ドロイド・コンチェルト【毎週日曜20時更新】   作:SOYA-001

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第10話:悪評で無名に勝れたら

「みんな、ありがとう~!!」

「ありがとうございました~~!!」

 

 ドロイド・コンチェルト開催会場に併設された、いくつかの建物の下には小規模なライブ会場が設置されている。そんな設備のうちのひとつである、第3コンサートホールにて。

 ルディアとの一幕があって以降も、HY-2姉妹はなんとかイメージを立て直そうと活動を続けていた。オーティマを含むチームメンバーは、世間の見られ方や評価の広がりを検証したうえで、――今は変に奇をてらうより、予定どおりに活躍を積み重ねるのが最も堅い、と判断したのである。

 撮影会、握手会、グリーティング――いずれも駆け出しの新星ドロイドにとって、長期的な人気と利益の両得のためにも目指すべき目標だ。だとしても、その一歩がつまづき気味であることを否めない事態に、ハイロンチーム一同、頭を抱えていることに変わりはなかった。

 

 そしてこの日もこの日とて、HY-2姉妹は新人組だけが登壇できるニュービーライブに、なんとか気合を入れて出演していたのだが――

 

「……」

「……」

「……はぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ~~~」

「どうしたんですか、姉さま?」

「うぅぅぅ~~~~……」

 

 楽屋エリアへ戻るやいなや、2αはお決まりのように2βの胸へ顔を埋めていた。辛いことがあると、いつもこうして離れなくなる。その様子に、2βもオーティマも憂慮を隠せない。

 

「2α、また2βの胸に……。今日のライブ、だいぶ良かったぞ?」

「プロデューサーさぁん!! なんかね、なんかね、やっぱボクだめかもしれない……うわぁぁん!!」

「まだあの件を引きずってるのか」

「だってだって、ボクに向けられるお客さんの目、ちょっとキツい気がするんだもん……!! ほかのドロイドのときは、光る棒の数、すっごく多いのにっ!!」

「アルファ姉さま……」

 

 ライブの空気は、舞台に立っている当人が誰より先に感じ取る。だからこそ2αは、その微妙な重さを敏感に察知してしまうのだ。サイリウムの本数、声援の大きさ、視線の意味――そうした細部を瞬時に拾い、遠因まで結びつけては悶絶する。

 

「まぁまぁ。少なくとも、今日のライブは十分うまくいったように思うが……」

「そうですよ! 姉さまは舞台の上で、十分キラキラ輝いてましたし! ワタシだって横で一緒に動いていて、すごかったですから!」

 

 不安に引っ張られたのだろう。2αの表情プリセットは、ほとんど泣き顔に固定されてしまっている。

 

「うぐっ、ひぐ……ほんとかなぁ……」

「本当です! だから自信持ってください!」

 

 2βもオーティマも励ましはする。だが、こうなる根本の性質にどこまで寄り添えているかとなると、自信がない。どう空気を切り替えたものかと考えていたところで、近くに見覚えのあるドロイドたちの姿を見つけた。

 

「おやおや。誰かと思えば奇遇だ。よっ!」

「ふあぁ~。ふたりとも頑張ってるみたいだねぇ~」

「あっ、アイコさん、ピクストさん……!」

 

 片手を上げて挨拶するアイコ。その隣で、柔らかい機体をゆらゆら揺らすピクスト。落ち込みの激しい2αだったが、ふたりの来訪には最低限、襟を正した。

 

「ニュービーライブ、うまく行ってる……って感じでもなさそうだね」

「うぅ……」

「その……悪評が多すぎて、アルファ姉さまは自信をなくされてるみたいで……」

「ありゃまぁ」

 

 感嘆の声を上げてみせるアイコだが、内心ではほとんど想像どおりだったらしい。続く言葉が、それを物語っていた。

 

「でもそりゃ、キミら……あのシェルディに盛大にやり合おうとした、ヤバいニュービーでしょ?」

「そんな新星さん、ドロコン史上初めてのコトだからねぇ~……んにゅ~」

 

 真に迫っているからこそ耳が痛い。反論したくなる2αだが、あの日の醜態が頭をよぎり、勢いごとトーンダウンしてしまう。

 

「じゃ、じゃあ、どうすれば……いいんですかっ!」

「んー……なんてんだろねぇ」

 

 だが、アイコは織り込み済みだったように得意げに指先を立てた。

 

「その悪評、塗り替えられる場に出たらいいんじゃない?」

「……へ?」

 

 まさか対案が即座に返ってくると思っていなかったのだろう。2αが目を丸くする。

 

「要するにさ。こんなフツーのニュービーライブで無理にアピールポイント作るより、もっとキミらの〝らしさ〟を出せる場に出たほうがいいってこと」

「そ、そんな場所どこに……」

「あるよ」

「んぇ……?」

 

 ピクストが肩掛けカバンへ手を突っ込み、チラシを1枚取り出して姉妹へ差し出した。表紙には、こう書かれている。

 

 ――〝コラボシアターライブ『機械少女は人類再生の夢を見るか』(仮題)〟

 

 表面を大きく飾るイラストは、まだ描きかけのラフだ。それだけで、この企画が発足して間もない段階にあることが伝わってくる。

 

「今、アタイんとこのグループで骨子を考えてるんだけどさ。ドロイドだけで脚本から上演までやる舞台ライブの企画があるのよ。これ」

「そんなものも企画されてるんですね」

「まぁねぇ。できることはなんでもやんないと、すーぐ忘れられちゃうのがドロコンだし」

 

 2βの言葉に、アイコは小さく手を振りながら、諦念混じりに続ける。

 

「で、今はキャスト探してるとこ。スケジュールに空きがありそうな子ってので、真っ先にピンときたのがお2機(ふたり)さんだったのよ」

「べ、別に空きなんか……プロデューサーさんだって、今後の予定を考えてくれてるし」

「そーお? その感じだと、空いたスケジュール眺めて焦って潰れそうだなぁって気がしたけど」

「うぐっ」

 

 痛いところを突かれ、2αは肩を震わせる。チラシから視線を上げた2βは、姉を庇うように口を開いた。

 

「アイコさん。アルファ姉さまは、そんなに簡単に諦めるドロイドじゃないですよ」

「ぽっと出て、売れなくて、会社に諦められる子、みんなそう言うんだよねぇ~」

「ピクストさんまで! 姉さまは――」

 

「……ベータ、大丈夫だよ。ありがとね」

 

 2βの庇いを止めたのは、他でもない2αだった。

 

「アイコさんもピクストさんも、先輩だからきっと色々知ってるんだと思う。ボク、ふたりに言われるまで……ファンからどんなふうに見られてるかなんて、ぜんぜん分かってなかったんだ」

「姉さま……でも、姉さまだって十分頑張ってたし――」

「いいんだ、ベータ。ボク、もっと頑張れるから」

「それに……ふたりの誘いがチャンスなら、ボク、もっと頑張りたい」

 

 2αは、泣き顔のままでも、少しずつ顔を上げていた。完全に不安が消えたわけではない。それでも、怯えて縮こまるより先に、進むほうを選ぼうとしている。その変化を、2βは驚きとともに見つめる。交響機を目指すなら、このくらいの胆力はたしかに必要なのだろう、と無理やり自分を納得させながら。

 

「おっ、いいね~。やっと覚悟決まった顔してんね!」

「ふわぁ……悪評って、無名に勝っちゃうものだよぉ~。有効活用、がんばろ~ねぇ~」

 

 アイコとピクストはうんうんと頷き、2αの肩を軽く叩いた。

 

「うん! ボクがんばるよ。ベータもね! ねぇ、プロデューサーも、いいよね?」

「そ、そうですね、姉さま」

「まあ……僕はドロイドがやりたいと言う思いを、あえて止めるつもりはない。全力で頑張りなさい」

「やった!!」

 

 オーティマは、当人たちが感じたこと、考えたことをできる限り邪魔したくなかった。だからこの場では余計な言葉を差し挟まず、ただ静かに頷く。

 

「じゃ、早速アプリコットに会いに行こっか」

「アプリコット?」

「この企画の責任者で発案者だよぉ~。アプリンはねぇ、すっごいんだ~」

「ま、会ってみれば分かるさ。ただ……」

「ただ?」

「ちょーっと気難しい子だから、そこだけちょいと注意ね」

 

 そう言って踵を返す2機の後ろ姿を見ながら、2βはわずかに視線を落とした。

 

 ――会ってみれば分かる。

 それは、希望のある言い方にも、不穏な言い方にも聞こえた。

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