ドロイド・コンチェルト【毎週日曜20時更新】 作:SOYA-001
ドロイド・コンチェルト公式YouTube配信、2035年7月22日。「ドロイドさんに聞いてみよう#55 | 交響機4冠王シェルディの秘める胸の内」にて。実在しないAIボイスが、ドロイドに向けてインタビューを行っている。
今回の配信は、カリシアロマス社の女神。第1回ドロイド・コンチェルトより交響機の座に君臨し続ける、ドロコンの象徴――CLX-01P、シェルディが主役の回だった。
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インタビュアー:今日はお忙しい中、インタビューを受けていただき、ありがとうございます。
シェルディ:いえいえ。こちらこそ。大丈夫ですよ。
インタビュアー:では、まず最初に。第5回ドロイド・コンチェルトがつくばで始まり、まもなく2ヶ月になりますね。シェルディさんは、今回のドロコンでの活動はどのように感じていますか?
シェルディ:そうですね。前回のドロコンと比較しても、とても盛り上がっている良いお祭りだと思います。
インタビュアー:確か、出場しているドロイドの数も、今までで一番多いですよね。今までで一番ライバルが多いことについては、シェルディさんはどうお考えですか?
シェルディ:ええ。出場されている皆さんのことはすべて把握しています。わたしの世代から見ても、やはりどのオーナーも技術力が上がりましたから、可愛らしい子が多いですよね。張り合いがあるというものです。
インタビュアー:張り合いですか。交響機を4連覇されているシェルディさんは、今年も勝ち取りそうな気がしますが、それでも慢心せずにライバル心を燃やしてらっしゃるんですね。
シェルディ:はい、もちろんです。むしろ、ベテランほど後続から追い越される可能性が高いのがドロコンの面白いところであり、残酷なところと言えますね。だからこそ、いくら交響機で居させてもらっているわたしだって、実は気を抜けないんですよ? それだけ、どのドロイドさんも魅力的なのですから。ふふっ。
インタビュアー:そういえば、今期ドロコンのオープニングパレードで、事故がありましたよね。その時の姉妹のドロイドに勝負を仕掛けたとかで、もっぱらSNSでは広く噂になっていますね。
シェルディ:ああ、楽屋での出来事ですか。非公開の場でのことですが、どこから漏れたんでしょうね。
インタビュアー:出場されているドロイドの中には、SNSをそのまま利用している子もいますから。映像つきで流れていましたね。
シェルディ:なるほど。それはまた良くないことを……オホン。そうですね、あの子たちには……まあ、色々と思うことは、ないわけではありません。いきなりわたしを突き飛ばしてきて、その後も馴れ馴れしく話しかけて、その口で交響機を目指している、と軽々しく語られたのは……正直、とてもシャクです。わたしが得てきたこの名前は、そんなにも軽く扱えるものじゃないと、本気で思っていますから。
インタビュアー:そうですね。シェルディさんの立つ立場は、そもそも本気度も格も違いますからね。
シェルディ:ただ。
インタビュアー:ただ?
シェルディ:だからこそ、ちょっと賭けてみたのはあります。
インタビュアー:賭け、ですか。それはどういうことでしょうか?
シェルディ:そのままの意味です。あの子たち、ハイロンの姉妹たちは、本気でどこまで交響機に近づけるか。わたしに触れることができるのか。少し気になったんです。
インタビュアー:それは、またどうしてですか?
シェルディ:さあ? どうしてでしょうね、ふふっ。
インタビュアー:そうですか……ともかく。シェルディさんが、今期ドロコンにも掛けている思いは、ずっと熱いのは確かだということですね。では最後に、シェルディさん。
シェルディ:はい。
インタビュアー:シェルディさんが今、ファンに対して抱いている思いについて、是非教えてください。
シェルディ:そうですね……。
シェルディ:わたしは、今期で既に稼働10年になります。この10年は、ロボットとしてはただの長寿な連続稼働時間に過ぎないものですが、ドロイドにとっての10年は、本当にかけがえのないものです。もしかすると、人間にとってもただの10年ではないかもしれません。
シェルディ:いずれにしても、わたしとわたしを推してくれるみなさんと分かち合ったこの10年間は、今でもしっかりとブループリントに焼き付いています。メモリに保存すれば消えてしまうとしても、ブループリントならば絶対に消えないのです。わたしをわたしで居させてくれる皆さんに、その感謝を込めつつ、今期もたくさん舞台に立って、お礼をしていきたい。そんな気持ちでいっぱいです。
シェルディ:どうぞ、今期ドロイド・コンチェルトでも、わたしをたくさん、安心して推してくださいね。皆さんのこころのクッションに、わたしはいつでもなりますから!
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その日のルディアは、久しく横浜のミゴール・リペアメンツ本社へと赴く予定となっていた。
なんということはない。舞台での大成功から、チャンネル登録者数100万人を達成した偉業をどうしても讃えたいという、児崎社長の希望によるところがあったからだ。
「まったく、あの社長は勝手だよなあ。会場外にしばらくドロイドを出すのだってちょっと手続きがいるのに。その仕事をするのは俺だっていうのに……はーあ」
高速道路を社用車で移動する井野川が、助手席に座るルディアに向かってぼそりとつぶやく。そんなルディアは今や、〝紅鉄のルディア〟としての矜持がすっかり板についているようで、あの派手な軍服パーツを着替えることなく着倒していた。
「けどルディアは気にしなくていい。大丈夫だからな」
「ああ、分かっている」
次々流れていく車窓からの景色。ルディアはそれを、視界にオーバーレイされているHUDカーソルでくりくりと追いかけながら、井野川の台詞に向けて頷く。
「あいつ、今のルディアの功績を、絶対自分の手柄みたく言ってくると思うけど、真に受けなくていいからな」
「ああ」
「何度も言うけど、ルディアの今の人気は、お前が自分で勝ち取ったものだから。その軍服も、キャラも、お前自身のものだからな」
「ああ……」
「……どうしたんだルディア。あんまり元気がないな」
「んぁ?」
ルディア自身は決して適当に返事を返していたわけでも、話を聞いていなかったわけでもない。むしろ、しっかりと聞いていたからこそ身構えているがゆえだった。
「あー、いや。べ、別にそのようなことは、ないぞ……?」
「そんなことある時ほど、キャラらしさが薄いじゃないか……」
「た、たわけっ。何を言うか、全く」
そして、井野川はそれをすかさず察してくるものだから、ルディアは余計に乱れた動きを隠しきれない。
「はっはは……まあなんだ、むしろ大丈夫だよ。お前は本当は芯が強いし。それに、そのカッコいいルディアが、今のお前の武器なんだ。完璧にキャラを乗りこなしてる今だからこそさ。それにブループリントの状態だって、安定していてずっと良いじゃないか」
井野川のその台詞に対して、この時のルディアは少し首を傾げた。
なぜ、自分のブループリントの状態が分かるのか、と。
そして、それが過去に自分の視界に表れた通知の意味と繋がるまで、そう時間はかからなかった。
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[SYSTEM] The supervisor has started measuring the Blueprint.
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──〝監督者がブループリントの計測を開始しました。〟
舞台袖に控えていたルディアが、ふと気づいた時に見た通知をそっと思い出しながら、彼女は井野川に問い返した。
「……なぁユキオ」
「ん? どうした」
「お主は……ユキオはやはり、余のブループリントを見たのか?」
「え? ああ、ちょっとな」
ルディアの声色はいつもよりも震え気味で、少し顔をひきつらせている。そんなルディアの少し緊張を伴った問いに対して、井野川はかなりあっけらかんと答えてみせる。
「ほら、ハイロンの双子ドロイドいただろ? 舞台で共演した子たちな。あそこのPとちょっと話すことがあってさ。なんでも、ドロイドはみんな〝モニター〟っていうので、心の状態を見るのが当たり前だって教えてくれたんだ。後ろに積んだデバイスあったろ? アレはそのPが持ってた予備を貸してくれたものでさ。そんなのがあるなんて、初めて知ったもんだよ」
「……!!?」
「だから、さ。お前がなにかあったとき、アレを使って状態を見て、適切に俺が守ってやれる。だから、安心して欲しい」
「…………っっっっ!!」
別に、ルディアにとっては井野川が
思わない、はずだった。なのに。
ルディアは急激に赤面していく。
機体の計測温度の高まりがHUDアラートに出るほどに。
「ユキオっっ!!!!!!!!」
「え? なっ、何々、どしたんだ突然!?」
「それは無いぞ、ユキオっ!!!」
自分でも、どうしてこんなに恥ずかしいのか分からなかった。
自分のブループリントを覗き込まれるのが、それほど不快だったのか。
あるいは別の思考のせいか。
「わっ、い、今運転中だからっ!!」
「なればオートパイロットにして話を聞けっ!!」
ルディアは訳もわからず、感情に任せてポコポコと井野川を小突き続けた。
「い、いいか! 余のブループリントは、それほどまでに軽々しく覗かれるべきものだと言うのかっ!?」
「あーえっと……いや、それは……!」
「どうなのだ、答えよユキオっ!」
ルディアから突きつけられた本質的な疑義。それを耳にした直後、井野川の唇はいつにも増して乾き気味になってしまった。冷や汗が頬を伝うのが、運転に集中していても感じられてしまう。
「良いか。お主は余のPだ。余の立場は、Pであるお主の支えあってのものだと理解しておる。ゆえに、お主に心を覗かれる事自体は、それそのものは悪いとは思わぬ」
「は、はい……」
「しかしなユキオ!」
ルディアは、指を井野川へピシリと向けながら言う。
相変わらず、彼女のシリコンでできた顔は赤いままだ。
「そういう事は、余に確認を取ってからすべきではないか!」
「ご、ごもっとも、です……あ、あははは……」
大柄な男が、小さなドロイドからどやされる構図。
井野川は気まずさで笑うしかなかった。
「……でも」
「なんだ?」
「やっぱルディアは強くなったよ」
「ふふん。当然であるぞ。なんたって、余は軍服の機皇姫なのだからな」
「そうだな、神聖機械皇国の第一皇女様」
1人の人間と1機のマシンが、かすかに微笑み合う。
ふたりだからこそ成立するその掛け合いの裏側で、いつまでもこんなに優しい時間が続けばいいのに――なんてありきたりな淡い願いが響き合っていたことは、言うまでもなかった。