Fate/catastrophe   作:白波恵

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汝、戦の開幕を担わん。Ⅳ

 

その昔、神秘を学ぶ時計塔の一室にて

 

女は嬉々として手の中にある小瓶を掲げた

 

同じ教室の、たったひとりの同窓生に向かって、夢を語る幼い少女のように語り掛ける

 

「見て見て、ようやく手に入れたの!原初の大地母神の権能が残る混沌の海、その一滴!」

 

女は同窓の男に向かってそれを近づけるも、男はそんな女の手を避ける

 

心底迷惑そうに、不快そうに、女を睨みつけた

 

「おい、それ先生が言ってたやべー代モンだろ

たった一滴でも触れれば発狂して死ぬっつー…」

 

「そうよ?でも小瓶に百層の防壁魔術、封印魔術を施してあるし、万一にも瓶から呪いが漏れ出ることはないから安心して

コルクさえ抜かなければ安全よ」

 

女はなんてことないように、原初の混沌を照明の光に照らす

 

光を吸収する漆黒の雫を眺めながら、女の目は輝いていた

 

「大体、どうやってそんな特級呪物手に入れたんだよ

神代にしか存在しないモンなんだろ」

 

「うん?虚数観測していたら()()()()目が合ったのよね~

本当に、私は幸運者だわ!でも放逐された女神には興味ないの

私が興味あるのはこれだけだったから、一滴だけ採取させてもらったの

ちょっと間違えたら死ぬところだったわ!」

 

「そのまま死んどけば清々したのによ」

 

「まぁ!ひっどーい!私が死んだら魔術界一万年の損害よ!」

 

教室で親しく話す同級生同士でありながら、その会話の内容は平穏なものではなく

 

男は場所も人も気にせず、煙草を吸い始めた

 

煙をくゆらせながら、男は女に問いかける

 

「…本気なのか?聖杯戦争に参加するって」

 

女はその質問に一度間の抜けた顔をしながらも、無邪気に笑って小瓶をかざした

 

「トーゼン!先生も全力でサポートしてくれるって言ってるし、実家も聖杯が欲しいってうるさいしね~

聖杯事態に興味はないけど、私個人は英霊…召喚されるサーヴァントを研究したいのよね

だって、憧れるじゃない?過去の英雄が現代に蘇る技術、振るわれる神秘の力…

それを研究して、()()()()()()()()()…とっても素敵だと思うの!」

 

女の語る言葉は、現実味も無ければ夢物語に等しい

 

しかしそんな机上の空論は、女の手にかかれば空論ではなくなる

 

それは男も薄々実感していた

 

現に女は、虚数世界にいると言われる古代文明の原初の母とされる女神と目を合わせ、生き延びただけでなく、混沌の海の雫を手に入れてきたのだ

 

その驚異的な発想力、行動力、実力、運命力は…まさに星に愛されて生まれたというべき生命体だった

 

星のように輝く金色の髪を靡かせて、まるで不可能なんて無いというように…女は確信をもって言葉を紡ぐ

 

「ねぇ、君も一緒に来てくれるよね?」

 

「…はぁ?」

 

唐突な勧誘に、男は咥えていた煙草を落としそうになる

 

「なんで俺がテメェと一緒に行かなきゃなんねぇんだよ

俺はテメェと一緒に死ぬつもりはねぇ」

 

「死なないわよ、死なせてあげない

でも君がいてくれると助かるわ…私じゃ、マキリのご子息から参加権を奪えないもの」

 

「嘘つけ、お前だったら10キロ圏内ならだれでも殺せるだろ」

 

「無駄なことに刻印を使いたくないの~!

ね?ね?お願い、これだけやってくれたらいいの」

 

女が男の腕にまとわりつき、上目遣いで懇願してくる

 

そんな女のおねだりにこれまで折れなかった男はいない

 

この同窓生以外は

 

男は怪訝な顔をして女の腕を振りほどいた

 

「相当の報酬を払ったらな」

 

「…!もちろん!実家から必要経費で落とすわ!ざっと一億からでいいかしら?」

 

「言っといてなんだが、お嬢サマの金銭感覚直した方がいいぞ」

 

西の島国、神秘を学ぶ学塔の中で、同じ教室の中で、二人の男女は友情でもなく恋愛でもない、歪な絆を重ねていた

 

 

 

 

 

 

 

現在 ウェルテンバウン・タワー正面 遊歩道庭園入園口

 

私とランサーは、帰宅する予定で懇親会を離脱したんだけど…

 

どうやら、背後を誰かにつけられているらしい

 

ランサーの気配感知のおかげだ

 

「誰だかわかる?」

 

「気配遮断を持つアサシン特有の気配が薄まった感じはしない

マスターとサーヴァントの二人組…

消去法で考えて、あの仮面のマスターとその傍らにいた男だね」

 

あの令嬢と執事(っぽいやつ)か…

 

てっきり抜けた私達を追ってきたかごめくんかと思ったけど、そうでは無いらしい

 

「今はまだ距離を保っている

別口から出て庭園の木に隠れているね」

 

「…なんか、ランサーってなかなかチートな気がしてきた

闇討ちとか不意打ちが効かないんでしょ?」

 

「そうだね、気配でわかってしまうし…何より、気配感知の及ばない距離と回避が間に合わない速度、防御を貫く威力の攻撃ではないとそう易々と不意打ちが当たることは無いと思うよ」

 

「それって不意打ちって言えるの…?」

 

「ここからは僕の推察だけど、相手は恐らくアーチャーのクラスじゃないかな

きっと、僕らが結界の外に出た瞬間に遠くからの狙撃を狙っているんだと思うよ

結界内では戦闘は禁止されている…でも僕らが外に出たらその限りでは無い

僕らからは向こうに手を出せないけど、向こうは結界の外にいる僕らを攻撃できる」

 

そういうこと

 

遠距離攻撃の得意なアーチャークラスのサーヴァント故に、安全圏から私達を仕留めようという魂胆なんだね

 

ランサーなら迎撃は出来るだろうけど、向こうに反撃出来ないのはどうしたものか…可能なら、この戦争のルール上争う必要性は無い

 

ただ、必要性が無いだけ

 

残っている他陣営が多いほど、怪物を倒した時の判定の倍率が上がる…となると、そもそもの母数を減らそうとする人だっているだろう

 

結界に出るまであと数歩、目に見えて出ようとしない私達に向こうも気付いたはず

 

迎撃しながら逃亡する?ランサーの能力は未だ未知数…どこまで可能なのかわからないけれど、きっとランサーならそれも容易いと思う

 

でも、私は…殺し合わずに済むのなら、そうしたい

 

協力して、怪物退治を遂行したい

 

だから、ここで取るべき手段は…

 

「ランサー」

 

「なんだい」

 

「…まずは同じ土俵に相手を引きずり下ろしたい

高みからつつかれてちゃ、攻撃も会話すらも出来ないから」

 

私の言葉に、ランサーは小さく微笑み…兵器らしい、無機質な瞳で私を見つめ返した

 

「理解したよマスター

僕だからこそ出来ること、だね」

 

緊張しながらも口の端を引き上げ、二人並んで庭園の外へ踏み出す

 

結界の、外へ出た

 

それと同時に、後方からは銃を発砲した音が響く

 

一秒にも満たない瞬間的な速度で飛んでくる鉛玉、私が振り返る暇もなく、それは私の後頭部を貫こうと迫り来る

 

けれどその一瞬を、ランサーは防ぐ

 

ランサーの変容した片腕が、盾となり私の身を弾丸から守ってくれる

 

けれど、弾丸はひとつだけじゃない

 

無数の弾丸が水平に襲い来る波のように飛んでくる

 

弾丸は…8mmモーゼル弾か

 

現代でも使われる小銃用弾丸…製造は1900年代初期

 

まさか…近代のサーヴァント?

 

「マスター、この銃弾の流れは止まることがないね」

 

「そんなはず…銃なら確実にリロードのタイミングが生まれるはず」

 

「リロードの隙をリカバー出来るほどの銃の数だ

それに、弾切れになった銃は消えて、新たな銃が生まれる

魔力のある限り無限に銃を生成出来るんじゃないかな」

 

そんなのありか!?いやサーヴァントならありなのかな

 

「それで、どうする?マスター

この程度で崩れるほど僕の体は柔くはないけど、防戦一方だ」

 

「隙を作る必要がある、尚且つ攻撃はできない…か

…それなら、ひとつ手段はあるけど…今持ち合わせがないな」

 

「何か作戦が?」

 

作戦が、あるにはある

 

でも今そのアイテムを所持していない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから、今品切れ中だった

 

だからこの作戦は却下しようかと思ったんだけど…一応、相談してみようかな

 

「実は、これがあれば一瞬隙を作れると思うんだけど…ちょうど今手元に無くてさ」

 

ランサーに検索したスマホの画面を見せてみる

 

画面に表示されたある物を見たランサーは、一度頷いて…自分の手から、それを生み出した

 

「…え!?すご、どうやったの!?」

 

「これが僕のスキルだよ

僕は最高峰の兵器だからね

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが可能なんだ」

 

…え?なんて?

 

それは、つまり…その時代に存在している武器は全部ランサー本人から作り出すことが可能…ってこと、なの?

 

なんて、なんてチートすぎるサーヴァントなんだ

 

もしかして私が召喚した英霊は、破格の強さを誇るんじゃないのか?

 

「実物よりも威力を二割ほど増してみたんだ、どう?使えそう?」

 

「向こう失明しないかな…」

 

「あちらのマスターに向けて投げれば、サーヴァントは必ずマスターを守ろうと動くはずだ」

 

その守備動作が三秒でも…いや、一秒でもあればいい

 

その虚さえつければ、あとは何とかできる

 

「ランサー、向こうのマスターの立ち位置は?」

 

「サーヴァントの後ろ、右斜めで一メートル程離れているね」

 

「私が合図するから、その時によろしく、ランサー」

 

私は盾の影から見える範囲で弾丸の発射軌道を視認する

 

弾丸の同時射撃数、14

 

撃ち放たれる弾丸の弾倉装填数、20…既に小銃内に装填されてブラフを張るなら21か

 

連射式で21発が射撃出来るとしたら、一本につき約二秒で全弾が放たれる

 

それが14本の定数を固定して射撃される…でも確かに、弾切れからの装填済み小銃の生成に微かなラグが存在するはず

 

そして…弾丸は全て地上に対して平行に放たれている

 

つまり、弾丸がぶつかるポイントの水平先に銃がある

 

この並びからして…恐らくは、サーヴァントの周囲にアーチ状に並んでいるはずだ

 

なら、投げるべきポイントは…私達から見て左斜め下、最端の小銃が弾切れを起こす直前

 

「ランサー、私が数えてゼロになった瞬間に…」

 

「左側だね」

 

ランサーは私の思考を読んでいるのか、全て理解してくれているようだ

 

「そう、いくよ…

3…2…1…ゼロ!」

 

ランサーが鎖で巻き付けたソレ…閃光手榴弾、通称スタングレネードを狙ったポイントに投げる

 

弾切れにより弾丸に弾かれることも無く、手榴弾は相手のテリトリーへ転がっていき…瞬時に発光した

 

強烈な光と轟音が、盾の後ろで背を向けていてもわかる

 

そして案の定、攻撃が一瞬止んだ

 

その隙を逃さず、ランサーは再び鎖を放ち…相手のサーヴァントとマスターを捕縛することに成功した

 

そしてそのままこちらへ引き寄せ…仮面の令嬢とそのサーヴァントを、結界の外へ引きずり出した

 

「やった、成功だ!やったねランサー!」

 

「マスターのカウントが的確だったお陰だよ」

 

ひとまず鎮圧できた喜びに、ランサーの肩を軽く叩く

 

ランサーも褒めてくれるけど、なにかとハイスペックすぎるランサーにお世辞でもそう言われるのは、なんとも面映ゆい

 

「ああなんてこと…!放せ、放しなさいよ!

アーチャー!早く何とかなさい!」

 

「申し訳ありませんマスター、どうやらそちらのサーヴァントは…私なんぞでは到底適うことの無いお方のようです」

 

結界の外へ連れ出した際に仮面は落ち、令嬢の顔が露わになる

 

西洋人の顔立ち、綺麗な蒼い瞳と切れ長の目…そして

 

よく聞けばその声は、女性特有の高さはなく…取り繕うこともない、低い声

 

…あれ、ちょっと待って

 

「もしかして君…男の、子?」

 

「……敵のマスター捕まえておいて、第一声がそれ?本当、会場で見た時から呑気だと思っていたけれど…ここまで来たら呑気じゃなくて正真正銘のお馬鹿さんなのかしら」

 

外見は本当に女の子と見紛うほどなのに、その取り繕うことの無い低い声から繰り出される言葉には棘が多く含まれている

 

「マスター、気づいていなかったのかい?

衣装や髪型は確かに女性的なものと呼べるけれど、声帯の音域や体格は男性の特徴をもっているよ」

 

「今ようやく気づいた…じゃなくて

えっと、話を聞かせてもらえないかな」

 

「話?フン、貴方に話すようなことなんて何も無いわ

アーチャー!」

 

令嬢(男の子)がサーヴァント…アーチャーを呼ぶと、再びノーモーションで小銃が現れ、弾丸が放たれる…ことはなく、それよりも先にランサーの鎖が小銃を縛り上げ、楔の先が引き金の隙間に差し込まれ発砲出来ないように固定させていた

 

「ははは、無理ですマスター」

 

「無理じゃないわよ!この軟弱者!」

 

「はっはっはっはっ」

 

アーチャーは縛られながらも笑っている

 

その喉元に、ランサーの鎖の先に繋がっている楔が添えられながら

 

私としても殺す気はないけれど、一応安全措置なため、ご容赦を

 

「この状況で反抗する方が生存率は下がると思うよ

僕のマスターは温厚で優しく、お人好しだ

殺せるけれど君達を殺すつもりは無い…けれどほら

下手に動いてその首が落ちてしまうのは君達にとっても不本意だろう?」

 

「脅し!完全に脅しだからそれ!

私はただ殺し合う必要が無いなら協力できたらいいなって…」

 

「はぁ?ほんっとうに馬鹿ね

怪物を探せ?そして倒せ?結局致命傷を与えたただ一組が優勝なら、協力したところで仲間割れするのが目に見えているわ」

 

縛られながらも尚敵対心は消えることがないようで、それでいて彼の言い分にも理解する部分はある

 

少なくとも七組中三組は、轟家の手の者だ

 

私含め、目的は同じ…轟家に聖杯を献上すること

 

裏切り者でもいない限りは味方だと認識していいはず

 

それに、更にはバーサーカーとそのマスターも協力を申し出てくれたんだ

 

ここまで過半数が味方…と見れる、そうなれば残る三組だって仲間にできるのならしたいけれど…無理に協力関係を結んで裏切られ、裏をかかれば本末転倒だ

 

やはり、このアーチャーのマスターとも協力することは出来ないのかな?

 

「マスター」

 

ランサーが私に声を掛ける

 

悩んでいる様子の私を見て、心配をかけてしまったのだろうか

 

「僕は君の判断に従おう

彼らを同盟者と見るか、敵対者と見るか…それとも、拘束し従わせる従者にするか

判断は君次第だ、僕に異論を唱える道理はない

僕は君のサーヴァント、君が使う道具なのだから」

 

ランサーの変わらない姿勢に、私はハッと気がつく

 

…そうだ、私は、心ある誰かをそんなふうに無下に扱いたくはない

 

ランサーだって…彼だって

 

ランサーが私の命令に無条件で従うのだとしても、それは道具だからではなく…同じ目標を持つ、仲間として理解して欲しい

 

それを示すには、このアーチャー陣を粗雑に扱ってはならない

 

私は一呼吸おいて、ランサーに()()()する

 

「ランサー…拘束を解いて」

 

「…本当に、それでいいんだね?」

 

「構わないよ

あと…()()()()()()()

 

私の言葉を聞き届けたランサーは鎖を解き、アーチャー陣を自由の身にさせた

 

その瞬間、マスターである少年令嬢は懲りもせず、アーチャーに攻撃をさせる

 

「アーチャー!」

 

「やれやれ」

 

アーチャーは呆れた様子ながらもその小銃を私の眉間に当て、引き金に指を添える

 

引き金を引けば、僅か0.5秒で鉛玉が細長い銃身から撃ち放たれ、私の頭を貫通するだろう

 

「よろしいのですか?サーヴァントに助けていただかなくて」

 

アーチャーが、微動だにしない私を見て問いかけた

 

眼鏡のレンズの奥の赤い瞳は、不思議そうに私を眺めている

 

ランサーは私のお願い通り、一歩退いた斜め後ろから見守っている

 

これは、ちょっとした私の見栄

 

ランサーは私を所有主、肥後対象として見ている

 

それに対する不満…というか、それを否定したいが為に、ここでランサーにも証明してみせないといけない

 

私はランサーを、共に戦うパートナー…相棒としたい

 

けどこのままじゃ、ランサーは私をずっと守るべき弱いマスターとして見なしてしまう

 

当然私なんかじゃ敵わない敵だって現れるだろう、けど…その時はその時で、全てにおいてランサーに守られるわけにはいかない

 

ランサーが戦うのに、足を引っ張るわけにはいかないのだ

 

だからこれは、私の見栄であり、証明

 

私には、師匠に鍛え上げられた強さがある

 

「構わないよ

()()()()()()()()()()()()()()から」

 

私の挑発的な言葉に、少年令嬢は怒り心頭といった様子で目を血走らせ、アーチャーは訝しむように眉を顰める

 

「無二、よろしくね」

 

そう呟くと、影の奥で蠢く蛇が呼応するように這いずった

 

アーチャーの指が、引き金を引く

 

弾丸が発射される0.5秒

 

その原因と、撃ち抜かれる結果を…解れさせる

 

「…え?」

 

弾丸は私の背後数メートル先の電柱を貫き、私の姿はそこにはない

 

私がいるのは、彼の目の前

 

驚愕の表情と恐怖の色で染まりつつある、少年令嬢の一歩前

 

「マスター…!」

 

「な、なんで」

 

瞬歩でも瞬間移動でもない、ちょっとしたカラクリなんだけどね

 

ともかく、これで話を聞いてもらえるだろう

 

私は手を振り上げ、少年令嬢は怯えて咄嗟に目を瞑った

 

そのまま無防備な彼の…手を、強く握る

 

「私は日本から来た大学生の園村萌恵!轟家系外第五十二位園村家代表!

趣味は読書とお菓子作り、アーホン通り二番地のカフェでアルバイト中

今はランサーのマスターで、聖杯を求めてる…けど、誰も殺したくないし死なせたくない!

だから、私に協力してください!」

 

彼の手と握手を交わし、大きな声で宣言する

 

普段こんなに声を張らないから、ちょっと声が裏返ってしまった、恥ずかしい

 

ともかく、自己紹介と私のお願いを聞いてくれただろうか

 

強く握った握手を振りほどくことすら思い浮かばないのか、呆気にとられた少年令嬢とアーチャーは、呆然と私を見ている

 

「…は?」

 

「私に協力してください!」

 

「いや…な、はぁ!?い、意味わかんないわよ!」

 

「理屈が通っていなかったかな…?」

 

「違うわよ!ここに来て手を握って自己紹介することが理解できないわよ!」

 

「やっぱりまずは私の素性を知ってもらわないと、怪しいままだし…相手に名前を聞く前に自分から名乗るのは常識だし」

 

「ほんっとうに馬鹿なの!?アーチャー!何とかこの女を引き剥がして!

ちょ、力強、手がほどけな…!」

 

幸いなことに、少年令嬢の力よりも私の力の方が強かったみたいだ

 

一応痛い思いをさせない程度に加減はしているんだけど…

 

私の手を振り解けないマスターの様子を見て、アーチャーは完全降伏の意を込めて両手を上げた

 

「無駄ですマスター、我々ではこのお二人には敵いません

実力の差ですね」

 

「は、はぁぁあ!?サーヴァントが人間のマスターに負けないでよ!」

 

「時には敗北を認めることも大切ですよ」

 

アーチャーは話が分かるようで、感情的な少年令嬢を宥めている

 

「園村萌恵様、並びにそのサーヴァントたるランサー様、貴方がたの実力に大変感服いたしました

この通り、完敗です

お二方のお話を聞きましょう」

 

アーチャーはズレた眼鏡を直しながら、私に向かって手を差し出した

 

自分とも握手してほしい、という意味だろうか

 

私は受け入れてもらえたことが嬉しくなり、握手しようと手を伸ばしたが、ランサーに遮られた

 

「君達に仲間はいないのかい」

 

「…ええ、我々の他の協力者はおりません

貴方がたは…多くの味方がいらっしゃるようですね」

 

アーチャーが手を引いたとき、庭園の向こうからこちらへ駆け寄ってくる一人の影が見えた

 

それは手をぶんぶんと大きく振り回すかごめくんだった

 

「ねえさーん!先帰っちゃうなんてひどいじゃないっすか!」

 

「あ…ご、ごめんね」

 

膝に手をついて息を切らしているかごめくんは、少年令嬢の顔を見て目をかっぴらいた

 

そういやかごめくんも、この子の素顔は見ていなかったもんね

 

「なんという西洋美人…!この街で出会った美女達にも引けを取らない麗しさ…お嬢さん、よろしければこの俺とこの後ダンスでも」

 

「あ、その子男の子だよ」

 

「なん…だと…

でも可愛ければOKす」

 

てっきり年上の女の人が好みかと思ったけど、割とストライクゾーンは広いのかな

 

「いやはや、多勢に無勢も良いところでしょう

マスター、ここはひとつ我らも一枚嚙ませていただくのは

折れるよりも曲がる方がよろしいかと」

 

「…ちっ、仕方ないわね」

 

少年令嬢はとうとう観念したようで、敵対心が薄れていった様子

 

そういえば…私は名乗ったけど、この子の名前はまだ聞けていないな

 

「改めて、私は園村萌恵

君の名前は?」

 

鋭い眼光は相変わらずだけど、彼は毒気を抜かれたように溜息を吐いた後に少しだけ柔らかくなった表情を見せた

 

「…エリーゼ

エリーゼ・シュヴァルヴィアよ」

 

名前も女性名だけど、昨今はジェンダーレスが重要視されつつある、深くは聞かないでおこう

 

こっちにも性別よくわからないのいるし…

 

「俺は日本が誇る轟家第三十五位、望月家の嫡男望月かごめっす!

これもしかしてあれすか、同盟組んだ流れすか」

 

かごめくんが喋るたびに空気感が軽くなっていく

 

正直、私にはできないことなので助かってしまう

 

「マスター」

 

ランサーから声を掛けられる

 

そういや、手を出さないでと言ってからランサーは律義に待っていてくれた

 

「君の命令通り、待機していたよ

けど、危ない真似はしないでほしいな」

 

「ごめんね、でも私は…」

 

「マスターに何かあれば、僕はサーヴァントとしての存在価値が無くなってしまう

正真正銘のガラクタだ」

 

「それは、違うよ!」

 

確かにちょっと…無謀だったと思う

 

でも、エリーゼに話を聞いてもらうためにも、ランサーとの今後のためにも…ちょっとは無茶しないと

 

強いサーヴァントの後ろでのうのうとしている奴が、「争いたくない!協力してくれ!」なんて叫んでても聞く耳はもってくれないし

 

だから私が無茶をして何かあっても、それは私の責任

 

ランサーのせいじゃない

 

「ランサーはガラクタじゃないし、私の頼れるサーヴァント…私の相棒だよ

私達は、道具とその持ち主じゃない

一緒に戦うパートナーとして、協力し合いたいから」

 

ランサーの目を真っ直ぐに見つめる

 

水晶のような透き通る瞳は、私の姿を反射している

 

そして、私の言葉に何か感じたのか…ランサーは微かに息を呑んだ後、いつもの微笑みを見せた

 

「…そうか

君はあくまでも僕を、対等な関係で見てくれるんだね」

 

「当たり前じゃん、道具としても私は大事に使うよ」

 

「それは嬉しくなる言葉だね」

 

ランサーは、喜びの感情を乗せた笑顔を浮かべる

 

目を細め、眉を下げ、いつもと少し違う人らしい表情に、私も少しばかり照れ臭くなる

 

「…こほん」

 

ランサーと二人の会話に意識を持っていかれたせいで、エリーゼやかごめくん達が私達を注目していたことに今しがた気が付いた

 

いや、ずっと見られていた?聞かれていた?そりゃそうだ、この場にいるんだから

 

「姉さん、いい雰囲気じゃ無いすか~」

 

「わ、わ、わぁぁぁあ!!ちが、違うから!そういうのじゃないから!」

 

「まんまと使われた気分だわ…」

 

誤解を解こうと必死になりながら、その後ろではサーヴァント達が微笑ましく見ている

 

今後はこの仲間達で、この聖杯戦争に潜んでいるであろう怪物を倒すためにも、頑張ろう

 

 

 

 

「よろしいのですか」

 

「ああ、もう構わないよ

心の娘…結局彼女の最高傑作と聞いていたのに、あれでは失敗作もいいところだ」

 

聖杯戦争に参加するマスター達を集めたパーティーフロアには、監督役を名乗るシスターと運営者である市長が残っている

 

周囲のガラス張りの壁から地上を見下ろし、ネオンが輝く街に何を思うか

 

真っ赤なワインの入ったグラス越しから覗くその街は、まるで血の海に沈む人類の文明そのもの

 

「それでは、皆様お入りください」

 

シスターがそう言うや否や、会場入り口からは複数の人影が現れる

 

それぞれの姿を見て、市長はそれらを歓迎した様子で出迎える

 

「お待たせしました皆様方

それではここから…本当の聖杯戦争の開幕を、宣言いたしましょう」

 

釣り降ろされたのは甘美な果実

 

謳い文句は英雄譚

 

そこに隠された殺戮を、疑う事すら許さない

 

 




【profile】

園村萌恵

年齢:19歳
性別:女性
身長:163cm
体重:50kg
属性:混沌・善
魔術回路:数・E‐ 質・EX 特殊機構付属
魔術属性:?
好きなもの:甘いもの、読書、運動、武器の整備
嫌いなもの:死、争い、計算
■■:■の■■(■■)

都内の文系大学在籍
母死去、父懲役中、兄が三人
血の繋がった兄達は親戚に引き取られ実質的な園村家当主

運動神経が良く、特に走ることが得意
小中高校生時代の体育祭のマラソンは毎年アンカーを任される
暑がりで基本薄着
ドイツの冬でも比較的軽装だが、ファー付きの黒いコートは絶対手放さないトレードマーク
コンタクト使用者でプライベートでは眼鏡
チョーカーを首に巻いている
痛みに鈍い
影に潜む黒蛇、無二は彼女の■の片割れ
■■■■■■■に■されし魂
■は■の■を■い、■■へ■う■■の■■
次世代の■の■■■



ランサー

真名:■■■■■
出典:■■■■■■叙事詩
地域:■■■■■■
性別:無し
身長:可変
体重:可変
属性:中立・中庸
好きなもの:友
嫌いなもの:錆、カビ

パラメーター:筋力・A 耐久・C 敏捷・A 魔力・D 幸運・B 宝具・A++
本来ならここまで偏ることは無い、と本人談

保有スキル
対魔力・A
変容・A
気配感知・A+

宝具
民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)
大地そのものと共鳴し自在に変形させ操ることで様々な武具を作り出す宝具
此度の聖杯戦争では本人曰く、「土地が汚染されている」ことによる呪いの伝播を防ぐため使用できないとのこと

■■■■■■■■■■■
ランク:A++
種別:対■■宝具
レンジ:0~999
最大捕捉:1000人
自身を一つの神造兵装と化す宝具
アラヤ・ガイアの抑止力を自身に流し込み撃ち放つ、天地を貫く巨大な光の槍となる
膨大なエネルギーを変換した楔となって対象を貫き、繋ぎ留める
抑止力の表れそのものとも言えるため、人類・星への破壊行為に反応して威力が激増する
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