異世界ダンジョン飯【改訂&加筆版】   作:一般通過炎竜

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第四話『弱肉強食』

 

ライオスパーティにおける初のダンジョン探索がついに始まった。

 

まずは一階。ここは人が多い上に既に二階への道も判明しているためスラスラと進める。イツキにとって問題はこの先。

 

「ここからは塔内に入るまで主に植物系やそれを餌にしたりされたりする鳥や猛禽類の魔物が多い。イツキ、植物と対空への対応は?」

「目的がない限り壁際などに近づかないこと。鳥はナマリさんが大きな音を立てて視線を誘導し、おれがそこを切りつけます。もしくはファリンさんの閃光魔法で怯ませから対処します」

「よし、では行こう」

 

階段を降りると、そこは墓地の地下とは思えない光景が広がっていた。

 

そびえ立つ複数の塔。それに負けないほどの大きさの樹木。確固たる食物連鎖が広がっていた。

 

「ここが二階……」

 

何故地下にこれ程の自然が広がっているのか詳細な理由は不明だが、ダンジョンは基本的に魔術的な呪いが敷かれた場所。常識が通用しないのは良くあることである。

 

「塔へはこの吊り橋で向かうぞ。ダンダン、チェック頼む」

「………吊り橋に細工はされてないな」

 

「吊り橋に細工をするような魔物がいるんですか?」

「ああ、森ゴブリンという亜人種だ。吊り橋がわざと切れやすい様に切れ込みとかを入れて乗った人間を落とし、そのまま落下死。もしくは落ちてきたやつを袋叩きにする」

 

森ゴブリン。トールマンやドワーフなどの人間種の近縁種である亜人の一種だが、理性は限りなく魔物寄りで知性もあまり無い。罠や弓矢といった獲物を狩る道具を作るのが得意で、一説では動物が狩りをするのに牙や角を使う思考能力だけが人間寄りで道具を使う様になったとか。

 

彼らが動物や魔物と違う最たる点は、信仰心があるということ。といっても、彼ら独自の戦女神らしいが。

 

「随分と厄介ですね…やはりゴブリンは皆殺しですか」

「そこまでじゃないが…各自、警戒を怠らないようにな」

 

吊り橋を暫く進み、見えてきたひとつの塔にライオスが指さす。

 

「あの塔だ、前に金剥ぎで来てた時はあそこの隠し道を使って下へ降りた」

「おう、隠し道の場所は俺が保証するぜ」

 

「隠し道…罠以外にも、迷宮にはそういう仕掛けがあるんですね」

「理由は不明だけどね。大昔ここに住んでた人達の避難通路とか…兵士用のショートカットとか、色々説があるよ」

 

「…考察は後だ!上に魔物一体!あと下から植物系!」

 

ダンダンの索敵により上空から一体の魔物が向かってきているのが判明。吊り橋の下からは花の本来雌しべがあるところに大口を開けた魔物が迫ってきていた。

 

大コウモリシャドーテールか。イツキ!ナマリの後ろへ!」

 

「はい!」「おう!」

 

大コウモリは、文字通り巨大なコウモリだ。通常のコウモリは洞窟性で群れを成すが、大コウモリは木のうろに巣穴を作りそこでジッと獲物を待つ。知能も通常のコウモリより遥かに高く、膂力も高い。ハーフフット程度なら掴んで空を飛べる。

 

シャドーテールは、いわゆる人喰い植物の一種。捕食寄生型という対象を強靭なツルで捉え、捉えた生物の皮膚下に種を植え付ける種類だ。故に、捕まっても直ぐに死にはしない。しないが、手早く救出しないと大変な事になる。

 

ライオスの合図でイツキはナマリの後ろへ身を隠す。ナマリは持っている斧の刃の横部分を思い切り拳と何度も合わせ、大きな音を出す。

 

鋼の斧に拳をぶつけても平気なドワーフだからこそ出来る芸当だ。

 

「ほらコウモリ野郎!こっちだ!」

 

大コウモリはナマリの挑発に乗り、ナマリへ一直線に降下していく。そしてそのままナマリの目の前まで降りてきた。

 

ライオスは魔物がナマリの挑発に気を取られている隙にシャドーテールの根元を発見。

 

「イツキ、今だ!」

「はい!」

「ファリン、シャドーテールに閃光魔法!」

「うん!」

 

ファリンはシャドーテールに閃光魔法をぶつける。ツルの表面に極小の目を複数持つシャドーテールは、その眩い光に惑わされ触手を出鱈目に振り回す。ライオスはそのまま根元まで走り根元を断ち切った。

 

ナマリの合図でイツキはナマリの背後から前へ。ナマリを警戒していた大コウモリはギョッとして慌てて上昇しようとする。

 

「遅い!」

 

しかしそれを見逃すイツキでは無かった。上昇しようとする大コウモリの腹部に思い切り剣を突き刺し、そのまま剣を振り下ろす。

 

大コウモリはそのまま吊り橋に落下。少し揺れたが吊り橋は無傷だ。

 

「イツキ、トドメを!」

「はい!」

 

イツキは剣を引き抜き大コウモリの首を落とす。軽い音と共に大コウモリの頭が転がった。

 

「ふぅっ…他に魔物はいますか?」

「……いや、何も聞こえねぇ。多分いないぜ」

 

「良い連携だったな」

 

ライオスは剣を鞘に収める。イツキも剣に付着した血を振り払い持ってきた布で血を拭ってから鞘に収めた。ダンダンはイツキの背中を手で軽く叩く。

 

「中々やるじゃないか。ガキだと思ってたが…これなら安心だな」

「ナマリさんの背中が頼もしいから、安心して出来ましたよ」

 

後ろで聞いていたナマリが照れた表情で鼻を擦る。

 

「お世辞が上手いなお前…」

 

そんな三人を、ライオスとファリンは笑顔で見ていた。

 

「みんな、凄いね」

「あぁ、これなら安心だ」

 

実際、大コウモリ単体ならナマリ一人で倒せる。しかしライオスが見たかったのは戦闘時による連携。息が合わなければ出来ない事だ。それは下層において重要なファクターとなる。

 

「よし、今の戦闘音を他の魔物に聞かれたかもしれない。早くこの場を離れよう」

 

一行はそのまま吊り橋を進んでいき、件の塔へたどり着く。着いた塔は半壊しており、内部の下に向かって縄が仕掛けられていた。

 

「下へ降りよう、俺から降りるから列順で降りてきてくれ」

 

ライオスは縄をスルスル降りていく。幸いどんくさい人間はこの場にいなかったため、すんなりと全員下に降りることが出来た。

 

どこかで魔法学校始まって以来の才女がくしゃみをした気がするが、今のライオス一行には全くもって関係のないことである。

 

「ここからは魔物こそ少ないが罠が多い」

「俺の出番ってわけだ」

 

暫くダンダンの指示通りに進んでいく。壁に仕掛けられた隠しボタン。感圧式の罠。落とし穴に、下がってくるトゲ付き天井。

 

全て回避出来たのは、ダンダンの鍵師としての技術の賜物である。

 

イツキは罠の種類を事細かにメモしていく。そして気になったことはすぐにダンダンに質問していく。

 

普段ダンダンはこういうまっすぐに質問してくるタイプの人間とは関わらない。しかし、

 

「へぇー…この壁のパターンを見極めてるんですね。凄いなぁ…」

 

あまりにもそれが真っ直ぐであったがために、ダンダンは普段より饒舌になってイツキにどんどん教えていく。

 

商売道具の様なものなのにタダで教えるなんて…とどこかの浅ましいハーフフットが憤慨しそうな光景だが、ひとえにイツキの人間性のおかげだろう。

 

そしてイツキが疲労感を覚え始めたころ、ライオスは休憩出来そうな部屋を発見。ここでもダンダンの罠チェックが入ったが、幸い罠など一切無い上に飲水まである完全な休憩部屋だった。

 

随分と都合が良いと思うかもしれない。その感覚は正しい。

 

「うん、じゃあ今日はここで一晩明かそう。みんなお疲れ様」

 

ライオスの一言で全員が装備を下ろし肩を回したり背筋を伸ばしたりする。

 

休憩中もダンダンによる罠講座が始まり、イツキはそれをどんどん書き込んでいった。

 

「飯でも作るか」

「火を起こすね」

「私は一応入口見張っとくな」

「助かるよ」

 

ファリンは地面に魔法陣を書き込んでいく。書かれた式は『加熱』であり、主に鍋の水を温めたり暖をとったりに使われる。

 

ライオスは水が入った鍋を陣の上に置き、沸騰してからそこに米を入れ、更に干し肉と干し大根を細かく刻み鍋に入れる。

 

「椎茸も入れちゃうか」

 

干し椎茸も細かく刻み鍋に投入。蓋を閉じて暫く蒸す。

 

「お、良い匂いですね」

「そろそろ出来んじゃないか?」

 

「出来たよ。題して『干しものもりもり雑炊』だ!」

 

蓋を開けると部屋中に良い香りが広がる。ライオスのネーミングセンスはともかく、肉や椎茸の凝縮された香りが食欲を唆る。

 

「米か、いいね。とりあえず私見張ってるからさっさと食べちまいな」

「ありがとうございます」

「気にすんなって」

 

いただきまーす、と四人で食べ始める。

 

「うん、美味しいですよこれ!」

「んね」

 

イツキとファリンは口いっぱい頬張る。ハムスターみたいになるが、それを咎めるものはいない。

 

「男のひとり飯感は否めないけどな?」

「しょうがないだろ?まだこっちのは使いたくないし」

 

こっちの。とはライオスの荷物にあるちょっとお高い干し肉だったりする。食べ切ったイツキは剣を携え立ち上がり、ナマリのところへ。

 

「代わります」

「ん、もういいのか?」

「はい。雑炊美味しいですよ」

「そりゃ楽しみだ」

 

イツキはナマリと見張りを交代する。

 

「お、うめーな。私好きだこういうの。なんていうか…味もそうなんだけど、ひと皿で済むのが良い」

「わかる〜」

 

がやがやと賑わう様子を、イツキは見張りついでに見ていた。

 

大衆食堂での食事も良いが、ダンジョンで食べるご飯というのも、また乙なものである。

 

ダンジョン飯、それは強者だけの特権。

 

その特権をイツキは堪能し、満足気に微笑む。前世界では決して味わうことは出来なかったダンジョン飯。

 

ダンジョン飯 あぁ ダンジョン飯。

 

 

 

 

 

オマケ『イツキと兄妹との日常の一幕』

 

「えーっと、次行く雑貨屋が最後ですね」

「やっとか…。ファリンめ、用事があるからって買い物を押し付けるなんて」

「仕方ないですよ、診療所はいつも人手不足ですから」

 

ファリンは度々メリニにある診療所へ顔を出しては、手伝いをして給金を貰っている。今回はどうやら大量の患者がいて手が回らなくなったそうだ。

 

イツキとライオスはファリンに頼まれて日用品を村中歩き回って買い物していた。そんな二人の前に、一人の男性が通り掛かる。

 

「お、イツキじゃねーか。今日は兄貴と買い物か?」

「おはようございます、ニンヘルさん。お使い頼まれちゃって」

「あの嬢ちゃんか?お前さんも良く付き合うねぇ。ま、頑張りなよ!」

「はい、ニンヘルさんもお仕事頑張ってください」

 

男性は快活に笑いながらその場を立ち去っていく。そんな二人のやり取りを、ライオスはびっくりした顔で見ていた。

 

「どうしたんですか?ライオスさん」

「いや……今の人、イツキの知り合いか?」

「え?……いつも行く食堂のおじさんじゃないですか。ライオスさん何回も会ってますよ?」

 

ライオスは口元に手を当てて考える素振りを見せるも、全く記憶に無い様だ。

 

「ダメだ、全く覚えてない」

「えぇ…。じゃあ、トランさんは?」

「誰だ?」

「いつも行く雑貨屋の店主さんですよ…」

 

ライオスは頭にハテナを何個も浮かべる。本当に記憶に無い様だ。

 

「…あんまり他人に興味無い感じですか?」

「いやぁ……そうかなぁ?」

「そうですよ。最低限名前と顔くらいは覚えておいて損は無いと思いますよ?」

「そうかなぁ……」

 

ライオスの人間性に難があるのを、イツキは薄々と感じていた。

 

その後、買い物を済ませたイツキはファリンを迎えに診療所へ。ライオスは装備の手入れをするために宿へ残った。

 

診療所の裏口から入ると、どたばたと大荷物を持って走る看護師や忙しそうに目を回しながら資料に目を通している医者などがいた。

 

「(忙しそうだな…ファリンさんはどこだ?)」

 

キョロキョロと邪魔にならない様にファリンを探していると、小部屋にて患者を診ているファリンを見つける。

 

「はい、これで治ったよ」

「わー!ありがとおねーちゃん!」

 

どうやらここは小児科の様なものらしい。子供の怪我を治したファリンは手を大きく振ってお礼を言いながら帰る子供に、小さく手を振って見送る。

 

「お疲れ様です、ファリンさん」

「あ、イツキ。迎えに来てくれたの?」

「はい。…でも、なんだか忙しそうですね」

「うん。今日は迷宮帰りの患者さんが多かったらしくて…子供とかお年寄りを見る余裕が無かったんだって」

 

イツキはファリンに水瓶から汲んだ水を手渡す。ファリンはお礼を言って受け取り、すぐに飲み干した。

 

「ふぅっ……疲れちゃった」

「隙を見て帰っちゃいますか」

 

そんなことを言っていると、出入口の方から一人の看護師が現れる。

 

「ファリンちゃん!急患が入って──あらイツキくん!ちょうどいいわ、貴方も来てちょうだい!」

「見つかっちゃいましたか……」

「見つかっちゃったねー、行こっか」

「はい」

 

三人は小走りで診察室へ向かう。イツキも度々診療所へ治癒魔法の練習がてら手伝いに来ていたので、顔は知られている。

 

診察室へ着くと、そこには負傷した冒険者が六人も待機していた。

 

「こりゃ夜までかかりますね……さぁ、怪我をしたのは何処ですか!」

「ファリンちゃん、貴方はあっちの重症患者を!」

「はい!イツキ、がんばって!」

「ファリンさんこそ!」

 

結局、二人が解放されたのは深夜に差し掛かった辺りだった……。

 





今回みたいにオマケストーリーはかつてボツになったネタから流用してたりします。

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