武家屋敷・衛宮家にある土蔵。
その奥の作業場にツナギを着た男が布団もないのに気持ち良さそうに寝ていた。
爆睡だ。
ギィ~…
土蔵の扉が開き、制服姿の二人の少女が男に近づく。
「先輩、起きて下さい」
「おい、起きろ士郎」
「むむぅ~」
ゆっくりと起きる男。
「ふぁ~、おはよう桜、綾子」
「おはようございます」
「おはようさん」
男は首をコキコキ鳴らす。男の名前は衛宮士郎。
身長180後半の大台に乗る長身と、ツナギの上からでもわかる鍛え抜かれた体、赤と銀の二つの色が混じる髪と随分目立つ。
そして二人の少女、桜と綾子に向ける人懐っこい笑みが魅力の一つだ。
「またこんな所で寝て、風邪引いても知らないよ」
「悪い悪い。こいつの修理が終わらしたかったんだ。まあ、終った途端ダウンしたからな」
「もう、布団でちゃんと寝てくださいね」
「今日は寝るよ」
「朝飯は私と桜で作るから、風呂でも入って埃落としてきな」
「イエッサー」
士郎は立ち上がり、母屋に向かう。
すると縁側でお茶を飲んでいる和服の女性がいた。
「おはようございます、士郎」
「おはよう舞弥姉ぇ」
女性は『久宇舞弥』…
養父の死後、自分と『兄』の世話をしてくれた家族。
「また、あんなところで寝たのですか?」
「ああ、うん…まあ…」
「まったく…あなた達はそんなだらしない所が
「あー、うん。ゴメン、そのうち聞くから風呂行くや」
と、士郎はスタコラと風呂場へと逃げた。
「はぁ~、風呂は心の洗濯だ」
士郎はさっぱりした頭と体を感じながら呟く。
「今日はいい天気になるかな」
気分良く独り言を呟きながらバスタオルでまずは頭、そして体を拭いてゆく。
そして着替えを取ろうとして…
「…オウ、シット」
着替えを取りに行くのを忘れていた。
「仕方ないか…」
そう呟いて、腰にバスタオルを巻いて部屋に向かう事にする。
(まあ、二人とも台所にいる筈だし、大丈夫だろ)
士郎のその考えが甘かった。
脱衣所を出て、部屋に向かう途中で…
「し、士郎!?」
「ぬぁ!?綾子!」
綾子と遭遇してしまった。
場所から考えて今で食事の準備をしていたらしい。
「いや、綾子。こ、これはな…」
「士郎、その、今は、えっと、朝からそんな…」
「綾子?」
「い、今は桜もいるし、それに心の準備が…」
頬を赤らめながら何か小さな声で綾子は言っている。
まあ、いきなり男のバスタオル一枚姿を見たらこうなるだろうと、士郎は解釈した。
(早く部屋にいかねば…)
「ふんふ~ん。私のセンサーがこっちに何かを感じる…ここだぁ!」
もっとも最悪な展開が謀ったようにやってきた!
藤ねぇセンサーに引っかかってしまったのだ!
「………」
「………」
「…そりゃぁ、私も士郎の事…」
藤ねぇと士郎は沈黙する。
綾子が何かを言ってる気がするが、理解できない。
‐ヤバイ、ニゲロ!‐
士郎の本能が叫び、行動を移す前に…
「朝っぱらから何やっとるかぁ~、この色魔!」
どこからともなく虎竹刀を出し、縮地とも言える速度で間合いを詰め、凄まじい一撃が士郎を吹き飛ばした。
「なんでさー!」
《士郎Side》
朝食を終えた俺達は学校に向かっていた。
「まだ頭がガンガンする。朝っぱらからなんて一撃だ」
あの一撃で数分の間気絶した俺が目を覚ますと、騒ぎに駆けつけた桜と舞弥合わせて、心配そうにしていた。
俺が大丈夫な事を示すと、居間に向かっていった。
しかし…バスタオルが妙だったのと、三人とも顔を真っ赤にしていたのは気のせいだろうか。
朝食を食べる終えると、藤ねえはテストの採点があった事を思い出し、爆走していった。
「ははっ、悪いね士郎」
「いや、俺が服を取りにいくのを忘れたせいで、綾子が悪いわけじゃないよ」
他愛のない会話を続け、学校に到着した。
「先輩、私達は朝錬に行きますね」
「んじゃ、昼飯の時にね」
「ああ、頑張れよ」
俺はそのまま生徒会室に向かった。
「おはよう、一成。相変わらず早いな」
「おはよう衛宮」
我が校の生徒会長で俺の親友の柳洞一成。
優等生の生徒会長がなんで俺みたいなのと交流があるのかといつも囁かれている。
「お前は珠玉の良さを持っている。皆の方がそれを解からんだけだ」
と真っ直ぐに言うから恥ずかしい。いつも朝は授業が始まるまでこうやって話をするのも日課だ。
その後は一成と共に教室に向かい、普通の学校生活を送った。
何時もの如く藤ねぇが爆走して教室に突っ込み、机にクラッシュ。
生徒達に『タイガー』とからかわれキレる虎。まったく賑やかだな。
学校が終わり、俺は帰路に立つ。
基本的に夕食の当番は決まっているが、一番最初に家に着く俺は米を炊いたり、おかずの一品を作る。
そうしないと家主の立場がない。
「本屋でも寄ってくかな。今週のジャ●プ買ってないし…いやいや、これもジャン●卒業するいい機会かもな。いい歳こいて少年ジ●ンプって…いや、でも男は死ぬまで少年だしな」
割と恥ずかしい葛藤を口にしながら歩く。その時、俺は前方にいる人影に気付いた。白銀の髪の小柄な美少女だ。
着ている服はメー●ルみたいに黒いが、彼女から感じるイメージは『白』だ。
俺を認めると歩き出し、擦れ違いざま、
「早く呼び出さないと、死んじゃうよ、お兄ちゃん?」
素敵に物騒な事を言われたが、俺は気にせずに
「ありがと、『姉貴』」
それを聞いた少女は赤い目をパチクリさせ、驚いていた。
「へえ、知ってるんだ、わたしの事?」
「写真でしか見ていないが、美しい女は覚える事にしているんだ。イリヤスフィール=フォン=アインツベルン。爺さんのちゃんとした娘だろ、会えて嬉しいぜ」
「…ホント?」
「モチロン。姉弟で嘘言ってどうする」
イリヤスフィールはこんな事になるとは予想もしていなかったみたいで少し戸惑っている。
俺はそんなイリヤスフィールに手を差し出す。
「?」
「折角会えたんだ。家に来ないか、姉さん」
呆けた表情になるイリヤスフィール。
「良いの?」
おずおずと聞いてくる。
「ああ、何『弟』に遠慮してるんだ」
「…うん!」
嬉しそうに抱きつくイリヤスフィール。
「私の事はイリヤでいいわ、お兄ちゃん」
「ははっ、それでは我が家に『帰ろう』か」
その言葉にまたイリヤは戸惑っていたが、俺達は手をつないで家に向かった。
家に着いた俺達を舞弥姉ぇが迎えた。
舞弥姉ぇは少し驚くと、いつもの佇まいに戻り、一例をした。
そして舞弥姉ぇはイリヤを爺さんの仏壇に案内した。
イリヤは暫く仏壇の前に立っていたが、舞弥姉ぇ作法の一式を教えてくれといい、舞弥姉ぇは線香の火の消し方や手の合わせ方等、丁寧に教えていた。。
次に舞弥姉ぇが家のアチコチを案内している間、俺は茶菓子や晩飯の仕込みを始めた。
家の中を案内し終わって、居間で座っているイリヤと舞弥姉ぇに紅茶と来客用の菓子を出す。
「ありがと、シロウ」
イリヤは心ここにあらずと言った感じだ。今はそっとしておくのが一番だと舞弥姉ぇと共に判断すると、俺はエプロンを付け、本格的に夕飯の支度をし始める。
そして、もうすぐ三人が帰ってくる時間になると
「そろそろ帰らなきゃ」
「もうお帰りになられるのですか?」
「夕飯食っていかないのか?」
「こんなに遅くなる予定じゃなかったから…私も色々忙しいの」
「そうか…じゃあ、ちょっと待て」
俺はすばやく夕食を小さな弁当箱に詰める。可愛いハンカチで包んで完成。
「ほれ」
「なに、これ?」
「弁当だよ。もしよかったら食べてくれ」
「…ありがと…」
イリヤは玄関で靴を履き…
「シロウ」
「ん?」
「エプロン…似合うね」
「ああ、グッと来るだろ」
舞弥姉ぇが俺の横腹に一撃を喰らわせ、その様子をイリヤは軽く笑う。
「またね」
「ああ」
そう言ってイリヤは帰っていった。
それから五分も立たない内に三人が家に着いた。
当番だった桜は夕食がもう完成していたのにビックリしていたので謝った。
まあ、三人とも美味しそうに食べてくれた。
藤ねぇなんぞ五杯もおかわりしやがった。
金には困っていないが、藤ねぇの食費は藤村の爺さん経由で飯代を請求しなければ。
こんな些細な事でもしっかりしとかないと社会人たる藤ねぇの為にならない。
洗い物が終わり、今日の出来事なんかを話した後、三人はそれぞれの家路について行った。
三人が帰って二十分立つと、俺は舞弥姉ぇに一言言って、蔵に向かった。中に入り、所定の位置に立つと足に力を込める。
ガコッ…ゴゴゴッ…
床の一部分がヘコみ、近くの床が開いて地下への階段が表れた。
俺は階段を下りる。
階段の先には特別な訓練室がある。
特殊な建築になっており、中々広く、射撃場まである。単純に体を鍛えるモノもあれば、日本では非合法な数々の重火器もあった。
俺は愛用の二丁の拳銃を取る。『エボニー&アイボリー』…親父の遺品でもある。
この拳銃は特殊な素材でできている。定期的に掃除をするのは当たり前だが、通常の拳銃より頑丈にできている。
親父は、弾頭に細工をしたりしていたが、俺なら魔力を込めるだけで十分だ。
俺はクイックドロウのパフォーマンスをして、的に向かって撃つ。
全弾命中、よっし。
そして俺は魔術の訓練に入る。
正直俺は『人間』の魔術とはあまり、相容れないらしい。
人間が使う魔術で使えるのは極めて特殊な『投影』と『強化』だ。
まあ、『強化』のほうは銃弾を撃つ時にしこたまやっている。俺は『投影』の訓練を開始する。
『投影』するのは今まで『追っ払ってきた』奴等がたまに持っている特殊な武器と…『魔の剣』だ。
全種類一通り終えると俺は一息吐く。
ふと…俺はテーブルの上にあった、写真を見る。
写っているのは爺さんと俺と…
「『
俺は胸のアミュレットを強く握り締める。俺は階段を昇り、土蔵から出る。
「………」
月が『あの日』のように綺麗だ。
「『正義』は…人を救えるのは敵を屠る絶対の力じゃない…」
正義に目覚め人々を守った父。
父を愛し、最後の最後まで『俺達』を守ってくれた母。
そしてあの地獄のような場所で『俺達』を救ってくれた養父…
そう、あの人達が俺達にしてくれたように…
「信じ続けて、守る為の力が必要なんだ…」
いつか…『全て』が笑顔になる事を祈って…たとえ、それが自分を滅ぼしても…
それは絆なのか…同じ時、もう一人の己も信念を固く誓っていた。