【異端審問不可避】勇者だけど、聖女妊娠させたったwww 作:清い聖女
「いいかアルバ、戦いの前には女を抱け。小便漏らしてガタガタ震えてる暇があるならまずヤってこい! なあ、それが何よりも大事なことだ。そうすれば全てはうまくいく。分かるか?」
俺、勇者!
以前、世話になっていた戦士のおっさんに魔物と戦うためのアドバイスを聞いたら、返ってきたクソみたいな答えがこれである。
Q:魔物とどうやって戦えばいいですか?
A:セックスしろセックス!
答えになってねえだろうがよ~!
そもそも誰とセックスするねん。
俺とセックスしてくれる女がどこにいんだよ。教えてくれよ。
パーティーの仲間の女なんて何百年も生きてる魔女ババアかクソ神経質な潔癖聖女しかいねえのによ。
聖女なんて不潔だの不快だの、いつもゴミを見るような目で見てくるしよぉ~。
魔王を倒す勇者パーティーなら出会いなんていくらでもあるだろって?
はい、魔物に襲われている女の子をカッコよく助けて惚れられる。
そんな場面を妄想している頃が俺にもありました。
いや、魔物で困ってる村とか町を助けたことはあるよ?
でも無理なんすよ。俺なんぞより遥かに背が高くて顔面の良い騎士(しかもお貴族様)がパーティーにいるんだもん。
「お怪我はありませんか? お嬢さん」なんて当たり前のように言いながら女の子に手を差し伸べられる男に勝てるわけがない。
ちなみに俺が同じことをやろうとしたら、
「お、お怪我は……デュフッ、ありませんか、なーんて……」
と緊張でボソボソ呟く不審者が出来上がった。
その結果、手を伸ばした女の子はドン引きした表情で自力で立ち上がり逃げるように去っていくのである。
さらにそのザマを見た聖女が「気持ち悪……」と呟くまでがワンセンテンス。糞が。童貞を舐めるなよ。
なんでそんなに聖女に嫌われてるかって?
まだ勇者として旅立って間もない森での野営中、どうしても我慢できずに1人でこっそり致してた時、聖女に見られたことがあった。
それからというもの、奴はまともに口を聞いてくれなくなったのである。
「最っ低……」
その時の排泄物を見るような顔が今でも夢に出てくるぜ。奴は現実だけでは飽き足らず夢の中でも俺を罵倒してくるのである。
せめて夢の中では俺に優しくしてくれよ。泣いちゃう。
しょうがねぇだろ出したいものは出したいんだからさあ~! これは男の生理現象なの! わかる!?
そんなに文句があるならお前が相手してくれるんですかねえ!?
なんてブチ切れたくなるが、もちろん現実では言えない。
どれだけ険悪な女が相手だろうが、それはいけない。
俺はあの騎士のような品行方正な男を目指しているのだ。
なぜならモテたいから!
俺のことを好きになってくれる女の子といい感じになりたい!
そしてあわよくばセックスしてぇ~!
なんてことを言ってたら、魔女ババアは「お前は馬鹿か? 女を知りたいだけなら行くべき店があるだろう」なんてことを言ってくる。
バカはおまえだよババア! なんもわかってねえ!
俺は!! 俺のことを!! 好きになってくれる女の子とセックスがしたいんだよ!!
あとお店の女の人ってちょっと怖いじゃん!! なんか向こうから手招きしてくる感じがさぁ!!
……で、なんでこんなことを思い出してるかというと。
さすがにもうすぐ本気で死ぬかもなあ、と思ってるからだ。
もう三日は太陽を見ていない。
空を見上げれば北の地平の向こうまで満天の星空が広がっていて、そろそろうんざりしてくる。
“魔王”こと流星の魔神エクステラが座す常夜の山嶺、その中腹。
この世には魔物とか呼ばれる超強くて怖い動物がいて、その中でも特に強いやつを魔神と呼ぶらしい。
そしてその魔神を束ねる親玉のことを“魔王”と呼ぶのだ。
で、魔物がよく斬れる聖剣とかいうものがあるらしく、その適合者に選ばれた俺はあれよあれよと魔物が跋扈する戦場に放り込まれることになった。
死ぬぜ、マジで。
魔物と戦うたびに「あ、今日死ぬかもしれん」なんて思う。
俺は武術なんて学んだこともない、平民の石材職人の息子である。
ただ聖剣を使えるから勇者だなんてお呼ばれされているにすぎない。
それでもなんとか死なずにここまで来たが、さすがに魔王と戦ったら絶対死ぬ以外の未来が浮かばない。
「いっそのこと逃げちまうか~なんてな、ナハハハハ」
野営地からそれほど遠くない崖のそばで座って、んなこと無理だけどな、と思いながら呟いた時だった。
「そんなところで何してるんですか?」
「ホァ!?」
背後から聞きなれた声が飛んできて思わずびくりとする。
おっかなびっくり振り向いてみれば、いつも通り不機嫌そうな聖女の顔。
「い、いきなり後ろから声かけるなよ。びっくりするだろうが」
「へぇ~、それなら尚更感謝して欲しいですね。もし今、魔物から襲われてたら死んでましたよ、あなた。既にここは魔王の目が届く領域なのに、ひとりでフラフラ行動するなんて勇者としての自覚が足りないんじゃないですか」
出た出た、反論すればこうやってさらに正論パンチで殴ってくるのがこの女の嫌なところだぜ。もう慣れたけど。
ってか勇者の自覚も何もあるか! 俺は平民だぞ。ふんぞり返るより頭下げる方が得意だわ。
「ていうかお前だって今ひとりじゃねえか!」
「わざわざ心配して探しに来てあげたのにその言い草ですか?」
「なら心配してる素振りくらい見せてくれよ~。わかる? 俺は今嫌味じゃなくて優しさを求めているんだよ」
「嫌味じゃなくて事実を言ったまでです」
「お前のその事実は優しくないんだよ」
「じゃあどうしろと?」
そう投げやりに言って、聖女───セラは俺の隣に腰を下ろした。
ちょうど拳一個分くらいの間隔。仲の悪い俺たちにしては珍しく近い距離で、違和感がある。
「───それとも、逃げてもいいよ。とでも言えば満足?」
「……聞いてたのかよ」
「耳はいいので」
そしてお互い無言になる。
横目でセラを見れば、何も言うでもなく空に視線をさまよわせていた。
変だな。いつもならここで烈火のごとく反省を促してきそうなもんだが……。
「責めないのか、いつもみたいに」
「優しくしてほしいんでしょう? だから黙りました」
「だからって無言じゃお前の優しさは伝わらないんだが?」
「面倒くさい人ですね……そんなに優しくしてほしかったら、先にわたしに優しくしてみたらどうですか?」
面倒くさいのはお前だよ!
セラはおもむろにこちらを向くと、いつも通りつーんとした表情のまま、なぜか両目を閉じた。
そして数秒の無言の後にゆっくりと眦を開くとこちらを睨みつけて、心底あきれたようにため息をついた。
……なんかすごいバカにされてる気がするんだが。
意味がわからん。何がしたいんだよ。
「……はぁ、わかってたけど。あなたにそういうデリカシーを期待するのが間違いでした」
「だから何がどういうことだよいつもそうだなお前はよぉ~! 理由を言え理由を」
「なんでもないです」
「いやどう見てもいつも通り俺のことバカにしてるだろ……って、え?」
おもむろにセラがずいとこちら側にずれてきて、ぴとりとお互いの腕と肩が触れるくらいに密着する。
え、こいつ何してんの?
わずか拳一個分くらいの距離が縮まる。
たったそれだけ。ただ服が擦れあってるだけの感触しかないのに、ひどく動悸がした。
だからこそ、それが俺たちを隔てていた分厚い壁だったのだと知れた。
ずっと一緒に戦ってきたのに、お互いにいがみ合って罵り合うような関係だった。
単純に性格が合わない。
でも、戦いの呼吸だけは合う。
そんなだからお互いに話すたびにイライラするのだ。
セラの腕からかすかな震えが伝わってくる。
いつしか手袋を外していたセラの白い掌が、俺の手の甲にゆっくりと置かれた。
お互いに夜風に当たって、とても冷たかった。
「アルバ」
間違いなく俺の名前である。
それでも、聞き逃しそうな、ひどくか細い声。
気が付けば、深い海の底のような、潤んだ藍色の瞳がこちらを見据えていた。
「怖いんです。わたしがおかしいってわかってます。でも、今だけは」
何も言わないでください。そう言って、今度こそ手を握られた。
その手は力無く震えていた。
「お願い、抱きしめて。キスして……」
さすがにここまで言われれば、この女がなにを求めているかは分かった。
抱き寄せて顔を近づけるうちに、セラの目尻に涙が伝ったのを見た。
ああ、死にたくねえなあ、怖えなあ、と思った。
女を抱いたことなんてない。
でも、どうせ戦って死ぬなら、人肌の温もりを知ってから死にたい。
あのおっさんが言ってたことはきっとそういうことなのだろう。
お互いにそういう色恋沙汰なんてなかった。
というか、普通に考えればいつ死ぬかも分からないのに恋愛なんてできない。
勇者だの聖女だのと囃し立てられて、ひたすらに魔物と戦い続けた。
だから、最初で最期の相手が、せめてよく見知った相手だったならまだマシな方だ。
もしかしたら、俺たちは同族嫌悪のようなものだったのかもしれない。
だからこそ、死を前にして惹かれあったんだろう。
俺たちが魔王エクステラを討伐する、その少し前の話である。