「まぁ狭いとこだけど、ゆっくりしていきなよ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「よろしくね」
メリニにあるとある宿屋。その二階にある部屋がこの兄妹の住まう場所。
中は雑多ながらも必要なものが揃いきっており、いかに生活の知恵が絞られているかが分かる。
「棚の位置変えれば毛布置けるかな」
「こっちの机をこの角に置くのはどうだ?」
「あ、手伝います!」
結局のところ、イツキはトーデン兄妹の元で世話になることとなった。
『いや、冷静に考えてくださいよお兄さん!一緒に住むって……一緒に住むってことですよ!?見ず知らずの他人と!』
『でもファリンの友達なんだろ?あと、俺は【ライオス・トーデン】だ。よろしく』
『よ、よろしくお願いします。それに、おれとファリンさんはまだ友達じゃあ…』
『友達じゃないの?』
イツキの言葉に、ファリンはイツキの服を摘んで淋しそうに言う。良心がズタズタに傷付いたイツキは大声で宣言する。
『友達です!!』
『じゃあいいじゃないか』
『そっかぁ…』
何故か後半イツキが押されて一緒に住むこととなったが、とにかくファリンの提案で衣食住を自分で安定できるまでという条件で一緒に住むことに。
「それじゃあ早速なんだけど、これからの方針について話そうと思う」
「うん」
「はい」
三人は移動し、近くにある大衆食堂で朝食を食べながらライオスを中心に家族会議(部外者一名)が始まる。
イツキは内心、(思ったより普通の食べ物だ…)と並べられたパンや目玉焼きを見て思った。異世界ならば、見たこともないような食材が出てくると思ったのだろう。
「これからイツキのことを養う……のは、正直言うと経済的にかなり厳しい。つい先日金剥ぎをやめたばっかりだから」
「もちろん、おれも働きます。ところで金剥ぎってなんですか?」
「この島にある迷宮…ダンジョンは、昔は金で覆われていたんだ。それをひっぺがしたり拾って売るやつのことだよ」
「ダンジョン…!」
ダンジョンという単語を聞いて目を輝かせるイツキ。それにライオスは応える。
「そう、ダンジョンだ!ぶっちゃけ俺みたいなのが金を稼ぐのはあそこが一番手っ取り早い!ので!さらに仲間を集めて迷宮攻略をしようと思う!」
お〜、とファリンとイツキは拍手する。周りの客の反応は冷ややかなものだが、誰も気にしない。
「それで、俺は仲間を集めつつ日銭を稼ぐ。それと、イツキは戦闘経験はあるか?」
「いやぁ…足には自信があるんですけど、戦ったことなんてせいぜい子供のケンカくらいで…。モンスターを倒す、とかはからっきしです」
イツキはバツが悪そうに下を向く。ライオスはそんなイツキの肩に手を置いた。
「大丈夫。最初は誰だって初めてのことはあるよ。それじゃあ、俺達がイツキを鍛えつつってのはどうだ?」
「鍛える、ですか?」
「ああ、こう見えて俺は多少剣術が扱える。それにファリンは凄いぞ!いとも簡単に傷を癒すことが出来る魔法を使えるんだ!」
「も、もう兄さん…声大きいよ」
「魔法…!」
魔法という単語に再び目を輝かせるイツキ。ファリンはそんなイツキを見て穏やかに笑う。
「決まりだな。それじゃあ今後の方針は、俺は仲間集めとイツキを鍛えつつ日銭稼ぎ。ファリンはイツキに魔法を教えながら日銭稼ぎ。イツキは俺達に色々と教わりながら日銭を稼ぐ!異論があるものは?」
「「異議なし」」
「よし!それじゃあ行動開始だ!」
「「おー!」」
そこからは怒涛の日々である。
ライオスは持ち前の体力で港で積荷を運ぶ仕事。イツキとファリンは酒場で接客や物運びなど。
修行に関してはライオスは意外にもスパルタ気味のものだった。ライオス曰く、兵士時代のものを真似たらしい。
「意外とついていけてるな、すごいじゃないか!」
「あ、あり、がとう、ございます……」
「じゃああとこれを三時間な」
「えっ」
基礎体力の訓練から戦闘訓練へ以降する。イツキはライオスに、自分は足を使うのが一番得意と伝えた。走りも、蹴りも得意らしい。
試しにその足を見せてもらうと、イツキはライオスよりかなり速く行動出来る事が分かった。行ったのは鬼ごっこみたいなものだが、ライオスはイツキに指一本すら触れられなかった。
「す、凄いなぁイツキ!こんなに早い人、初めて見た!」
「恐縮です」
「よし、それじゃあ次は戦闘訓練だ。俺は教えられるのは剣だから…これを使ってくれ」
ライオスはイツキに木剣を差し出す。イツキはそれを受け取り、両手で軽く振り回す。それをジッと見ていたライオスはイツキに助言する。
「うん、足は文句無しだけど剣に振り回されてる感じかな。当面は筋肉を付けるのをメインに、そうだなぁ…その速さは活かしたいし、軽装の方が…」
ブツブツと考え込んでしまったライオスを横目に、イツキは素振りを続ける。
「(二人の為にも、早く鍛えなくっちゃあ!)」
ライオスが忙しい日は、ファリンからは魔法を教わる。野外での魔法訓練は、ある意味ではライオスの訓練より過酷を極めた。
「つまり、ここをぶわーってやって、ぼあってまとめて、だーって感じで!」
「??????」
ファリンは教えるのが致命的なまでに下手くそだった。イツキはファリンから受け取った初心者用の魔導書を見ていく。書かれていたのは、魔力の練り方と解き方。そして初級魔法の術式だった。
「よし、使えそうなの片っ端に試していくか…。となると、魔法……属性か。やっぱり雷かなぁ、汎用性高いだろうしなによりカッコイイし…」
イツキは試しに手のひらを誰もいない方へ向けて、雷魔法を唱えてみせる。しかし、何も起こらなかった。
「あれ?」
「うーん?見た感じ魔力の練り方は間違ってないから、今ので大丈夫だと思うけど…」
しかし、何回やっても雷魔法が発動することは無かった。仕方ないので次は氷魔法を試すことに。何故氷魔法なのか、それはイツキが雷魔法の次にカッコイイと思ったからである。
「……うんともすんとも言わないですね」
「おかしいなぁ…」
風、水、地……色々試してみたが、結局最後の候補まで発動することは無かった。
「それじゃあ、最後にこれだね」
ファリンが開いたページに書かれていたのは、炎魔法。
イツキは一瞬、ほんの一瞬。頭に鈍痛が走る。その痛みに思わず膝を付いてしまった。慌てたファリンがイツキを支える。
「大丈夫!?」
「は、はい……大、丈夫…………あれ、痛みが無くなった」
ケロッとした顔で言うイツキに、ファリンはほっと安堵する。
「良かったぁ…。大丈夫?続けられそう?」
「はい、大丈夫です。……なんだったんですかね?」
「分かんない…魔力切れかと思ったけど、発動してないからそもそも消費してないし…」
考えても分からないので、イツキは炎魔法を発動してみる。
「え?」
先程までとは全く違う感覚、それは最早自分は炎魔法を扱えるという確信めいた感覚だった。
そして、イツキの手のひらには
「うわうわうわ!?」
「イツキ、魔力解いて!」
言われた通り魔力を解くと、炎は消え去った。イツキは尻餅を付いて呆然としてしまう。ファリンはそんなイツキの手のひらを見る。幸い、軽い火傷で済んだようだ。ファリンは治癒魔法を施す。
「いてて…。な、なんだったんですか…?今のは」
「分かんない……他の属性魔法が使えない代わりに、炎が極端に強いとか?」
「天与〇縛…?」
「なにそれ?」
結局それらしい結論には至らなかったが、イツキは炎魔法を中心に勉強することとなった。出力は問題無いが、そのせいで大量に魔力を消費する点と、コントロールが上手くいかないのだ。
日銭稼ぎの酒場での仕事も重労働であった。主に酔っ払った相手を
「へへへ、姉ちゃんいいケツしてんねへへ…へぶっ!?」
「お触りは禁止ですお客様♡もう一発食らっとくか?」
「イツキもうその人気絶してるよ」
「「((めちゃめちゃ重そうな蹴り入ったな…))」」
使命感に突き動かされた足癖の悪いイツキを止めるのが一番の重労働だったと、後に酒場の主人であるドワーフ男性は語る。
「イツキ、あんまり暴力振るっちゃダメだよ?」
「でもこんなやつ注意で済ませる価値あります?」
イツキは蹴り飛ばして気絶させたセクハラおじさんの頭を踏みつける。
「無いけど、やり過ぎると憲兵のお世話になっちゃうから…」
「…そうですね、すみません。ファリンさんとライオスさんに迷惑かけちゃいますよね」
「それはいいよ、ありがとうねイツキ」
ファリンはイツキの頭を撫でる。甘んじて受け入れるイツキだったが、その片足は未だにおじさんの頭の上にあるのを客達は引き気味で見ていた。
そんな生活が続き、半年程立ったころ。
「そろそろ仲間を集めて迷宮に潜ろうと思う」
「いよいよですか」
大衆食堂に三人で朝食を摂っていたとき、ライオスから発言が始まる。
因みに、イツキは和食で焼き魚に味噌汁とご飯。ライオスはローストビーフにサラダにパン。ファリンもライオスと同じものを食べている。
「そこでなんだけど、仲間を集める前に三人で迷宮に行ってイツキに迷宮がどんなものか知ってほしいんだ」
「三人だけで…大丈夫なんですか?その、おれ足ひっぱるんじゃ…」
「地下一階なら大した魔物は出ないし、人も多いから大丈夫だよ。それにイツキはよくやってるよ。まだ子供なのに剣術は筋が良いし、魔法だってこの前自分で患部を治してたじゃないか」
ライオスから褒めちぎられイツキは照れくさそうに笑う。そんなイツキの頭にファリンが手を置いた。
「うん、イツキ凄いよ。私治癒術に関しては全然説明出来なかったのに、ちょっと魔導書を見たら凄く分かりやすく説明出来るようになったもんね」
それは貴女が治癒術の練度に比べて教えるのが下手くそすぎるだけでは。という言葉をどうにかイツキは飲み込んだ。
「そんなイツキに…じゃん!プレゼントがあるよ!」
「え?」
ライオスは両刃の直剣を、ファリンは外側が黒で中が赤い色の外套をイツキに手渡す。
記述し忘れていたが、イツキの今の格好は鍛錬に耐えられる頑丈な革製の防具。それをプールポワンと呼ばれる本来鉄鎧の下に着るものの上に着けており、下はボトムにロングブーツである。
色が革鎧以外黒で統一されてたりグローブが指部分が全部空いてたりするのは完全にイツキの趣味である。
「これ、俺とファリンで選んだんだ。なんでも魔法を……なんだっけ?」
「魔法発動の補助にも使える剣だよ。ほら、ここの装飾がそれになってるの。剣と魔法を使うイツキにぴったりなんじゃないかって」
「あ、ありがとうございます!!……因みになぜ外套を?」
「イツキ好きでしょ?こういうの」
「大好きです!」
さっそく外套を装備する。しかし身長が足りないのか裾が地面に着いてしまった。完全に着られている状態となってしまったイツキは表情を失う。
「ほ、ほら!イツキまだ身長伸びるだろうし。大きめの買っといたんだ!」
「伸びるとイイデスネ」
かくしてイツキの装備が外套以外揃ったところで、迷宮攻略の装備に三人とも整え、迷宮の前へ辿り着く。
迷宮に挑むにあたっての手続き等は多少手間取ったものの、イツキの様な戸籍不明の冒険者は多い。良くあるということで不問とされた。
「ここが…ダンジョン…!」
喜びと焦りが抑えられないイツキ。ライオスとファリンは初めて迷宮に来た自分達を思い出して少し微笑んだ。
「じゃあイツキ、ダンジョンについておさらいだ。ダンジョンには魔物や罠が蔓延っているが、最大の特徴は?」
「…死者を甦らせることができる、ですか?」
「そうだ。確か蘇生魔法もファリンから習ったんだっけ?」
「はい」
「じゃあもう一個確認。イツキが今使える魔法は?自分の手札を確認するのも大事だ」
「はい、『治癒魔法』『炎属性付与魔法』『蘇生魔法』『防御魔法』『帰還魔法』の5つです。でも、蘇生魔法は軽い傷なら、治癒魔法も重症は治せません。帰還魔法も、まだ未熟でこのスクロールの補助が無いと出来ないです」
「それじゃあ次は持ち物の確認ね」
「はい」
イツキは背中にあるポーチに魔力を回復するポーション。換えの衣服。医薬品と食料、そして前の世界で使っていた水筒があるのを確認した。
次に、足に付けているレッグポーチには奮発した高額の帰還魔法スクロール。ナイフや片手で持てる小型の望遠鏡にメモ帳などが入っているのも確認した。
「大丈夫です!」
「よし。今回は一階、調子が良ければ二階の入口を見に行こう。食料を使うことは無いと思うけど、これがイツキのいつもの装備ってことで覚えてくれ」
「はい」
「よし…それじゃあ行くぞ!」
「はい!」
「おー!」
三人で階段を降り、最初に目に付いたのは大勢の冒険者達だった。
「…結構というか、かなり人で賑わってますね」
「一階だからな。商人や冒険者初心者から上級者まで、人の往来が一番多い階層だよ」
メリニの迷宮は元は墓場であり神聖な場所だったが、迷宮に繋がってからはメリニで一番人の賑わいが多い場所となった。
「この階層の魔物で一番楽なのは…歩き茸だな」
「キノコ…歩くんですか?」
「歩く、なんなら走る」
イマイチ想像つかない魔物にイツキの頭の中が一瞬宇宙に呑まれるが、まぁファンタジーだしそういうこともあるか。と頭を切り替えた。
「ここらは人が多いから、少し離れた場所に行こう」
大広間から少し離れ二階の階段へ続く通路を歩いていると、分かれ道の影から小さい影が飛び出した。
「イツキ、あれが歩き茸だ!さぁ鍛錬の成果を!」
「はい!」
「頑張って!」
イツキは左の腰に携えていた直剣を抜き、そこで魔法を唱える。
「『炎属性付与』…ふっ!」
炎を纏った剣を歩き茸に振り下ろす。歩き茸は機敏な魔物ではないため、これに斬り燃やされる。鳴き声を上げるでもなく歩き茸は絶命した。
「よ、よし…!」
「まだだイツキ!更にもう二体!」
見ると斃れた歩き茸の背後にもう二体の歩き茸が。同族を殺された怒りか、歩き茸は走ってイツキに襲いかかる。
「せいっ!やぁっ!」
下から上へ。上から下へ。流れるように炎の剣で二体の歩き茸を斬り伏せる。
「よぉし!」
「イツキ危ない!」
歩き茸を斃した油断。そこを突くように壁の穴から大サソリが現れイツキに襲いかかる。鋭い尾針がイツキの首元に襲いかかる。
ファリンは咄嗟にメイスを構えるが、ライオスに止められる。
「兄さん!?」
「大丈夫」
見ると、大サソリの毒針はイツキの防御魔法による障壁で防がれていた。
「よっ…と!」
無防備になった大サソリの背甲の隙間に炎の剣を突き刺す。金切り声を上げて大サソリは息絶えた。
「ふぅ…っ。よし!」
「うん、十分戦えるじゃないか!」
「イツキすごい!」
「へへへ…」
照れくさそうに笑うイツキ。しかし冷静にライオスは咎める。
「でも大サソリ程度に防御魔法を使ったら下層まで魔力が持たなくなる。回避か、剣での防御が好ましかったかな」
「はい、精進します」
そこで、イツキはチラリと歩き茸を見ておもむろにナイフを取り出して歩き茸をスライスした。裂かれた身の断面はしいたけを思い起こす。
「…イツキ?どうしたの?」
「あぁ、いえ。斬った感じ……やっぱり、歩き茸って縦に切れやすいですよ。本物の茸みたいに」
縦に軽く切れ込みを入れた歩き茸は少し力を入れただけで簡単に裂けてしまう。
「そうか…当たり前だが歩き茸もキノコだもんな…!気付かなかった!じゃあ茸と同じで交配も菌なのかなぁ…前見た時生殖器は見当たらなかったし、それじゃあホコリっぽい菌でもないし菌糸が伸びるタイプか…?」
はーほーふーんとテンション高く歩き茸を観察するライオスに少し引きながらも、イツキは剣を元の鞘に戻し一息つく。
「それにしてもキノコだなんて言うから食べられるかと思ったんですが、よくよく考えたら毒があるかもしれないから無理ですね」
その言葉に、場の空気が凍り付いた。ライオスはとんでもない顔でイツキを見つめ、ファリンは驚いた顔でイツキを見つめている。
「…えっ?な、なんかマズイこと言いました?」
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