女は描く
奇跡の軌道を
女は謳う
呼び声の旋律を
やがて
だって、ほら、女はこんなにも、能天気に、有頂天に、お気楽に、遊楽的に、悪戯的に、侮蔑的に___未だ知らぬ何かに恋焦がれるように
女の中を巡る命の流れが、僅か肉体の一割を満たすこともない…そんな、囁かな好奇心で、女は奇跡を執行する
女が祝詞を告げ終えると、大きな風の津波が巻き起こり、木々は薙ぎ倒され大地はひび割れる
破格の魔力の波状は、ただひとりの…否、ただ一体の「なにか」を召喚するだけで周囲の自然を破壊した
女は、その魔力波の周波を自分にぶつかる直前にだけ自分の魔力と同一化し、何の衝撃を受けることもなくその場に立っている
そして…目前に姿を現したそれを見て、悪戯が成功した子供のように頬を赤らめ、目を輝かせ、喜びに口角を吊り上げたのだ
「やった…やったー!成功!成功よ!やはり触媒にこれを選んで良かったわぁ…!
同じ神話系列、かつ泥…その微かな共通点さえあれば、あとは術式を組み替えてこの子を確実に喚び出せる、私の仮定は正しかったのね!
実験も成功!
マキリのお爺様ったらまだまだ試行錯誤が足りないわねぇ〜、脳内シュミレーションもできないのかしら?
…ああ!もうお歳だから認知機能が低下しているのね!」
女はこの場にいない謎の翁へ、悪意の無い所感を述べながら…成功したとされる現状を前に、周囲を歩き回ってそれを観察する
「へぇ〜…ふぅん…本当に土で出来てるのねぇ、おもしろーい!
あ、草のいい香り〜
目は?口は?どこにあるの?この角がレーダーのような役割をしているのかしら…?」
「お…おい!」
女が観察に夢中になっていると、背後から男が現れた
周囲の惨状に狼狽えている男は、女が魔術学校である時計塔で出会った唯一の同級生だ
「あら、見張りに徹するとか言ってたのに気になってしまったの?仕方の無い人なんだからぁ」
「なんだそいつ…サーヴァントっていうのは歴史ん中の偉人だって話じゃなかったか?」
男は、女が呼び出したそれを見て眉に深いしわを作る
男の全身の神経という神経が、緊急アラートを鳴り響かせている
穴と言う穴から汗が滲み出ては、男の体温を奪っていく
男の目の前にいるのは、大地の化身
神すら穿ち降すような力を持っていることを、魔術を齧った程度の男ですら嫌に理解してしまう
全力で拳をぶつけたとて、一切響かない星の表層そのもの
それが、女が呼び出したもの
「そうよ、この子はずっとずぅっと昔に生きた英雄
今回あの王様がいるからどうなるかわからないけれど、この子は王様と出会う前だから…むしろ王様を天に還すために頑張るのかも?なんにせよ、その神を縛る力をこの眼で観れるのは最っ高にラッキーだわ!」
女は怯える男に見向きもせず、喚び出したそれをうっとりと見つめる
今でこそ嬉々としている女だが、その興味が失われるのはそう遠い
女は魔力でできた絶対命令権が宿る左手を差し出し、それを誘うように、繋がりを確かめるように瞳を弧に描く
「今日から私が貴方のマスター、貴方を導く娼婦、貴方の矛先を示す指先
これからどうぞ、よろしくね?
___バーサーカー」
冬の陽は沈むのが早く、瞬く間に灰色の雲の隙間からは橙色が滲み見える
大きな円を描きながら緩やかに動くゴンドラの中、かごめは向かい席に座り窓の外を眺めるアンを見つめていた
遠い親戚である萌恵が偶然出会った、聖杯戦争に参加するマスターの一人
願いこそあれ、聖杯を渇望しない無垢な少女
昨日はそんなアンを殺すために、実の母親が強襲しに来た
非常にショックだったろうに、今日遊園地に連れてきてもらい、気丈に振る舞い楽しんでいる
隣に座るバーサーカーに、観覧車の中から見える景色を教えている無邪気な様子に、かごめもまた微笑ましく思う
この少女を守りたい__それは何も、協力者だから、同盟相手だからではない
マスター同士ではなく、かごめ自身が、アンを守りたいと感じているのだ
一族の都合で参戦した聖杯戦争だが、このような出会いがあるとは夢にも思わなかった
聖杯を勝ち取り、本家に献上し、自分の願いを叶えてもらえるのなら…
(そうだなぁ、優しくて穏やかで、愛らしくって健気で、強か…でも弱々しい部分もある…そう、アンちゃんみたいな……)
そこまで考えていた時、かごめの中で何かが隙間なくピタリと嵌ったような感覚がした
足りないピースが埋まるような、探していたものが見つかった時の爽快感
それと同時に、加速し強く脈打っていく鼓動
目の前に座り無邪気に喜ぶアンが、先程までより更に輝いて見えた
確かに彼女は小さく愛らしい少女であり、かごめの恋愛対象の範囲内ではある
あるのだが、普段自分が特に好むのは自分より歳が上の、成人女性が主だったのだ
それこそアンの隣に座るバーサーカーだって、かごめの好みだ
背も高く胸も大きく、話が通じなかったり凶暴なところもあるがそれが彼女の個性と言える
十二分にかごめのストライクゾーンだ
それ以外にも遠縁の親戚たる園村萌恵だって、つつましやかで細身ながらにも穏やかな雰囲気を醸し出す垂れ目に長い睫毛、破格の美しさを誇る彼女のサーヴァントに負けないくらいの美人だ
成人前だが十分年上で好ましい
だが、今確実にかごめの心臓が強く訴えているのは、年下でかつ失礼ながらにも豊満な肉体は持ち合わせていないアン・ブラウンだった
足の不自由な、少女だった
しかし、だがしかし…意識すればするほど思春期の男子というのはそれを隠すことができなくなるものだ
彼女の二つに下げたブラウンの三つ編みの毛先も、柔らかな頬も、鼻先のそばかすも、今となっては全てが愛らしく見えてしまう
かごめは信じられないと思っていた、何とか頭で「いやいやナイナイ」と否定しようとした
だが、感情は…心と言うものは嘘がつけないものだ
心に嘘をつくほど自分を殺してしまう人間もいるが、かごめはそうではない
どこまでも素直で、悪く言えば愚直な男
そんなかごめが、多くの女性に声をかけてきた気の多い少年が、ここまで熱に浮かされたのは初めてに等しい
彼は会得した勘定に名前を付けるしかない、これは…どう足掻いたって、「恋」以外の何者でもないのだから
私達は今、観覧車に乗っている
ランサーは飛行能力があるとはいえ、人の多い遊園地内で飛んでいる姿を晒すのは良くない
高いところから遊園地全体を見渡したいというランサーの要望を叶えるためには、この遊園地で一番大きなアトラクション…観覧車に乗るのが合理的だった
ゆっくりと円状に上昇していくゴンドラの中、頂上に到着すれば施設内で一番の高度になるという
サーヴァントの動体視力で何か手掛かりが見つかるかもしれないという期待を持って、私はランサーと、そしてアンちゃん、バーサーカー、かごめくんが同じゴンドラに乗り込んだ
今はまだ上昇中の90度くらいで、既に観覧車のエリアだけなら一望できる高さだ
「ランサーどう?何かわかった?」
「そうだね、神秘の呪いが全体的に分布されているから、一番の大元が探りにくい」
「木を隠すなら森の中、か…あえてチャームを仕込んだ呪物をそこかしこに配置することで見えにくくするなんて」
ランサーは遠くを眺め、時々目を伏せて意識を集中させる
そして、やがてはその長い睫毛を持ち上げる
「…やはり駄目だ、普段よりも出力が落ちている
この土地の呪いと…霊基を維持する魔力の影響か
何にせよ、何かが欠落…いや、これは
自己分析をしているランサーは視線のみを私に向け、やがては私の不安を察知してか微笑みかけて、安心させてくれる
「ごめんよマスター、僕が不甲斐ないばかりに」
「え?あ、ううん!こっちこそ、なんかごめん…お母さんは魔術回路の本数がとても多かったって聞くのに、私は全然少なくて…魔力不足でランサーに迷惑をかけてしまって」
「あえて否定はしない
けれど、僕は君がマスターで良かったと思っているよ
マスターは人徳というものを持っているから、自然と人が集まる」
「そんなこと……ないよ
ないんだよ、ランサー」
聖杯を求める理由も、アンちゃんを助ける理由も、困ってる誰かを、願う誰かを助けたいから…けれど、本当に?
人徳だ、なんてランサーは言うけれど…手を差し伸べることに明確な理由を持たないのは不義理なんじゃないか
師匠はとても現実主義で、依頼されても報酬以上のことはしないと言っていた
私の後見人として育ててくれたのも、轟家からの、色葉からの依頼だからだって…そう言っていた
私は見返りなんて求めようとしていないし、ただ、目の前の誰かが困っているから自分に出来る全部で助けようとしているだけ
そこに…そうしたい以外の理由はないはず
……無い、はずなんだけれど
「小娘、そこまでじゃ」
無二がいつの間にか膝の上にいて、私に鋭い睨みを利かせている
気がつけば頭の中が鳴り響くように痛くて、私は気を取り戻した瞬間に痛みで顔を歪ませた
「マスター、大丈夫かい」
「ぅ…ん、だい、じょうぶ…」
「…」
無二はそれ以上何も言わない
私が何かを思い出そうとした時に走る強い頭痛…その度に無二は私に思い出すことを止めるよう呼びかけてくる
無二は私の中にいる存在だ、私の内側の痛みは無二も感じているはず
だからだろうか?この割れるような痛みを味わうくらいならば、思い出さないでおくように呼びかけるのは
「…!」
私の頭痛が引くのを待っていると、ランサーが視線の先に何かを見つけたように反応する
気がつけばゴンドラは観覧車の頂上に差し掛かり、ランサーはただ一点を見つめている
「…やっぱり、呪いは地上から離れることがない
天へ近いほど色濃いポイントが見えてくる、というわけだね」
「なにか見つけた?」
「あそこ、あの建造物…あれが一番、サーヴァントの気配が強い」
ランサーが指を差したのは、観覧車の二つ隣のエリア
古代ギリシャをモチーフとしたエリアで、その端に立つ白色の小さな建造物
神殿にも見えるそれは、パンフレットでは立ち入りが禁止とされている建物だった
キナ臭さは十二分にあるだろう
だが…その施設を調査するにはいくつか不都合があった
一番の問題は、人目が多いことだ
近隣にはアトラクションや閲覧可能施設が立ち並び、唯一その件の施設のみが工事中の名目で外壁が設けられ、物理的に近づくこともできない上、一般客やスタッフなどの人通りも多い
上空からのリサーチ同様、ランサーが飛んで侵入しようものなら誰かしらに見つかる可能性は高い
これは…どうしたものか
「マスター、どうする?」
ランサーはただ、私の指示を待っている
…私は魔術師ではないし、裏社会の仕事人でもない
でも聖杯戦争の参加者であり、聖杯を手に入れるために怪物を見つけないといけない
少し人の道から外れるかもしれないけれど…誰もいない時に、侵入するしかない
「ランサー、とりあえず今は無理だからタイミングを…」
その時、強い振動とゴンドラの浮遊感に襲われ、私はバランスを崩した
すかさずランサーが支えてくれたものの、何が起きたのかわからない
ただわかるのは…ゴンドラが揺れた後、完全停止してしまっていること
状況を把握しようと外を見ると、目下の遊園地は全ての電気が消え、人々は混乱しているようだ
「一体何が…」
「魔力の大きな波状を感じた
近くで…戦闘が起きているのかもしれないね」
「…!」
見える範囲では戦闘が起きている様子は見つけられない
一体どこで、誰と誰が…
『ご来場のお客様にご連絡いたします
ただいま、電力システムに不具合が発生しており、一時的に全施設、アトラクションが全面停止しております
予備電源に切り替えるまでの30秒、皆様どうか落ち着いて、スタッフの案内に従ってくださいますようお願い申し上げます
また、現在アトラクションを楽しんでいる搭乗者全員の安全を確認した後、本日の営業を中止させていただきます
繰り返します___』
遊園地全体に響くアナウンスの音声は、遊園地の現状を的確に説明してくれている
一時的な電力停止…ランサーが感じた魔力といい、無関係ではないだろう
ただ…タイミングが悪い
私達は今観覧車のゴンドラの中で、地上まではまだかなり高い
出ることは可能だろうけど、今外に出たら確実に人に見られてしまう
実際、観覧車の足元には多くのスタッフが集まり、対応に追われている
予備電力に切り替えた後、観覧車が再び動き出して、ゴンドラから救助されたら、きっとスタッフの誘導で遊園地から退場させられるだろう
そうなれば、この非常事態の正体を探ることも出来ない
……人に見つかる?本当に?
「お前には生者特有の気配がない、さすがの俺でもお前に奇襲されたらアッサリ殺られるだろうなぁ」
「要は、意識しなければいいんす
人間の認知って、目で見えるのと頭で理解するのは別っすから
目で見えてても脳に情報が届かなければ認識は出来ないっす」
私はそこでひとつ、あることを思いついた
それを可能にするには…私じゃ絶対できないけれど、ランサーならきっと出来る気がして
「ランサー
今から私が言うこと…できる?」
私はランサーに、簡潔に明確に説明した
「さっきかごめくんがしてくれた認識阻害の魔術を、私に向けて改変してかけることはできる?」
ランサーはそれを聞いて、私の考えていることを全て理解してくれたようだ
いつもの人を安心させる柔らかな微笑みを携えて、頷く
「僕は魔術師ではないから、魔術というものを他人へ行使することは出来ないけれど…術式を再現し、アレンジすることは可能だ
あとは君がそれを自分へ刻めばいい」
ランサーは私の右手を取り、袖をたくし上げ、細く長い指を私の肌へ滑らせた
少しくすぐったいが、私が術式を刻みやすいように直接なぞってくれているのだ
「つまり…ここをこう書き込んで…あれ?二節?」
「彼の術式には無駄が見えたからね、その無駄な部分を排除させてもらった
うん、これで大丈夫」
手持ちのボールペンで書き込んだ二節の術式は、一見何も変化がないように思えるけれど…きっと効力を発揮してくれていると信じるしかない
タイミングは一回きり
予備電力が作動するその瞬間…大きなアトラクションより、小さな街灯の方が直ぐに点灯する
スタッフ達の意識が、その街灯に向けられた瞬間は、意識がそちらに向く
より私達への注意が逸らせる
「予備電力が流れてくる
あと、十秒」
心の中で数え始める
ランサーには霊体化してもらった
私が貸していた服だけが残ったが、それを抱えて扉の前に屈み、扉を施錠している向こう側の錠に届くよう、扉越しにルーン文字を刻む
ルーン文字とは、それ単体で魔術的効果を発揮できる一工程の魔術文字のことで、師匠が私でも扱えるように色々教えてくれたものだ
共通で用いられるルーンなら、魔力量が少なく魔術の才能がなくても簡易的なものくらい使える
例えば、この扉の施錠へ呪いをかけたり
派手に錠前を壊さなくていい…ただちょっと、
窓越しの視界の隅で、光が見えた
予備電力が届いたのであろう、この瞬間
ルーンに魔力を流し、立て付けが悪かった鍵が開いた
静かに開く扉…その隙間を飛び出し、跳躍する
目指すは近くの森林の中、距離はおおよそ55メートル、高さは200メートル以上
大丈夫、走り幅跳びだって学年一位だったし…高さがある分、届く
服を抱えながら重力に引き寄せられ、飛び出した私の体はみるみる落下していく
落ちていく先は…ギリギリ森の中
私は地面にダイナミックダイブする前に、彼を呼ぶ
「ランサー!着地お願い!」
ゴンドラから飛び出して地面へ辿り着くまで約12秒の中、残り6秒で叫んだ言葉
それは無事に届いているようで、激しい落下の衝撃もなく、ふわりとした感覚に三半規管がバグを起こす
「無事に、誰にも見つからずに抜け出せたね」
「ありがと!」
初めて出会った時に来ていた白い布のような服を着たランサーが、落ちてきた私をしかと受け止めてくれた
お陰で私は怪我もなく、ゴンドラを抜け出して地上に降り立てた
スタッフの人達には申し訳ないが、建付けの悪かった無人のゴンドラがひとつあっただけだ
「ランサー!魔力の痕跡は?」
「さっき特定した、あの建物だ
今なら避難誘導で人の気配も残っていない
このまま僕が抱えて飛んだ方が早いと思うけど、いいね?」
「林の中を低空飛行でよろしく!」
「了解した」
ランサーの速さは昨日で十分理解した
木々を抜けて高速飛行をすることも、ランサーにとっては朝飯前だろう
その期待は外れることなく、ランサーは私を抱えたまま林の木々を躱し、瞬く間に建設中の建物まで辿り着いた
ランサーの気配感知の通り、周囲に人影はないが…念のため、外壁の上から飛んで侵入するのはやめよう
高さがあれば、遠くから誰かに見られるかもしれない
ここはスタッフオンリーの出入り口を、先と同じ鍵開けのルーンで開錠する
うん、建付けが悪かっただけ
開いた扉を抜け、中へ侵入する
工事中の外壁の向こうには、古代ギリシャに降り立ったかのように錯覚させる、白い石でできた神殿
華美な装飾はないものの、重圧感はひしひしと伝わる
この先に、恐らくサーヴァントがいるはず…なのだけど
「…逃げられたね」
ランサーが呟いた
「僕らの侵入を察知してか、気配が遠のいた
もうあそこには誰もいない」
「そう…とりあえず、中を調べてみよう
何か痕跡があるかも」
誰もいなくなった仮初の神殿の中に、私とランサーは足を踏み入れる
薄暗い屋内も外見とのギャップはなく、ギリシャ風神殿らしい内装に仕立て上げられている
支柱は戦闘の痕跡か、複数個所破損しているけれど、中央の女神像は傷ひとつない
あの女神様は、一体誰だろうか
足元に飾られたオリーブ、両手には槍と盾、その盾には梟も留まっている
武器を手にしていることから…戦の女神様のように見受けられるけど
「…あれ?」
その石像の台座の近くに何かが落ちていた
近付いて拾い上げると、それは黒い繊維で編みこまれたミサンガの様なものだった
千切れて落ちてしまったのだろうか…ここで戦ったサーヴァントの私物とか?
「ねぇランサー、これ…」
「これは…微かに魔力の痕跡がある
多分、破損したことで効力を失ってしまったのだろう
魔力残滓だけで、どんな効果があったのか、ましてや持ち主まではわからない
ここで戦ったサーヴァントか、あるいはマスターのものか…」
ランサーの感知能力ですら、この落し物の正体はわからず仕舞いか
「でも、逆にこう推察することはできる
僕でもこれの持ち主を追うことができないということは、気配を隠すという効果を秘めていたのかもしれないね
それも高度の…神が扱う神秘レベルのものが」
「神様が…」
千切れたミサンガは何かの手がかりになると感じて、それを懐に仕舞う
その直後、コートのポケットからけたたましい着信音が響く
慌ててスマホを取り出すと、光る画面には「かごめくん」の文字が浮かぶ
スワイプしスマホを耳に添えると、スピーカーの向こうから騒がしいレベルではない大きな声が私の耳を劈いた
『ねーえーさぁーんっっ!!一体どこにいるんすか!!
観覧車が止まったかと思えば動き出して、降りたらお二人共いないし!!アンちゃんも心配してるっすよぉ!!』
鼓膜を破る勢いで聞こえてきた声に、キーンと耳が痛くなる
そういや、急いでたからかごめくんになにも連絡入れてなかったな
「ご…ごめん、ちょっと調べたいことがあって…
そ、そっちは?今どうなってる?」
『こっちはもうてんやわんやっすよ!スタッフさんの案内で今は遊園地の退場ゲートに並ばされてるっす!お客さん全員パニック状態で、もみくちゃっす!』
そりゃそうだ、遊園地全体が一時的とはいえ電力停止したのだから
動いている最中のアトラクションもあっただろうし、救助活動や避難誘導で大混乱になってしまっていることだろう
このまま調査を続けたら、かごめくんとアンちゃんを放置することになる…バーサーカーとアサシンがいるとはいえ、本来(サーヴァントを除いて)最年長たる私が二人の保護者として守らなきゃいけない
人混みの中だからこそ安心だけれど…言い訳をつけて放ったらかしにするのは無責任、というものだ
「本当にごめん、すぐに戻るよ」
それだけ言い残し、通話を切った
この神殿の中…まだ気になる部分は多いけど、アクシデントが起こっている今こちらを優先することはできない
「行こうランサー、スタッフさんを探して迷ってしまったって説明してスタッフさんに案内してもらおう」
「ああ…行こう」
気を急いていた私は、ランサーが、どこかを見つめていたことに気がつくことが出来なかった
「ああ、なんだ、お帰りになられたのか
まだここを動かすには動力が僅かに足りないので…今晩辺りにでも呼び込みましょうか
ねぇ、私の愛しい愛しい……