ドロイド・コンチェルト【毎週日曜20時更新】 作:SOYA-001
お土産、というものに喜びの感情を見せるのは、ドロイドも人間も大差がない、のだろう。リーンが差し出したブリーフケースを、2αは表示したキラキラ目で凝視していた。
「わあぁっ!! リーンさん、これなになに!!」
「フフン。これはねー、
「衣装……!! すごい!! どんなのがあるのか、見てもいい?!」
「もちろんよ! ベータちゃんの分もたくさん作ったからね?」
「あ、ありがとう……ございます」
意気揚々とケースを開けると、たくさんの布地と小道具、そして装飾品パーツが整頓して並べられていた。どれも女の子らしい、それでいてハイロン製品らしい設計思想も垣間見える品々だ。
2αはその中からいくつか取り出したものを両手に握りしめて見ている。よっぽど興味津々なことは、火を見るより明らかだ。
「すごい! これネコの耳だよね?」
「そっ。アンテナパーツの代わりに装備するやつよ。つけてみる?」
「いいの!?」
「ついでにこの衣装も身につけてみよっか」
2αの頭部に備わる大小のアンテナはあくまで装飾品であり、通信モジュールとしての機能はない。そこそこマグネットで吸着しているだけであるため、容易に取り外せる。姉妹の装備はほぼこの設計だが、それはまさしく彼女たちが
――そうこうしているうちに、持ち寄った衣装パーツをパチパチと姉妹に着せていくリーン。最初に持ち出したものと合わせると、姉妹はすっかりわかりやすい猫耳メイドに仕上がっていた。
「これ、なんだかちょっと熱がこもりそう……」
「そう? 意外と似合ってるわよ? こういうあからさまな記号を詰め込んだロボットガールって、実際需要あるのよ~?」
見たかった推しドロの姿を堪能しているからか、とことんご機嫌のリーンがさらに指南を重ねる。
「ほらほら、こう手を握って前に突き出して、腰を落としてみて!」
「こ、こう?」
「そうそ! それからそれから、今度はこう言ってみるのよ! 『にゃんにゃん! ご主人、今日もおつかれさまにゃ!』って!」
「うえぇ、な、なんだかちょっと恥ずかしいよぅ……ね、ベータ?」
「……はい」
ポーズだけは取りつつも、台詞までは抵抗を見せた2αに残念がりながら、リーンは次の服を手に取る。天使と悪魔。白と黒。リングと槍――対極性がはっきりとした衣装だ。
「んぇ~、背中のハネがジャイロに響くの不思議な感じ~」
後ろを振り向けば、ワイヤーで形を取った天使と悪魔の翼が振り子のように揺れる。ぐわんぐわん。頭部に吊っている輪っかも気になってしょうがないらしい。
「な、なんでワタシが悪魔なんですか……?」
「ほら、マジメっ娘が実は、っていいギャップでしょ?」
2βのほうはと言えば、そもそものプロポーションの良さのおかげか、悪魔というよりは、より艶やかで露骨な印象を与えるほどだ。彼女はなんとか言い訳を立てるも、当惑の顔がフェイスディスプレイに滲んでいるのを見るなり、リーンはバツが悪そうに次の衣装を手に取った。
「日本のスクールスタイルも、本国じゃ人気なのよねぇ。意外と他社はやってないし。うん、似合ってるわ!」
2αにはブレザーを、2βにはセーラー服を着せてみせる。
しかし、時は2035年。令和にすれば17年。
この時代になって、日本でセーラー服をお目にかかること自体が珍しくなったというのに、リーンはあえてその良さを語らんとする勢いだ。
「なぁ姉ちゃん、なんか2機ともスカート短すぎないか?」
「え? あぁ、気の所為よ気の所為! おほほほ……」
ハワードの呆れ気味の視線に、リーンのごまかしの顔。少し高めのステージに登れば背徳的な状況が起きかねないのを想像したのか、彼の顔は背けられている。
しかし、2αは大して気にする様子もなくスカートをめくって見せる。
「でも冷却性能は高い気がするからいいかも!」
「……あ、アルファがそう言うなら……って、めくるなめくるな!!」
「ふふっ、ハウィったら変なとこ気にするじゃない? ほらほら、なんならちゃーんと冷却してるところ、見てあげたら?」
「バッ、そんなんじゃねえし!! いいからスカート降ろせよアルファ!!」
「……?」
次に着せたのは、パーソナルカラーに合わせたチャイナドレス。腰のスリットから覗く関節部がやたらと強調される装いだ。
「お~、意外と合うわね、エスニックスタイル」
「ハイ、ヤー! こんなポーズがいい? っとっととと!」
「姉さま!!」
2αに関して言えば、これまでで特に装飾パーツが目立つ。普段ならアンテナが並ぶところにドレスに合わせたお団子が一対備わっているため、少し派手な動きをすると身体感覚に影響するのだろう。
「ごめんごめん、頭のおしゃれユニットが意外とジャイロに響くから……」
「シニヨンユニットです、姉さま」
「さてさてお次は~……ぐふっ、ふふふふ……ついにこれを着せる時が来たわ……♡」
嫌な鼻息の荒らげ方とともに持ち出したのは、何を隠そう水着だった。それも人間用の、大胆にも僅かにしか遮蔽面がないものと、逆に遮蔽面が広い、いわゆる〝スクール水着〟だ。
「あぁ……さすがはHY-2姉妹……うすぺた、もちもちそれぞれのシャーシの良さが、最小構成の布面積で大きく引き立ってるわ……やっぱり持ってきて正解ね……」
「うぅぅぅ、このナイロン材の布、関節で噛んじゃいそう……」
着せてから初めて分かる素晴らしさ――リーンは赤い線を鼻筋に零しながらサムズアップしていた。
「なっ、ななな……こ、コレほ、ほとんど紐じゃ――」
危ういポイントは最初から備わっていないマシンとはいえ、片や赤裸々に要所だけを隠して見える姿にオーバーヒート寸前の2β。
片や布の回り込む位置が気になって仕方がない様子の2α。
「バカアネキ! グリイベにこんな格好で出せるわけ無いだろ!!」
「他社はやってるところはやってるわよ? そんな怒んなくても……」
「オヤジもなんか言ってやってよ、暴走しすぎだって!」
さっき以上に目のやり場に困りすぎているハワードの制止によって、ようやくこの流れに終止符が打たれた。
「まあまあ。確かに過激な気もしなくもないが……2機のために土産をたくさん持ってきてくれたんだ。そこは汲み取ろうじゃないか。
……うーん。それじゃあ、そうだなぁ。こうしよう。現場責任者のオーティマ君の意見を聞いてみようじゃないか。どうだね? 今日のグリイベに、どの衣装を選ぶ?」
2人をなんとかなだめるリチャード。つかの間の安心はすぐに霧散し、残り香のように残った面倒なことが現場スタッフ投げ込まれる。ハイロンではよく起こり得る出来事だが、オーティマはなんとか色々とこらえた。
「そ、そうですね……最後のは、流石にうちとしてもちょっと……」
「えー! オーティマ、これ絶対似合うと思ったんだけど! 特にベータちゃんのむっちりボディラインにこれすごく似合うわよ!?」
「そういうプロモ路線は狙ってないんですよ、申し訳ないですが。他の衣装ならまだ……」
現場で姉妹を長年見てきた立場ゆえの率直な意見。だが、その意見は社長の子どもという立場によってかなり揺すられる。ああ、これは面倒だ、と内心では苛立ちを抱えながらも、オーティマはひたすら問答を繰り返し続けた。
そんな横で、水着を着せられたままの姉妹が――2βが静かにうつむいていた。
「……」
「ベータ?」
「なんでも……ありません」
「ベータ、なんでもないはウソ。でしょ?」
無意識に出たいつもの言葉でしのごうとするも、この日ばかりは運が尽きたのだろう。2αは2βの予想を裏切って、妹機に向き合いながら食い下がり始めた。
「ウソじゃないです。セルフチェックは――」
「セルフチェックは関係ないよ。ベータ、ここ最近ずっと暗い表情プリセットばっかり使ってるでしょ!」
思ったよりも自分を見る目が細かい。いつの間にそこまで気にするようになったのか――と思ったところで、2βははそれが姉機を下に見ている気がして口ごもった。
「ベータがどういう気持ちなのかはわかんないけど、もし何かあるならボクが――」
――2βは耐えられなかった。
「だとしても、今は社長や御子息御令嬢の前です」
「で、でも!」
「でもではありません、姉さま。交響機を目指すなら、余計なことは考えるべきではありません。そうでしょう?」
「……うん、ごめんベータ」
「2機に何かあったの?」
水着のまま、目を背け合う姉妹を見たリーンが、きょとんとした顔でオーティマに話題を振ると、彼は少しばかり苦笑しながら答える。
「あ、あぁ。そうですね。まぁ……しかし機能的には正常なので、今は様子を見る段階ですかね」
「フム」
リチャードの顔から笑顔が一瞬剥がれる。それに気づけば、オーティマと言えど多少身構えるのだから、他のチームメンバーともなれば、もっとだろう。
「これは個人的な見解だが……何らかの懸念点があるなら、早めになんとかしたほうがいいぞ、オーティマ君」
「ええ、はい。それはもちろんです」
「いいか? Pの君が姉妹ちゃんをどう見ているのかはよくは分からんが、姉妹ちゃんのことはちゃんと見てやるんだぞ?」
「はい」
「あの子らの責任者は君なんだ。分かってるな?」
「も、もちろんです」
その肯定が、本当にそのまま肯定しきれるのか。
この時のオーティマは、その答えを確固たるものにできるほど、落ち着きを得てはいなかった。