赤い彗星の原点 ―赤いコスモス― ~ 何も知らずに、いられたなら 作:交差の魔導士
『敵の眼差し』
ジオン公国軍総帥府。その最奥にある薄暗い指令室では、一編の戦闘データが大型スクリーンに繰り返し映し出されていた。
映っているのは、一機のザクがニュータイプ、ララァ・スンを制した、先日の模擬戦の記録であった。
「……この男は、ニュータイプなのか」
総帥ギレン・ザビの冷徹な声が、静まり返った室内を支配した。
「データからは……脳波、反応速度、数値は共に安定せず、……断定できません。」
分析官の震える声に、隣にいた――宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビが、我慢しきれず、声を荒げる。
「だったらなぜ、ニュータイプに勝てるんだ! 特務機関が心血を注いだニュータイプを、ただの志願兵が破るなど、どう説明するんだ!」
「そ、それは……」
当惑し、言葉に詰まる周囲を余所に、ギレンはただ一人、モニターの映像を静かに睨んでいた。
「この映像が全てを示している。集中力と身体能力、的確な戦略と戦術、総合力で上回っている。
この男を、あの新型に乗せろ!」
「……だが兄貴、あれはニュータイプ専用機だ。あいつはニュータイプかどうか分からない」
ドズルの反対に対し、ギレンは静かに椅子から立ち上がり、弟の目を見据えた。
「――性能だけが、決定的な戦力の差ではない。
この男は、それを物語っている ――
そう学ばなければ、この戦いには勝てぬぞ、ドズル」
「兄貴……。」
「結果が全てだ。この男を新型に乗せて、もう一度ニュータイプと戦わせろ。これは新型の実戦投入の最終テストだ。」
ギレンは立ち去る瞬間、この報告の責任者である、ランバ・ラルに目を向ける。
「でかしたぞ、ラル。君の父君はジオンを去られたが、君のジオンに対する忠誠は、称賛に値する。この男のことも、くれぐれ宜しく頼む。」
複雑な思いで、頭を下げるランバ・ラル。
数日後。教導隊の演習区域。
ランバ・ラルのグフを相手に、新型モビルスーツで訓練を続けるシャア。
「くそ! なんて扱い難いモビルスーツなんだ……。」
「どうした。最終テストまであと数日だ。寝転んでいる暇はないぞ!」
「くっ!」
「赤い彗星、覚醒」
最終テスト当日。
演習区域の管理ブリッジには、総帥ギレン・ザビが自ら出向き、モニターの前で手を組んで座っている。
「……確か、研究段階の極秘兵器があったな。ニュータイプ専用の独立攻撃端末だ」
ギレンが傍らの分析官に問いかけた。
「……ビット "ファンネル" のことでしょうか。
「そうだ。ニュータイプにそれを全て使わせろ。」
「しかし、現時点では出力、制御ともに極めて不安定です。ニュータイプへの精神的負荷も未知数で、実戦投入にはまだ課題が多すぎます」
「構わん。前回の模擬戦において、あの男は通常のザクでニュータイプを凌駕した。
ならば、奴が新型を得た今、ニュータイプと言えども限界を突破しなければ、また負けることになるぞ。」
「……はっ。ニュータイプ機に全ビット、射出準備!」
広い演習区域には二つのモビルスーツのみが立っていた。シャアとララァ。
「ララァ、今日も手加減は無しだ。準備はいいか。」
「はい!」
戦闘開始の合図が切って落とされる。
二人の意識が交錯する戦いが長く続いた。
両者一歩も引かずに決着がつかない。
戦況を見つめ、ギレンは判断を下す。
「十分だ。次の戦役で、新型を実戦投入する!」
「歪な信頼」
国力において圧倒的に劣るはずのジオンが、連邦の巨大な艦隊を次々と灰燼に帰していた。
その快進撃は、二人の傑物によって支えられていた。
驚異的なシャアの戦闘能力と、冴えわたるギレンの戦略眼
お互いの奥底は知れなかったが、お互いの能力に対する信頼は揺るぎないものだった。
こうしたシャアとギレンの歪で強固な信頼関係で、ジオン軍は連邦軍を圧倒していく。
数々の戦役で武功を打ち立て続けるシャア。
シャアはいつしか、連邦軍から「赤い彗星」の異名で恐れられる存在となっていった。
シャアはギレンから絶対的な信頼を勝ち得ていた。
そして、サイド5、ルウム宙域での会戦が迫っていた。