それは、誰もが憧れる『正義の物語』
2000年前、悪魔達は人間の世界を滅ぼそうと攻めてきました。
しかし、『正義』に目覚めた一人の『悪魔』が、その侵攻を食い止めて、魔界を封印した。
世界は平穏を取り戻し、その悪魔は今でも人間を守り続けています。
他愛のない御伽噺、子供なら心を躍らせる物語、それはこれから世界の主役となる
英雄になる者達も変わりなく、その絵本を手に取る。
その悪魔の正義に誰もが心を躍らせる。
本の表紙には作者が『絶対に変えてはいけない』と言い残し、
そして、誰もがそれに目を釘付けにする一本の剣…
月の綺麗な夜だった。二人の少年と、その養父である男は、縁側に二人並んで月を見ていた。
「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」
養父の独白のような言葉に、二人の少年はすぐ反応した。
「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」
「諦めるなんて爺さんらしくないよ」
少年達の言葉に、男はすまなそうに笑いながら答える。
「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気付けば良かった」
そんな言葉に二人の少年は納得したのか、互いを見て頷きながら、
「そっか。それじゃしょうがないな」
「大人って大変だものね」
「そうだね。本当に、しょうがない」
相槌を打つ男。それに、胸を張って少年達は言葉を続ける。
「うん、しょうがないから俺達が代わりになってやるよ」
「そうだね。爺さんはもうオトナだから無理だけど、俺達なら大丈夫だろ」
「まかせろって、爺さんの夢は…」
(…俺達が、ちゃんと形にしてやっから)
そう言い切る前に、男は笑いながら少年達の頭に手を置く。
「ありがとう、二人とも。でもね、それより僕は君達に『幸せ』になって欲しいんだよ」
少年達を優しく撫でながら、男は言った。
「何言ってんだよ、爺さん。俺達は幸せだぞ?」
「士郎の言うとおりだ」
撫でられるのが少し不満なのか、口を尖らせながら少年達が答える。
「いや、君達はもっともっと、『幸せ』になるべきなんだ。だから…」
そう…君達だからこそ…
「分かったよ。爺さんがそう言うなら、爺さんが『参った!』って言うくらい『幸せ』になってやるよ」
「覚悟しろよ」
「うん」
嬉しそうに少年を見る男。だが、続く言葉に衝撃をうける事になった。
「それと一緒に、爺さんの夢も形にしてやる。どうだ、これなら爺さんも文句無しだろ?」
「…え」
「うん、士郎の言うとおり。俺達はまだ子供だからな!」
「俺達が一緒に頑張ればなれるかな?俺達が…」
‐たとえ、■■でも、幸せにも、正義の味方にもなれだろ!‐
男は言い終わる前に二人を強く抱き寄せる。
そして、ココロの底から、神を…『世界』を呪う。
なぜ、こんないい子達が何故『全て』から憎まれなければならないのか。
「…爺さん?」
「どした?」
こんな諦めてしまった男の愚かな
何故恨まれる!何故呪われる!何故傷つけられるのだ!
「…二人とも、欲張りだね」
「うん、だって俺達は■■だからな」
「爺さんはもうちょっと欲張ったほうがいいぞ」
「そう、そうだね…僕も、そうすれば良かったんだね。
そして、月を見上げながら、
「ありがとう、士影、士郎…ああ…」
-…安心した-
男は眠るように眼を閉じた。
その様があまりに穏やかで、少年達はただ、熱くなる両目を向けて、月が落ちるまで父親であった男を見ていた。
それは月の綺麗な夜だった。