ギルドの喧騒は、オーンスタインが姿を現すたびに、波のように静まり、そして不自然な囁きへと変わる。
「オーガを仕留めた黄金の騎士」という噂は、彼を英雄に祭り上げるのではなく、むしろ周囲との壁を厚くしていた。
「……オーンスタイン様。昨日の件、ギルド内で審議が行われましたが……」
受付嬢は申し訳なさそうに、磁器の札――白磁等級のカードを彼に返した。
「……結果は、据え置き。あるいは、次回の依頼達成を見て『黒曜』への昇級を検討、ということになりました。……すみません。やはり、実績の期間が短すぎるとの判断で……」
「……構わぬ。位を求めて戦っているわけではない」
オーンスタインは無造作にカードを懐へ収めた。
彼にとって、この札の材質が変わるかどうかは些細な問題だ。
だが、ギルドという組織が彼を「得体の知れない爆弾」として扱っていること、そして銀等級という信頼の証が、この地では極めて重いものであることは理解した。
その時、ギルドの奥にある鐘が、鋭く三度鳴らされた。
緊急招集の合図だ。
「……北の炭鉱で、偵察に向かったパーティが二つ、消息を絶った。生存者の報告によれば、相手は小鬼(ゴブリン)ではない……『何か』だ」
ギルド職員の緊迫した声が響く。
炭鉱は街の貴重な資源供給源であり、そこが封鎖されることは死活問題だ。ギルドは即座に、近場にいた実力者たちへ「混成調査隊」の結成を呼びかけた。
「……おい、あんた。黄金の」
声をかけてきたのは、以前ギルドで彼に気圧された銀等級の戦士だった。彼は複雑な表情を浮かべながらも、重い剣を肩に担ぎ直した。
「……気に入らねえが、オーガを一人でやった腕は認める。今回の炭鉱、俺たちと組め。白磁のままじゃ、こんな大型の依頼は受けられねえ決まりだ」
オーンスタインは、獅子兜の奥で静かに目を細めた。
単独(ソロ)で動くのが彼の常だが、この地の「掟」がそれを許さない。そして、あの教え子のような新米たちがこれ以上死なぬためにも、元凶を絶つ必要がある。
「……よかろう。だが、足は引かぬことだ」
調査隊は、銀等級の戦士を筆頭とした五人のパーティに、臨時の助っ人としてオーンスタインが加わる六人体制となった。
そこには、あの鉄兜の男――ゴブリンスレイヤーの姿はなかった。彼は「小鬼ではない」という言葉を聞いた瞬間に、興味を失ったかのように別の依頼書を手に取っていたからだ。
一行が辿り着いた北の炭鉱は、不気味なほどの静寂に包まれていた。
入り口付近には、乗り捨てられた荷車と、引きずられたような血痕。
だが、そこにあるのは小鬼特有の腐った臭いではない。
「……焦げた、鉄の臭い。それに、これは……」
オーンスタインは、炭鉱の壁に刻まれた深い爪痕に触れた。
それは生物の爪ではない。もっと硬く、熱を帯びた、機械的な何かが抉り取ったような跡。
「……慎重に行け。暗闇の奥に、理の外の者がいる」
彼は布を解き、黄金の十字槍を構えた。
奥から響いてくるのは、不規則な金属音。
カチ、カチ、と。
まるで、ネジを巻くような、あるいは「亡者」が壊れた武器を引きずるような、不吉な音だった。
その内白霊とかも出すかどうか
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出せ
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出すな
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闇霊なら許す
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白も闇も出せ