【異端審問不可避】勇者だけど、聖女妊娠させたったwww   作:清い聖女

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ある日の深夜

「夢かよ……」

 

 目を覚ませば、身体が異様に汗ばんでいることに気づく。

 ベッドから起き上がって窓外を見れば、王都の景色はまだ暗闇に閉ざされていた。このまま朝を待つには早すぎる。

 

 俺はそのまま再びベッドに倒れこんだ。

 

 あの日の夢を見ることは珍しいことじゃない。

 

 目が覚めるたびに、夢でよかった、と思う。

 いまだに、魔王を倒して生きて帰って来たのだという実感がないからだ。

 

 どうしてアレを倒せたのか、どうしてパーティー全員死なずに生きて帰ってこられたのか、正直のところよくわからない。

 

 どこか現実感のないまま王都に帰ってきて、最初に待っていたのは三日三晩にわたって続くパレードだった。

 いやあ、あれは疲れたね。ただ馬車の上から手を振ってるだけなら良かったが、会ったこともないお貴族様のパーティーに放り込まれたのはさすがに胃が痛かった。

 知らないうちに失礼働いて不敬買ってたら怖すぎるぜ。

 

 こっちはただの平民なんです! 許してください! なんて言い訳も今はもう通じないんだよなあ。

 

 王から褒章として騎士爵位なんてものを与えられた結果、何故か俺は貴族の一員になってしまったらしい。

 さらに家まで与えられて、今は騎士団で騎士として働いている。

 

 騎士団の同僚も皆貴族の子弟ばかりで気が休まる時間もねえ~!

 

 しかも俺は騎士団の中でも一番の新参者だし、絶対に平民上がりの生意気な野郎だって思われてるぜ。

 ただの平民が叙爵されるなんて普通ならありえないことくらい俺だってわかる。

 実際ぜんぜん会話してくれる人いないし完全に扱いが厄介者なんだよなあ。やってられねえぜ。

 

 そう思うと、ふと、あの聖女の口煩さが懐かしくなる。

 

 セラも今は王都の教会に戻ったらしいが、聖女として昇進したらしいこと以外は何をしているのかはよく知らない。

 理由もなく会いに行くのもなんだか気まずく、パレードの後は一度も会っていない。

 

 それにあの日のことを思い出すと気まずすぎる!

 お互いに死を覚悟したヤケクソであんなことをした手前、今更どんな態度で接すればいいんですかねえ!?

 

「はぁ、何してんだろうなあ、あいつ」

 

 天井をぼんやり眺めながら呟くと、ドン、ドンと何かを叩く音がした。

 

 気のせいか? と思ったらもう一度、同じ感覚で。

 そこでようやく、ドアをノックする音だと気づいた。

 

 でも、こんな深夜に訪ねてくる奴は明らかに普通じゃない。

 強盗か? でもそんな正面からドアをノックして入ってくる親切な強盗なんている?

 

 念のため鞘に納めた剣と燭台を持ち、そろそろと部屋を出てドアの前に移動する。

 

 相変わらず一定の間隔でドアを叩く音はやまない。

 

「こんな時間に何か用ですか?」

 

 ドア越しに喋りかけるが返事はない。

 そしてドアの下から何かが滑り込んできたのが見えた。

 

 拾えば小さな花の模様が彫り込まれた、くすんだの金の首飾り。

 よく見覚えがある。そしてこれを身に着けていた人間も俺は知っている。

 

 ドアを開ければ、目と鼻の先にはフードをすっぽりと被ったシルエット。

 そして、なつかしさすら感じる藍色の瞳がこちらを見据えていた。

 

「……突然、ごめんなさい。お願いします、中に入れてくれませんか」

「ま、まあ入れよ」

 

 

 ※

 

 

 まだ夢でも見てるのかと思い頬や腿をつねってみたが、どうやら現実らしい。

 

 居間の机に燭台を置くと、向かい側に座ったセラの表情がおぼろげに浮かび上がった。

 さっきからずっと、何か思い詰めたような顔をしている。

 

 尋ねてくる時間からして異常すぎるし、今回ばかりは流石に文句を言う気にもなれない。

 

「で、何かあったのか?」

 

 セラはしばらく黙っていたが、意を決したように俺に目線を合わせると、口を開いた。

 

「───神力を失い、奇跡が、使えなくなりました。何も」

「え?」

 

 奇跡というのは教会の聖女たちが扱う神の力だ。

 魔法とは似て非なるもので傷や病気を癒したりするのが主だが、攻撃性の高い奇跡もある。

 魔祓いと呼ばれる戦いを生業とする武装聖女たちが使うのがそれだ。

 セラも教会の魔祓いとして魔王討伐に参加していた。

 

「今はまだ体調不良ということで誤魔化していますが、これ以上は無理です。じきにわたしが神力を喪失したことは露見するでしょう」

「ちょ、ちょっと待てよ。そんな、いきなり力を失うなんてありえるのか? たまたま調子が悪いとかじゃなくて?」

「……聖女が力を失う原因は主にふたつあります。一つ目は信仰を捨て去り、淫祠邪教の徒となること。そしてもう一つが……」

 

 セラはおもむろに目線を下に落とした。

 

「戒律を侵し、腹に、子を宿すこと、です」

 

 ……今なんて?

 

「待て、子? って」 

「……わたし、妊娠したのだと、思います」

 

 きっと、あの日に。

 言わずとも、続く台詞が想像できた。

 思わず目を見合わせた。そして、お互いに確信していると知れた。

 

 あの日、セラを抱きしめてキスして、そのままなし崩し的に、その、つまり、ヤったのだ。

 でも子供て。妊娠て。俺とセラの? ホントに? あの時、セラは確かに魔女ババアに“万が一のための魔法”をかけて貰ったと言ってたが……それが嘘だった?

 いやいやいやいや。聖女を妊娠させたなんて絶対にヤバいだろ。俺だってただじゃすまねえよ。

 そもそも、セラの勘違いってだけで妊娠なんてしてなくて、本当にただ調子が悪いだけかもしれないし、今はまず冷静になることから───。

 

「信じられないですよね。いきなりそんなこと、言われても」

 

 俺の動揺を見透かしたかのように、セラは続ける。

 そして続けて、ぽつりと、

 

 「ごめんなさい」

 

 セラがつぶやいた瞬間、手が、反射的に動いた。

 

「アルバ!?」

 

 セラがすっとんきょうな声を上げてこちらを凝視した。理由はわかってる。

 

 唐突に俺が俺自身の頬をぶん殴ったからである。

 あー痛ってえ、口の中切ったかも。

 

「あ、あなた頭おかしくなったんですか!? と、突然すぎて、混乱するのはわかりますが───」

「いや……珍しくお前の嫌味は正解だぜ、セラ。たった今俺の頭はおかしかった。それをぶん殴ってまともにしただけだ。気にすんな」

「気にするなって、あなたね……」

 

 色々と言いたげなセラから少しだけ目をそらす。

 

 危ないところだった!

 思わずクソカッコ悪いことを言っちまいそうだったぜ。

 

 俺は品行方正な男を目指している。それは今でも変わらない。

 そして、この女がこれほど憔悴しているのを俺は見たことがなかった。

 

 少なくとも、お互いに恐怖で震えていたあの日以外は。

 

 仮にもずっと一緒に命懸けの戦場を戦ってきた仲間だ。だから、ただ事ではないことくらいは分かる。

 

 だからこそ、信じなきゃいけない。

 疑った上に謝らせるなど、到底許されることではない。

 

「なあ、セラ」

「な、なんですか」

「子供ができたって教会にバレたらどうなるんだよ?」

「……異端審問の後、破戒僧として扱われます。神力を失ったのですから当然、聖女ですらなくなります。まず破門は避けられませんし、追放か───」

 

 そこまで言って言葉を切り、意を決したように口を開く。

 

「───位の高い聖女であれば、唾棄すべき冒涜的行為として扱われ、神前にて処刑もあり得ます」

 

 ただの平民である俺が騎士爵位を与えられたのと同じように、セラもまた魔王エクステラ討伐の栄誉により教会の上級聖女の一人として列せられている。

 

「明日、大司教様の元に出頭し、罪を告白するつもりです。だから、その前にどうしてもあなたに逢っておきたかった。人に気取られない時を見計らっていたら、こんな夜更けになってしまいましたが」

 

 セラは優しげに微笑む。聖女のように。

 

「勿論、誰の子かなど決して口にはしません。すべてはわたしの弱さと愚かさゆえに招いたことです。アルバ、あなたは悪くない。わたしがどうなろうと、どうか気に病まないで」

 

 セラは子供を安心させるようにうそぶく。聖女のように。

 

「───それだけを、どうしても、伝えたくて」

 

 そう言って、セラはそのまま闇に溶けそうなほどに、弱弱しく笑う。

 旅をしていたあの頃の憎たらしさは、もはや影も形もなかった。

 

 その時、俺が感じたのは強い憤りと怒りである。

 ムカつくぜ。

 

 このバカ女がよ。何でそんなほっとした顔してんだよ。

 神経質で、潔癖で、クソ真面目で、何も融通が効かねえ。

 そうやって人の話を聞かないまま突っ走って、ひとりで背負いこみやがる。

 正直、そういう所も嫌いだったよ。

 

 でも、あの日お互いの肌を合わせて、知ってしまった。

 

 この女だって泣くのだ。

 怖い時は怖いのだ。

 不安にだってなるし、死にたくないって思っている。

 ちょっとだけ歯を食いしばって、ほんの少しも涙を流さないように耐えているだけだ。

 

 こうして向かい合っている今でさえも。

 

 なーにが「気に病まないで」だよ。無理に決まってんだろうが!

 品行方正なこの俺を舐めるのも大概にしろ!

 

 せめてさあ、助けてって言えよ。仲間だろうが。

 お前のせいだからなんとかしろっていつも通りブチ切れてみろよ。

 

 その一言すら言えないこの女の不器用さがひどくムカついてたまらない。

 

 だから俺は、この女が言うのと逆のことをやってやろうと決めた。

 

「よし、じゃあ準備するか!」

「な、何のですか?」

 

 戸惑う声を無視して俺は勢いよく立ち上がる。

 

「決まってんじゃねえか。逃げるんだよ! 一緒に!」

 

 言って、セラの手を取った。セラは呆気に取られた顔で、俺を見つめていた。

 

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