。オーガの体内へ、槍に宿る黄金の雷が流れ込み、パチパチと不気味な放電音が響き始める。
(……この程度の相手に、かつての奇跡を振るうのは惜しいが)
彼は槍をオーガの体に深く突き立て、固定したまま、空いた右拳を固めた。
槍の十字の横枝に右手を添えるようにして、拳にソウルを凝縮させる。
拳には、凝縮された黄金の雷光。
槍を通じて敵の体内に直接、雷の奔流を叩き込む。
これこそが、古の竜狩りたちが巨大な獲物を内側から焼き切るために用いた術の片鱗。
「――寝ていろ、獣」
放たれる右拳。狙いは、槍の根元、オーガの胸板。
掌の中に黄金の杭が形を成し、爆発の時を待っていた。
その内白霊とかも出すかどうか
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出せ
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出すな
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闇霊なら許す
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白も闇も出せ