Fate/devil night   作:歌音

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第1話=B/正義の信念 ‐I need more power...‐

暗く、そして何故か明るい世界。瘴気とも言う魔の空気が漂う世界。

 

それは人間が古来より恐れたモノ達が住まう…『魔界』。

 

そして、今の魔界には途轍もなく凄まじい血の匂いが漂う。

 

元は悪魔の死体…それも一つや二つ等という生易しいものではない。

 

幾百幾千という魔の死体が道を造っている。

 

その道を築いたのはいかなる暴虐か?その道は大きな建造物に続いている。

 

その建造物こそ魔界を束ねる長『魔帝』の居城である。

 

 

ドガァァァァ!

 

 

玉座の間の扉を破壊し、何者かが侵入した。

 

身長180後半の大台に乗る長身と、蒼を象徴する服の上からでもわかる鍛え抜かれた体、赤と銀の二つの色が混じる髪を無造作に立てている。

 

「………」

 

男は感覚を研ぎ澄まし、気配を探る。

 

「いないな」

 

そう、魔帝を倒す為に悪魔を殺しながらこの城に来たというのに、魔帝どころかその腹心達の気配すらない。

 

「いったいどこへ…」

 

キンッ!ドシュッ!

 

『ギャァァァァァ』

 

男は振り返りもせず、後ろにいた巨大な死神を己の武器『閻魔刀(ヤマト)』で屠る。

 

『バ…バー…ジル…』

 

男…バージルは断末魔の叫びも気にせず、探る範囲を広める。

 

「なに…?」

 

なんと気配は魔界ではなく、人界へと続いている。

 

「どうやって現界を果たそうと…まさか!」

 

バージルには一つだけ、心当たりがあった。

 

それは…

 

「『聖杯』か…」

 

忌まわしきモノを呟くようにバージルは履き棄てる。

 

そうと解ればここには長居は無用だ。

 

「………」

 

バージルはふと思いつき、目的の場所を探した。

 

 

 

 

数刻後…

 

「さてと…」

 

俺の後ろには大きな袋…この城の宝物庫ににあった宝石・金銀の細工・魔具の上等のものがつまっている。

 

この魔界に来て…というか墜ちてから一年…人界に行ったら金がいる。

 

これを換金すれば行動しやすいだろう。

 

「ふんっ!」

首に下げていたアミュレットを外し、天に翳す。

 

殺した悪魔達の魔力をアミュレットに流し込み、無理やり人界の扉を開く。

 

人界では魔界《こちら》への扉は開かなかったが魔界では安易に開いた。

 

目指す場所は…『冬木市』。

 

「まさかこんな形で戻るとは…まさに皮肉だな。お前ならどう思う、『士郎』」

 

もう一人の自分を思いながら、バージル…『衛宮(えみや)士影(しおん)』は人界へ通じる門を潜った。

 

数日後…衛宮士影は冬木市のホテルにチェックインし、部屋にジュラルミンケースを置いた。

 

ここ数日間の間に魔術師協会総本山・『時計塔』の繋がりのある昔の知り合いを無理やり捕まえて、『時計塔』の奴等に拝借した物を売ったり(ぼってやった)、銀行の口座を作ったりで奔走した。

 

「しかし、あれで出すとは…」

 

流石は魔帝のお宝。それは置いておいて…

 

「…さて、どうする」

 

窓から冬木市を一望し、考える。

 

『魔帝』は現界する為に、『聖杯』と何らかの関わりを持とうとするだろう。

 

そして自分がその『聖杯』に近づくには『聖杯戦争』に参加しなければならない。

 

しかし、『聖杯戦争』に参加するには、人界の神秘と言われる『英霊』を召喚するのが絶対条件だ。

 

正直、自分の魔術は、英霊を召喚できる腕前ではない。

 

『ある場所』に行けば確実に召喚できるが、それはこの皮肉な『運命』という舞台に『士郎』を参加させる為に残しておきたい。

 

それではどうするか…

 

「これしかないか」

 

俺は魔力を研ぎ澄まし…一気に開放する。

 

俺は街のすべてを『検索』しているのだ。

 

一度これを見た知り合いは信じられないと言っていたが…できてしまうからしかたない。

 

まあ、残念な事に普通の人間を探し出すのにはまったく役に立たない代物だが…

 

自分の強力な魔力を街全体に薄く広げている。

 

これは魔力を感知する皮膚のようなものだ。

 

そう、一流の魔術師でも感じないほどの微粒だが、自分は確実に感じる事ができる。

 

『閻魔刀』を扱えるようになるために、極めた『間合い』の応用だ。

 

魔力を流し込んでいるため、十メートル以内に絞るなら『影』であろうと捕まえる。

 

しかし、ここまで広範囲にできるとは…また、強くなったか?

 

(大きな力が六つ…いや、八つ?微妙に違うが波長の同じのが六つ…二つは違うな)

 

と更に研ぎ澄ます。

 

(ん?一人気付いたな。『キャスター』というクラスか…ん?)

 

と俺が感じたのは、消えかかったり、現れたりする力。

 

「…これにするか」

 

士影はそう言って目的の場所に向かった。

 

間桐家…俺はその屋敷の前にいた。

 

(間桐家…『聖杯』を造った御三家の一つ『マキリ』の末裔。確か、当主は五百年生きている妖怪ジジイ、間桐臓硯…だったか?)

 

古い記憶を思い出す。

 

(この時間なら、『シンジ』もいないだろう。用事はとっとと済まそう)

 

と門を飛び越えて結界が作動するのを感じる。

 

そんな事をお構い無しに屋敷に侵入する。

 

「ん?」

 

屋敷に人の気配は無い。

 

だが、何かを感じる…いや、『感じなさすぎる』。

 

士影はその『感じなさすぎる』場所を辿る。

 

そして、隠し扉を発見した。

 

「なる程、コッチか」

 

地下への道らしい。強力な気配消しと探査妨害、それに防音の結界が張られているようだ。

 

そのせいで俺に感ずかれたとは、

 

「まぁ、対象しているのは『人間』だけだろうな」

 

と士影は地下に降りていった。

 

「まったく、ここの魔術師(間桐臓硯)は悪魔の才能ある。試験なら一発合格だな」

 

その腐臭は階段を降り始めて幾ばくもしないうちに、士影の鼻腔を強く突いた。もちろん士影も幾度も嗅いだ事がある。

 

悪魔の犠牲になった者から、自分が殺した悪魔からと…そう思いながら、自分が知っている魔術師という人種の事を頭で思い出す。

 

魔術師というのは己が探求する《知》の為にはあらゆる犠牲をいとわない。

 

必要な物は手に入れる、ない物はある場所から持ってくるという合理的な思考を持っている。

 

例えそれが実験の為に必要なモルモットであっても、そしてそれが人間を対象とするものであっても、躊躇しないらしい。

 

なる程、必要ならば街から攫うというわけだ。

 

「しかし…」

 

だが、これは凄い。

 

一呼吸するだけで肺が腐ってしまうような汚臭。死体の山をそのまま腐らせたかのような、圧倒的に濃密な臭いだった。

 

「この街の行方不明者の大半は『ココ』が原因か…」

 

探索の眼を決して緩ませない士影。

 

「まるでここだけを魔界だ。噂通りの妖怪ジジイらしい…うお、靴が汚れる」

 

足元を走る奇怪な黒い蟲を踏み潰す。

 

階段を一段下りる度に、腐臭の密度は増していく。

 

「この下はどうなっている?工房か?靴代ぐらいあるんだろうな」

 

さっきから蟲がいてたまらない。換金が済んだ時に全て新調したのだ。こんな蟲を潰して汚れたら、本当にたまらない。

 

「蟲使い…という奴か?魔界にもいたな。しかし…」

 

蟲を踏み潰す。

 

「程度が低い」

 

そうするとこの匂いは実験じゃなく、『餌』か。

 

「悪魔試験満点合格…といったところか。魔界の蟲使いも同族を餌にしていたな」

 

やがて、淡い光に満たされた空間で階段は途切れた。

 

狭い階段から一変して、広大とも言える地下空間が広がる。

 

そこはまさに《巣》だった。

 

明らかに自然には存在しない、さっきから踏み潰していた奇怪な形状の蟲がその広大な地下室の半分以上を覆っている。

 

薄汚れた石畳は動く蟲と動かなくなった蟲の死骸、そしてそれに食い荒らされた人間の死体の『残骸』で埋め尽くされている。

 

「まったく、いい趣味だ」

 

「カカカッ、お褒めに預かり光栄じゃよ、若いの」

 

妙に朗々とした声が響く。

 

声の先を見るとそこに老人がいた。やせ細り、妙に眼光が鋭い…正に妖怪ジジイ。

 

「間桐臓硯という妖怪ジジイとはお前か」

 

「カカッ、開口一番が減らず口とは活きのいい奴よ。蟲の餌となりにきたか?」

 

「美女になら食べられてもいいが…気色悪いジジイは遠慮したい。さてと…本題入るぞ。貴様のサーヴァントをよこせ」

 

「なんじゃと?」

 

「ジジイらしく、耳が遠いか?じゃあ、もう一度言おう。貴様の後ろにいるサーヴァントをよこせ。いるだろう、気色悪い仮面の変なミイラがな」

 

ここに侵入してから『間合い』を最大に強めているのだ。

 

『見えないものでも見える』程に。

 

「…何者じゃ」

 

「衛宮士影」

 

「衛宮の子倅の片割れか。一年前に行方不明と聞いとったが」

 

「帰省した」

 

「しかし、愚かよのぅ。みすみす殺されに来るとは…カカカッ」

 

士影の足元に蟲が現れる。

 

数十…いや、数百と。

 

「むっ?」

 

士影が足元を一瞥した瞬間、蟲は士影の体を覆った。

 

「カカカ、我が蟲はやがて体内にまで入りお主を喰らい尽くす。恐怖を味わい、存分に狂うがいい!」

 

笑っている。楽しいのだろう。狂っている。

 

「カカカカカッ…ムッ!?」

 

臓硯が変な気配を感じた瞬間…

 

バンッ!

 

「ぬおぅ!?」

 

「本当に趣味が悪いな。女にもてないタイプだ」

 

 

 

 

 

間桐臓硯は信じられないものを見ていた。

 

士影の体に強力な魔力が流れる。それを見て、臓硯は何かを感じる。

 

認めたくない感覚…恐怖を!

 

「き、貴様…!?」

 

臓硯には士影の体全体が自分など足元にも及ばない魔術刻印に見え、色の無い魔力が氷のように冷たい蒼に見えた。

 

「アサシン!」

 

臓硯の言葉にアサシンは霊体化を解き、すばやく士影を襲う。

 

「この程度か…」

 

閻魔刀を手に取った瞬間、

 

シュバッ!

 

アサシンの両手両足は斬り落とした。

 

「グギャ…!?」

 

アサシンは何が起こった解らないまま、まるで蟲のようにもがいている。

 

「なるほど『アサシン』か。残念だが、俺は白兵戦には自信があってな。来るとわかっていれば対処はできる」

 

もともと『アサシン』はその名の通り、『搦め手』を使うタイプだ。真っ当な白兵戦では士影には勝てなかった。

 

「さてと…令呪もいただこうか」

 

「ギッ…ギィィィ!」

 

奇怪な声を上げ、蟲を盾に逃げようとする臓硯。しかし…

 

「ギャアッ!」

 

次の瞬間、臓硯は足に激痛が走った。刺さっていたのは…

 

「ま、魔力の…剣じゃ…と?」

 

士影の周りに信じられない量の魔力の剣『幻影剣』が浮かんでいる。

 

蟲は全てコロされていた。

 

臓硯に近づいた士影は

 

ザンッ!

 

「ギィッ!」

臓硯の左腕を斬り落し、それを手に取る。

 

「令呪はいただいた。もう、あんたには用は無い」

 

「や、やめ…」

 

「お前はそういった奴等をどうした」

 

パチンッ…

 

士影が指を鳴らした瞬間、臓硯に幻影剣が襲う。豪雨のような勢いで襲う幻影剣。

 

その数何十と臓硯を襲う。

 

幻影剣の掃射が終わると間桐臓硯はこの世から消えていた。

 

それを確認すると次は蟲どもに掃射…数分後にはそこから蟲は消えた。

 

『掃除』が終わると士影は臓硯の腕を見る。

 

そして魔力を吸収する要領で、令呪を自分の左腕に移す。

 

左腕には禍々しい形の令呪が浮かぶ。

 

「ふっ、イカしてるな…さてと」

 

芋虫のようなアサシンを見る。

 

「令呪に告げる。直せ」

 

そういうとアサシンの体が治ってゆく。

 

士影の強力な魔力でアサシンの体は簡単に治った。

 

そして、士影は告げる。

 

「今から俺が主だ」

 

 

 

 

間桐の家でちょっと家捜しをした後、新しい靴を買うついでに色々買い足し、俺はホテルの一室に戻るとまずアサシンと情報交換した。

 

俺の目的、俺の正体、アサシンの真名と能力、わかっているマスターとサーヴァント。それらを聞くと俺はシャワーを浴びた。

 

アサシンにはちょっと探索して来いといって出した…戦闘はするなと厳命して。

 

時間は夜になっている。

 

俺は冬木市を一望する。一年ぶりの故郷だ。

 

「…『士郎』」

 

俺は胸のアミュレットを強く握り締める。

 

「………」

 

空には『あの日』のように綺麗な月…

 

「正義は…人を救えるのは、守るという受け身な力ではない」

 

正義に目覚め人々を守った『俺達』の父。

 

父を愛し、最後の最後まで『俺達』を守ってくれた母。

 

そしてあの地獄のような場所で『俺達』を救ってくれた養父。

 

そんな尊ぶべき人達が何故死ななければならない…!

 

「全ての悪を屠る絶対の力だ…」

 

いつか…『全て』が笑顔になる事を祈って…たとえ、それが自分を滅ぼしても…

 

それは絆なのか…同じ時、もう一人の己も信念を固く誓っていた。

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