赤い彗星の原点 ―赤いコスモス― ~ 何も知らずに、いられたなら   作:交差の魔導士

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交わる彗星たち

『交わる彗星たち』

時は流れ、宇宙世紀0079。

地球連邦政府からの完全なる独立を果たすため、ジオン公国は遂に宣戦を布告した。

 

その戦火が宇宙を焼き払おうとしていた頃。

キャスバル・レム・ダイクンは「シャア・アズナブル」という仮の戸籍と名前を手に入れ、ジオン公国軍の軍籍に身を置いていた。

髪の色を変え、眼鏡を掛けて人相も変えた。

 

非凡な空間認識能力と操縦センスを高く評価された彼は、エリートパイロットを育成する精鋭の教導部隊へと編入されていた。

そこには、後の世にエースとして名を轟かせることになる、若き日の猛者たちがひしめき合っていた。

 

大規模な模擬戦。他の訓練生たちが次々と撃墜判定を受け脱落していく中、戦域に残っているのは、新入りのシャアのザクと、もう一人の訓練生のザク、たった二機のみ。

彼らの前に立ちはだかる最後の壁。それは、青く塗装された見慣れぬ新型機「グフ」だった。

二機のザクは阿吽の呼吸で連携して死角から一斉に襲いかかるが、青い巨星の動きはそれを遥かに上回っていた。

グフの腕から放たれた高熱の鞭――ヒート・ロッドが、うねる蛇のように両ザクに襲い掛かり、二機まとめて餌食となる。

「しまっ……!」

直後、強烈な高圧電流が機体を駆け巡り、コックピットのシャアの腕まで痺れが這い上がった。

シャアともう一人の訓練生は、無念の撃墜判定を受けることとなった。

 

数時間後。教導隊の宿舎の食堂。

シャアは、ヒート・ロッドの電流による後遺症で痺れる片腕を庇いながら、黙々とスプーンを口に運んでいた。

 

そこへ、先ほど最後まで共に残っていた訓練生が、近づいてくる。

 

「君は、新入りか? いやー、さっきは惜しかった。あの "青い奴" を倒していれば、訓練生を卒業して教官になれていた。」

屈託なく笑うその男は、シャアよりも随分と派手に、身体のあちこちに包帯を巻いていた。

 

「……さっきは礼を言う。君が盾になって庇ってくれていなければ、私は今頃、病院送りだっただろう。私はシャア・アズナブルだ」

 

「ジョニー・ライディンだ。」

 

二人は、握手を交わした。

ジョニーは向かいの席に座り、食事を始めた。

「ところでジョニー。君は随分と長くここにいて、戦地には出ていないという噂だが……その腕前で、なぜだ?」

 

シャアの率直な問いに、ジョニーは肩をすくめて言った。

「ああ……。俺は、親父が勝手に軍への志願書を出してしまったせいで、軍人になってしまった。

 戦場で負傷すれば除隊できるっていうから、なんとか上手く怪我をしたつもりだったんだが……、なぜが除隊出来ずに、こんなところに入れられてしまった。

 でも、もう戦場には立つ気はなく、それで、ここの教官の座を狙っている。ここの教官のトップとは内々に話はつけてある。ここのトップは話の分かるいい人だ。」

 

 そこまで語ると、ジョニーはふと遠くを見るような目をした。

「戦争はそのうち終わる。その後は平和に、真っ当に生きていきたいよ。全く、父親ってのは……厄介なものだ―――。君はどうなんだ?」

 

 淡々と食事を続けるジョニーの何気ない言葉に、考え深げなシャア。

「君の言う通り、―――なのかもな」

 

そこへ、重いブーツの足音と共に、先ほどの青いグフのパイロット――教導隊のトップが食堂に姿を現した。

ランバ・ラルだった。

「ジョニー、さっきは惜しかったな。教官への昇格はまたお預けだな。」

ジョニーはふて腐れた顔を浮かべた。

「教官、俺もあんたと同じ青いのに乗せてみな。あんたをコテンパンに叩きのめしてやるからさ。」

「フフ…、それは却下だ。お前は鍛えがいがある。ザクで俺のグフを倒してみろ。」

ランバ・ラルはそう言いながら、ジョニーの向かいに座るシャアを見て驚く。

「君は・・・!」

シャアが静かに立ち上がり、敬礼した。

「最近こちらに転入になりました、シャア・アズナブルです、教官。」

ランバラルには、眼鏡を掛け、髪の色も違っていたが、シャアがキャスパルだと一目見て分かった。

だが、動揺を押し殺し、そのことは自分の胸の中だけに仕舞い込んだ。

 

数日後。

 

訓練場に、新任の教官が着任した。特務機関から派遣された、特別教官でニュータイプだという。

整列した訓練生たちの前に、一人の女性が現れた。褐色の肌に、神秘的な光を宿した瞳。

――ララァだった。

 

彼女の姿を見た瞬間、シャアとララァの共鳴が始まる。

「ララァ……」

「あっ……キャスバル様……!」

 

誰の耳にも届かない、ニュータイプ同士の魂の共鳴。

「力が、戻られたのですね……」

 

「いや、完全には戻っていないんだ。だが、約束通り、助けに来た。しかし、今すぐとは行かないようだ。機会を見つけるから、しばらく待っていてくれ。」

 

「約束を覚えていらっしゃったのですね。待っています・・・」

 

静かに笑みを交わす二人。

隣にいたジョニーが怪訝な顔で囁いた。

「知り合いか?」

「いや。初めて見る顔だ。」

 

 

 

『赤いモビルスーツ』

教導隊の演習領域で、二機のモビルスーツが激しい訓練を行っていた。

シャアの操るザクは、教官であるララァ・スンの機体に翻弄されていた。

「……っ!」

回避したはずの軌道に、あらかじめ置かれたかのような閃光ビームが走る。シャアは紙一重でそれをかわすが、機体は激しいアラートを鳴らし続けていた。

結局、シャアの機体はララァの放った決定的な一撃を浴び、模擬戦は終了した。

「大丈夫ですか……」

ララァの声がシャアの心に届く。その声には心配と、どこか申し訳なさが混じっていた。

 

「ああ……。しかし……君が、ここまで強いとは……」

シャアは自分がニュータイプであることを隠すため、意識的に能力を抑え込んでいたが、それを差し引いてもララァの強さは、圧倒的だった。

 

 

数日後。薄暗いモビルスーツ格納庫を、シャアは教官であるランバ・ラルに伴われて歩いていた。

ふと、シャアの足が止まった。 異彩を放つ一機のモビルスーツが運び込まれていた。

その色は "赤いコスモス" を思わせるような赤だった。

「あの、赤いモビルスーツは何ですか」

シャアの問いに、ラルは足を止め、その赤い機体を見上げた。

「……あれか。戦局を一転させ、この戦争を終わらせられるかもしれないモビルスーツだ。

 通常、モビルスーツは迷彩塗装を施すが、あれにはカモフラージュ機能は一切ない。あえて目立つ色に塗り、敵をおびき寄せて叩く。

 ……文字通り、最強の兵器だ。だから、あれは赤いのだ。」

ラルは機体のスペックシートをシャアに手渡した。

「出力は通常ザクの三倍を誇る。もはや、技術屋の "エゴ" だよ、これは……。

 それ故にあまりに扱い難く、誰も乗りこなせない。ニュータイプのララァでさえ体力が続かず、実戦投入は不可と判断された。

 戦争が集結するまで、あそこでお蔵入りになる代物だろう」

 

「……どうすれば、乗れますか」

 

「ララァに勝てれば、乗れるだろう。」

 

 

再びの模擬訓練。

シャアはコックピットの中で、ある決心を固める。

「……ララァ。今日はお互い、手加減は無しだ」

誰の耳にも届かない意識の交信。ララァの声が不安げに揺れる。

「大丈夫なのですか。」

「ああ。今日は、私は私自身の能力を知りたい。」

戦闘開始の合図と共に、シャアのザクは鋭い反応で加速する。

シャアは自らのニュータイプ能力を解放した。父に分断され、再び繋ぎ直された不揃いな回路が、火花を散らすように活性化する。

ララァの攻撃は鋭く、正確だった。未来を予見するような彼女の機動に対し、シャアは力を慎重に使いながら、最小限の力で防戦を続ける。

一分、五分、十分。

戦いは泥臭いドッグファイトの様相を呈していく。

変則的なシャアの攻撃に、それを予想する為、ララァは膨大な感応波の処理を続け、疲れが見え始める。

繊細な彼女の集中力が一瞬だけ、糸が切れるように乱れた。

シャアはその一瞬の隙を逃さなかった。

「そこだ……ッ!」

シャアのザクのヒート・ホークが、彼女の機体の急所を正確に捉えていた。

 

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