静かなシャーレの執務室。
私の目の前では白銀の髪を揺らしながらケイがタブレットに向かっている。
新たな体を得て生徒として私の前にいる彼女。
透き通るような白い肌と美しい白髪は窓からの光を浴びてキラキラと輝いていた。
私はそのひたむきで愛らしい姿を眺めているだけでは我慢できなくなった。
そっと背後に回り込み、彼女の頭を両手で包み込むように撫でる。
「なっ……先生!?」
突然の接触にケイの肩がビクッと跳ねた。
彼女は慌てて振り返り私を少しだけ睨む。
「ケイちゃん、お仕事頑張っててえらいね」
「だーかーら!誰がケイちゃんですか!私は今シャーレの防衛システムの再構築という重要なタスクを……んあっ」
抗議の声を上げる彼女の頭を私はさらに優しく撫で回す。
サラサラとした白銀の髪が指の間を滑り抜けていく感覚が心地よい。
「先生!頭部への断続的な摩擦は静電気を発生させシステムの軽微なエラーを招く恐れが……」
口では立派な理屈を並べているが彼女は私から逃げようとはしない。
タブレットを持ったまま真っ赤な顔でフリーズしている。
「でも気持ちいいでしょ?」
「き、気持ちいいなどという曖昧な感覚は……っ、そこは……」
私が耳の後ろあたりを優しく撫でると、ケイの声がふにゃりと裏返った。
彼女の強がりが少しずつ崩れていくこの瞬間がたまらなく好きだ。
私はそのまま彼女の脇に手を入れてひょいっと抱き上げた。
「わっ!?先生、何を!離してください!」
そのまま執務室のソファに移動し自分の膝の上にケイを座らせる。
華奢な体はすっぽりと私の腕の中に収まった。
「少し休憩しよう。先生のエネルギー補給に付き合って」
「私を抱き枕か何かと勘違いしていませんか!?私は名もなき神々の……」
「はいはい。可愛いミレニアムの生徒のケイちゃんでしょ」
私は彼女の背中をトントンと優しく叩きながらさらにギュッと抱きしめる。
「……っ、体温が急上昇しています。これ以上の密着は……」
「ケイちゃんは本当にあったかいね。いい匂いもする」
「それは……アリスに勧められたシャンプーの香料によるものであって……私自身の匂いでは……」
必死に言い訳を紡ぐケイの声は次第に小さく弱々しくなっていく。
私はテーブルに置いてあった甘いクッキーを手に取った。
「ほら、ケイちゃん。あーん」
「……私は先生のような食事による糖分補給を必須とする構造では……」
「あーん」
「……あーん」
素直に小さく口を開けたケイにクッキーを含ませる。
もぐもぐと咀嚼する彼女の頬はすでに夕焼けのように真っ赤に染まっていた。
「美味しい?」
「……悪くは、ありませんね」
すっかり抵抗する気力を失ったのかケイは私の胸にコテンと頭を預けてきた。
美しい白銀の髪が私の服に擦れてふわりと広がる。
私はその髪を指ですきながら彼女の細い背中をゆっくりと撫で続けた。
「先生の体温は……不思議です。私をバグだらけにするのに……とても、安心します」
ぽつりとこぼれ落ちた言葉はシステムでもプログラムでもない。
ただの一人の人間の女の子の甘えるような本音だった。
「いっぱいいっぱい甘えていいんだよ。ケイちゃんのことは私が守るから」
私がさらに髪を撫で続けると彼女は目を細めて気持ちよさそうに長い息を吐いた。
「……もう、ケイちゃんでも……なんでもいいです……」
完全に論理がとろけてしまった彼女は私の腕の中で子猫のように身をすり寄せてくる。
さっきまでの理屈っぽい拒絶は完全に消え去っていた。
「……もっと、撫でてください。先生」
上目遣いでおねだりをしてくるその顔は反則級に可愛かった。
私は嬉しくて彼女の白い額にチュッと軽いキスを落とす。
「ひゃっ……!?せ、先生、今の接触は……っ!」
「ケイちゃんが可愛いからご褒美」
「ご、ご褒美……」
再び顔を真っ赤にしてフリーズした彼女を私は時間の許す限り抱きしめ続けた。
シャーレの執務室には彼女の静かな寝息と甘い時間がいつまでも流れていた。