Fate/catastrophe   作:白波恵

20 / 20

「今日からここがお前が暮らす家だ
いいか?俺はあくまで轟家ご当主サマから頼まれたからお前を引き取っただけだ
相応の義理は果たすが、お前にも働いてもらわにゃならねぇ
そこんとこよーく理解しておけよ」

病院から退院した私は、差し押さえられた実家に帰ることも出来なくなり、名ばかりの園村家の代表としてこの男に引き取られた

男の名は左京侑魂

裏社会に生きる殺し屋で、魔術使い

齢12歳の私の後見人として、私を育てると言ったその人は、東京都心部から離れた街の郊外、森の奥…山の中に建つ古民家に私を連れてきた

玄関に適当に脱ぎ散らかすその人の靴を揃え、上がった先のリビングは私物が散乱しとても汚い

机の上の酒の空き缶と、羽虫が飛び回るゴミ袋は複数

そして、隠すつもりのない押し入れの中の銃火器類に刃物

本当に殺し屋なんだと痛感させられた

「働く…私を殺し屋にするんですか?」

まだ痛む首を押さえながら、私は問いかけた

その時のその人の顔は、馬鹿を見下すような顔をしていた

「はぁ?テメェは馬鹿か
技術も知らねぇのにすぐそんな仕事させっかよ」

なんなら馬鹿とも言われた

安心した、私は人を殺すなんてことをしたくはないから

「とりあえずお前、家事できっか?」

「え……お父さんのお手伝いで、お兄ちゃん達と協力して…」

「そうか、とりあえず掃除と洗濯だけは完璧に覚えろ
必要なモンがあったら言え
料理もおいおいやってくれると助かる
いつもコンビニ飯と外食ばっかで腹が出てきちまった」

そう言いながらその人は自分のお腹を軽く叩いた

太っているようには見えない、筋肉質な体格だと思うのだけれど

「まずは家事を完璧にこなせるようになれ
俺がお前に技術を教えるのはそっからだ」

「やっぱり殺し屋に育てるんじゃないですか…私、人殺しにはなりません」

「馬鹿だろお前、単純思考過ぎる」

まだ12歳の子供に対し、馬鹿馬鹿言いまくる大人げない大人

コートを脱ぎ捨てたその人は机の前にどかりと座り、その隣に座るよう指で軽く指示した

私は警戒しながらも、この人に反抗して行き先が無くなるのも困るので静かに言われた通りに座った

男は私が座ったのを見てから、脱ぎ捨てたコートのポケットに入れていたであろう煙草を箱から一本取り出し、ライターで火をつけた

ジジ、と煙草の先端が燃える音がする

ゆっくりと煙を吸い込み、溜め込み、吐き出す…家族には喫煙者がいなかったため、嗅ぎ慣れない煙の匂いに噎せ返る

その度、首がズキンと痛んだ

「お前、殺しの技術ってどんなモン想像してる?」

「え…」

突然の質問に、私は固まる

それは、もちろん…人を殺す技なのだから…ナイフ術とか、射撃技能とか…そういうものではなかろうか

「武器の取り扱いや体術…?」

「やれやれ、だからお前は馬鹿なんだ
表面上にしか物事を理解してねぇ癖して大層な口を開いてんじゃねぇよ
いいか?まず人を殺すということはどういう状態を指す?」

「え…?」

さっきからなんなんだろう、この人は

トンチを仕掛けているようにしか見えない

人を殺すということなのだから、どういう状態かを聞かれても…人が死ぬ状態、としか言いようがないじゃないか

「人が…死んでいる状態?」

「それはどうやって引き起こされる?」

「え…?…息の根を、止める?」

「どのように?」

「…??」

わからない、何もかもが

質問の意図も、質問の正解も

何を答えたらこの人の意に沿うのかが全くもって不明だ

「生命の弱点は複数ある
脳を絶つ、心臓を破壊する、上半身と下半身を分断しても生きてはいけないな
後は、首(・)を(・)断(・)つ(・)とかもな
過激な損傷が無くても、人間は血が足りなければ死ぬし、もっと根本的に言えば酸素が足りなくて死ぬ
電気を流せば筋肉が麻痺して心臓が止まり死ぬ
火をつけて燃やせば細胞が焼けて死ぬ
斬首、銃殺、焼死、感電死、圧死、落下死、溺死、窒息死…殺し方、死に方なんて大量にある
人間はな、簡単に死ぬ
だが死に方が沢山ある癖して、急所を外すと生き残ったりもする
運悪く殺し損ねたら俺達殺し屋としては致命傷だ
だから確実に殺す術を、殺せる死の個所を知っている者が真のプロの殺し屋だ
世の中には死の線、死の点を見ることができてそれに触れることができる魔眼を持った奴らがいるらしいが…
…生憎と俺にはそんなものはない
だから、知識と経験だけが俺の技術だ
確実に命を奪える致命傷の場所と、そこをどう攻撃すれば相手が死ぬか…そんな技術

…さて、ここまで説明したところで、最初の話に戻るぞ
何故そんな技術を教えるのか
本当に俺が、お前を殺し屋に仕立て上げようとしているのかだが…」

吸い殻が山積みになった灰皿の上に、灰を募らせる

日本人には思えない蒼い瞳が、私を見抜いた

「答えはNOだ
お前を殺し屋にしたところで俺に利点などない
後継者が欲しいわけでもないからな」

「…じゃあ、なんで?」

「いいか、殺す術を知り殺せる技量を持つ者は、殺(・)さ(・)な(・)い(・)選択肢をとることもできる
知識と力にない者は、殺されそうになった時に殺されるか、反撃して殺し返すことしかできない
致命のポイントを知っていて、技術を備えていれば…あ(・)え(・)て(・)、そこを外し相手を無力化することもできる
実際、お前は殺されかけて反撃できなかった
俺が殺しの技術を教えるのは、そういった自分の窮地や…誰かの命を救うことに繋がるからだ
知識も技術も後天的に得られる力だ
力ない者は得られる選択肢が少ない…逆に力を持つ者はより多くの選択肢を選ぶことができる
だから、まぁ…なんつーか、アレだアレ

お前がまた自分の命が危なくなった時、自分の命が守れるように…かつお前が嫌な人殺しをせずに済むように、人を殺す力を教える
これで理解したか?」

そこまで聞いたとき、私の中で何かが割れたような気がした

それは悪いものではなく、私の中にあった、所謂心の壁というヤツだ

この人はガラが悪いし、生活も態度も悪いし、言葉遣いも悪い

でも、初(・)め(・)て(・)会(・)っ(・)た(・)私(・)のことをここまで考えて、育てようとしてくれている

その事実に、私の警戒心は溶けていった

あの色葉が頼むくらいだから、悪い人ではない…悪いだけの人ではないことは何となく感じていたけれど、こんなにも私に良くしてくれるなんて

だって、それは、私を後継者にするよりもこの人に利点のない話だからだ

私の為だけに、殺しの力を教える…そこにこの人のメリットは今のところ存在しない

何かもっと別の目的があるのかもしれない、轟家が何か仕組もうとしているのかもしれない

幼いながらに様々な疑念はあったけれど…ひとまず、この人のことは信用しても良いと思えた

私は小さく頷き、男は不器用に笑った

「ちょっとはマシな顔つきになったじゃねぇか」

そう言って、無造作に私の頭を撫でた

「今日はとりあえず退院祝いだ、寿司でも出前とるか」

「はい…師匠」

「なんだその呼び方
…まぁ、侑魂さんとかで呼ばれるよりかはいいか」

七年前、私と師匠が共に暮らし始めた頃の、私の人生を変えてくれた大切な人との記憶

家族みんなと離れ離れになった私が一人ぼっちにならなかったのは、師匠のお陰なんだ



夢の入り口Ⅲ

 

結局あの後、私達は大混乱の人々に揉まれながらも遊園地を退場しなければならなかった

 

ランサーにも着替えてもらい、工事中の外壁を出てすぐ遭遇したスタッフさんに連れられ、退場列に並ばされた

 

全来場客の一斉退場は、さすがに人数が多すぎて列はなかなか進むことなく、退場だけに一時間以上かかった

 

退場ゲートにはスタッフさん達が並び、謝罪の言葉をそれぞれ述べて、頭を下げていた

 

スタッフさん達のせいではない…けれど、これもひとつの義務なのだから仕方がない

 

「あ、お~い!ねえさ~ん!」

 

ようやく遊園地の敷地外に出たところで、近くのベンチで待っていたであろうかごめくんが声を張って呼んでいる

 

アンちゃんもバーサーカーも一緒だ

 

私はランサーと一緒にすぐにみんなの元へ駆け寄った

 

「ごめんね皆、勝手な行動して…急いでたものだから」

 

「ほんとっすよ!いつの間に抜け出したんすか!

電力復旧して観覧車が動き出して降ろされてから、待っても待ってもお二人が降りてこないからびっくりしたっす!

行動するときはほうれんそう!常識っすよ!」

 

「うっ…面目ない」

 

年下にガン詰めにされるのがこんなに情けないとは思わなかった

 

「それで…萌恵さんは何を調べてたの?」

 

アンちゃんが心配そうに小首をかしげ、質問してきた

 

「…さっきの電力停止、サーヴァント同士の戦いで引き起こされた被害かもしれなくて」

 

そう話した途端、空気が張り詰めたような気がした

 

「だから、戦闘の痕跡が残っていた場所に行って…着いたときには誰もいなくなっていたけど

あと、現場にこんなものが落ちていたの」

 

私は懐から拾ったミサンガを取り出し、皆に見せてみた

 

ランサーでも持ち主が特定できないにしても、誰かしら見覚えがないか確認したかったけど…残念ながら、誰もわからないみたい

 

全員が首を横に振り、この落とし物については進展を得られなかった

 

それでも、この遊園地は黒に等しいだろう

 

今日の調査だけでも様々な情報が手に入った

 

また時間を改めて、従業員も皆いなくなった深夜なら潜入してとことん調べることができそうだ

 

「ひとまず今日はどーするっすか?」

 

「もう暗いし、病院に戻ろうか

ごめんねアンちゃん、最後大変なことになっちゃって」

 

「う、ううん!初めてのことがいっぱいで、楽しかった!本当にありがとう、萌恵さん、ランサーさん、かごめさん!

フローラもありがとう、素敵な思い出ができたよ」

 

健気に笑いかけるアンちゃんに安堵しつつ、横のかごめくんがやけに落ち着きがないように見えた

 

視線は泳いでいるし、鼻頭を擦る仕草は何かよそよそしい

 

「かごめくん?どうかした?」

 

「えっ!?あ、え、いや、ななな、なんでもないっすよ!うんうん!」

 

私も人のことを言えたもんじゃないが、隠し事がへたくそなんだなぁこの子は

 

「かごめさん?大丈夫?」

 

「えっ、だだだ、だいじょーぶっすよアンちゃん!アンちゃんこそ疲れてないっすか!?せっかくなら帰りにバーガークイーンでジャンクフードパーティーでもしましょっか!」

 

「ジャンクフードはカロリー量が基底量を大幅にオーバーしています、認められません」

 

帰り道の賑やかな会話を聞きながら、ひとつだけ不安がある

 

それは、途中からいなくなってしまって、それから合流できていないエリーゼのこと

 

「かごめくん、エリーゼは?見てないの?」

 

「あー、一応メッセは送ったんすけど既読すらつかないっす

姉さんの方からも連絡してもらっていっすか?」

 

エリーゼだって魔術師と言えど、連絡ツールとして携帯電話を所持している

 

かごめくんと私とでお互い連絡が取れるようにメッセージアプリを共有している

 

何か急ぎの用事だったみたいだし、エリーゼも家の事情がある

 

…なにか危険に巻き込まれていないといいけど

 

「わかった、私の方からも一度メッセージ送ってみる…

…えっ」

 

私は取り出したスマートフォンの画面に、懐かしい名前が表示されていることに気が付いた

 

画面上に残るメッセージ履歴には、『近くまで来たから寄ってみた!久々に飯食わして~♡』といった内容

 

私は柄にもなく、内心はしゃいでいる自分がいるのを自覚している

 

「何々どうしたんすか?…誰か知り合いからの連絡っすか?」

 

「あ、う、うん、お世話になった人

そっか…今こっちに来てたんだ…久しぶりだな」

 

「…久しぶりなら、せっかくだしそっち優先した方がいっすよ!こっちはこっちでだいじょぶっす!

アンちゃんのことは任せて!」

 

今一番命を狙われているアンちゃんを守ること、それが私達の共通目的だけど…

 

かごめくんも魔術師としてなら私以上に頼りになることがわかったし、アサシンとバーサーカーで昨日の裏からの襲撃を凌いだこともある

 

この人との食事を終えたら、私も病院に戻ろう

 

「じゃあ…お言葉に甘えて」

 

こうして私達は三人とその場で分かれ、私はメッセージアプリを開いた

 

さっき見たメッセージにはバーシュウィンデンの歓迎看板を前にピースサインをした手の写真が添付されていて、相変わらずのお茶目さに頬が緩んだ

 

『本当!?会いたい、今どこですか?車で来たの?』

 

メッセージに返信すれば、すぐに既読がついた

 

『メインストリートでウェルテンバウン・タワー見てる

さすがドイツ、ビールうめぇ~

そっちはどこ?家かい?外なら迎えに行こうか』

 

『スピナーランドの退場ゲート前です!

車ですよね?なんでアルコール飲んでるんですか?』

 

『おっけ~最速で迎えに行くよ

二十分くらい待っててくれる?』

 

『飲酒運転ですよねそれ?』

 

最後のメッセージに既読はついたものの返信は返ってこない

 

この人はいつもそう、都合の悪いことになると素知らぬ顔で流してしまう

 

「ごめんランサー、少し待つことになるけど」

 

「構わないよ

マスターの旧知の仲と言う人ならば、信用してもいい相手だと信じよう」

 

さすがに日もとっぷりと暮れた今の時間は十八時を過ぎる

 

日が暮れたこともあってそれなりに冷えてはいるが、再三言った通りバーシュウィンデンの暖房機器は屋外にも多く設置されているため、建物の少ない荒廃地域でもない限り凍えるほど寒くなることはない

 

一体そんな電力をどこで賄っているのか甚だ疑問ではあるけれど…

 

「ランサーは、怪物って何だと思う?」

 

待っている間、私はベンチに座り、ランサーを隣に誘って二人で並んで空を見上げた

 

遊園地の灯りが眩しいせいで星は見えないけれど、冬の空はとても澄んでいる

 

そんな中、私はずっと考えていることをランサーに聞いてみた

 

この聖杯戦争で倒すべき存在、謎の怪物

 

それはどんな姿をしているのか、どんな力を持っているのか…何もかもが不明

 

それを見つけ出して倒せというのもなかなか難易度の高い話だ

 

参考程度に、ランサーの思う怪物と言うものを聞いてみたい、そう思ったんだ

 

「…怪物、か

その定義はあくまで人独自のものだと思うけれど…そうだな

人からしてみれば、僕の方が怪物かもしれないね」

 

「なんで?」

 

ランサーは自分を道具だと言うけれど、怪物と称すのは初めてだ

 

「なんで、か…簡単な話、僕は人間ではないからね

身体は泥と魔力でできているし、人間ではない

その時点で、人から見れば怪物みたいなものだろう」

 

「でもランサーはこうして話もできるし、優しいよ

確かに人間じゃないかもしれないけど、怪物…とは違うよ

なんなら私は、私にとっては…ランサーのこと、道具だとか思ってないから」

 

ランサーは自分を頑なに道具だ兵器だと言って譲らない

 

確かにランサーと言う英霊の存在定義はそうなのかもしれない

 

けれど、ランサーは、私にとっては…

 

「ランサーは、いつも私を助けてくれる…立派な英雄だよ

だからむしろ、怪物を倒すヒーローのような存在だと、思ってるから」

 

上手く伝えられないけれど、私にとってのランサーはヒーローそのものだ

 

恐れず、優しく、穏やかでいて強い…幼少期に兄達と見ていた特撮番組に出てくるヒーローの様だ

 

…あれ、今自然と、昔の記憶が思い出せたな

 

それに、確か…一緒に見ていたのは兄さん達だけじゃなくて、誰かいたような…

 

「…怪物を倒す英雄、か

…フワワを倒した時も、ウルクの民達にはそう持て囃されたな」

 

「フワワ?」

 

ランサーの口から零れた名称が、気になった

 

そのせいか、思い出そうとした過去の記憶は、霧のように霧散してしまった

 

「うん、僕の最初の友達で、杉の森を守る番人で…

時に怪物とも言われた、人間だ」

 

「人間なのに、怪物?」

 

「僕は人間だと思っているよ

けれど、見る人にとっては怪物と呼ばれた歴史もある

…結局のところ、怪物も人も兵器も、主観的な定義に過ぎないのかもしれないね

僕が僕を道具と呼ぶのと同時に、君が僕を英雄と呼ぶように」

 

ランサーの言うことは理解できる

 

哲学的な話になるが、そこにある事実と視点によって変化する真実は別であり、真実は見る人によって変化する

 

そうなれば、明確な対象を指定されていない怪物捜しはより泥沼と化してしまうな

 

「…それじゃあ、ランサーにとって私は、どう見える?」

 

ちょっと、ちょっとだけ気になって、聞いてみた

 

ランサーが定義する私は、一体どのようなものなのだろう、と___

 

「…僕にとってマスターは、マスターだよ

君の呼び声、「助けて」という声に報いるために召喚されたサーヴァントとして、マスターである君を守る

君が戦うというのなら矛となり、逃げたいというのなら盾となろう

僕という道具が定義するなんて烏滸がましい話だけれど、僕の指針は初めから変わらない」

 

そうだ、ランサーは私のサーヴァントであり、英雄

 

それと同時に、ランサーにとっての私はサーヴァントである自身のマスターなんだ

 

決して変わらないこの真実に、ちょっと気が楽になった

 

「そうだよね、私は君のマスターで、君は私のサーヴァント

そこに、変化なんてないはずだ」

 

大元の話からだいぶ逸れてはしまったけれど、これ以上怪物という存在について考えても仕方ないだろう

 

「小娘、来たぞ

あの大型とらっくだろう」

 

無二が髪の隙間から顔を出して、道沿いに走ってくるトラックを指示した

 

それは道行く人が二度見どころか三度見するくらいにゴテゴテとデコレーションされた、蛍光ピンクの大型トラック

 

あまり良い趣味とは言えないデザインのトラックが迫ってきて、遊園地の退場ゲート前に停車した

 

そして、そのトラックから一人の男性が降りてきた

 

「よう萌恵ちゃん!ひっさしぶりだねぇ~」

 

「ダズおじさん!久しぶり!」

 

私は男性に駆け寄り、再会のハグをする

 

私が連絡していたこのダズおじさんは、師匠の古い友人で、私もいろいろお世話になった人

 

華奢でやせぎすな体格に不健康そうな顔は変わらず、昔は逆立ったモヒカンだったのが今じゃしなびて横に流されている

 

姿格好も一昔前のチンピラのようで、一見危なそうに見えるが、実は師匠と違って子供好きな穏やかな人だ

 

「大きくなったね、今いくつだっけか」

 

「今19歳だよ

おじさんはもう50くらいじゃないの?」

 

「おいおい、僕はまだそこまで行ってないよぉ

今49歳♡」

 

「ほとんど変わらないじゃん」

 

最後に会ってから二年は経っているから、本当に久しぶりだ

 

師匠がいなくなった時はダズおじさんも日本にいなかったから会えなかったけど、まさか今日この街で会えるとは思わなかったな

 

「私がバーシュウィンデンにいること知ってたんだ?」

 

「そりゃそうさ、葵から聞いてな

近かったんで、いつも郵送するところを直接届けに来たってわけさ」

 

葵さん、というのはダズおじさんと同じく師匠の古い友人で、綺麗なおねえさん(男性)だ

 

師匠の家から一番近い、麓の町でバーを経営しているママさんで、私の料理スキルはその人から教わった

 

師匠がいなくなった時も真っ先に駆け込んだし、轟家に召集されて聖杯戦争に参加することになった時も報告したなぁ

 

「ダズおじさん、毎回弾薬を段ボールに入れて送ってくるのはやめてよね…荷物に暗示と保護の魔術が仕込まれているとはいえ、普通に危ないし」

 

「それが一番手っ取り早いからさぁ~

今回も補充分、九割五分減であげちゃう♡」

 

ダズおじさんの仕事は、武器商人

 

師匠が殺しを生業としているのだから切っても切れない協力相手であり、私のことも可愛がって売れ残った品を卸してくれる

 

でも私のこと気に入りすぎて商売にならない低価格なのはちょっと心配

 

「…おっと、もしかしてそちらの美人さんが君のサーヴァントってやつかい」

 

「うん、そう

ランサー、紹介するね

こちらが私がお世話になってるダズおじさん

おじさん、この子が私のサーヴァントのランサー」

 

「はじめまして」

 

紹介を済ませたランサーは、さすが偏見を持たない自認道具…強烈なビジュアルのダズおじさん相手でも爽やかに挨拶をしてくれる

 

「ほう…ほほうほう…こいつは、侑魂が妬みそうなくらい綺麗な顔立ちだ

萌恵ちゃん取られて悔しがるだろうな~」

 

「もう、何言ってるの

…おじさん、師匠の居場所は…まだ?」

 

師匠がいなくなった時にも相談はしたが、武器商人として世界中を走るおじさんにも師匠の居場所はわからず仕舞いだった

 

それは今も変わらないみたいで、おじさんは困ったように微笑んだ

 

「…悪いね、萌恵ちゃん

君を引き取るまでもどこをほっつき歩いていたかわからない奴だったからねぇ」

 

「ううん、いいんです、無理聞いちゃってごめんなさい

今日は久々に会ったし、ご飯振る舞うよ!私の家は南区の五番街の…」

 

師匠の行方が未だにわからないのなら、仕方がない

 

何がしたい人なのか本当に読めない人だったから、黙っていなくなったのなら追跡する術はない

 

今は、久しぶりの再会の時間を大切にしよう

 

おじさんのトラックに乗り込んで、私達は一度私の家に向かうことにした

 

賑やかなアニメソングが車内に流れ、トラックが走ることでミラーに吊り下げられたストラップが揺れ、フロントガラス前のぬいぐるみ達は私も好きなマスコット達だ

 

「ランサーくん知ってる?萌恵ちゃんってば見栄っ張りなのに実は泣き虫なんだよ

子供向けの怖い映画でも泣きじゃくって見れなかったし、トイレ行くたびに侑魂…師匠についてきてってせがんでたんだよ」

 

「へぇ」

 

「ちょっといきなり何暴露してんのおじさん!やめてよ!」

 

「和やかな空気にしようと思ったんだよぉ~いいじゃないか、減るもんじゃないんだし」

 

「私の!心が!擦り減ります!」

 

不意打ちの暴露に羞恥心が最高潮になる

 

真っ赤になってるであろう私の顔を見てダズおじさんは笑ってるし

 

「気にすることはないよマスター、愛らしい幼少期じゃないか」

 

「私の沽券に関わるの!」

 

「その様子だと、仲良くできてるみたいだね

おじさん安心したよ」

 

そう言いながらおじさんは運転を続ける

 

もしかして、わざと私達の関係値を推し量るために仕掛けたのかな?おじさんは私を猫可愛がりしがちだけど、時々こういう意地悪もする人だからな…

 

「ランサーくん、萌恵ちゃんってば結構一人で抱えがちだから

君が支えてくれたら、僕も一安心だよ」

 

おじさんはただ単に、私を心配してくれただけなのかな

 

その心配はありがたいし嬉しい、けど…だからって恥ずかしい私の過去話を暴露する必要性はあったのかなぁ…!

 

「勿論だとも

僕はマスターのサーヴァントとして、全機能が停止するまで、彼女を助け守ると決めたからね」

 

「はっは、そいつは心強いや!」

 

それからも、ダズおじさんはランサーに私の昔話を色々聞かせ続けた

 

私はというと、座席上後ろの布団を敷いてあるスペースで身悶えていた

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。