炭鉱の最深部。松明の炎が、重く淀んだ空気にじわじわと侵食されていく。
銀等級の戦士が、震える手で壁の爪痕をなぞった。
「……小鬼(ゴブリン)じゃねえ。……ましてやオーガの仕業でもねえ。おい、黄金の。あんた、こんな足跡をつける化け物を見たことがあるか?」
オーンスタインは答えなかった。
獅子兜の奥で、彼は「音」を聴いていた。岩壁に反響する反響音ではない。……鎧と、武器が擦れる硬質な音。それも、この世界の兵士が纏う粗悪な鉄の音ではなく、もっと密度の高い、古びた金属が軋む音だ。
「――止まれ」
オーンスタインの声が低く響く。
次の瞬間、前方から吹き抜けてきたのは、氷のように冷たく、焦げ付いた鉄の臭いを帯びた風だった。
暗闇の向こうから、一歩、また一歩と、地響きのような足音が近づいてくる。
松明の火が届く限界。闇と光の境界線に、「それ」は立っていた。
オーンスタインよりもさらに頭一つ分ほど大きく、煤けた漆黒の甲冑を纏った騎士。
鎧の各所には、かつて底知れぬ炎に焼かれた痕跡が黒く焦げ付き、角のように反り返った兜の隙間からは、赤黒い残り火のような光が虚空を揺らしていた。その手には、炭鉱の天井に届かんばかりの巨大な『黒騎士の大剣』。
「……な、なんだよ、あいつは……」
銀等級の戦士が絶句し、後退りした。
目の前にいるのは、彼らがこれまで相手にしてきた「生物」ではない。ただ一つの殺意に従って動く、死に果てた武威の塊だ。
黒騎士は、松明の光の中に立つ黄金の甲冑を視認すると、無言のまま、ゆっくりと大剣を正門に構えた。
「……貴公も、この地に流れ着いていたか」
オーンスタインが槍を構える。その一動作だけで、張り詰めていた空気が物理的な圧力となって周囲を打ち据えた。
黒騎士が予備動作もなく踏み込んだ。
巨大な黒鉄の塊が、空気を切り裂く轟音と共に振り下ろされる。
石畳が粉砕され、火花が暗闇を黄金に染め上げた。
オーンスタインはそれを槍の十字の横枝で絡めとるように受け流すが、その一撃の重さに、黄金の篭手が悲鳴を上げた。
片手の刺突だけでは、この鉄塊のような強靭を誇る騎士は止められない。
「……下がっていろ。ここからは、この槍の真髄を見せる」
オーンスタインは槍を両手で深く握り直した。
腰を低く落とし、全身の重心を後ろに溜める。
すると、槍の十字の穂先からパチパチと黄金の火花が溢れ出し、煤けた刀身が雷を纏って輝き始めた。
黒騎士が返しの刃で、横薙ぎの一閃。
オーンスタインはその強撃を紙一重で見切り、溜め込んだ全ての力を解放した。
「――おおぉぉっ!」
踏み込みと同時に放たれたのは、雷を纏った渾身の突き出し。
ただの刺突ではない。重い槍の質量に、弾けるような雷の推進力を乗せた必殺の一撃。
ドォォォォォン!!
十字槍の穂先が黒騎士の胸板を正面から捉え、雷光が爆ぜた。
さしもの黒騎士も、その一撃の威力には耐えきれず、石畳を削りながら大きく後退する。黒鉄の鎧に深い亀裂が走り、煤けた甲冑が激しく火花を散らした。
その内白霊とかも出すかどうか
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出せ
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出すな
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闇霊なら許す
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白も闇も出せ