「んなラノベみたいな…」〜マネやるつもりが演者になりました(By the way バ美肉)〜 作:リッスンブラック
そこそこ長くなってしまいました。
「で、そもそもなんでVTuberだったんだよ」
あの電話から約1ヶ月半。
ここは達司が立ち上げたVTuber事務所、どりーむめいつの社長室。
どりーむめいつの名前には、「夢を共に叶えるパートナー足りうる事務所であれ」という達司の願いが込められているらしい。
最初は単に響きが気に入っていただけだが、その由来を聞いてからは、なかなか粋な名前だと思うようになった。
「俺がVTuberに救われたからだよ」
「お前が?」
そして今現在、こうして社長室の主と話している訳なんだが。
「そ。あれから進路別れたろ?」
「そういや、最初の会社は3ヶ月持たなかったんだっけか」
「よく覚えてたな」
いやそりゃ覚えてるだろ。
久しぶりに集まったら1人フリーターになってたんだからな。
「多分あいつらもなかなか忘れられないと思うぞ」
「はっ、そりゃ光栄なこった」
どこがだよ。
「話を戻すぞ。俺はVTuberに救われた」
ほん。と、目線で続きを促す。
「お前には分からないかもしんねぇがな。何回も仕事辞めてフラフラしてるとな、それなりにクるもんがあるんだよ」
まぁあんだけ就職と退職繰り返してたらそうもなるわな。
経歴としてもバッチリ残ってしまう始末だし。
「家に帰る度、人生踏み外しちまったんじゃないのか、もうマトモな社会人にはなれないんじゃないかってずっと考えてたよ」
遠い目で語る達司。
仄暗い語り口に、当時の達司の苦悩が頭に浮かぶ。
「どうにか気を紛らわせる方法を考えてな。賢祐の言ってたVTuberに手を出してみたんだ」
「そこで繋がるのか」
「適当にマシュマロ送ってみたらなんでか選ばれてな。リスナー含めてみんなに考えてもらったんだ」
「…」
前世の推しが、頭をよぎる。
「時間やらスケジュールやら色々気にしなきゃいけないものもあったろうに。一致団結で解決しようとしてくれてさ…暖かかったよ」
「なるほど、な。オーケー、ありがとう」
納得したよ。
そうか。俺を誘った理由、あれだけじゃなかったんだな。
「しんみりとした話はまた今度にしよう。社員は今どこに?」
「あ?あぁ。そういうと思って集めてある。会議室に行こう」
「集めてある?どういうことだよ」
「とにかく着いてこい」
二人で社長室を出て、その会議室とやらへ案内される。
建物の紹介は程々にって社長室に通されたものだから、まだここのことよくわかってないんだよな。
前世の大手に比べりゃ格段に狭く感じるものの、新興事務所と考えればなかなかに上等な建物だ。
家賃とかどうしてるんだ?
「安心しろ。後暗い金はびた一文も使ってねぇから」
「心を読んだのか?」
「お前はわかりやすすぎる。んで金の出処は兄貴」
あー、例の不動産勤めの。
「よく貸してくれたな。結構な金額だろ?VTuber事務所となったら、家賃だけじゃすまないんだし」
「俺は熱意を伝えただけだ。金は稼いで返す」
着いたぞ、ここだ。と示されたドアの上には、確かに会議室のプレートが付けられている。
「わかってると思うが、ここから先では俺が社長。お前は社員。いいな?」
「社会人の基本でしょう?大丈夫ですよ」
「ならいい」
達司が先に室内に入って行き、中にいる数人の社員達に声を掛ける。
「守屋くん、入ってきてくれ」
「はい、失礼します」
社長の呼び掛けに答え、俺も室内に足を踏み入れる。
さっきもチラっと見えたが、中にいたのは椅子に座る数名の社員達。
内訳は男が三人に、女が二人。
ここに社長と俺を足した七人が、このどりーむめいつ最初の社員となるのだろう。
「
しっかり頭を下げれば、他の社員達も、応じるように頭を下げてくれた。
「ありがとう。守屋くん、空いている席に座ってくれ」
「はい」
目の前の主のいない椅子へと腰掛けると、社長もまたお誕生日席に腰を下ろした。
「みんなも軽く自己紹介を頼む」
「では私から」
先陣を切って立ち上がったのは、最も入口から遠い最奥の席に座っていた男性。
四角形状のスクエアフレームのメガネが、理系な顔立ちによく似合っている。
「
それ趣味って言えるのか???
個人的な楽しみって意味なら趣味に入る…のか?
腰を下ろした坂口さんに代わり、対面の席に座っていた男性が立ち上がった。
「
顔立ちは…醤油顔かな。
1番日本人らしい顔で安心感を覚える。
にしても、バッティングセンターか。前世含めても片手で数えられる程しか行ったことないな。
「
うお、元気な自己紹介。
黙ってたら大人しそうな顔に見えるんだが、性格は正反対らしい。
ぺこりと90度に腰を曲げた後、田辺さんが椅子に座った。
これで男性陣は終わり、次は女性陣か。
「
おっとり系の美人って感じか。
筑前煮って難しそうなんだけど、得意って言うくらいなんだから美味しいんだろうな。
「最後は私ですね。
國枝さん溌剌としてるし、田辺さんと相性よさそう。
映画っていうのもいい趣味だ、平日休みの仕事なら空いてる映画館で見れたりするし。
國枝さんが座り、これで自己紹介は終わりかと思えば、おもむろに社長が立ち上がる。
「私の自己紹介、いる?」
「いらないと思いますよ。本性もバレてると思いますし、普通に話して頂ければ」
坂口さん…?そんな身も蓋もない言い方しちゃっていいんですか?
確かにこんな少人数ならわざわざ取り繕う必要もない気もするけど。
「ならいいか。普通に話すぞ。――集まって貰ったのは他でもない。我がどりーむめいつの第1期生に関わる話の為だ」
社長の言葉に、この場にいた全員の背筋が伸びる。
「
ほう、もう契約取ってるのか。早いな。
しかしママだけか。ふむん?
ママしか言及しないってことは、キャラデザが完成してから話を持ち掛けるつもりなんかね。
「坂口が
「そういうこと!?……あっ」
や、やってしまった!?急に大声とかびっくりするやつやん。
やっべぇみんなこっち見てるわクソ恥ずいんだけど。
恥ずかしさから顔に熱が溜まり、思わず頭を下げてしまった。
やらかしたな…と後悔の念に見舞われた俺だったが、びっくりした顔や、キョトンとした表情を浮かべつつも、大丈夫だと優しい声をかけてくれた社員達のおかげで、なんとか持ち直すことができた。
「そんなに厳しくするつもりはねぇからな。賢祐もみんなを見習って気楽に行こうぜ」
「企業勢と言っても、事務所ごとに本当にバラバラですからね。コンセプトで揃えてるところもあれば、中の人に合わせて作るところもありますし」
思い返すように、僅かに首を傾げた國枝さん。
でも、その発言は的を射ているんだよな。
だからこそ、悩ましい…
ウチはここから始まる新興事務所だ。
この第1期生の成否こそが、この先の明暗を分けるといっても過言ではない。
全員が全員、それを理解している。
理解しているがゆえに、重苦しい表情を浮かべ頭を悩ませる。
「社長の人生掛かってますからね…」
「そうだぞ田辺。マジで頼むからな」
社長と社員の掛け合いに、思わず笑いが零れた。
「おっ、笑ったな。よしよしそれでいいんだよ。ケツ踏ん張って考えるよりも、笑ってアイデア出し合った方がいいに決まってっからな」
「社長も、偶には良いこと言いますね」
「おい國枝ぁ!その言い方だと普段悪いことしか言ってないみたいに聞こえるだろうが!」
「事実では?」
「坂口ぃ!?」
「冗談です。ふっ」
社員同士の仲がいいことは、良きことよな。うんうん。
そう一人ほっこりしていると、岡西さんがこっちに向かって歩いてきた。
「そういえば、守屋さんって社長のご友人さんなんでしたっけ?」
「ほぉ、そうなんですか?」
岡西さんの質問に、宇野さんが乗っかる。
特に隠すことでもないので頷いた。
「社長とは高校時代からの親友でして。ここに入ったのだって、その縁からの誘いを受けてなんですよ」
「へぇ!そうなんですね!」
「高校の友達は一生もんって言いますからね!」
確かにそうかも。
現に達司以外の友達ともたまに遊んだりするし。
確か前は…あぁそうそう、東北新幹線巡り付き合わされたんだっけか。
鉄田が名前の通り鉄オタだったからなぁ。以外に楽しかったけど。
あの日見た車窓の景色を思い出していると、宇野さんが軽く手を挙げる。
「ちょっと思ったんですけど、それ、コンセプトにできないですかね?」
「コンセプト、ですか?」
友達をコンセプトにするってこと?
「友達というより、高校時代のとこですかね。うーん…あっ!クラスメイトなんてどうでしょう?」
「クラスメイト…おぉ、なんかいい感じな気がしますよ!」
「クラスメイトという括りで考えたら、ライバーのキャラも纏まり易いかもしれませんね」
「ありがとうございます。高評価感謝ですわ!」
三人でイチかバチか社長達にプレゼン。
クラスメイトをコンセプトとして推してみると、なんと満場一致での賛成を貰えた。
「クラスメイト、ですか。確かに、VTuberってだいたい16〜18歳くらいの年齢設定がメジャーですからね!」
「夢や目標に対する熱意も10代後半から、20代前半が最も高いというデータもあります。そういう意味でも的確かもですね」
ということで、我らどりーむめいつ栄えある第1期生のコンセプトは、『クラスメイト』に決定したのである。わーパチパチ。
だが、これで仕事が終わった訳ではない*1
熱烈な意見交換の末、生まれたのが以下3人のライバーだ。
1人目、リーダー気質な元気っ子、
向坂 真理は、暖かいオレンジの髪に、明るい茶色の瞳のキャラクターだ。
1期生はみな共通の制服を着用したデザインになっているのだが、彼女はボタンを留めなかったりと緩く着崩していて、胸元の黄色いリボンが一際大きいのが特徴になっている。
学生鞄を腕に掛けているのも、元気さを表現するいいアクセントと言えるだろう。
2人目、お淑やかな優等生、
天音 菜緒は、ライトグリーンの髪に、アイスブルーの瞳のキャラクターとなっている。
優等生らしく制服をぴっちり着こなした彼女は、抱えられた学生鞄と首元のマフラーがチャームポイントだ。
大人びた表情というシンプルな色気がこれまたいい。
3人目、物静かな文学少女、
津代 栞は、グレージュの髪とベージュの瞳のキャラクターだな。
NOブレザーで、カッターシャツの上からアイボリー色のカーディガンを着用している
一人だけ鞄を持っておらず、代わりに文庫本を手にしているのが特徴だな。
ちなみに1期生達の制服は、白のカッターシャツに淡い青のブレザー、それぞれのモチーフカラーのチェック柄スカートにより構成されており、学生鞄も各々の性格が滲み出たデザインになっている*2
真理は、軽いデコに多様なストラップで飾られた、女の子した可愛らしい鞄。
菜緒は、端の方に一つだけ吊るされたキーホルダーという、小さな勇気を感じさせる素朴な鞄。
栞は、動物が描かれたブックカバーと、ワンコの影絵を模した愛嬌のあるしおり。
はっきり言おう。めっちゃ可愛い。
割と時間かかるかもって思ってたのに、名前と軽い設定、あと細かなデザイン案諸々送ったら四日で納品されたからな。
社員一同ドン引きだよ。
「pono先生が漢気見せてくれたんだ。それに答えるのが男ってもんだろ!」
「いや女ですが」
「pono先生も女性ですが」
「一々目くじら立てなくてもいいじゃんかよ!?」
片隅で涙する社長を尻目に、俺達社員はオーディションの準備を始めた。
個人勢からのスカウトという意見も出るには出たものの、相手側が受け入れてくれる未来が見えないとのことで断念。
闇が深いやらなんやらで、新規事務所のスカウトに対する見る目が厳しくなっているのも事実。
惜しい気持ちこそあるが、仕方ないと割り切った。
「当社は実績すらない新興事務所です。好条件な事務所なら他にもあったと思われますが――どうですかね?」
「志望動機なら最初に聞いてますし、後半の台詞は必要ないんじゃないでしょうか?」
「そうですか…すみません、ありがとうございます」
「い、いえいえ!私の方こそ、素人が訳知り顔で…お恥ずかしい限りです…」
「実際の面接でも、「数ある企業の中で、なぜ弊社を選ばれたのですか?」という質問はありますし、その質問を軸にすればいいかもしれませんね」
「「なるほど!」」
書類選考の一次試験は社員全員で、二次試験の面接は、後に各ライバーのマネージャーを担う三人が担当することに。
1期生全体のマネージャーとしてでなく、個別のマネージャーをそれぞれに充当させるという判断だ。
「最初が肝心だろ?だからこそ、念には念を入れて、だ」
今度は
まさかの選出に呆然としたが、大事や役目を任されたからには気が抜けない。
頬を叩いて、気合を入れた。
そして、やる気充分で望んだオーディション本番。
「本日は、お忙しい中お越し下さりどうもありがとうございます。守屋と申します」
こんななんの実績もない事務所を選んで下さった受験者達に――確かな夢を胸に抱いた彼女達一人一人に、面接官として真摯に向き合う。
俺は素人だ。
面接なんて受ける側での経験しかないし、こうして内心で自問自答を繰り返してすらいる。
本当にこれでいいのか?これで合っているのか?さっきの言葉は適切だったか?
合間合間にこんなことばかり考えている俺なのだ、これを素人以外になんという?
…でも、素人だからこそ、わかることだってあるんだと俺は思う。
正直な話、言っちゃ悪いが今回の面接で、俺は面接官というよりは受験者寄りの気持ちで望んでいた。
だって素人だもの。
面接官の気持ちとかそもそも体感したことないんだからわかる訳ねぇんだもの。
「話しながら次の言葉を纏めて」とか、「パニックになっちゃった…こういう時は、一旦間を置くんだよな」とかバリバリ受験者寄りの思考だろうからなぁ。
まぁ、そのおかげさまで分かりやすかったんだが。
この面接に掛ける、彼女達の熱意が。
「…ありがとうございました」
万感の思いで、終了の言葉を告げる。
手応えを感じた人もいれば、そうでない人もいただろう。
足取りを見れば一発でわかる。
「どうでした?」
「緊張しかなかったですよ」
「面接官って、あんな感じなんですね」
新マネ三人組で心ゆくまで感想を述べ合いながら、いつぞやの会議室へ入室。
熱意を受けたのは二人も同じ。
結局その日は夜遅くまで話し合いを続け、翌日。
全員の合意の元、それぞれの担当を選び抜いた。
「…お前らの目、信じるぞ」
「「「はい!」」」
社長からの合意も取り付け、いよいよ結果は決まった。
三名には合格通知を、惜しくも選ばれなかった他の受験者達には、お祈りメールを丁寧に書き上げ、送信する。
俺の決断によって、不合格となってしまった人達に思うところは多々ある。
でも、もう後ろを振り返るのはやめだ。
俺は、俺の担当を決めたのだから。
辞退でもされない限り、この縁が切れることはない。
だったら、だ。
そんな彼女の為に、全力を尽くすことこそが俺の成すべき事だろう。
「迷ってなんか、いられないよな」
――その時、何かが吹っ切れたような気がした。
こんな情けない俺だって、人生二週目なんだ。
なら、やれるよな?
「へっ、当然だろ」
二週目スペックをフルに活かした、爆速のタスク処理。
相応に時間をかけつつも、みるみる仕事が片付いていった。
流石にバケモンみたいな速度は出せなかったけど、それでもだいぶ早い方だったと自負している。
「本、本当にお好きなんですね」
「文字を読んで想像を膨らませるのが得意でして」
こなしたタスクの中には、当然ながら演者との交流も含まれていた。
「読書が好きで、ボイスチェンジャー無しであんな可愛い声まで出せる。……マネージャーさんの方が、よっぽど向いてるんじゃないですかね…」
「何を言ってるんですか。俺が津代 栞?いやいや、有り得ないですって。俺からしたら、早辞さん以外の栞なんて考えつきませんもの」
栞の演者である彼女には、どうにも自分に自信がない傾向が見受けられた。
面接の時から若干気弱なのが気にかかっていたが、どうにも悪化の一途を辿っているように感じるのは気の所為だろうか。
やはりあれか?
あの時の失敗が尾を引いてしまったのか?
それは、正式な契約締結後に開かれた、リモートでの1期生交流会での出来事。
「向坂 真理を演じさせていただきます!
「天音 菜緒を担当させていただきます、
「つ、津代 栞を…え、演じさせていただきます…
「だ、大丈夫ですか!?」
その交流会で、早辞さんは緊張のせいか舌を強く噛んでしまい、その後しばらく話せなくなってしまったのだ。
当然、彼女の同期二人はもちろん、俺達マネージャーも励ましの言葉を投げかけた。
「緊張して舌噛むって、それほど本気ってことだと思うんですよね〜」とは島田さんの言だ。
「しゅみま…すみません。ありがとう、ございます」
俺達からのフォローが効いたのか、その場で持ち直すことに成功したので安心していたのだが…今ではこの有様。
デビューがそろそろ近い以上、なんとかメンタルケアしてあげたいとは思うものの、俺だと余計に拗れそうのが不安でな…
早辞さん、割と結構本気で俺の方が津代 栞に相応しいって思っちゃってるらしいから。
「私、マネージャーの仕事なら、自信あります。すごく」
なんて言われた時は目眩がしそうだった。
思わず國枝さん達や、社長以下スタッフ、青木さん達にもSOSしたくらいだからな
「絶対にやり遂げてやる」
「早辞さんと、津代 栞を頂点に導いてみせる!」
俺はそう心に誓って仕事してる訳だけど、最終的な決定権は彼女にある。
無理強い、押し付けは絶対アカン。ハラスメントは厳禁。
ここはどりーむめいつ、夢を叶えるVTuber事務所なのだから。
そう、あくまでも彼女本人の意志でなければ意味がない。
それでもなんとかしようと奔走はしてるんだけどね…果たしてどうか…
『ごめんなさい…やっぱり私、無理です…!』
あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"――!!!!!!*3
先駆者様のようにがんばります!