Fate/catastrophe   作:白波恵

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汝、戦の開幕を担わん。Ⅱ

 

アンちゃんの病室に案内された私達は、ベッドに移った彼女と傍らに立つそのサーヴァント…フローラさんことバーサーカーと情報交換をすることになった

 

「ごめんなさい、お茶のひとつも出せなくて…ここが病院じゃなくて家だったら」

 

「そんなの気にしないで!というか、面会時間でもないのに押し掛けるようになっちゃってごめんね…?

他のマスターに初めて会ったものだから」

 

アンちゃんとバーサーカーも、私と同じく聖杯戦争に参加している二人だ

 

サーヴァントを召喚した次の日に他のマスター…しかも友好的な相手に出会えるなんて、幸先が良い

 

普段の行いの良さだろうか、これはきっと神様も私のことを応援してくれているに違いない

 

「それじゃあ、今の状況の整理、というか…アンちゃんはどうして聖杯戦争に?」

 

アンちゃんは聞くところによると、まだ14歳のミドルスクール世代だと言う

 

そんな若い子供が、こんな魔術師の戦争に参加するなんて…普通に考えれば常識の無いものだが、魔術師に常識なんて存在しないことは轟家を見れば嫌でもわかる

 

ただ、アンちゃんの性格上…進んで戦争に参加しているようには見えない

 

私の質問に対して気まずそうに視線を下げた彼女は、膝の上で指をもじもじと弄りながら細々と答えた

 

「…うち、お母さんが魔術師で、聖杯戦争に勝って聖杯が欲しいんだって

だから私を、マスターにしたの

お母さんの実験で、私の魔術回路は活性化してる?らしくて…」

 

なるほど、私と同じで裏にいる魔術師の身代わりとなって参加しているのか

 

アン(マスター)の身体は本来の生存機能を考慮しない形で改造されています

彼女の足がその証左、神経がデタラメな配列になって動かすことも出来なければ痛覚は通常の五倍ほどになっています」

 

バーサーカーの説明に、包帯巻きされていたアンちゃんの脚を思い出す

 

力の入っていないあの脚は、そういう事だったのか

 

「今はお父さんが私をお母さんから守るために病院に入れてくれてて…あ、お父さんはここの医院長なんだ」

 

つまりこの病院で一番偉い人の娘さんってこと

 

まずい、これは下手なことは出来ない

 

「ドクターの保護の元、アンは安全を確保されています

そして私は、マスターであるアンの安全な生存を望んでいます

アンがマスターとしてこの戦いに参加している以上、その命を脅かす存在は排除します」

 

「私は…お母さんには悪いけど、殺し合いなんてしたくないんだ

願いも…強いて言うなら、脚が治って普通の生活がしたいくらい

でも、誰かを殺してまでそうしたいとは思わないの」

 

アンちゃんとバーサーカーの事情を把握し、私達も自分達のことを話す

 

日本の魔術家系の出で、同じく聖杯を欲しがる魔術師の代わりに参加していること

 

それを話すと、アンちゃんは驚いた顔をした

 

「ニッポンの、トドロキって…お母さんがたまに言ってた

ニッポンの魔術社会、一般社会を牛耳ってて…魔術協会とも渡り合える一族だって」

 

「そ…それほど、なのかな?

でも私は魔術師としては全然ダメで、多分アンちゃんより弱いと思うよ」

 

実家が海外から見ても有名なことに何とも複雑な気持ちになる

 

自慢したいような家でもないからね

 

「轟家が欲する聖杯を、私は持ち帰らなきゃならない

その為に私以外にも二家、うちから聖杯戦争に参加してて…」

 

「最低三陣営、貴方達は味方同士ということですね

八百長も良いところではありませんか」

 

「それを言われると痛いけど、私は他二家…というか轟家全体からいい顔されないというか…敵でもないけど味方でもない、というのが正しいかも」

 

悲しいかな、佐久間と望月からの連絡は未だ無いし

 

頼れる人は私の言うことに全肯定スタンスのランサーくらい

 

ここで性格相性の悪いサーヴァントを召喚しなくて良かったことが救いか

 

「そっか…なら、私萌恵さんに協力するよ

私がモエさんの味方になる

勝ち残ったら、聖杯もモエさんが持っていって」

 

アンちゃんからの思いがけない申し出に、私も、そしてバーサーカーも微かだけど驚愕の色を顔に滲ませていた

 

「よろしいのですか?万能の願望器なんてオカルトでその脚は治りませんが、それは貴方の母が欲するものでしょう

それを放棄すると?」

 

「うん、いいの

さっきも言ったけど、脚はいつかお父さんが治してくれるって言ってるし…フローラもいるから」

 

「その、さっきあんなこと言っておいてなんだけど…無理してない?その、お母様が納得いかないんじゃ」

 

憐れみを買わせるつもりはなかったのだけれど、余計な一言だった気がする

 

だってこの子は、まだ知り合って間もない私に協力を申し出てくれた

 

優勝賞品である聖杯すら譲るつもりで

 

「お母さんは、私じゃなくて魔術師としての夢の方が大事だから

私は魔術師としての夢より…普通の生活をして生きたいから

聖杯が手に入らなかったら、きっと諦めてくれるって信じてる」

 

普通の生活…それはきっと、魔術師としてではなくただの一般人としての平穏な暮らしを望んでいるのだろう

 

アンちゃんのお母様がどんな人かまだ知らないけれど、自分の意思で承諾し臨んだ私と違って、彼女は無理矢理駒にされたようだし

 

でも…本当に、聖杯を勝ち取れない程度で諦めるのかは少し疑問だけど

 

「だから、これは協力する条件になっちゃうんだけど…」

 

アンちゃんは恥ずかしそうに声を小さくしていく

 

照れ臭そうな仕草がなんともいじらしく可愛らしい…じゃなくて

 

「なになに?私に出来ることならなんでもするよ!」

 

戦う前から協力者が出来たのは幸先が良すぎるところ

 

だから何か、私に提供出来る協力条件があるのならそれに応じるのは人として当然だろう

 

「…えっ、と…たまにでいいから、遊びに来てお話ししてくれないかな

その…フローラはこんな感じだし…この病棟には私以外の患者さんもいなくて、寂しいから」

 

思ったよりも可愛かったお願いに、私の良心は踏み締めて粉々になった硝子片のように砕け散った

 

この子はなんて良い子なのだろう

 

普段轟家の分家の大人達に粗雑に扱われてるのが見に馴染んでしまって、こんな可愛いお願いがあまりにも不意打ちすぎた

 

「も、勿論!ランサーと一緒に遊びに来るよ!」

 

二つ返事で了承し、先程から静かに私達の話を聞いてるだけだったランサーも巻き込んで頷いた

 

「僕?マスターがそう命じるのなら、当然付き従うよ」

 

「そういうんじゃなくて…ああいや、なんでもない」

 

機械的なイエスマンにこれ以上どうこう言ったって仕方はない

 

とりあえずこれは…バーサーカー陣営との同盟関係が成立した、ということでいいのかな

 

「やったぁ…!何かあったら、この子に知らせて

フローラに手伝いに行ってもらうよ」

 

アンちゃんがベッドの柵を爪で三回叩くと、ベッドの下から灰色の毛並みをした猫が現れた

 

「可愛い…けど、病院に猫…!?」

 

「私の使い魔、名前はダイアンっていうの

ほらダイアン、私のお友達にご挨拶して」

 

ベッドの下から現れた灰猫は私を視認するや否や、数歩後退り毛を逆立てて威嚇する

 

どうやら私は魔術的な使い魔にすら嫌われているようだ

 

「ちょっと、どうしたのダイアン…あれ、普段はこんなことないのに

ごめんなさいモエさん、私が許した相手には愛嬌のある子なんだけど…」

 

「いいよ、気にしないで」

 

ダイアンは私から離れ、ランサーの足元へ擦り寄っていった

 

ランサーは身を屈め、その柔らかそうな毛並みを撫でる

 

「…そう、君は聡明な子だね」

 

独り言を呟くランサーの視線はダイアンへ向けられており、何やら人にはわからない会話をしている様子だ

 

うぅ…猫を撫でられるなんて、なんて羨ましい

 

「じゃあフローラ、二人に協力してあげてね

私も出来る限りのお手伝いはするから」

 

「アン、貴方はここのベッドで安静にするように

くれぐれも勝手に病室を抜け出すことの無いよう」

 

「…はぁい」

 

「改めまして、バーサーカーのクラスとしてこの街の病を根絶しにアンの召喚に応じました

真名はフローレンス・ナイチンゲール…看護師です」

 

猪突猛進の言葉を体現したような言動と、看護師の様相

 

フローラの渾名から、何となくそんな気はしていた

 

けれどこうもあっさり真名を聞いてしまえるなんて

 

「よろしく、バーサーカー

私は園村萌恵、こちらはランサーで…真名、は…えっと」

 

「貴方、病気ですね」

 

「え?」

 

こちらも改めて自己紹介しようと名前を口にしたら、突然そんなことを突き付けられた

 

病気、とは言うが私は至って健康体だ

 

肋骨を怪我しているが、それ以外の何処にも身体の不調は存在していない…はず

 

「しかも最近患ったものではなく、ずっと昔から罹患している病だとお見受けします

ああなんてこと、現代の医療技術の発展は確かに凄まじいものですが、貴方のそれは菌やウイルスのものではありません

ですがご安心を、私が必ずや貴方の病から貴方を救ってみせます

そう、例え、貴方の命を奪ってでも」

 

真紅の眼光に見抜かれ、私は恐怖を感じ震えが止まらなかった

 

そんな私の前に立ち、先程と同じように私を守るようにランサーは割り込んでくる

 

「申し訳ないけれど、それは困る

彼女は僕のマスターだ

彼女の命を奪うというのなら、協力以前の問題となるだろう」

 

「理解しています、ですからまずはこの戦争に勝つことで貴方がたの求める報酬を得ること、治療過程の第一段階でしょう

本当は手遅れになる前にその病巣を取り除きたいところですが…」

 

これがあの「白衣の天使」と名高いフローレンス・ナイチンゲール…

 

天使よりも死神に近いその風貌と言動に、「これが狂化を付与されたバーサーカーのクラスか…」と慄くしかない

 

「ダメよフローラ、お二人は仲間なんだから

…あ、そうだ」

 

アンちゃんが何かを思い出したように、床頭台の引き出しから一枚の黒い封筒を取り出した

 

封筒の中から取り出された便箋も同じく黒で、白いインクで文字が書かれている

 

普通の封筒と便箋じゃだめなのかな…

 

「これ、聖杯戦争の運営さんからのお手紙なの」

 

「運営…から?」

 

「そう、戦争を取り仕切ってるのはこの街の市長さんなんだけど、監督するのは聖堂教会のシスターさん

厳粛に、規律を守って戦争に参加することって書かれてるの

そっちには来てない?」

 

「あ…実はランサーを召喚したのは昨日の夜で、今朝はまだ郵便受けを見てなかったから…」

 

「なら今日中には届いてるかも!それとね、一緒に招待状も同封されてるんだよ」

 

アンちゃんが封筒から更に取り出したのは、黒と金のチケット

 

高級そうなパーティーの招待状のようなそれは、「聖杯戦争参加者懇親パーティー」と書かれてた

 

…ちょっと待って欲しい

 

「これ、聖杯戦争の参加者さんが招待されるパーティーなんだって」

 

そのまんまだね

 

「え…っと、そもそも聖杯戦争って、神秘を秘匿しながら相手を探して戦う、こう、日常の秘密裏の戦争なんだよね…!?

それを、こんな、パーティーって…?」

 

そう、聖杯戦争とは世間一般から隠れて裏で戦う戦争だ

 

それなのに、そもそも、戦争の相手はほとんどが敵同士、それを、それをこんな、敵同士で懇親会だって…!?

 

理解できない、私が聞き及んでいる聖杯戦争とは違う…これはこんなにも華やかな存在だったの…!?

 

「聖杯戦争のルールの説明とかするみたい

私はこんな体だから行けないし、ダイアンを遣わせてお話を聞くつもり」

 

アンちゃんは確かに、敵が一箇所に集まるような危険地帯に行くにはあまりにも危なすぎるからね

 

これが参加者全員に届くとすれば…もしかしたら帰ったら、私宛にも届いている可能性がある?

 

…帰ったら

 

「あ!鍵!!」

 

思わず声を上げてしまった、いろいろありすぎて紛失した家の鍵の存在をすっかり忘れていた

 

「ごめん、私捜し物してたんだった!」

 

「え、大丈夫?大事なもの?」

 

「めちゃくちゃ大事…検査中にどこかに落としたかもしれなくって…」

 

「ならば、総合受付に聞いてみると良いでしょう

あそこは落し物も預かっていますので」

 

バーサーカーからの進言に感謝の言葉を一言添え、私は荷物をまとめて病室の扉に手をかける

 

「今日はこれで失礼するね

また遊びに来るから!」

 

会釈と共に開いた扉を潜り、ランサーも私の後ろに続いて病室を後にする

 

病院を出る直前のアンちゃんは、嬉しそうな顔で手を振ってくれた

 

バーサーカーは仏頂面のままだったけど…

 

総合受付はさっき私が支払いを待っていたあの場所だ、だからまたこの特別病棟から一階へ降りて、リハビリ棟を抜けて外来病棟へ戻る必要がある

 

この病院は街一番の大きさを誇る総合病院だから、とにかく広い

 

そして道なりに進むとかなり入り組んでいる

 

「えっと、どっちから来たっけ?」

 

「こっちだよマスター」

 

ランサーがナビゲートしてくれるお陰でスムーズに戻れているが、これ一人だったら迷子になってたかもしれない

 

「てか、ごめんねランサー…支払い任せて置いていっちゃった挙句、全然関係の無い場所のいて…よく私の居場所がわかったね?」

 

「サーヴァントはマスターの居場所なら魔力のパスを通じてわかるよ

けど僕は、高性能の気配感知スキルを持っているから、大抵のものなら遠くにいてもわかるよ

例えば、この街にいる生き物の種類や数は勿論、街の外まで気配を辿れるし…その気になれば、この星の上のものは大体感知できるね」

 

この物言い、高性能レーダーが搭載されているかのような言い回し…だんだんランサーの言動にも慣れてきた気がする

 

「じゃあ私が何処に隠れても見つけられるってことだ」

 

冗談混じりに、軽口めいてそう言ってみる

 

淡々と事実を述べてくるんだろうなぁ、とか思っていたけれど、返ってきたのは予想外の言葉で

 

「マスターは…うん…そうだね

マスターが、()()()()()()()()()()()()()()()()、どこにいても見つけられると思うよ」

 

歯切れの悪い、不確定な言い回し

 

先程までのランサーらしくはない、曖昧な言葉だった

 

その言い方が少し引っかかりながらも廊下を進んでいると、ランサーが突然足を止めた

 

「どうしたの?」

 

そう聞いて間もなく、服の裾を引かれた感覚がして、振り返る

 

視線の先、私の真後ろ、そして少し目線は下…そこに、赤い髪の子供がいた

 

黒い患者着のような衣服に、包帯だらけの手足と…左目も包帯で覆われている

 

焼けるような夕焼け色の赤髪は、金色の星の髪留めが付けられていて…なんとも、目を惹く特徴的な子供だ

 

「おねーさん」

 

声も若いが、恐らく声変わりが訪れる前の少年の声だろう

 

見える顔立ちからして中性的でどちらとも見分けがつかないが、恐らく少年であろうその子どもは、私を呼んで掌を見せてきた

 

「これ、おねーさんの?」

 

その掌に乗っていたのは、私のお気に入りのキャラクターのキーホルダーが付けられていた、家の鍵だった

 

「そ、それ!探してたの!君が拾ってくれたの?」

 

「うん、レントゲン室に落ちてたよ」

 

少年がにこりと笑い、鍵を差し出してきた

 

それをしっかりと受け取り、確認する

 

このキーホルダーは、日本で人気(だと信じている)ヘビネコという蛇の目と舌を持つ猫のようなマスコットキャラクターだ

 

SNSで人気のでかっこ(でっかくてかっこいいやつの略)という漫画に登場するライバルキャラで、最初は主人公であるでかっこに対して意地悪ばかりしてきたのだが、最近では甘いものがすきだったり意外とドジっ子な一面が頻繁に見えてきて意地悪をしていたのも元はでかっこが蛇が苦手という先入観から彼を避けたことが原因であり、その偏見意識を取っ払った現在はギクシャクしながらも打ち解けつつあり、最近では作品内キャラクターの人気投票でも582位中8位を獲得していることから、やはりかなりの人気は確実にあると見ても過言では無い…!かく言う私もヘビネコが好きで、今の借家には日本から持ってきたヘビネコグッズがそこそこある

 

鍵も大事だが、鍵に付けていたキーホルダーはコラボカフェ限定グッズだったから、紛失したら一ヶ月は立ち直れなかったと思う

 

少年が拾ってくれたお陰でその不幸は回避することが出来、私は心の底から感謝の気持ちが溢れた

 

その勢い余って、少年の両手を、自分の両手で包んで握手した

 

「ありがとう…!これがないと二度と買え…じゃなくて、家に帰れないところだったんだ…!

なにかお礼させて?…あ、でももしかしてここの患者さんなのかな…」

 

「気にしないで、落し物を拾っただけ、だから」

 

少年は爽やかに微笑む

 

あまりにも良い子過ぎて、後光が見える…なんなら純白の翼とヘイローまで錯覚し始めてきた

 

「…萌恵」

 

感動に浸っていると、ランサーに呼ばれる

 

「処方箋というものを受け取っている

薬局に薬をもらいに行かないと」

 

ああいけない、まだ用事は終わっていないんだった

 

鍵紛失やバーサーカー陣営と思わぬ邂逅があったことで、すっかり病院に受診に来ていたことを忘れていた

 

「えっと、本当にありがとう!私達、先を急ぐから、これで…」

 

「うん…気を付けて、帰ってね?おねーさん」

 

微笑みを携えたまま、離れた手を振ってくれる少年に私も手を振り返しながら、ランサーと再び総合受付を目指して歩き出した

 

と言っても、目的のキーホル…コホン、鍵は思わぬところから舞い戻ってきたので、今となっては総合受付の正面にある正面玄関から病院へ出て、隣の薬局へ向かうことが今の目的となっているのだけど

 

「ほんっとうに見つかって良かったぁ…!神様はまだまだ私の事を助けてくれてるんだ…!」

 

「そうかな?神代ならまだしも、今の時代に神はいないよ

君には神の加護はついているようには見えないし…」

 

おっと、今のは言葉の綾と言うやつなんだよランサー

 

「君の運命力の巡り合わせが良かったことは確かだろうけれど、元を辿れば所有物の管理を怠ったことが今回の小さな騒動の原因ではないかな」

 

ランサーはきっとあれだ、機械的すぎるが故に人の心をわかっていない、だから人に寄り添う言葉を選ぶことが出来ずただ一直線に事実を突き付けるタイプなんだろう

 

鍵を失くした私の落ち度は重々理解していますので、それ以上言葉のナイフを突き刺すのはやめていただけませんか

 

「でも、本当に君は運がいい

早速別のサーヴァントとそのマスターを見つけただけでなく、()()()()()()()を味方にすることが出来たんだからね」

 

「そ、そうだよね!?鍵を失くした時は焦ったけど、結果的に見れば良い結果に落ち着い…」

 

…あれ、待って?今ランサー、なにか言葉がおかしくなかった?

 

「病院の外に出たね

マスター、鍵を貸してくれないかい」

 

会話しながら歩き続けているうちに、私達の足は病院の外へ出たようで

 

するとランサーが鍵を出すように言い、その手を差し出してきた

 

一体なんで、というものはわからずにとりあえず鍵を渡すと…ランサーはそれを一度優しく握る

 

すると、静電気ほどの電流がパチリと走り、ランサーは再び手を開いた

 

握られた鍵は、何の変哲もない…先程と何も変わらない鍵だった

 

追尾魔術(トラッキング)をカットした」

 

…今、なんて?

 

「あの男の子、君を狙う魔術師だったようだね

それも…アンとは違う、他のマスターだ」

 

……なん、て?

 

「気を付けてねマスター

君は本当に星の巡り合わせがいい、こんなにも早く障害となる敵勢力と接触したのだから

でも、だからこそ、だ

君は見ているとかなり危うい、手順ひとつ間違えると周囲を誘爆してしまう爆弾の様だ

幸運も火薬も、要は使いようだけど…ね?」

 

…ランサーの微笑みが、昨日から見続けているものと同じ穏やかで柔らかいもののはずなのに

 

私の心は、言い表せないざわめきが広がっていった

 

 

 

「あ~あ、バレちゃった」

 

病棟の屋上にて、赤髪の少年は地上を見下ろしていた

 

本来関係者しか上がれない病棟の屋上は、少年が訪れることのできない場所のはずだった

 

彼は黒い患者着を着ているが、そもそも黒い患者着の病院など存在せず、少年はこの病院の患者ではない

 

不敵に笑う少年は、病院の外に出てきた彼女を見ていた

 

「でも()()に会えてよかった、やっぱり生身で見た方がずっと綺麗だったや

ありがとうセイバー、キミに教えていてよかった

そのお陰でキミは昨日、あの人を見つけてくれた」

 

少年が語り掛ける相手は、背後に立つ黒い騎士

 

言葉を語らない騎士は、ただ少年の独り言を聞くだけのマネキンの如く

 

「そして僕に教えてくれたから、今日会いに行くことができた

念願叶った気分だよ、本当に

でも…まだ戦争は始まってすらいない

これから、だよね

これからおねーさんのこと、もっとずっと知っていける、関わることができる

会話して、触れ合って、戦って殺し合って…そして僕があのランサーを殺した時、おねーさんはどんな表情を見せてくれるのかな

悲しむのかな、怒るのかな?それとも喪失感で虚ろになるかなぁ…?でもそんなおねーさんを、僕が助けてあげるんだ

助けて、閉じ込めて、僕だけのおねーさんにするんだ」

 

少年の心躍る夢語りに、騎士は僅かに肩を竦めた

 

飛び跳ね、ステップを刻み、格子網に指を絡めながら再び地上を見る

 

少年が求めて止まない彼女の隣に立つ、緑の美しい兵器

 

彼女のサーヴァントが、冷たい視線を、屋上から見下ろす少年に向けた

 

「…いつかお前の手から奪ってやるよ、人間もどきの泥人形」

 

 

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